内緒の話・3

 

 夏休みが、きた。

 毎年大好きな休みだ。今年は特にスキ。だって今年はアニキといられるのが、去年までよりずっと嬉しいから。ずーっと学校がなくって昼も夜も、アニキと一緒にいられると思うと、嬉しい。

 ……なのに。

 アニキは家に居ない。塾に行ってる。しかも、オレのダチらが行くような近所の算盤塾とか英会話とかじゃない。駅前の大きい予備校。入るのに写真入のカードが必要なおっきいビル。窓から覗いて、顔を見ることも出来ない。……つまんない。

 朝から夕方まで、アニキはそこに居る。これじゃ夏休みじゃない。アニキを待ってて一日が終わる。こんなの、全然、夏休みじゃない。

「……キャンプにでも行ってきたら?ボーイスカウトの」

 案内がきていただろう、そんな風にアニキは言った。ベッドの中でアニキは疲れて、ぐったりして見えた。なんか、ちょっと、可哀相だった。

 朝から夕方まで、ずっと勉強して。帰ってきたら、俺がうるさくて。煩いだけじゃない。付きまとって、離れなくって、いつも一緒。ベッドの中でも。

「うん」

 行くつもりはなかった。キャンプも釣りもアスレチックも、大好きだけどアニキの方がずーっと、好きだから。でも。

「オレがずーっと家に居ると、アニキゆっくりできないもんな」

 抱き締めながらそう言うと、アニキはびっくりしたみたいだった。

 オレが泣きそうだったからだろうか。

「そんなつもりじゃないんだ。ただお前、今年が小学校の最後の夏休みだし、ずっと家じゃあ、面白くないだろうと思って」

「うん」

「本当だぜ、啓介」

「分かった。行ってくる」

「ちょ、啓介。こっち向け」

 向かなかった。顔を、見られたくなかった。アニキだけどアニキだけじゃない、好きな人に、こんな。きっとオレは今、すごい情けない顔してる。寂しくて悲しくて拗ねて泣き出しそう。そんな顔は、見せたくなかった。

「……元気でね」

 長い別れみたいな、オーバーなことを言った。俺の気持ちとしてはそうだった。追い出される。この人に、そばから。

 アニキはそれからも、ずいぶんイロイロ、言ったけれど俺は聞こえなかった。

 そうして十日の、キャンプに旅立った。

 

 もとプロ野球選手の会長に率いられて、九州。

 この暑いのになんでとおもったけど、暑いときには暑いところに行くのがいいんだって。俺にはよく、分からないけど。

 いいことが一つあった。滝があったんだ。冷たい水で、滝壷もあって、暑い日はそこにとびこむと凄くすっきりした。会長は準備運動して、最初は脚から静かに、なんて言ってたけど、俺は時々、ざぶんととびこんだ。

 魚はあんまり居なかった。水が綺麗で冷たすぎるからだって、会長は言った。こんなにきれいな水なのにといったら、綺麗過ぎると生き物は住み着けないんだと。……そんなもんかな。

 十日のキャンプはあっという間に終わって、オレは、帰りにはすごく上機嫌だった。帰ったらアニキにたくさん、話、しようと思った。滝壷の話、体験学習に行ったこ農家の話、キャンプ場に猿が出てきた話……、いろいろ。

 学校前で解散して、十日ぶりにただいまって、家の玄関を開けたとき。

 

「……アニキ?」

 おかしいことには、すぐに気づいた。

 靴が脱ぎっぱなしで、鞄が放り出されてる。オレなら珍しくないけど、アニキは脱いだ靴はきちんと玄関横の、家族用の靴箱に入れるし鞄は部屋まで持っていく。なのに、なんで?

「アニキ、アニキ何処だよ、アニキッ」

 大声で呼びながら、スニーカーを早く脱ごうとするあまりこけそうになりながら、廊下を走った。アニキ、何処居るの、アニキ。

 馬鹿馬鹿しいくらい広い家の、でもオレやアニキがふだん使う場所は限られてる。長い廊下を(本当に、あそびに来たダチの全員が大騒ぎしてかけっこしたぐらい、長い)駆け抜けたどんづまり、教室ぐらいあるリビングの、ソファーのかげ。

「アニキッ」

 仰向けに、片腕を胸に乗せて、映画とかかで人が撃たれたときの姿勢で、倒れてたアニキ。

「しっかり、しっかりしてアニキッ。し……、死んじゃ、ヤだよぉ」

 肩を掴んでがしがし揺すると、

「……啓介?」

 アニキはうすく目を開けてくれた。

「アニキぃ。良かった。生きてたぁー」

 おんおん泣き出したオレに、

「お帰り」

 アニキは言って自分から。

「あ、」

「し」

 ……キス、してくれた。初めてだった。

「お帰り、啓介」

「あ、うん。……ただいま。アニキどしたんだ?具合悪かったのか?」

「違うよ」

「だって、倒れて」

「ちょっと、眩暈がしただけ。貧血だよ」

「病気じゃねぇかぁ。病院行こう、な、オレ、タクシー呼ぶから」

「もう大丈夫。それよりエアコン点けてくれるか?暑い……」

 言われてようやく、オレは気づいた。明るい南向きの部屋は日当たりが良すぎて、ひどく暑かった。エアコンじゃ間に合わないと思ってまず窓を開ける。風がふーっと吹き抜けて熱気が払われるのを待って、窓を閉めてエアコンを点けた。設定を18度にすると、二秒後に冷風が静かに、でも容赦ない強さで吹き付ける。

「……アニキ、ほら」

 キャンプで、応急処置とかを習ったばっかりだったのが、良かった。クッションをアニキの頭の下に突っ込んで横向かせ、キッチンの冷蔵庫からポカリを出して口元に運ぶ。貧血ってアニキは言ったけど、熱射病と脱水症状もあるみたいだった。

 ごくごく、アニキはポカリを飲み干す。ふぅーっと息を吐いた人がちょっと復活していて、俺は、

「ごめん」

 安心したら、泣きたくなってきた。

「ごめん、ごめんな」

「啓介?どうしたんだ」

「ごめんな。オレが、アニキんこと好きになったりする変態だから、アニキ……」

「なに、言ってる、お前」

「オレが帰って来るのイヤだったんだろ」

 自分で言って、一気に悲しくなった。ぼろぼろ、馬鹿みたいに泣けた。

「馬鹿……」

 アニキはまだちょっとだるいらしい。力の抜けた腕ででも、オレを抱き寄せて、きゅっと抱き締めてくれた。

「待ってた。ずっと。お前が帰って来るの。……帰って来て、くれるの」

「オレ、オレは、でも……」

 言いながらふと気づく。

「アニキ、痩せた?」

 抱き合うからだが、確かに、細い。

「……お前が大きくなったんだよ」

「そんな訳ない。アニキ、痩せたよ」

「お前は大きくなったよ。お日様と緑の匂いがする」

 言われて俺は身体を離そうとした。汗臭い、って思ったから。

「行くな」

 ぎゅっと、アニキがオレにすがりつく。

「離れるな。もう少し」

「だって、でも。……オレ、困るよ」

「……いやなのか……」

「だってアニキのこんなそばに居たら、だって……」

 オレの変化にアニキは気づいたようだった。嫌われると、俺は身体を竦めた。……けど。

「……会いたかった」

 ため息みたいな呟きとともに、オレのそれに、寄せられた掌。

「お前のことばっかり、考えてたよ」

「……オレ、でも」

 アニキは何も言わなかった。俺もいえなかった。オレの唇がアニキにふさがれて、アニキにつかまれたオレの片手が、アキニの……。

「して、くれ」

 俯いたアニキの唇からもれる、言葉。

「待ってたんだ。お前。ずっと」

 

 それから。

 触りあって、舐めあって。

 アニキに、した。……けど、なんか。

 なんか、オレには不満が残った。もうちょっとなのに手が届かない、もどかしさに似た気持ち。アニキはそんなのおくびにも出さず、

「なぁ、……シーツ持ってきて」

 オレに優しい、綺麗な声で強請る。

「みのまんま、ココで寝たい。……少し」

「あ、うん」

 言われてその通りにする。アニキにしては珍しいことだった。部屋以外で寝たい、なんて。そうしてオレは、分かった。

 ……足りなかったんだ。

 アニキはオレより二つ年上で、その分、オレより大人に近いから。オレじゃ足りなかったんだ。満足してないからうっとり、したまま寝ようなんて思ってる。……どうしよう。

 待ってたとか、せっかく言ってくれたのに。

 女の子みたいにオレを入れて、綺麗に踊ってくれたのに。

 オレじゃ足りないんだ。アニキはすっげー綺麗だから、欲しがってる男はまわりに、幾らでも居るだろう。アニキが指を伸ばせばすぐに、握り締める男は。

 どうしよう。どうしたら、いいんだろう。

 泣きそうな俺の目に、土産に持たされた袋が見えた。そこからはみだした、緑色の……。

 

 シーツをかぶせておいて、裾を少し、捲って。

 そこから手を入れて内股をなで上げても、アニキは苦笑するだけで止めなかった。

 舐められてると、思った。

「……うつ伏せに、なって」

「止せよ。お前もう、駄目だろ」

「いいからなって。腰、上げて」

 仕方ないなという風に言うことをきいてくれる人のそこに、キスして。

「スキだよ」

 オレので湿ったの場所に。

「……ッ、ケイッ」

 久しぶりに聞く、切羽詰った叫び声。

「啓介、ケイ、や……、なに、なん、……、ッ、あ、アーッ」

 抉る。深い緑色の、ぼこぼこの表面で。そのたびに、

「ヒァッ、ヒッ……、ッ、あ……、うぁ、あ……んふぅっ」

 聞こえる嬌声。ひどく淫らで、でも、綺麗な音。

「あふ、あ……、ンァッ」

「オレが、大人になったら」

「ふ、アッ……、け、すけも……、ダメ」

「オレで、気持ちよく、してあげるから」

「も……、ダメ、やめ……、デル」

「好きだよ、アニキ」

「う、く……ッ。ん……、ンーッ」

 それで何度も、ヤッた。

 アニキが疲れきって、体中の力を抜いてぐったり、オレの腕にもたれるまで。

「も、いいよ啓介。……充分」

「満足した?」

「う、ん」

「……じゃ最後に、これだけ」

 ぼんやり目を見開いたアニキの顔色が変わる。

「……ヤ」

 脅えて腰が引ける。可愛い。俺のがこの人をこんなふうに、脅かせるようにナルのは何年、先だろう。

「舐めて」

「ムリだよこんなの。もぅ、いいじゃないか」

「このまんま、挿れられたくなきゃ、舐めて」

「啓介も、許して……。オモチャに、しないで……」

 オモチャにしないで。

 その台詞がオレを奇妙に興奮させた。オレ、今、アニキをオモチャにしてる?アニキで遊べてるの?

「イれるよ、しないなら」

「待って。……舐める、から」

 唇に含ませるとそれはますます、グロテスクなほど大きくさえ見える。ピンクの舌が緑色に絡むのを、見ているうちにオレもたまんなくって、アニキの胸元に齧りつく。

「ん、ンッ、……ッン、、ンンーッ」

 唇を塞がれているから嬌声は聞けないけど、弱い乳首に歯をたてるたびに零れる息が彼の快感を、オレにも伝えてきた。揺れる腰、震える突起、そうして真っ赤に充血した、彼自身。

「……おっきいね」

 彼の口に入ってる緑に向けて、呟くと、

「……ン」

 そうだろ、ムリだよ、と言う風に彼は頷く。

「噛んで、みたら?ちょっとは楽かもよ……?」

 言うと彼の瞳に涙がにじんだ。けど、そう、よほど恐かったんだろう。

 目を閉じて、歯をたてる。

 苦そうに、顔がしかめられる。

 それでも彼は齧った。太くって堅いそれの表面を。表皮が破れて、しなしなになるまで。

「あーぁ、へなへな。役に立たないよ」

「……ン」

「しょうがないな。これはちょっと、ムリかと思って外してたけど」

 一番大きいのを彼の眼前に晒す。顔色が変わった。

「イ、ヤ」

 震える声。竦む体。……可愛い。

「い、やぁーッ」

 けっこう簡単に、でも、それは飲み込まれる。

 ひろがったソコのまわりに、無茶苦茶にキスして。

 抉るリズムにあわせて、彼に跨った俺ね身体を、擦り付ける。そうしてると本当にオレので、彼が感じて、泣いている気がした。

「……ゴメン」

「謝るなら抜いて、おねがい、お……、ねがっ、あっン」

「あんただけ女の子にして、ごめん。オレも早く、男になるから」

「……ンッ、ンぁ、……ッ」

 

 最後には、オレに愛撫をねだりがら。

 泣きながら零した人を抱き締めて。

 大人の身体を早く欲しいと心から思った、十二の……夏。