泣くなよ、って、土方さんを撫でる沖田さんの声も手付きもひどく優しかった。痛いことはしてねぇだろ、って、言って聞かせながらぎゅう、って抱きしめて安心させようとしてる態度は男らしい。
沖田さんはすごく若くて、幅と厚みが成獣にはまだ少し足りない。けど、ヌードは服を着てるときほど細っこくもない。関節がしなやかで柔らかく、これからまだ、強くも大きくもなれね。いいなぁ。中肉中背で固まってしまった俺にはそれが、心の底から羨ましい。
「ほら力、抜いて。揉んでやっから」
「……、ひ……、ッ」
沖田さんの膝の上に向き合う姿勢で座らされて、後ろにナンかよく分からないけどぼこぼこのボールを挿れられて悶えてる、土方さんのカラダが素晴らしいのは今更、コメントするまでもない。
腰高で手足が長くて骨格の形がいい。かなり身近に仕えてきたからパンツ一丁の下着姿は何回か拝んだ。幹部連中は風呂が別だからオールヌードは初めてだったけど。狭間の赤さはちょっと意外だった。見かけほどすれてないのかもしれない。さすがにピンクじゃないけど、赤が薄くて透明感があって鮮やか。
「……、ご……、ッ」
「ここ?イイ?」
「ひ……、ン……」
沖田さんのセックスが優しいの意外だった。セックスっていうかまだ愛撫、前戯だけど、でも、この若さでこんなに弄ってあげるのは相当な忍耐と思いやりじゃないかな。これがレイプなら何がレイプじゃないんだろうっていうくらい熱心。
イケないように根元を輪ゴムで留められて、自分で外せないように手を背中で縛られた土方さんはさっきから腰が揺れてる。沖田さんの両掌が土方さんのきれーに引き締まった尻にかかるだけで、喉をのけ反らして背中をしならせる。
……すげぇいいオンナなんじゃない?
商売女たちを恋になぎ倒すいい男なのはよく知っていたけど、オンナとしても、この人とんでもないレベルなんじゃない。感度と、皮膚の薄さと、色香が半端じゃない。特に興奮して紅潮した肌は色変わりしててひどく魅力的だ。魚だって繁殖期には婚姻色が出る。あ、ぁ、って唇から漏れる悲鳴が耳朶を叩く。普段とのギャップが凄くて刺激的だった。
「なかなか割ないねぇ……。女用だからかな?」
土方さんのナカにイレられてるボールの、大きさはそれほどでもなかった。鶉の卵ぐらいか。でも形状が、イボイボっていうよりボコボコで凶悪だった。質感はゼリービーンズみたい。もしくはボール状の入浴剤。あの、中に液状のオイルやエッセンスが入ってて、湯の中に入れると外側が溶けて中身が零れるヤツ。アレにそっくり。舐めたからよく知ってる。
「濡らし足りなかったですかね。ちょっと土方さん、アナ舐めてあげますから、横に……」
ボールの中に入ってるのは当然、入浴剤じゃない。潤滑のためのオイルと、もっと効果的なモノ。最近は天人の技術が入ってきてセックスドラッグが花盛りだ。取締りのための法整備がマニアってないから脱法状態のドラッグも多い。取り締まる立場の警官が、それでオンナをよがり狂わせようってんだから、今夜の罪は重い。
「……、ぃ、……、だ……」
「このままじゃ辛いでしょ?」
でもまだクスリは使われていない。寸前ではあるけれど。それでこんなに全身染めて、膝で男の腰を挟んでイヤイヤって風に、かぶりを振るオンナとそれを一生懸命宥めてやる男。不自由な姿勢でオンナは男の肩に額を押し当てて甘えているように見える。両手が自由なら縋っているだろうことは確実。もう、どこからどう見ても。
「恋人同士に見えますよ。ご夫婦じゃなくても」
「……だろ?」
流し目で沖田さんが俺を見ながら掌でぎゅ、って白い尻を揉む。そうすると、生殖器みたいにな使われ方をしている器官の中に、呑みこまされたボールのボコボコが前立腺の裏側を刺激するらしい。ひぃ、って透明な嬌声を上げて下腹をひくつかせる様子は確実に発情してる。掌の動きに合わせて身体を波打たせて、沖田産の肩口でいやいや、って悶えて。
「でも今だけなんだ。放したらすぐ醒めやがる。豹変すごいぜ掌返されて、いつも……」
「下から突いてあげれば?」
「あ?」
「ボール濡れて破れるんじゃないですか?」
「……ナカダシしろってか?」
「濡らしてあげるだけですよ」
熱と水分で破れるボールの外側は破れる。尻を揉まれてイきそうになってる土方さんは見ごたえがあるけど、そろそろ辛いだろう。どっちも。
「い、ヤだ……」
「……先っぽだけね」
沖田さんが尻から手を離す。いやいや、ってふるふるしてる土方さんの腰骨を掴む。片手は背中に廻されて、自分の上に土方さんを座らせようとしてる。土方さんはしばらく拒んでた。けど、力がもう抜けているんだろう。すぐに。
「……、っあ……ッ」
「暴れねーで。……、ヤっちまう……」
「あ、あ、ァ……、ひ……ッン」
「ダメ、って」
見ている俺も、抱いてる沖田さんもたまらなかった。興奮した。でも一番、気持ちよさそうなのは抱かれてる人だ。悪いことじゃない。感度がよくて愉しんでくれるオンナは宝物だ。男って生き物には案外、尽くしクセがあるんだ。健気な生き物だから。
「ん、……、っふ……、あ」
「手、解いてあげるから、ちょっと」
「……、ッ」
背中で拘束していた腕を解かれた土方さんは、沖田さんの腹にその手をついて自分を支えようとする。でも肘に力が入らないみたいでずるっ、って、身体ごと滑った。倒れこんじまって繋がりが深くなったらしい。アーって喉を震わせて悶える。
可愛い、けど。
「ひン……ッ」
「……おい、ザキ」
「支えてるだけですよ」
にじり寄って土方さんの背後から、肘を掴んで引き起こしてあげた。俺がそうしてるってことを分かっているのかどうか、くたっとした人は大人しく俺の腕の中で震えてる。可愛い。
「ご存分に、どうぞ」
脇の下から腕を廻して身体を支えてあげる。背中ごしに見た土方さんの顔は唇が薄く開いて、何かいいたそうに蠢いてる。とじたまぶたの先端で睫がピクピクしてる。薄く染まった目尻が禍々しいくらいの艶だ。こーゆー人にセックスドラックなんか必要ないんじゃないかな。天然で十分トブだろう。前戯と先っぽだけの挿入でこんなになれるんなら。
「……あとで覚えてろよ」
沖田産に怖い脅し文句を告げられてしまう。まあでも、あとは後のこと。今じゃないなら構わない。胡座の上にオンナを座らせた沖田さんが姿勢を整えて突き上げをはじめる。
「ヒ……ッ」
のけ反った喉。悲鳴が零れる唇の奥にしたが見えた。そんで、ちょっと、なに、泣いてンの?
「も、すこし、こっち、に」
支えるって名目で腕の中に抱いてた身体を、促されて沖田さんの前に押し出す。腰を支えながら沖田さんは頬を寄せた。ぽろぽろ、泣き出しちまった人を、宥めるみたいに。優しい。
「……どぉ?」
ナカのボールを突いてるんだろう。微妙に廻しながら尋ねる沖田さんの問いに。
「も、……、ムリ……。いて、ェ」
土方さんが答えるとは思わなかった。ってーか、正直言ってすごく、びびった。意識あるんじゃん。それでこんだけ乱れきってるってどーなのアンタ。もしかして、すごく。
「出して……、く、れ。女じゃねー、ん、だ……。濡れねぇ、から、ムリ……」
ひくひくしながら切れ切れの泣き声。ぽろぽろ涙まで、沖田さんの腹の上に落として。ちょっと、嘘だろ。コレって何事?あんた、どんだけ好いオンナなんだ。
「ダして、ハズし……。ふ、ツーのセックス、……、ぜ……」
土方さんの真っ赤に腫れて膨らんだ蛇は根元を戒められて辛そう。女の子用のオモチャセットの中にはペニスバンドは当然だけど入ってなかったから代用品。痛いのかなぁ、可哀想かなぁ、って思ってたら、俺より先に沖田さんの手が動いて、戒めてた輪ゴムを引っ張って外してあげる。
「……、ン……ッ」
ほっとしたのも快楽も隠さないで、長い睫を震わせながら、土方さんがイった。俺の腕の中で、沖田さんに繋がれて撫でられながら。残滓まで拭ってもらって暫くビクビクして、やがて全身の緊張を解いてぐったり弛緩した。しつこいけど俺の腕の中でだ。ねぇ、マジ?
マジこんな善いオンナ、沖田さん毎晩抱いてんだろうか。
「かわいーだろ」
俺の驚愕が伝わったらしい沖田さんは、土方さんの額に落ちた前髪が汗で張り付いてんのをかき上げてあげながら呟く。繋がった下肢はズキズキしてるだろうに、こんなに若いのに、イッたオンナが落ち着くの待ってやってるの?なんて健気で優しくて痛々しいんだろう。俺が女の子なら、蕩けきっちゃうけどな。
「これで昼間のあのツメタサだ。……、墜ちる……」
そりゃそうでしょうよ。当たり前ですよ。落差つらいよ、信じられないもん。俺てっきり沖田さんが床の中で苛めてるんだと思っていましたよ。若さに任せてやりたい放題って、素で思い込んでました。土方さんがしょんぼりしてるから。
「俺、勘違いしてました」
ぴくぴくがようやく収まった土方さんを抱きなおして、沖田さんの方へ倒してやる。くたってなってるカラダは可愛いんだけどちょっと扱い辛いから、相変らず脇からちょっと支えながら。
「沖田さんが、こんなに優しいなんて思いませんでした」
「……そだろ」
「すみませんでした」
「許して、やっから耳元で、百回ぐらい、呟け」
土方さんの耳元に?沖田さん優しい彼氏ですよって?してもいいけど、するまでもなく、この人は分かってるんじゃないかなぁ。この顔とカラダでしょ?もてまくってきた筈だし、恋愛不信の気はあったけど潔癖症じゃないし。
セックスそのものを嫌ってるようには、とても見えないし。
「ッ、ア……ッ」
ぐったりしてる身体を突き上げられて、また細く鳴きだしてた人が突然、電気でも流されたみたいに跳ねた。
「あ、ッア、……、ひ……ッ」
「潰れました?」
呑ませてたボールが潰れて中身が零れた、みたいだった。沖田さんに尋ねると流し目の先でちょっと笑われた。でも返事はなかった。声を出すどころじゃなくなったみたいで。
「……、ッ、……、ァ」
土方さんの指先が畳を這う。手をついてちょっとでも逃れたいのか、腰を浮かそうとしてる。もちろん沖田さんは許さない。土方さんのついた手を握って、カラダを引き寄せて、自分の上体を完全に起す。支えててつられた俺の腕を叩く。……はいはい。
惜しかったけど手離した。今度の顔は逆らったら俺の人生が終焉を迎えそうだったから。繋がったまんまで沖田さんが土方さんを押し倒して仰向けに組み敷く。途中で視線を流されて、なんですかって思ったら顎先で座布団を指された。反射でとびついてとった差し出したけど、これどーす……、って……。
「掴ま、れる?」
ちょっと沖田さん。甘やかすにも限度ってものがあるんじゃないですか。そんな真似してちゃオンナのヒトもつけあがっちゃうよ当たり前だよ。押し倒した土方さんの、腰を抱き上げて背中との境目あたりに座布団おしこんで上げたりして。
色街で歳のいかない生娘水揚げするお大尽だってイマドキ、こんなベタベタなことはしないんじゃないの?その人はどこからどー見ても魅力的なメスじゃん。枕敷かなきゃいけないのはね、腰浮かして揺らしてあわせることも知らない初心い、真っ直ぐいっちゃえば無知な、子供相手のときだけで、……、って!
「あ、ツ……、アツ、ぃ、そー……、ッ、あ……」
「つら、い?」
「アツ……、ヤケル……、ヤけ……」
「ホントだね。火ぃ、つきそ。とけるよ」
目を見開いた俺の視界には信じられないモノが映った。沖田さんの愛撫が甘ったるくて見てて痒いとか土方さんの腰に敷かれた座布団が恥ずかしいとかそんなレベルじゃない。もっとこう、口から手ぇ突っこまれて背骨から骨髄引き抜かれちゃいました系の。って、なに言ってるんだ俺。いや口に出してはいないけど。
「ンー……ッ」
土方さんの顔は俺からは見えなかった。沖田さんに肩で隠された。けど声は聞こえてくる。そんで、沖田さんのその肩と背中に、廻されてぎゅうっ抱きしめてる、土方さんの、腕が。
男の人の腕だ。髪の毛がふさふさだから体毛は薄いけど。髪と体毛の濃度とはホルモンの関係上反比例する毛の論理、って、違うって!
混乱の余りケージの中を走り出すハツカネズミみたいに、俺はぐるぐる嗜好を回転させた。とにかく男の腕だ。ちっとも華奢じゃない。真撰組副長の腕が華奢な訳がない。でも色が白い。皮膚が薄くって、なによりも、沖田さんの背中に縋りついた指の先端の、その、赤みはなんなんだよッ!
「ヌイて、拭いて、やろ、っか?」
沖田さんがまた甘いことを言い出す。でもそれも、しょーがないかもしれないって、思った。抱いたオンナがこんなにカンじてキモチヨサそうに、縋りついて来たら男は底なしに甘くなる。なって当たり前だ。すっごく、美味そう。
「ん……?」
どうする、って感じに沖田さんが尋ねる。ゆっくり、また動き出しながら。土方さんは返事をしなかった。言葉では。代わりに座布団でちょっと浮かされた長い足の、両膝を立てて、ぎゅって、沖田さんの腰を挟み込む。どんな言葉よりはっきりした返事だった。抜かないで続けてくれ、って。
「噛んで、いいよ」
最後に沖田さんが言って、それが最後だった。言葉は。ぎゅうぎゅう、絡みあいながらのセックス。
身体能力が高いペアは何事も違うね。