内緒の話・1

 

 「ダメって、啓介……」
 服を脱がそうとした手を阻まれて、
 「えーっ、だってアニキが最初にしてたんだぜ」
 弟は不平の声を上げる。それはその通りだった。部屋で、一人で、そおっと、その秘密を啓介に、見られてしまったのは確かだったから。
 「だって、こんな……」
 細く呟く涼介の目尻が赤い。声が震えている。苛めてるみたいで妙に興奮して、啓介は乱暴に服を脱がす。真っ白な胸の先端、桜色の乳首に吸い付くと、
 「……、ん、あ……」
 途端に甘い声があがる。それから手を伸ばして兄の脚の間のモノを無茶苦茶に弄った。最初は服の上から。それからジッパーを下げて直に。それに触ると涼介はもう抵抗できない。なんでも出来て賢いこの兄が、二つ年下の啓介に、縋りつくような仕草さえみせる。
 「固くなってきた……」
 わざと音をたてて乳首を舐める。ぴくぴく、腰が震えて来る。弄っていると硬くなるのだと、兄のしていることを見て初めて知った。
 二週間前のあの日。行為に夢中だった兄がベッドの上で身もだえしていた一部始終を啓介は見ていた。正気に戻った兄が今更、何も言いつくろえないほど全てを。
 「啓介、けぇ、……、すけ、離し……」
 胸だけじゃない。背中にも鎖骨にも唇で触れていく。兄のモノは右手でキツク握ったまま。そうすると兄は泣いて苦しんで、甘い声をあげるから。
 「も……、イヤだぁ、ん、……ンッ」
 「大人しくしてくれないと母さんに言うよ?」
 その一言でびくっと竦んで、兄は震えながら白い脚を開く。触れるなんて思っていなかった、真っ白な、綺麗な。
 「お願い、けーすけ、な、めるのだけは……、いやぁ」
 「ウソツキ。すっごい気持ち良さそうなのに」
 股間に鼻先を埋めるようにして、手で弄っていた兄の先端を舌で舐める。とたんに兄はシーツから腰を浮かせて身悶えた。右に左に、カラダをくねくね、躍らせて。唇から高い声があがる。
 テレビで見るエッチなシーンの女の子みたいだ。弄りながら啓介は自分のズボンも下げてそれを、取り出した。体を一度、離してそれを擦り合わせる。濡れた舌から解放されてほっとした兄はでも、触れ合ったものの招待に気づいて、
 「イヤ、あ、−ッ」
 死にそうな声を出す。レイプ、されてる女の子みたいに。セックスとかレイプとか、そんな言葉は知っているけど、どうするものなのかよく分かっていなかった。今も本当は、よくは分からない。でもきっと、この延長なんだと思う。
 「啓介、け……、も、離し……」
 泣きながら震える兄を見てるとすごく興奮する。呼吸が荒くなる。すりあったそれがキモチイイ。でも啓介のは兄みたいに真っ赤になって、膨れて、はじけはしない。
 「……ンーッ」
 とける。そんなうわ言をいいながら失墜する兄が綺麗で、気持ち良さそうで、一緒にどうにかなりたいのになれないのは。
 「はやく、大人に、なりてぇな」
 自分がコドモのせいだとは、うっすら分かっていた。
 「俺、オトナになったら一番に、アニキとするから」
 「馬鹿、言わないで、……、も、離せ」
 「それまでアニキ、誰ともするなよセックス。分かった?」
 「……啓介、ダメだよ」
 こんなのはいけないこと。セックスって男同士で、まして兄弟でしちゃいけないんだ。こんなのは、いけないことなんだ。聞きたくない言葉だった。聞き飽きたお説教だった。だからまだ涙をうっすら漂わせて腫れたみたいになってるアニキのそれを、力いっぱい、握った。
 「痛い、イタイ啓介、けい……、すけ」
 返事をしないで力任せに握りこむ。リトルリーグでピッチャーやっているから握力には自信がある。証拠に兄は、悲鳴をあげて泣き叫ぶ。
 「やめ、お願い、啓介、やめてーッ
 」兄が叫べば叫ぶほど力を入れた。テレビで『レイプ』されるときの女の人に似てるから。『レイプ』したつもりになってくる。された後、女の子は泣いて、それでもオトコに、いつも大人しくなる。
 「イヤーッ」
 泣きながら、それでも乳首を齧るとアニキは二度目の、絶頂を迎えた。細く糸引く悲鳴を残して。それを途中で押さえ込む。
 「い、や、ーッ」
 「……分かった?」
 「分かった、わかったから、けーすけぇ」
 「なに分かったのか、言って」
 「お前とするまで、誰ともしない、セックス」
 「自分でも、ダメだぜ。勝手に一人で弄っちゃ。いい?」
 頷くのを確かめてから離す。わざと受け止めないと、勢い良く放たれたそれは兄の、のけぞった咽喉にかかって、散った。
 「っく、……、ッヒ」
 泣き出した彼が可哀相で、泣きやむまで背中をなでてやる。でも。
 「ネェ……、これって、何回ぐらい出るの?」
 質問に涼介は頭を横にふりながらシーツをずり上がる。
 「知、らな……」
 「試したことない?」
 「そんな、もう……、ヤ」
 「試してみようよ。何回ぐらい、絞れるか」
 「イヤ、啓介も、いや」
 「俺が出るようになったらアニキも、出なくなるまで飲んでくれな」
 いや、イヤ、もう……、イヤだと。泣いても叫んでも許されない、呪縛。
 「……イヤ」
 強要される痛み。自分だけが醜態をさらしている惨めさ。まだ小学生の弟の、時々空恐ろしい脅し文句。
 辛くて、とても苦しくて。なのに奇妙に……、甘かった。