「そうだ。これからは会っていい。でも今回はオレがいいと言う前の行為だ。侘びを入れてもらうぜ。……なんでもするって、オマエ、自分で言ったじゃないか」

　喋りながらもう一度、今度は唇にキスしてから男はオンナの股間に顔を埋める。

「……、ヤメ、ろぉ……」

　震え声の哀願が聞こえてくる。蕊もふるっと唇の中で悶えた。愛しい。噛み千切りたいくらい。発光しそうに白い内股がピンと張り詰める。とろとろ、あっという間に溢れた自分の唾液とオンナの体液を。

「……、ヒ……ッ」

　指先をガイドにして、繋がる場所へ導く。ぬらつく互いの体液をガイトに右手の人指指を、まずは第一関節まで。

「ひ、ィ、ッ、ん……ッ」

　竿を口の中に出し入れしながら、時々、舌を伸ばして後ろの玉も舐めてやる。べちゃべちゃに濡れて音をたてる前に引き摺られて、うしろの狭間にも、体液が滴り潤って濡れ始める。

「お……、ぅ、ぁ……」

　指を、一気に根元まで埋めてやると。

「ンーッ！」

　衝撃で全身をひきつられて仰け反る。ナンでこう、と、男は思いながら愛撫を激しくした。なんでこんなに可愛らしいのだろう。色香漂う見目より遥かに淡白でノーマルな気質も、でも刺激すれば欲望には素直で気持ちよさを受け取ってくれるところも、何もかも好みどおり。当たり前だ。コレが好きだから。コレのとおりが自分の好みだから。

　男もそろそろ正気ではない。アタマの中を腐ったたわ言がぐるぐるとマーブル模様に埋め尽くす。夢中になりすぎないよう、何かを考えようと無意識に尽力しているのだが、無駄な努力だった。

「うヴ……、っ、うぁ……」

　指を抜き差し。最初は蕊と同様に違和感が強そう。でもやがて馴染む。きゅっと窄まるだけだったナカの粘膜が、ほころびて指先にまとわりつきだすころ、もう一本を増やす。

「ん……ッ」

　腰が跳ねる。腿が震える。その内股の肌に触れたくて、男は竿を咥えたまま顔を横向ける。動きにカワイイ悲鳴が上がる。中指を根元まで埋めると、知っているしこりの場所に指先がほんの少し触れる。

「ひん……ッ」

　反応は顕著だ。ムートンに背中を預けて喘いでいたオンナは反射で暴れだす。今度は神経の反応ではなく、本気で逃れようとしている。ソコから食い殺される、ことをよく分かっている。蕊の根元に異物を巻きつけられ、吐き出せないままのセックスが苦しいものになることを恐れている。

　押さえつける。腰骨をあいた片手で掴んだが捻る勢いが強くてふり解かれる。カッとした。怒りに近い興奮のまま口の中の相手の欲望を吐き出して、指は狭間に埋めたまま、肩で。

「大人しくしてろ、スクアーロ」

押さえつける。興奮に声はかすれていた。悲鳴を細く上げながら銀色の美形は啼く。逃げようとした罰にもう一方の手の、中指も無理やりに挿れた。

「う……、ぁう、ぉ……」

　綺麗な顔は泣いて崩れても見られる。間近でそれを眺めながら、男は万比丘尼ほくそ笑んだ。悪くて、酷くて、強くて魅力的なマフィアのボスの笑み。

「いい子にしていろ。興奮させるな。……捻じ込むぜ」

「……、かんべ……、外し……」

「オレが終わったらな」

　勝手なことを男が口走る。そうして左手を引いた。ヒッと叫んで見開かれた目の下に、ひたり、と。

「熱いだろう？」

　手の甲を、刺青のあたりを押し当てて。

「火がつきそうに熱いだろう。オマエとだけこうなる。リング前哨戦でやり合ったときが最初だ。オマエがフェイクを持って行った後もなかなか収まらなくて、タオルで冷やした」

　少しのウソも入らない魂の底からの興奮にゾクゾクとして、熱が冷めなかった。

「オマエはオレの、いつでも特別だ。スクアーロ……」

　言いながら、右手も抜いた。膝を開かせ、その間に男が乗り込む。ベルトが外され開放された大蛇は雄々しく目覚めている。ぼんやりした視界に凶悪な姿を認めてオンナは畏れる。存分にエラを張ったキングコブラのような。

「……、から……、ロ……」

「ん？」

「舐め、っからぁ……、初回はカンベン、しろぉ……」

　地獄のような快楽を与えてくる男に、腕を廻しての哀願。禁欲明けの、最初のソレで、犯されるのは正直なところ、辛い。

「なぁ……」

　頬を摺り寄せ、唇を重ねて、腰まで浮かせ男の機嫌をとる、切ない願いだった。男はオンナの腕を味わい舌を吸い上げ、腰を重ねて擦り合わせ、堪能した後で。

「ダメだ」

　残酷な宣告。

「ゆっくりしてやるから、力ぬけ」

　尻のポケットからゴムを取り出し、大蛇に被せる。表面にはゼリーがとろとろに塗布された極上品。

「……、っあ……、ッ、う、ぉあ……」

　先端を押し付けるだけでオンナは目を潤ませた。

「足、もっと開けるだろ？」

　可哀想だがカワイイ。宥めるように耳元を吸いながらカラダを進めるとグチュッという粘膜の抵抗にあう。コレが、また気持ちがいい。もうどうしてやろうかという気持ちになる。

「ぉ、お……、ッ、……、ヒ、ィ……」

　かぷりを振りながら衝撃に漏れる声。

「さけ、ル……。シヌ……」

　涙がぼろぼろと流れ男に苦しさをアピール。

「大丈夫、だから」

　男が慰める言葉はウソではない。サイズ自体はそう違いはない。ないと思う。自分で見る限りではない。愛しいオンナを苦しめているのは多分その硬さ。久々与えられるご馳走に、既に膨らんだアタマを振り出している勢い。

「あー、キモチ……」

　いい、と続けると声が震えそうで男は口を閉じる。気持ちがいい、本当にいい。乾いて張り詰めて膨れて苦しかった欲望がゆっくり、柔らかな粘膜に包まれていく。張り出した先端のエラを全部、飲み込ませる頃には食いつかれているオンナは、ガクガク震えるばかりで口をきけなくなっていた。

「スクアーロ」

　指で耳たぶを撫で髪を撫で、ムートンをぎゅっと握っていた右手を捜して指を重ねて、男が甘く名前を呼ぶ。

「すげぇ、イイ。融けそうだ」

　目を閉じて満足の溜め息。とりあえず捻じ込んだだけ、含ませて、まだ動いていない。というよりも、動けない。ピッチリ、キツイ粘膜に包まれるというより絞り上げられている。

「なぁ、もう……。愛してくれたら、なんでも叶えてやるぜ」

　浅い呼吸を苦しそうに繰り返す愛しいオンナに、男が繰り返す睦言は熱に浮かされていたけれど本心。

「ガキの頃からオマエを好きだった。なぁ、オレと……、ケッコンしてくれ。なぁ……」

　すいつく肌理の頬を擦り合わせながらかき口説く。イタリアマフィア界きっての二枚目と称されるキャッバネーロのボスだが、好きなオンナを抱きながら口走る台詞はそのへんの若いチンピラと大して変わりはない。

「オマエと、ずっと、一緒に居たい」

　この男の初恋には憧れ混じりの恋だけではなく諸々の要素が絡みついていて根深い。好きになった相手を目の前で、最も劣等感を覚えていた男に奪われた傷はまだ癒えない。後継者争いに破れたその男の手からコレを奪い取って、やっと人生が報われた気がする。でもまだ、完全ではない。

「愛してくれ……」

　義理を立てられて優しくされて尊重されているけれど、それが愛と違うことは男にはよく分かっている。別の男への愛情を元に脅して関係を強いておいて、勝手な物言いだとは分かっているが、でも。

「オレの、家族に……」

　なって欲しい。『正妻』に。

「……なぁ？」

　囁くうちに、繋がった場所が馴染んでくる。ゴムに塗布されたゼリーと、粘膜から分泌された腸液が混じって締め付けが緩む。オンナの震えもようやく収まって呼吸が少しだけ深くなる。腕の中に抱き込んだカラダの、様子を伺いながら、男がそ、っと、打ち込んだ楔を注意深く引く。

「ぁ……」

　しなやかな腰がくねる。がくり、崩れて深い息を吐いたのは男の方だった。締め付けは覚悟していたが、うねりを効かされて繋がった楔から腰から眉間まで火花が通る。ぜぇ、と、正直に喘ぎ、掌をムートンについて今度は自分が衝撃に耐える。喉から汗が滴って、抱きしめるオンナの肩口に落ちる。

「……、っ、たく……、なぁ……」

　油断していればすぐにこれだ。間近な顔に思わ、ずキスの雨を降らせる。ほんの少しだけ余裕の出てきたオンナがうっすら瞼を上げる。愛情こめて目元を舐めると、薄く、苦笑気味だったが笑った。

「ン……ッ」

　右も、義手の左も、掌を拡げさせて指を絡める。セラミックの感触の左は固く冷たい。それさえ愛しかった。

「ちょ……、ッ、あ、ぁ」

　そしてこの、オンナの中の、イイ場所は。

「……、ぅ、ア」

　男の楔が少し、そう、中指の関節二つ分、くらい抜けたところに、あって。

「ひ、ぅあ、ア、……、ぉう、ァ」

　男にとっては一番『自由』がきくあたり。押し込んで硬いアタマで突きまわしてやることも、ひねりをきかせて揉みこんでやることも、張り出したエラの落差で刺激してやることも、自在。

「ぁ……、ッ！」

　前立腺の裏側、精液が溜まる場所をそう、されると、もう。

「ヒ、ッ、あ、ぁ」

　可哀想な、オンナは啼くしかない。

「うぉ、オ……、ぁ……」

　ゆるり、ゆるりと男は腰を揺らしながら息を吐く。ドコもかしこも心地よくて泣きそう。聞こえてくる声も、欲望に霞んだ視界の中で泣き咽ぶキレイな顔も、触れ合う全身のしっとりした肌も、全てにうっとり。繋がった場所からの快感は言うまでもない。

「……、は……、ズシ……、でぃ、の、クルシ……」

　吐き出せない拘束の中で情け容赦ない刺激を、繰り返されているオンナが音を上げる。右手をぎゅっと握って指を絡めながら願う。可愛い。けれども。

「オレが……、はぁ……。お、わったら、な……」

　オトコは許してやらなかった。

「ひ、でぇ……」

　正気ではないらしい。ぼろぼろ泣き出したオンナの拘束された蕊は、お互いの腹の間で擦られて跳ね、先からもじんわり、涙を零している。見なくとも湿る感触で分かった。

「オマエの方が、ヒドイ」

　言葉の途中で、また唾を飲み込む。

「オレが、どれだけ、オマエに支配、されてる、か……」

　分かれ、と、囁く台詞はまじないというよりも呪いじみていた。わかり、理解しろ、認識してくれ、頼むから。

「あ、あぁ、あっ、アッ、ァ」

　そんなことを祈りながら抱いているとつい、手荒になってしまって。

「あ、ァ……ッ」

　声が快楽の音程を外れる。しまった、と、オトコはカラダの動きを止めた。

「……ごめん」

　捲れてしまった粘膜を、右手を解いて、そっと戻してやる。

「ごめん。……ごめんな？」

　謝る。涙の跡を舐める。宥めるように、体中を擦り付ける。ごめん。返事はない。オトコは焦る。嫌われただろうかと不安が頂点に達したまさに、その瞬間。

「ハズシテ、くれ……」

　震え声で細く願われて。

「ん」

　拒めない。仕方がない。許してくれた安心と、あーあ、と残念な口惜しさを抱きながらオトコは身体を浮かせ、掌を腹の間に差し入れる。マジックテープの戒めを外すと、途端に、オンナはぶる、っと全身を戦慄かせて。

「あ……、ぁ……」

　目を閉じ、声を漏らす。蕊からは蜜がとろとろ零れている。甘い息が漏れる。与えてしまった痛みに竦んでいたカラダがまたとろけて、オトコはほっと息をつく。同時に、再び重ねた腹の間を濡らしていく暖かな蜜を、舐め啜りたい渇きを心から感じた。でも繋がった体勢ではどうしてもムリで、せめて、掌を差し入れて、優しく撫でてやった。

「……ン」

　はぁ、と。

　長い時間をかけて吐き出したオンナはキモチが良かったらしい。トロン、と、切れ長の瞳だけでなくカラダまで緩んだ。マテをかけられていたオトコが動きを再開する。

「ン、……あぁ……」

　一度目の開放を堪能した後の、今度の声は柔らかい。さっきまでの、切羽詰った欲望を宿す前立腺を突かれる、神経を直接刺し貫ような生々しさはないけれど、くにゅくにゅ、っと、絡み付いてくる。

「スクアーロ」

　名前を呼ぶと、うすく目を開いて。

「……イイか？」

　問うと頷く。オトコは舌なめずり。コレはこれで相当に美味い。一方的な攻勢の優位さは失ったが、代わりに睦みあい絡みあって深い場所へいける。

「、ン……、っ、ふ……」

　愛おしいオンナを、いとしみながら、オトコも上り詰めていく。

　夜半。

　自邸の廊下を、主は歩いていた。

　しらっとした顔で、てくてくと、なんだか喉が渇いたなぁ、そんな顔つきで。

　でも不自然だ。主人の部屋のバーには飲み物が用意してあるし、そこにないものが欲しいなら電話一本で済む。なのに自分で厨房横の酒の貯蔵庫まで出向くのは不自然。そして。

　目のいい男なら気づいただろう。キャネーロのボス。ムチ使いの金色の跳ね馬の腰つきがふらふら、重心が定まっていないことに。頑張りすぎるとオトコはどうしてもそうなる。どれだけ鍛えていてもそれは仕方がない。

　網膜照合でロックを解除し、半年を経て覚えたラベルの赤ワインを掴む。アマローネ・デラ・ヴァルポリッチェラ。ロマネ・コンティほどバカ高くはないが普段に呑むにしては贅沢な、赤。

　瓶の口を掴んで、コルクを乾燥させないようワイン棚で横たえられていたそれを、そっと持ち上げ、腕に抱く。そうして貯蔵庫を出た、ら。

「……」

　入り口の前に立っていたのはロマーリオ。

「こんばんは、ボス」

　メガネを押し上げながらそんな挨拶をされて。

「……やぁ」

　咄嗟に何と返せばいいか分からず、あいまいな声を出してしまう。

「別嬪さんの監視部屋にはカメラがある」

　ロマーリオは眼鏡のブリッジに指を当てたまま、単刀直入に用件を切り出した。

「今夜の当直は俺だからよかったが、これからは気をつけくれ」

「あ、すまん」

　カメラのことは勿論、館の主人も知っている。そこに起居しているスクアーロ自身も承知だろう。ここがマフィアの本拠地で、スクアーロがまだファミリーの一員でない以上、仕方のない措置。第一、保安の為とはいえディーノの部屋にも、各室の出入りを監視するセンサーがついている。

　知っていたがすっかり忘れていたカメラのことを指摘され、金髪のハンサムは参ったな、という表情。イタズラを見つかった少年のような様子に、ロマーリオは指を眼鏡から外した。頬を緩め、そして。

「マスターだ」

　中央管制室の記録から引き抜いてきたメモリースティックを照れ笑いする主人に差し出した。

「……おい？」

　短い言葉の中に、ディーノは色々な意思を篭める。何故こんなものを、どうするつもりなんだ、どうしろっていうんだ、と。

「なにかの時に」

　セックスの、本番映像を、マフィアが使う、なにかの時なんて。

「……」

　移っている相手を脅迫する以外では、有り得ない。

「余計な真似なら、すまない」

　両腕を体のわきにつけて頭を下げる。

「いや。……ありがとう」

　礼を言って、メモリースティックを尻ポケットに押し込む、跳ね馬もやはり、マフィアの男だった。