あの日あの時、君をなくした 3

 

   いきなりの来訪はいつもの事。ドアを開けてやるなり主人のような顔をして、
「腹が減った」 
 要求されても、こっちは腹も立たない。立てていたこともあったがここ数年で諦めた。生まれたときから坊ちゃんだったこいつは、たぶん死ぬまでこうだろう。
 放り投げられるように渡される鞄、コート、マフラー。手袋がないと探すと廊下に投げ捨てられていた。どうせ明日、探させられるのは自分なので拾い上げておく。本人はさっさと靴下を脱ぐ。真冬でも素足でいたがるこの客のために、床暖房を入れたことは秘密だ。ばれたらなんと言われるか。
 服をハンガーに掛けているとキッチンから冷蔵庫のあく音。喉でも渇いていたのだろう。それにしても自分でするとは珍しい。中に何はいっていたかと考える。クリスマスが終わって大晦日までもう何日もない。明後日には日光の実家に帰る予定で、ろくなものは入っていなかった。
「ビデオをつけろ。たまっているだろう」
ソファーの奥にどっかり腰を下ろし、ビールの缶に口をつけながら要求。
「へいへい」
 言われたとおり、テープをセットする。サーキット遠景のオープニングが始まったところで涼介はおや、という風に眉を寄せる。流れてきたナレーションは日本語ではない。英語でさえなくて、
「マーレーシア……?」
 タガログ語の歌うような響きを聞き取って呟く声。
「衛星放送か何かか?」
「だったら吹き替えになってるさ」
 現地放送を手に入れた経緯は話さない。中古車チェーン店を経営してる父親の縁者が、F1好きだと聞いたから、と言って土産に持って来てくれた。車はもちろん今でも好きだ。が、F1のビデオは好きでコレクションしている訳ではない。サイドボードに90分テープが二十巻ほど並んじゃいるが、あれは俺のじゃない。
「何か食べさせろ。悪酔いしそうだ」
 たかがビールでこの涼介が、そんな訳はないと思ったが。
「ろくなものないぞ、今」
「言われなくても分かってる。さっき見たからな」
「どっか食いに行くか」
「戻ったばかりなのにまた出るのは御免だ」
 ここはお前ん家じゃないぞ。悪態は言葉にはならない。こいつがここに帰って来るのは嫌ではない。
「買ってくるって発想はなかったのかよ」
「宅配ピザは病院の昼メシで食べた。何か作れ」
「あのなぁ」
 脱力してはいけない。したって誰も助けてはくれないし、こいつが変わる訳でもない。
「簡単なものでいいな」
「嫌だといってもそれしか出来ないだろう」
 忍の一字で反論したい気持ちを殺す。こいつと口論になったが最後、朝までやっても決着はつかないから。
 湯を沸かし塩を入れパスタを茹でる。クリスマスに遊びに来てた女が缶詰のソースを置いていった。歳暮でもらったハムを刻む。出来上がったのを持っていってやると、食い入るように画面を眺めていた涼介は礼も言わずに受け取り食べ始める。ソファーにふんぞりかえって高々と脚を組んだまま。
「行儀の悪い良家のご子息だぜ」
 それでもソースを跳ねさせる不始末もなく、フォークと食器の触れる音さえたてない。育ちはメシを食わせてみればわかる。音もなくするする唇に運んで咀嚼する、これはいまどき珍しい本物の坊ちゃん。
「ご馳走様とか美味かったとか言えよ」
 コーヒーに見向きもしない涼介のため、新しいビールとツマミを運んでやりながら言うと、
「美味かったが、言ってもお前を褒めたことにはならないだろう。食品会社を喜ばせるだけだ」
 ああ言えばこう言う。実に可愛くない。
 と、思った瞬間、表情が変わった。柔らかく緩んだ。理由はすぐにわかる。画面の中で茶髪の男がしゃべってる。アイムベリーベリーハッピー、アンド……。見事なカタカナ発音。
「英語も教えてやっといた方がよかったんじゃねぇか?」
「黙ってろ」
 短く告げられ,肩を竦めて涼介の隣に座る。ソファーではなく床に。上等の生地に包まれた膝に肘を置く。これくらいのサービスはされてもいい筈だ。このビデオをくれた取引先の華僑に、俺は高橋啓介のファンだと思われてしまった。冗談じゃない。しかもビデオを渡しながら、言われた言葉は、
『若旦那は弁天様の砂糖漬けが好きだからねぇ』。
 華僑は戦前、日本の大学を出た男だ。おかげで日本の古い言い回しを使う。面食いのことをそんな風に言うらしい。俺がそうだということは否定しない。が、画面の中、現地のレポーターのインタビューにたどたどしく答える男を弁天に例えるのは無理がある。まぁちっとはハンサムだが。
 それよりも。
涼介は一心に画面を見つめる。俺は画面に朧に映ったその顔を眺めていた。
二十代の半ばをとおに折り返した男のくせして、この麗しさはどうだ。陶器のようにつるんとした肌は十年前に出会った頃と少しも変わらない。端整という言葉を形にしたような鼻梁。睫にけぶる切れ長の瞳。光彩の透明度がこれほど高い奴も珍しい。形のいい肉づきの薄い唇。人形師や画家の心の中にだけ存在する完璧な美貌の具現。弁天様が恥じて逃げ出すか、いっそ恋してつきまとうかというレベルの。
手元のつまみがなくなっているのに気づいて俺は立ち上がった。パスタもたっぷり200グラム食わせたのだが、本当に腹が減っていたらしい。空の皿を持ってキッチンに行きかけた背中に、
「京一。俺は、見た目に惚れられるのは正直、かなりうんざりしてる」
 掛けられる言葉。見とれていたのがバレていたらしい。
「だがお前ほど真摯だと時々可愛くなる。お前は本当に俺の顔を好きだな。顔以外に何の期待もしてないところはいっそ潔くって、男らしいぜ」
「ぬかせ」
 そんな話をしているうちにビデオはレース本番の映像に切り替わる。涼介の和んでいた涼介の表情がきつくなる。ナッツの詰め合わせを皿に出したとき、鳴り響くチャイムの音。
「……」
 どちらからともなく見合わせる目線。嫌な予感がした。
「もしもし」
 インターホン越しに、
『うちの来てるだろ』
うちって何処だお前は誰だと、そんな軽口さえ叩かせない声音。俺の、と言わないだけマシなのかも知れない。
「居ないって言え」
「冗談。俺は玄関のドアが歪むまで蹴られるのはごめんだぜ」
「引越しになったら手伝ってやるから」
「荷造りひとつろくに出来ねぇくせに」
 玄関を開けようと廊下へ。
「京一ッ」
 悲鳴じみた声。
「後つけられたお前が悪いんだぜ」
「開けるな」
 見詰め合ったのは、ごく短い時間だった。
「ビデオを、見たいんだ」
たぶん涼介にとっては精一杯の言葉。
「貸してやる。弟と見ろよ。本人に解説してもらえばよく分かるだろ」
だが俺は、この兄弟の間で貧乏籤を引くことには飽き飽きしていた。
「京一」
それでもこの唇で名前を呼ばれると弱い。
「お前がどうしてもっていうなら折り合いをつける方法はある。入れて縛り上げちまえばいい。簡単さ。二対一だからな。でもそうはしないんだろ?」
 実の弟だけをこの世で愛しているこの男は。
「俺が殴ろうとしたらお前が庇うんだろうが。だったら俺がお前にしてやれる事はない。弟に関してはな」
 返事はない。俺はさっさと玄関を開けた。開いたドアの向こうには警戒しきった獣みたいな目をした弟。天下のF1レーサー様に、顎をしゃくって入室を促す。
 ビリビリ電気みたいな気配を漂わせて弟は部屋に入る。涼介はリビングのソファーから動かない。ビデオは止められて画面に映ってるのは野球中継。それを見つめる横顔は、決して弟を見ようとはしない。
 うまいやり方じゃないなと俺は思った。あまりにも露骨過ぎる。意識してんのがバレバレなくらい。この狡猾な男が弟に関しては児戯に等しい真似をする。弟は横顔に手を伸ばし顎を掴んで自分の方を向かせた。逆らわず、それでも目を伏せて視線だけはあわせるまいとする兄。頑なな唇に指突っ込んで無理やり開かせて、深くくちづける弟。リビングの入り口に壁にもたれて立つ俺を意識した動作。
 濡れた音をたてながらたっぷり二十秒は重ねあって、ようやく弟は赤い唇を開放した。
「帰るぜ」
 強い口調。涼介は立ち上がろうとはしない。
「警察呼ばれる騒ぎを起こしたい?」
 無言のままでソファーから立つ。前を歩かせて弟が連れて行こうとする。別にそのことに文句はないが、
「ちょっと、待て」
 呼び止めた瞬間の弟の敵意を俺は受け流した。手にとったのはついさっきハンガーに掛けてやった上着、コート、マフラー。身体も表情も最小限しか動こうとしない涼介に手伝って着せてやる。挑発されたと思ったか、弟の額に青筋が入る。
 笑って流せよ、これくらい。
 靴下を履かせてやらなかった分、いつもよりマシなんだぜ。
「京一」
 その口調だけで次が読めた。
「三十秒でいい」
 分かったと頷く間もなかった。
 なにと振り向きかけた弟の体が背中から俺の方へ飛んでくる。涼介が突き飛ばしたのだ。姿勢を正す隙を与えず、廊下の床に押し伏せる。
「の野郎、離しやがれッ」
「三十数えたらな。数えろ」
「おいッ」
 ドアが閉じる派手な音。体の下で長身が焦れる。ふりほどこうと暴れる体のしなやかさは涼介と少し似ている。力は弟がだいぶ強い。鍛え方の差だろう。しかし。
 鍛えるといったらこっちはボクシングジムだ。レーサーの筋トレに負けはしない。第一体重が違う。多分、俺が10キロ以上、重い。
「須藤貴様、まだあの人に未練があるのかよ」
「あの顔に逆らえないだけだ」
「写真飾ってマスでもかいてやがれっ」
「ナマ見せに来るのは涼介の方だぜ」
 必死で振り向く弟の顔を間近でみる。近くで見ると鼻筋なんかは涼介とよく似てる。しかし。
「……チンクシャじゃねぇかよ」
 女としては。
台詞の意味が解かったらしい弟の顔色が変わる。三十秒はたっていただろうから、俺は弟を離した。振り向きざまに顎に一発。わざと食らってやった。
「覚えてやがれ。日本に居るうちにもういっぺん来るからな」
「構わねぇがその間、涼介はノーチェックだな」
 俺の台詞に弟はふん、と笑った。そのまま表に飛び出していく。やれやれと皿を片付けはじめた時。
 鳴り出す携帯の音楽。嫌な予感がした。出るとやっぱり涼介だった。
『ビデオを持って出ろ。あいつが帰ってくる前に移動するぞ』
「お前、何処からかけてる」
『マンションの屋上』
 今度こそ耐え切れず俺は脱力した。そうだ。こいつはこういう奴なのだ。ただ逃げ出しやしない。屋上から弟がどっちに向かったかちゃんと見ていたのだろう。
『待たせていたタクシーに乗り込んだ。駅に向かってるが、見つからなかったら引き換えしてくる』
「大人しく頭なでてやれよ。久しぶりに会ったんだろ。どうせ昨夜、やられてんだろうが」
 痩せた頬。なのに血色はよくて肌は艶々していた。あの弟を取り込んだ時の顔色だ。透明な雫がしたたるような潤い。言葉や態度でどんなに拒んでも身体は気持ちに正直だ。意地や意識は容易に裏切られる。拒む言葉を告げながら、まだ見せていないビデオテープをサイドボードから引き抜く俺のように。
『車で待っている』
 分かったと言う返事も聞かず電話は切られた。その時にはビデオと財布を詰めたバックを肩に掛けていた。鍵を掛けエレベーターへ行くと、それはゆっくり、屋上からおりてくるところだった。
「……」
 急いだと思われるのも癪で、俺は下降ボタンを押さない。通り過ぎさせてもう一度呼ぶつもりだった。しかし。
 目の前に停止するエレベーター。金属の扉がゆっくりと開いて、
「乗れよ」
 悪魔のような男が笑っていた。


 地上に降り、駐車場にまわる前に、俺はマンションの玄関から道路を眺める。不審な表情で涼介は足をとめる。目立たない路地の入り口に停められたツーリングワゴン。わざとらしく週刊誌を読む運転席の男に窓を開けろと合図。びびりながら、それでも男は開けた。
「なんですか?」
「名刺をくれないか」
 前置き抜きで、請求。相手がとぼける暇を与えず、
「仕事を頼むことがあると思うんだ」
 名刺を差し出す。そこに書いてあるのは某国会議員の名前と政策秘書という肩書き。須藤仁志というのは従兄弟の名だ。悪用することに後ろめたさはあったが、相手は気づかず、確実にびびった。ゆっくり受け取り、自分のを差し出す。興信所の名前と商工会議所の会員番号。わりと大手だ。
「じゃあな」
 それだけで離れる。玄関で涼介に名刺を渡してやる。文字を読んで、じっと車に目をあてる。背中を押して裏の駐車場へ促すまで。
「気づかなかったのか」
「お前はいつ気づいた」
「ついさっき」
涼介を見張っていなくていいかと言ったとき、鼻で笑われてピンときた。無言のままの麗人を乗せて車を出す。夏に買い換えたばかりのエボY。乗せるたびに言う憎まれ口を叩く余裕もなく涼介は名刺を握り締めている。大通りに出てバックミラーを覗いたがさっきのワゴンはついて来ていない。
「ビデオが見れるホテルってぇと」
「ラブホでいい。」
呆気なく告げられる言葉。
「いい歳の男二人、ダブルベッドでビデオ鑑賞か。やってられねぇな」
「久々にやってもいいぞ、好きにしろ」
肩を竦めるだけで答える。細い肢体は魅力的だが、あの弟の手指の跡がついてるうちは遠慮したい。存在の強さにうんざりするから。こいつに独占欲なんぞ、持って居ない筈の俺でさえ。
「俺も落ちたな。お前に食いつかれなくなるとは」
 悪魔がにやにや笑いながら告げる。
「食いつかれたかったのか」
「少し」
「本当に俺にか?」
 悪魔は目を閉じる。表情を消したつもりだろうが口元が笑っている。長い付き合いで俺にはそれが分かった。武士の情けで、見なかったことにした。
「そういやあいつ、名前なんだったか。秋名のハチロク乗り」
あえて話題を変えてやる。
「藤原拓海のことか?」
「最近、あっちこっちに連絡とってるらしいぞ。お前に会いたいとさ」
「藤原が?……何の用だろう」
「助けて欲しいんだとさ。あっちこっちにそういい残してる。伝手を辿って俺のトコに、三件ばかり問い合わせがあった。俺の携帯番号を藤原に教えていいかってな」
 俺からお前に繋ぐつもりだろう。繋げていいなら連絡をとるが、どうする?
「助けてくれ、か」
 満足そうに微笑む美貌。縋りつかれてっとりしてる、ようにも見えた。
「勿論、繋げてくれ。あれは俺の、優秀で可愛い教え子だ」
「ワンオフゼムってやつじゃねぇのか。昔の男の」
「どうだったかな」
 考えるそぶりは演技か本気か。睫の陰になった目の表情は読みにくい。もしかしたら本当に覚えていないのかもしれない。そのしなやかな肉に食らいつかせたことがあったか、なかったか。
 チェックインしないと車が入れないホテルへ向かう。駐車場を覗かれて、こんなところで騒ぎを起こすのはごめんだ。買い換えて型は新しくなったが黒のランエボはいまだに俺の看板で、目立つと判っていても手放せない。自分の体の一部のようなもの。
走りやってたことのある奴ならみんなそうだろう。隣のこいつも、きっと。FCを手放した理由など俺は知らない。知らないがその後、違う車に乗ろうとしない頑なさがこいつの愛着を証明している。代わりを否定する冷たい情熱。移動はいつも徒歩かタクシーか、タクシー代わりに俺を呼びつけるか。
信号待ちで、俺は隣に手を伸ばした。麗しく頑なで嘘つきで、ごく稀に真摯な唇に触れる。硬い爪の感触に唇はほどけて笑みを漏らす。可哀想にと、ほんの少しだけ思った。
何があったかは知らない。知りたくもない。でもあんなに愛していた弟からこうやって逃れ、俺と逃げ出すなんてらしくない。弟のレースのビデオを俺に管理させ、家には持ち帰ろうとしない。増え続けるテープに文句を言ったら、家捜しされるから自宅には置けないのだと答えた。弟のレースをチェックしてることを、弟本人には知られたくないほどのことがあったらしい。そこまで拗れつつ、それでも弟を愛しているこいつが、ほんの少しだけ。
かすかに。


 ラブホの部屋に入るなり、涼介はふーんと室内を見回す。南国風の部屋は広く、天井が高い。モルジブのビラを模した内装は不必要なほど凝ってあり、中央には噴水までしつらえられている。季節が夏ならここで水浴びが出来る。
「相変わらずラブホに詳しいんだな。こっちじゃ一人暮らしだろうに」
俺が詳しい訳じゃねぇ。女が案内するんだと喉まで出かけたが止めた。いまどきの女は男の部屋よりファッションホテルとやらの方が好きだ。後腐れないからだろう。情報にも詳しい。もっとも俺にもそれは好都合。生活してる部屋に女を連れ込むのは嫌いだ。
寝室のテレビにビデオをセットしようとしていたら、
「電話しろ。藤原に」
「携帯持って来てねぇよ」
「俺のを貸してやる」
 押し付けられる機器。ため息をついて、俺は受け取り、はたと手を止める。眉を寄せる涼介に、
「駄目だ。番号憶えてねぇ」
「誰の」
「日光で世話になってる車屋。そっから問い合わせがあったんだ」
メモリ機能という奴はこういう時に困る。 「使えない奴だ。貸せ」
 取り上げられてボタンを押されて、渡される。
「藤原に繋げた」
「なんで繋がるんだ」
「二十歳の誕生日に携帯を買ってやったのは俺だ。繋がったところを見ると変えていないようだな」
「お前って奴ァ」
 呆れながら、それでも文句をいう暇はなかった。
『はい。……藤原です』
「須藤だ。分かるか?」
『……涼介さん、そこに居るんですか?』
 なんでそう返ってくる。咄嗟に嘘もつけなかった。
俺、この番号は何処にも言ってないんですよ。伝言頼んだのはチームの事務所の電話ばっかりで。携帯って苦手で殆ど使ってないから、俺が携帯持ってないって思ってる奴も多いんです。この番号を知ってるのはこれをくれた涼介さんくらいで。あちこちに悲鳴を残しといたから、そのうち掛けてくれるんじゃないかと思ってました。相変わらず丁寧な口調だった。気弱と勘違いしてしまうそうなくらい。
『代わっていただけますか』
 有無を言わさない声。
 優しげな声や姿に似合わない、強靭な雄の低い威嚇の、唸り声。