髪の生え際に食いついたり、鎖骨に食いついたり、指を絡めて握ったり放したり。

 トンでた相手が正気に戻るまで待つのも、力の抜けたカラダを弄ってるとあっという間。

「……、ちょ、……、おい……」

 ぐったり弛緩してたのに芯が通って意識が戻ったことに気がつく。膝を掴んで拡げた俺に抗議する声はまだ掠れてた。

「勘弁、しろ、も……。打ち止め、だ……」

 差し伸ばされる手に後ろ髪を掴まれて、引き寄せられたから一旦は手を離す。ちゅ、って、自分からキスしてくるのは俺の機嫌をとってんのか、イイ気持ちでご機嫌な余韻か。どっちにしろ、抱いたオンナから『ごちそうさま』されののはいい気分で、戯れてくるのを悠々と受け入れた。

「ちゅ……」

 最初の頃、間が持たないとか思ったのが嘘みたいに、ハダカで絡みあってりゃ時間はあっという間に過ぎる。クスクス、笑いあいながら抱き合って撫であって、そして。

「なんで、だよ……。腹いっぱいだって……」

 背中を撫で下ろし尻を揉み、重なった狭間に廻した手で目的を暴く。拒むみたいにカラダを捻りながら抗議される。最後にこうするって、俺は習慣にしてるけど、俺のオンナはまだ、それを完全に受け入れたわけじゃない。

「疲れン、だ、。なぁ、堪能した、って……。後味イイまんまで眠らせろよ、なぁ……」

 逃げをうとうとするのを許さないで、腕に閉じ込めた。ぎゅっとすると逆らいはしないけど、納得してもいない。指先で弄ってやるソレは余韻で張ってるけど確かに力がなくて、手応えが弱い。とどめが辛い、ってのは、嘘じゃないだろう。

 でもしたいんだ。理由を、ちょっと、考えて。

「女の子とやりたくなんねーよーに」

 真面目に応える。

「ンだ、そりゃ」

 ぎゅっと目を瞑って苦しそうだったのに、俺が真面目に答えると返事を返す律儀さは、あまい。

「オトコはさぁ、俺より強いの、あんま居ないけど」

 自惚れた台詞を告げた。

「言ってろ」

 否定されないのはいい気分だった。

「女の子は別腹じゃん。オタクもてるし、けっこう真面目に心配……、ってーか、嫉いてる」

「妄想で盛り上がるンじゃねぇ」

「女の子とも、ヤったら、ヤだぜ、トシ。全部オレんだ」

「てめぇでジューブン、こっちは打ち止めだってるだろ」

 抱きしめた隙間から腕が伸びてくる。オレの機嫌をとるみたいに後ろ髪を撫でる。指先が気持ちいい。

「オレもオタクで打ち止めだねぇ」

でも抱いた腕は解かなかった。誤魔化されて懐柔されてやるのも優しさの思いやりって、分かっちゃいるけど、それより、したかった。

「けど女は別腹だろ」

 決め付ける。暫くの沈黙。

「ヘン、なこと」

カラダを擦り付けてるうちに、優しいオンナの方が折れる。

「する、なよ」

「ナンですかナニをご要望ですかー?」

「先っぽ塞いだり根元縛ったり、すんな」

「あー、あん時オタク、声も出せねーで悶え狂ってたなぁー」

 思い出すして、くすくす笑った。

「ナンの時だったっけあれ。……ああ、オタクが背中から抱かれンのイヤだってって、手ぇ焼かせた時だ。しくしく泣いてなぁ、可愛かった」

「ドサドめ……。苦しかったんだぞ……」

「いーじゃん、おかげで新しいお愉しみイッコ増えただろ。後ろから弄られながらゆっくりイくのもキモチイイだろーが」

 ヨガり悶えた後だ。よくない、とは、さすがに言わなかった。

「ちゃんといーこにしてりゃ、とどめはオタクの好きなよーにしてやるよ」

 背後から捕えて喰らいつく快楽は手放せないけど、抱きあってるほーがイキやすいってんなら最後はそうしてやってもいい。譲歩は愛情だった。少なくとも、俺はそのつもり。

「……痛くされんの、イヤだ」

 俺の根気に負けたのか、終わんなきゃ眠れないって諦めたのか、オンナも譲歩を口にする。

「しねーよ」

 安心しろ、ってぎゅっとして、体を一旦はなして脚を拓かせる。腕を上げて顔を隠したオンナはこっちを信じてない。怖がってる。けどイヤだって言わないのは俺の躾が行き届いてきた証拠。嫌がれば倍返しだって、ちゃんと分かってきた。

「……、ッ!」

 虐めなかったし、焦らしもしなかった。クチの中に含んで下を絡めて吸い上げて、時々は深く呑んで喉で絞ってやる。

「、ふ……、ぅ……」

 膨らんだソレが濡れた粘膜に包まれる感触が、気持ちいいのはどーしょーもない本能。ため息こぼして膝を揺らす。でも、さすがにまぁ、そんなに早くは、盛り上がらない。

「うー……、ン」

 夜の最初と違って後味の時は、わりと素直に喘ぐ変貌も好みだった。味がだんだん甘くなるからオモテ、ウラ、トドメって弄っても飽きない。甘党な身としてはぐったりした後の名残の蜜が一番、好みだったりする。

「ッ、……、っ」

 腰が揺れる。けど声は苦しそうに濁った。イいけどもう、刺激がちょっと痛いんだろう。

「……、ふ。……、ちょ、……、ぅアッ!」

 痛痒い、みたいに蠢いてた腰がピンクと跳ねる。

「なに……、ひッ」

 突然、声も途切れさせて泣き悶える、理由は指を、ウシロに突っ込んでやったから。舐めながら裏側からグリグリ、前立腺のしこり弄ってやると、生き返ったみたいにビクつく。

「……、ァ」

 これは、するなって言われてない。しないって答えてない。逃げよう、って気配を見せたカラダの膝を掬って肩に掛けさせて、腰が浮く無茶な姿勢で、滅茶苦茶にしてやった。

「ぁ……、ぅ、ア……」

 抗議する間も抵抗する余裕もなくって、半分マジな泣き声になっても聞こえないフリ。

 なぁ、おい。……、トシ。

 女の子なんて、ホントはどーでも、いいんだ。

 あれは別物の別腹。こんなのが予防にならないのは分かってるし、実はそんなに気にしてもいない。

 男は、まぁ、俺で腹いっぱいなのが本音だろう。しっかり気合入れてあんまり間を空けずに抱いてる。俺より強いオスはそうそう居ないってのは自惚れじゃねぇ。もともと随分、コッチはご無沙汰だったみたいだし、浮気を真剣に警戒してる訳でもなかった。

 ただ。

 カラダ気に入ったのはお互い様。俺も胴震いしそうなぐらい入れ込んで執着してる。あんまり好きだから『名前』書いておきたいって、思うのはオスとしてごくノーマルな発想。

 クセを、つけたい。

 人間の習慣はけっこう怖い。俺やこいつの指が刀の柄を握る形で指が曲がってるよーに、身体は意外と簡単に適応する。

 なぁ、おい。

 マエ、だけじゃイケない、悪いクセつけてやるよ。

 俺とじゃないと果てれないよーに、してやる。

 ほの暗い情念。可哀想だけど苦情を聞くつもりはない。自分のオンナを作ったのはオレもずいぶん久しぶりで、コレが最後かもって時々、考えたりも、するから。

 オレのどこが好きだって聞いて、カラダって答える可愛いけど憎らしいオンナに、これぐらいのことはしてもいい、筈。

 

 

 

 

 

 

 寝床の中で目覚めて、もぞっと、煙草を探す。

「……、ん」

 寝たのが早かったから時刻はまだ六時前。部屋の中は薄暗い。腹ばいになって手探りで枕もとの煙草を見つけて火を点ける。

 よく、寝た。

「オハヨ……」

 隣で寝てたヤローが声を出す。低血圧気味のこいつは寝起きが悪い。朝は機嫌もあんまりよくねーから、無理して起きなくっていーのにといつも思う。

「寝てろ」

 言い捨てて寝床から抜け出す。捕まえようとして腕が伸びてきたけど、まだぼんやりの男に捕まるほど抜けてもいない。さっさと風呂に行ってざっと汗を流す。脱衣所で髪をガシガシ拭ってるうちに夜が明けたらしい。ゆっくり世界が明るくなってくのを、明かりを点けない部屋の中で感じてんのは好きだ。

 素足の着流しで部屋に戻ると男は布団の上に起き上がって胡坐をかいてぼんやりしてた。通りがかりに後ろ髪を撫でてやって、箪笥の前で、替えを置いてる新しい白足袋を履く。はせこを嵌めてると立ち上がった男が寄ってきて背中にのしかかった。

「……オカエリ?」

「おぅ」

「送って、やるよ」

「いーから寝てろ。またな」

「朝になると冷たいねぇオタク。……帰るなっとかって、俺が面倒なこと言い出さないうちに優しくしたほーがいいと思う……」

「だから、まだ早ぇから寝てろって言ってるだろーが」

「それ優しさじゃないー。コンビニで朝ごはん買って来いとかユわれるほーが、まだましー」

「朝から絡むなよ。わ」わかれがツライいんですー」からって」

 朝から見事に台詞がシンクロしたのが可笑しくて、オレは腹を抱えて笑った。こっちの上機嫌につられた男も背中で仕方なさそうに笑う。

「大通りのファミレスに、ザキが迎えに来る」

 ここんちの近くにはスタバやらドトールやらがない。

「公私混同しやがって、警察官僚め」

 背中の悪態を聞き流す。オレは今日、オフだけど屯所には事務仕事がたまってる。帰ったら自分の部屋でゆっくりして、午後からは休日出勤のつもりだった。

「一緒に来るなら朝メシ食わしてやるぜ」

 軽く言ってやった。背中でオトコが強張った。

「……見られて、いーの?」

 軽く答えたつもりかもしれない。口調は軽くないでもない。でも遅くって、俺は男の本音を悟る。