和歌と俳句

夏目漱石

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土手枯れて左右に長き筧哉

はじめての鮒屋泊りをしぐれけり

親子してことりともせず冬籠

力なや油なくなる冬籠

燭つきつ墨絵の達磨寒気なる

燭つきて暁ちかし大晦日

餅を切る庖丁鈍し古暦

冬籠弟は無口にて候

古瓦を得つ水仙のもとに硯彫む

古往今来切つて血の出ぬ海鼠かな

西函嶺を踰えて海鼠に眼鼻なし

一東の韻に時雨るる愚庵かな

や鐘をつくなら踏む張つて

二三片山茶花散りぬ床に上

早鐘の恐ろしかりし木の葉

初時雨吾に持病の疝気あり

柿落ちてうたた短かき日となりぬ

提灯の根岸にかえる時雨かな

暁の水仙に対し川手水

塞を出てあられしたたか降る事よ

熊笹に兎飛び込む霰哉

病あり二日を籠る置炬燵

水仙の花鼻かぜの枕元

行く年や猫うづくまる膝の上

焚かんとす枯葉にまじる