優しい雨・6.5 最愛のK頼さま & 南国へ帰ってきた白いトラちゃんへ 捧げさせていただきます
あめは、みずで……、だまされる。
雨音とは違う水音を聞きながら銀髪の美形はそう、意識の片隅で思った。水音は自分の狭間から発して、カラダの真ん中を通って頭蓋骨の内側へ響く。水は生命の源、雨は優しい恵み、それは嘘ではないが、肝心な認識が抜けている。
水の中で、人は生きていけない。
母親の腹の中、子宮という水の満ちた宇宙から命は生まれてくる。だからだろうか、、身体を水に浸すとなんだか懐かしい気がする。海や湖、プールでも風呂でもいいがとにかく、液体に浮かんで浮力に包まれていると安らぎを感じることが、ある。
でもそれは嘘。生まれてきてしまった命が水の中に戻るのは生まれる前に帰ることを、つまりは死を意味する。だから、雨や水の安らぎは、嘘ではないが戦慄すべきではある。その弛緩に本気で身体を委ねてしまえば、何もかもが終わる。
「……、ぁ、ア」
ちゅく、っとまた音がした。濡れた水音のたびに股間に顔を埋められた白い身体がシーツから跳ねる。高い音階の声が漏れてシーツの上に銀色の髪が流れる。
「ん……」
もうガキでなくなった男の舌は遠慮なく蕊に絡み、その体液と唾液の混じった粘液は狭間の奥に流れつき、流し込まれている。オトコの見事に節高い指を伝って。
「ひ、……ん、っ」
愛撫を受ける美形は快感を隠さなかった。素直に声を上げて喘ぐ。熱心にすると気持ちよさそうに馴染んでくれる相手が嬉しくて男はますます熱心に舐める。恋人はこんな反応をしてくれなかった。何をどうしても痛そうで辛そうで、お互い慣れていないんだから仕方がないと相手と自分を慰めたけれどもやっぱり、辛かった。
セックスが終わった後でほっとした顔をされて、あのうるさいヤツがクレームの一言もなく大人しくしているのが異常で悲しかった。バスを使いに行くのを手伝おうとしたら暴力を受けた女の子みたいな目で怯えた見上げられて、以来、手を伸ばしていない。
「あ……、ッ」
指先でナカの、カリッとした場所をつつくと白い腰が揺れる。口の中の蕊がじゅく、っと苦いけれど甘い蜜が滲む。音階の高い澄んだ声を聞きながら擦り上げてやると浮いた腰が悶える。情熱に応えてくれる嬉しさと相手への感謝で、若い男はマジ泣きしそうになる。すこし涙が滲んだ。
「……、ロ……」
ビクビク、しながら美形の唇が動いて、こぼした言葉を男は聞き逃さない。イケないよう根元をかき回していない方の手で押さえている蕊を唇から出す。セックスの最初にこのマテだけは覚えると言われて素直に頷いた。発情していないメスに乗ろうとすれば蹴られるのは当然。相手は、報酬を得てオスを満足させてくれる玄人ではない。好意だけ、愛情だけが、繋がる潤滑剤になる。
「……、の、マエに、ちょ……」
狭間から指を抜く。イカせないよう蕊の根元はしつこく押さえたまま、姿勢をつながりやすく変えようとしていたら、美形が膝を合わせ拒む仕草を見せる。
「な、に?」
口の中がカラカラに乾いている男はうまく声が出せなかった。息は吐精を阻まれている美形より遥かに荒い。それでも相手が何を言おうとしているか、さっと起き上がって確かめようとする様子には可愛げがある。
伸び上がって覗き込んだ美形の切れ長の瞳は見事に潤んでいた。少し苦しそうで、でも圧倒的に気持ちがよさそうな、普段からは考えられないほど優しく緩んだ唇が、動いて。
「も、っと、サワレぇ……」
そんなことを言われてしまう。ずきん、男の心の奥が蹴られる。自分の熱が上がっていいくのが分かる。男は形のいい膝にかけていた掌を外して美形の狭間にもう一度、落として包み込もうとした。マテでもよかった。何だってどうだってするつもりだった。
最中に、こうやって。
声を、言葉で、出してくれるだけで嬉しい。
ずっと閉じられていた。目も口も、ぎゅっと。顔を背けてシーツを指が真っ白になるくらい握り締めて、そんなに辛いのかと、男が何度も絶望を感じたほど。
「そ、じゃね……、メンセキ……、り、……、は……」
仰け反って喘ぐ白い喉、興奮してうっすら血の色に染まった肌。うっとり細められた瞳の、長い睫の隙間が常夜灯の光を弾いて宝石のように光る。男は戦慄を感じた。コレはなんだと、ココロから思った。男の抱かれて発情するキレイな、何か分からないけれど自分の知らない生き物のように思えた。
「ソコ、ば、っか弄るんじゃねぇ、ガキぃ……」
言いながら、美形は生身の右腕を若い男に伸ばす。
「ヤるまえにイッペン、抱き、しめろぉ……」
まさかそんなことを、要求されるとは思っていなかった、若い男は一気に盛り上がる。爆発に近い。
「……、ぁ……ッ」
引き寄せられるより早く自分から屈み抱きすくめる。唇を重ねながらもどかしく、狭間を重ねてトロトロの場所に突き入る。つぷ、っと意外なほど可愛い音をたてて自分を包み込む洞は、けれど直後、したたかに巻きついてきた。突き入って牙を立てる筈が逆に捕らえられる。振りほどこうと力を込める。重ねた区とビルから悲鳴が上がるのを吸い取って聞こえなかったことにして、思い切り。
何も考えずに、ぶつける。
「……、ッ」
腕の中、しなやかなカラダがうねる感触と締めつけられる動きとが連動する。一体なのだから当たり前だが、無我夢中で貪る男にそんなことは分からない。背中と腰を掴んだ指先にも挑みかかる足腰にも力を振り絞る。右手の親指が腰骨の内側をえぐるとオンナのは悲鳴を上げた。それは性感に高く澄み、若い男の理性を麻痺させる。
犯して、ゆく。
突き上げるごとに身悶えて、くねるオンナを一つきごとに自分のものにしている錯覚が若い男の脳内を満たした。オンナの肢体も熱を帯び、腹の間で擦られる蕊はたらたらと蜜をこぼす。イったのか、と、男は熱を感じて気づき、また堪らなくなった。何度か抱いた恋人は、自分のことを気持ちよがってはくれなかった。
「……、ッ」
興奮しすぎて、よく、分からなくなる。
「あ、ぁ、ア、ッ、……、ちょ、テメ……、ぁ……ッ」
唇を離したのは動きが激しくなりすぎたせい。すぐに塞ごうとあごに手を掛けた。けれど自由になった美形の、濡れて赤く腫れたその隙間からこぼれる声が甘くって、聞きたくなかって、掌は顎からはずれ頬を包む。しっとり、指に吸い付きそうな肌。頬だけでなく全身の肌が汗を帯びて熱を帯びて吸い付いてくる。
「そ、こ……、っ、ア……、サギ……、ッ、あ」
抱いているオンナも正気そうではない。身悶えて悲鳴を上げて、男のことを責めているが、それは男にとって悪い気はしない苦情だった。キモチがいいと伝えられている。若い男はそう解釈した。ヘタクソなガキにやり方を教えてやるつもりでいたのに翻弄されて悔しがっている、と。間違いではない。
「ん、……、ッ、ン……、っ、ふ……」
抱かれるカラダの白い下腹が上下しだす。また萌しかけている。なんとも言えない幸福感、陶酔を感じながら男は、オンナの背中に回していた腕を外す。支えをなくした背中がシーツに落ちてつながりが少し浅くなった。イイ、場所から男の蛇の頭が微妙に外れてオンナは呼吸を整える余裕がやっと出来た。肺の置くまで酸素を二度、三度。
「う、うぅ……、ヴ」
四度目は吸えなかった。唇を重ねられた。それだけではない。背中から外れた若い男の手はうっすら芯を持ち出したオンナの蕊を指の腹で撫でる。切れ長の眦が裂けそうなほどオンナは刺激に目を見開く。そんなオンナの正直で敏感な反応が、若い男にはイチイチ刺激的だった。
一言で言ってしまうと、美味い。
前後を同時に擦られ揺すり上げられてオンナがとうとう泣きを入れる。声でなく言葉でなく態度で、もう勘弁してくれとかぶりを振り逃れようと男の肩を押す。仕草は拒否ではなかった。ヤメロォと泣き出す声に冷たさがないから甘えられているようにしか男には思えない。膝の上から肩へ移りたがって、もっと全身、しっかりと抱きしめて欲しがっている猫。そんな風に思えた。
望みをもちろん叶えてやる。腰を支えて浮かして自分に引き寄せて、腕も足も肩も胸も、全身を使って包みこむ。それでいて重ねた狭間では絡みつかれ抱きしめられているカンジが男を興奮させる。男の蛇の鱗が膨らんでオンナに声を上げさせる。目じりをとかしながらヨがる、オンナにたまらず、また唇を塞ぐ。
「く……、ろ……」
愛しい。
「すくあーろ、スクアーロ……ッ」
名前を呼ぶたびに跳ねて応えてくれる、オンナを夢中で繰り返し犯した。
恋人に、触れなくなって、もう半月は経つ。
それで寂しそうな顔をされるどころか、削げてきていた頬が少しもとに戻って、目が合うとびくっと竦んでいたのがなくなって、話しかければ俯いていたのにほんの少しだけ返事をするようになって。もう少しで笑い顔を取り戻しそうなのが、嬉しいのか情けないのか、ガキではなくなったがまだ若い、男には分からない。
頭の中はぐちゃぐちゃ。オンナが男を怖い以上に、多分男は、オンナを怖い。好きなオンナに限定した話だが、どんなに自分で自信満々であっても首を横に振られればすべてを否定される。代わりはない、他は居ない、アイツが居なければ生きていけない。手に入らないなら何のために生きているか分からないほど愛している。なのに嫌だと言われたらオレはどうすればいい。
そんなことを、訴えながら別のオンナを抱く。年上の優しいオンナは少し戸惑っていたが優しくしてくれた。抱き返してくれて肌を寄せて慰めてくれる。何の解決にもなりはしない。けれど若い男の、息も出来ないほど思いつめて苦しいキモチは確実に楽になる。
繋がったまま何度も抱き合って揺れあった。イかせるたびに抱かれるオンナからは力が抜けて柔らかくなっていく。味が変わっていくのに興奮して飽きなくて、男は若さに任せ好き放題に繰り返す。が。
「……、っぺん、……、外せ……ぇ」
何度目かの後でシーツに後ろ手をつき上体を起こしながらオンナが言った。滝のようにさらさら流れる銀髪に目を細めつつ、若い男は額にキスをして名残惜しく離れる。何をするつもりなのかは薄々分かっていた。狭間はぐちゃぐちゃで、潤み過ぎてすべりがよすぎて、外れないために男は力を込めすぎて、オンナはさっきから痛がっていた。
楔を抜く瞬間、ふるっと腰から背中から肩へ震えるオンナの反応に男は内心で舌なめずり。シーツの上に膝をつき腰を浮かしたオンナは視線で何かを探す。若い男はさっと手を伸ばし、ベッドの横からティッシュを箱ごと取ってやる。何枚かが手早く引き抜かれる。狭間が拭われる。そこまでは想定の範囲内。
終わったと思って、続きをしようと伸ばした男の手は俯いたオンナの長い髪にさえぎられる。それと自分の掌で上手に隠して、狭間をオンナは、自分で開いて、ナカを掻き出していく。
「……、っ」
背中と肩をビクビクさせながら。
「……」
眺めている男が息を呑んだ。慣れた様子で愛されすぎた場所を、もっと愛し合うために始末するオンナの表情も髪に隠れて見えない。辛うじて唇がほんの少しだけ、なんともいえず頼りなく震えるのだけが覗いている。
「……、スクアーロ、おれ……」
シーツの上に、男は這った。なんとなく、オンナより低い位置に頭を持っていきたくなって。
「ずりぃこと、してんな……」
「……あ?」
始末を終えて自分の腿に挟んでいた手首をひらめかせて丸めたティッシュをゴミ箱に投げ棄てた美形は、顔を上げれば震えてもおびえてもいなくて、発情の余韻に上気した美貌を艶めかせて長い髪を耳にかけながら、膝に額を押し当てる若い男を見下ろす。
「なんだぁ、寝るか?もぉヤんねーのかぁー?」
「ヤるよ。朝までする。ただちょっと、自分ずりぃことしてるなって、ハンセー」
「?」
「こんないーのを、横から喰うのはさぁ」
カラダの内側を拭ってほっとしたオンナもシーツに伸びる。隣に並んだ肩に、噛み付きながら、男は少しだけ。
「わりぃな、って、思って」
「夢にしとけぇ。言わなきゃバレやしねぇ」
「違う。アイツにじゃなくて」
自分をこんな風に優しく柔らかくは受け入れてくれない恋人に対しての罪悪感ではなかった。
「あんたをこんなふーに、したヤツ……」
どれだけの情熱を注げば、これだけの艶に仕上がるのか、端緒にもかかれていない若い男には想像だけで気が遠くなりそう。
「そそぎこまれてるね、あんた」
「……いろいろ、長かったからなぁ」
「それだけじゃなさそーなカンジすっけど」
「ガキがナマ言うんじゃねぇ」
「分かるよ、触ってんだから」
肌も、髪も、瞳も粘膜も、磨きこまれて宝石のような光を放っている。
返事は返ってこない。クックッと喉の奥で笑われている。世辞だと思われてしまったのだろうか。真摯な気持ちで心から褒めたのに。
「……」
若い男が起き上がる。抱き寄せる。今度は背中から。抱きしめられてオンナは背中を、自然な仕草で丸めた。やっぱり猫だ。それも主人に愛されて可愛がられて膝の上から払われたことのない飼い猫。手を伸ばされても殴られるなんてことがあるとは想像もしていない。優しい愛撫しか知らず、大好きな主人に撫でて貰いやすいよう、無意識にそういう姿勢を取る愛猫。
顔に火傷の痕のあるあの男に慣れたこの相手が、こんなに甘いのは予想外だった。もっと一途な忠実を、猟犬か警察犬のような絶対服従を求められているのかと思っていた。
「……スクアーロ」
「んー?」
「多分、あんた、なんか、間違ってね?」
「なにがだぁ」
「だから……、なんか」
終わったとか引退とかは、多分何かの勘違い。多分まだ愛されている。口に出してそこまでは言わなかった。悔しかったから。
背中から繋がる。掌で胸と前を嬲ってやりながら。透明な声が漏れる。さらっと乾きかけていた肌が再び湿って吸い付いてくる。ちゅ、っとほざと音をたてて耳の後ろに口付ける。キスに反応して背中がしなると、粘膜も絡む。すぐに、夢中にさせられる。
「……、ン、なに……、セメん、なぁ……」
応えてくれない恋人とどうしても比較してしまう。愛しい。
「の、方が……、先に、棄てられん、のは……、キマリ……」
最後の方はオンナも混乱して、少しだけ自分の悲しみを訴えた。