和歌と俳句

夏目漱石

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11

病む人の巨燵離れて雪見かな

に裸で御はす仁王哉

吹き上げて塔より上の落葉かな

時雨るるや右手なる一の台場より

洞門に颯と舞ひ込む木の葉かな

御手洗や去ればここにも石蕗の花

寒菊やここをあるけと三俵

冬の山人通ふとも見えざりき

閼伽桶や水仙折れて薄氷

凩に鯨潮吹く平戸かな

茶の花や白きが故に翁の像

時雨るるや泥猫眠る経の上

凩や弦のきれたる弓のそり

紅葉ちる竹縁ぬれて五六枚

草山の重なり合へる小春

時雨るるや聞としもなく寺の屋根

時雨るるや裏山続き薬師堂

時雨るるや油揚烟る縄簾

海鼠哉とも一つにては候まじ

弁慶に五条の月の寒さ

や滝に当つて引き返す

三十六峰我も我もと時雨けり

初時雨五山の交るがはる哉

号外の鈴ふり立る時雨哉

病む人に鳥鳴き立る小春