楽屋中継

 

 こんにちは、貪食細胞通販担当のうさぎです。

 本日は、素人三文歌舞伎もどき・『鳴神』の楽屋裏から、中継です。

 えーと、それでは本日の主役・鳴神上人役を務める藤原拓海さんに、お話をお伺いします。

 藤原さん、本日は名題物でのご主演、オメデトウゴザイマス。

 

「……なんで、うさぎがマイク持って歩いてるんだ?」

「藤原、そいつは作者のトコの飼いウサギだ。噛みつきゃしないから前を向け。袷が歪む」

「あ、すいません、須藤さん」

 

 あ、京ちゃんだ。

 京ちゃんはナニの役をするのー?

 

「俺は、今日は裏方だ」

 

 ええっ?凪ちゃん最愛の京ちゃんが?

 だからそんな、黒子さん姿でうろうろしてるのね。

 でもみっふー残念。京ちゃんの歌舞伎役者姿、見たかったよー。

 

「仕方がないだろう。まともに帯を結べるのは俺だけなんだ。ふぅ。これだけ衣装を着せるのも重労働だぜ。涼介ぐらいは、出来ると思ってたんだがな。あの弟はともかく」

「前は出来たんだが、足袋まで履かせてくれる男が身近に出来て以来、忘れ果てた」

「おう、メイク終わったか。女衣装だからな、帯はきつく結んでおくぞ。鹿の子帯をきつく結ぶとだいぶ苦しいが、仕方ない。胸高に締めとくから、腹式呼吸しろよ」

「厚化粧で、皮膚呼吸できなくて、既に窒息しそうなのに。更に帯まで結ばれるのか。やれやれだぜ」

「仕方ねぇだろ。袖、持ってろ。いくぞ」

「う……」

 

 ふぇー。大変そう。

 あ、啓ちんがいる。啓ちーん。

 

「アニキ、すっげぇ綺麗だ……」

 

 啓ちん、お目目がハートのマーク。

 うん、でもにぃにぃ、綺麗だねー。

 

「本朝に並ぶものなき超別嬪の、雲絶え間姫かぁ。 役聞いた時から、絶対、やるならアニキと思ってたんだよ」

 

 そりは、みんな思っているでし。

 

「俺は帝の役だぜ、へへへ。アニキが悪い坊主を退治してきたら、一緒に……。うししししし」

 

 啓ちん、スケベ笑いしてると、ハンサムさん台無し。

 あ、京ちゃんだ。衣装のきつけ、終わったのー?

 

「なんとかな。あとは舞台の割書きを描いて組み立てて……。今夜の日付が変わる頃には、上演できるかな。うーん。凪の脚本の上がり次第だ。涼介がそれまでに窒息しなきゃいいんだが」

「ご苦労サンだな。ま、こっちで一杯、やんねぇか」

「恐縮です。いただきます」

「おぅ」

 

 うぅ。

 文太パパと京ちゃんがおちゃけ飲んでると、

 場面は殆ど、継承盃。ほ、本職の香りがぷんぷんしてくる。

 テキ屋の元締めサンと地元の若頭ってカンジィ……。

 とてとてとて。

 

「なんだ、こいつぁ」

「あー、作者の飼いウサギです。今日の舞台の、取材してるとか」

「へぇ。ふわふわしてやがんな。よっと」

 

 きゃぁああぁぁああぁあああー。

 ミッフィー、文太パパのお膝の上。ってゆーか、ま、またぐらぁー。

 は、恥かしい。けど嬉しい。照れちゃうよぉ。うぴーっ。

 

「おめぇも飲むかい?」

 

 飲む飲む。うーん。おーいしぃー。

 あり、ところでどして、文太パパ、ここに居るの?

 

「あぁ。『鳴神』にゃ出てこないんだがモトネタの、『リシャヤシュインガ物語』には出るんだよ、坊主の親父がな。で、楽の祭りだから俺も顔出せって、お声がかかったのさ」

 

ふぅーん。ぺろぺろ。あー、本当におーいしーい。

……ぐう。

 

「寝ちまったぜ。可愛い奴だな」

「では、俺はこれで」

「おうよ。頑張ってくれや。……ところで、えーと」

「須藤です」

「須藤さんよ、ちょいと聞きたいんだが」

「は」

「アニキ、きれーだぁ」

「さっきからあそこで舞い上がってるボッちゃん、知ってんのかい、この芝居」

「多分、知らないと思います」

「この『鳴神』が、本当は」

「はい」

「本番マナイタショーだって事をよ」

「……」

「……」

「……」

「アニキぃ、きれーだぁ」

「本当に、俺にはもったいないくらいです」

「あ?」

 

 ぐぅぐぅ。

 うーん。おちゃけ、もっとぉー。