エンドレス・ラブ 3

 

 

 服を脱がせあう。金髪の将軍はバスローブ姿で、紐を解けばその下は裸だ。シャツのボタンを一つずつ、機械鎧の右手も使って器用に外していってくれる仕種が案外と丁寧で、抱かれる立場の『オンナ』の気持ちを和ませる。

「俺と、別れられると、思うなよ」

「まだ言ってるのか、しつこい」

「手ぇ切ってなんかやんねーよ、絶対。あんたの腹の中に俺のセーシュン、全部入ってんだからな」

それは嘘ではない。十五から十五年。社会的にはまだこれからだけど、恋愛やセックスの意味では一番、実りの多い期間。

「わたしのせいに、するな」

「あんた以外の誰のせーだっての」

「わたしを抱くのは君自身の意思だ」

「そんなのはない」

 話しながら、両手は上手に服を剥ぐ。最初の頃は襟のボタンもまともに外せず、引き千切っていたのに今ではシャツの前身にすーっと指を滑らせるだけではらりと合わせ目は外れ、包まれた布がとけて素肌にたどり着く。喉に近い胸元に、まずは鼻先を埋めて匂いを嗅ぐ仕草。

「俺に意思なんかない。そんな悠長だったことは一度だってなかった」

 反論をしようと開いた腫れた唇は言葉を発する前に塞がれる。喉をそ、ぉっと撫でられて目を閉じた。愛撫に馴れた猫みたいに。熱心なくちづけに応えているうちに気持ちが昂ぶって、覆い被さってくる肩に腕をまわす。

「……うん……」

 余韻を残しながら唇が離れ、耳元をかすめて喉に落ちる。今夜はそこが妙に気になるらしい。背中に腕を廻して胸を反らせ、浮き上がった分さしだされる白い喉を舐める。

「くすぐ……、ん……ッ」

 ちゅ、っとわざと音をたてて吸われて、文句を言う口を閉ざした。暴れれば噛みつかれそうな気がしたから。この相手はセックスの時、本当に真摯で真剣だ。その真面目さを理解できるまでのかなり長い期間、女の子みたいに丁寧に触れられるのに違和感があって、からかわれている気がして、嫌がってふりほどこうとしては逆鱗に触れて痛い目にあった。

 袖を抜かれて、ゆっくりシーツに横たえられる。胸を重ねられて抱きしめると、相手が喜ぶのが声でも表情でもなく気配で分かった。鋼の義手が伸びて、枕もとの引き出しの下段、いつもの定位置からゴム製品を取り出す。

 ……そう、こんな簡単なことでさえ、うまく頼めるようになったのは随分経ってから、だった。

「ゴムつけて、って、サ」

 薄い包装をピーッと、歯並びのいい口元でさき、中身を取り出す。その使い方も、そういえばこの相手は、昔は知らなかった。

「そんな簡単なことも、まだ俺に言えないのな、あんた」

 金色の将軍の声には怒りや腹立ちはなくて、ただ、嘆きだけが零れた。

「あんたがさ、俺に言ったときのこと覚えてる。女の子はいいね、って。俺がなんでって聞いたら、危険日だって言えば避妊してもらえるから、って答えたよな」

「忘れたよ、もう」

「俺は覚えてる。セックスするよーになって、あれが初めて、あんたがまともに口きいてくれたんだった。ベッドの中であんた、足は開くのに口は閉じっぱなしでさ、俺もガキだったし……、苦しんだよ」

 軽い恨み言は睦言の代用。愛を囁く代わりにそんなことを言ってみる。重ねた体の膝をたてた隙間で、義手と生身の両手がゴチソウの下肢も剥いていく。

「緊張していただけだ。君がまさか、わたしにこんな真似をしたがるとは思わなかった」

「あんたにビクビクされるたびに、俺は泣きたかった」

「わたしだって、泣きそうに怖かったよ」

「今もちょっと、まだキンチョーしてるよな。カタイ」

 肩や腿に力が入っている。ほぐそうとして言葉を交わして、頬にキスを繰り返す。

「痛くはしないから、ちから抜きな。久しぶりだからヒニンもしてやるよ。……舐めようか?」

「ふ……ッ」

 生身の方の手が狭間に落ちて行く。弾力を持ち始めた生殖器を撫でる。指先で表面を辿り、その、裏側に滑っていくと。

「……、ぁ……」

 指先に触れる、ある筈のない突起。

「取らないんだもんなぁ、コレ。死んだ前のが、そんなに恋しいのかよ。んなのが、そんなに大事な形見?」

「……怖い、だ、け……、んッ」

「俺のも、とるなよ。俺があんたよか先に死んでも、絶対」

「……ひぅ、ヒ……ッ」

 つぷりと音をたてて義手の冷たい中指が、暖かくて薄くて脆い粘膜の中へ無造作な侵略。暴れる身体を押さえつけ第二関節まで含ませる、と。

「……、ぁ、あ、ア……」

 変貌は顕著で一気だった。全身が撓り、潤み、紅潮する。かわいそうなほど露骨に。いやいや、と捩じる身体を緩く押さえつけ、義手の指先で、ナカにあるソレに触れる。

 ちょうど、生殖器の裏側にある突起とは対の位置。

 オトコを受け入れる内側。粘膜の下、前立腺を露骨に刺激する場所には、前と同じように、あり得ない筈の突起が。

「ん、ンーっ」

 ソコを、押さえられると、もう逃げられない。久しぶりのせいもあって、露骨な発情に全身があえぎ出す。

「素直なとこスキだよ、ロイ。でもきっと俺じゃなくっても、触られたらヨガるんだろーな、あんた」

 それを思うと、やっぱり、いっそ。

「俺が死んだらとっていいよって言おうか。でも覚えてて欲しいから、やっぱりあんたのナカにこれぐらいは、残しときたい気も、する……」

「ん、ふ、ぅあ、ン、ンーッ」

「こんなに愛してんのにあんたは薄情だ、なんにも孕んでくれないまんまでさ……」

「ひぁ、ひゥ、ン、、ぅあ」

「なぁ、ロイ」

 沈んでゆく。抱いた愛しい相手の身体の中へ。刺激されぽろぽろ泣きながら震えながら、それでもゆっくり、白い細腰は揺らめき出す。快楽へ向かって。

「ちょっと、タンマ」

 それをぐいっとシーツに押し付けて、抱いている男は抗い難い誘惑から逃れた。

「もーちょっと、味わわせろ」

 身体を繋げたこの一体感。誰よりも近く深く、今は全身を抱き取っているという実感。

「あんた、いつまで……」

 俺に閉じたまんまのつものなの。

 触れて湿って張り付いたような肌に、正気では言えない本音がこぼれていく。泣き出すカラダを抱きながら、本当に泣きたいのは自分の方だと、嘆く。

「さっさと俺を呼び戻せ。もー離れてんのうんざり、だ」

 威嚇でも警告でもない、最後に正直な哀願を囁いて、息苦しさを嫌って逃げる唇に無理矢理キスをして。

 それから、動いた。

 ぐちゃぐちゃに溶け合うまで。