紫に驕るものは招く、黄に情濃きものは追う
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確かにそうだと、涼介は無防備に眠る啓介を腕の中に抱きながら思った。
啓介の、「愛」を試さずには居られない許容の狭さは尋常では無いと我ながら自嘲の溜息が零れる。
涼介の肩口に鼻先を寄せ、肌の匂いを確かめている様な啓介の寝顔が余程寛容だ。
「……ん、…ァ、ニキ……」
夢を見ているのか、酷く擽ったそうに笑った。
広い肩を抱いていた弓手を上げて、乱れた金褐色の髪を撫で梳く。
ジェルを落として生来の癖の無い、さらさらの手触り。
幾度も繰返し繰返し、飽く事無く梳き続ける。此れを、此の感触を愉しめるのは自分だけだと云う愉悦に浸りたくて堪らない。
もっと深く揜り込みたくて、堪らない。
「…けいすけ……」
額に口付け更に抱込み脚を絡める。
いっその事喰べてしまったら不安に駆られる衝動も起きないだろうか、と。
咀嚼する事無く丸呑みにして温かい腹の中にずっと抱えて大切に愛おしむ。そんな怳惚。
呑込むならきっと今。安らかな寝息をたてている儘何も解らない儘に、腹の中へ。
苦痛等与えず揜り込んで躰一つにしてあげたい、蛇性の恋情。
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其の奇麗な指を飾り守る、爪の先は短く切られ整えられていて。
喉笛掻き切って慾しくても薄皮一枚引掻くのが關の山。
直截其処から呼気を取込みやしないと居られない程の息苦しい不安に苛まされていると云うのに救済すら無く。
追剥ぐ様に白膚に縋った處で柔かくキツく包んで呉れるだけ、蕩けそうに熱い躰に真冬の冷水の滴る心裡が慟哭すら許そうとしない。
掠れた声で哀願愁訴するから、優しく此の首筋撫でて頚動脈を探って。
白い指先、血で汚したく無いなら櫻果の唇の陰に隠した牙でいいから。
けれど蠱毒に狂悖させられ逆しまに喰付いてしまった震える涼介の頏。
「! …けぇ…す、け…っ…」
反返る筋の靱やかさと零れる嬌声の貴やかさに意識を喚起され非道い後悔の眩暈に襲われる。
貴方の一部で在ったら良かったものを。
貴方の中で微睡続け中有に搖れ漂う耽溺に溜息を吐く。
「…ン、…もっ…と…」
豔色千万の態は女妖を圧して惡む事も出来ずに辠の海の淺深に浮沈む。
浮沈を繰返し悲鳴を上げる肺に接吻で一縷の呼気を含ます残酷さ。
滑らかに首に絡む腕は白蛇の様であるのに憑り殺す術を知らないとでも戯言を囁かんばかりで涕だけを甘露の如く舐め取る舌先が、愛しい。
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