和歌と俳句

夏目漱石

4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14

凩や吹き静まつて喪の車

熊の皮の頭巾ゆゆしき警護かな

ほきとをる下駄の歯形や霜柱

山賊の顔のみ明かき榾火かな

花売に寒し真珠の耳飾

三階に独り寐に行く寒かな

雨ともならず唯 の吹き募る

小夜時雨眠るなかれと鐘を漬く

初時雨故人の像を拝しけり

ただ寒し封を開けば影法師

冬籠り染井の墓地を控へけり

春を待つ下宿の人や書一巻

川ありて遂に渡れぬ枯野かな

法螺の音の何処より来る枯野哉

わが影の吹かれて長き枯野哉

俊寛と共に吹かるる千鳥かな

風流の昔恋しき紙衣かな

生残るわれ恥かしや鬢の霜

杉木立寺を蔵して時雨けり

豆腐焼く串にはらはら時雨哉

内陣に佛の光る

水仙や早稲田の師走三十日

風呂吹きや頭の丸き影二つ