蹂躙・八

 

 

「あんた俺に甘えてくれて、優しくしてくれたんですよ。俺を旦那と勘違いしてね。抜きます」

 点滴が終わって、腕に刺していた針を男は周囲の皮膚を押さえつつ、そっと引き抜いた。

「こんないいオンナ無断で借りちまったんだ。義理は江戸城の天守閣より高い。旦那があんたを大事にする限り、命がけで幸せに協力します」

「男同士の義理だな。ヤられた俺の立場はどーしてくれる」

「ザンネンですが、どうにもなりません。あんたもとから俺のイノチだから。既に上限イッパイッパイです」

「俺を好きなら天井つきぬけて見せろ」

「いいよ。ナニ?」

 あっさり承知して、山崎は少し冷えた腕を布団の中に納める。

「お願いあるならなんでも聞きますよ。旦那に伝言、承りましょうか?」

「沖田が心配で仕方ないんだ」

「あぁ、確かに。旦那にずいぶん敵愾心をねぇ、燃やしてられますから。ダブルで裏切られたと思ってんじゃないですか。あんたと旦那に」

「ムチャしないように気をつけといてくれ」

「了解です。でも手を出せやしないと重いますよ。遊撃隊の屯所は江戸城内ですから、客分に手なんか出せやしない。さすが旦那はしたたかだ」

「誰があんなヤローの心配なんざするか。俺が気になるのは、沖田までユビ落とさねぇだろうな、ってことだ」

「あぁ、そう。……俺の心配は?」

「お前が、どうした」

「俺の心配はしてくれないんですか?」

「だから、お前に、なんの心配だ」

「あんたのためならユビくらい落とすよ?」

「お前はしないだろ」

「今落としましょうか?」

 男の声が剣呑に掠れる。目を閉じていた二枚目が薄く目蓋を開け、ちらりと布団の横に座る、男に流し目をくれた。

「お前は俺が嫌がることはしないだろ」

「……」

 目線ひとつで、お手軽に懐柔されて。

「まぁね。でも、一つ分からないんで、聞いていいですか」

「煙草が欲しい。コーヒーも」

「旦那をどう思ってんの。本当に切れるつもりなの。一緒に逃げる気はないの?」

「ザキ」

「俺には嘘、聞かせないでください」

「手ぇ出すな」

「……リョーカイです」