手順を一応、踏もうという意思はあった。撫でようとして抱き寄せて、最初のほんの数秒間だけは。
裸にして腕をまわして匂いを嗅いだ時点で頭に血がのぼって、カラダを繋げることしか考えられなくなった。
「う、ぁ……、ア……」
発情を待つことも出来ずに潤滑剤を塗布してねじ込む。可哀想なオンナはその時点で泣き出してしまう。口ほどでもないのはいつもの事で衝撃にシーツを握り締めながら耐える。震える背中をぎゅっと後ろから抱いたのが慰めになったか否か、男にはよく分からない。
目の前が真っ赤に染まるほど興奮して、長くは嬲らずに果てた後も呼吸が整わず、しばらくは口がきけなかった。遠慮なくオンナのカラダに覆いかぶさって熱い息を吐く。セックスでこんなに興奮したのは久しぶり、もしかしたら初めて。
「……、っ……、ぅ……」
熱をぶち撒けられたオンナはまだビクビク痙攣を繰り返している。汗で湿った髪が喉に当たって少しくすぐったい。そのたびに生々しく蠢くナカの感触が心地よくて、このままもう一度と、腰骨にまた手をかける。
「……、ひ……、ッ!」
ずるり、力の抜けたカラダは従順に引き寄せられた。そのはずみに絶妙に擦れたらしい。細くて透明な悲鳴が上がり細かく震えだす。
「オマエ、って、さぁ……」
実にいい味のメスだ。オトコをとても美味そうに『喰う』。気持ちよさそうにされるとこっちも気分よく盛り上がれる。
「見た目タンパクそーなのに、実はスキモノ、だよなぁ……。だから、すき、かも」
オトコは正直なことを言った。さばさばしていて度胸がいいところと頭のよさ、怒らせたら噛み付いてくる静かな過激さも好きだけれどカラダにも深く執着している。こんなに抱いて気持がいい『他人』は他に居ない。恋人というか、情人関係だった期間は一年もなかったけれど、味はすっかりクセになっている。
「力、抜けって。……ほら」
オトコが喋ったことにオンナは安心したらしい。後ろ髪を撫でてやるとカラダを捩って快楽のため息を零す。ついでに涙も一緒に零れ落ちて、白い喉が震えるのは齧りたくなる風情。
「そ、んなに、……、る、な……。踊ったってラクになんか、……、れ、ねぇ、……よ」
自分から腰を浮かして擦り付けてきたオンナにオトコは喉の奥で笑う。粘膜の熱は演技ではないし目尻の染まった発情は本物だろうけれど、恐怖から快楽へ逃げ込んでいる傾向がないでもない。
「オレが、強くて、ウレシイ?」
調子に乗ったことを尋ねた。オンナは頷く。オトコにはミエミエの迎合だった。怖くて怯えているくせにナニが嬉しいんだよ。今は苦しさの方が強いだろう。本当に歓ぶのはもっと真っ赤になって、色々とっ外れてから。
「ああ、そ……。オマエはカワイイねぇ……」
戦争ではゲリラ戦の名手として戦国の上田城主・真田昌幸にも比肩された。攘夷派からは動向を探られ、陣営にアイツが居るぞとなったら容易には攻められないほど警戒されていた。なのに、閨の中ではどうして、こんなにあさはか、なのだろう。
「チカラ抜いてさ、ゆっくりくえよ……。ハライッパイになったら寝ちまうだろ……。寝たら起こすけど……」
オトコ自身も意識してゆっくり、ゆるゆる、オンナの暖かさを堪能する。そうしてオンナの肩に手をかけ上体を引き起こした。肩越しに覗けば、ろくな愛撫もせずにカラダを繋げたせいで蘂はまだ潤まず赤く腫れるだけで痛そう。
「これだから、メスは信用ならねぇンだ……」
今にもイキそうに震えながら泣いておいて、実はオトコを盛り上がらせて早く楽になりたいだけなのだと男は意地悪く解釈する。嘘をつくのでなくてカラダごと無意識に本気の虚偽をやってのけるのだから怖い。
「おいで、総悟君。このウソツキのこと虐めてやって」
おあずけ、させていた若者を、オトコが招く。
「い……、ッ」
「イヤ、とか言える立場だっけオマエ。暴れるなよ、折れる」
脅し文句を囁きながら、こっち折るぞと蘂を握り締める実力行使をされてオンナはびくっと、可哀想なほど大人しくなる。
「い、っしょは……、イヤだ……」
「坊やとは結局、一回しか寝てないんだって?」
「……、せめて……、別に……」
「ンなことしたら、二人揃ってオマエに転がされて終了じゃん」
以前のあの地下駐車場でのように。
「オマエに触りたがる坊やをさ、オレが殴ったらオマエに殴り殺されンだろ。やってらんねーよ。そーするとなぁ、まぁ、つまり……。坊やと手ぇ組む選択肢しかねぇんだ」
あの日と同じ結論にたどり着く。
「なぁ、カワイイ坊やのこと匿ってやってたお礼は?」
「ひ……ッ!」
「殺してやっても良かったんだ俺は。恩人だけど、その前に裏切られてるし。けどさぁ、オマエが悲しむから……」
土佐派の陣地が繰り返し襲撃され、夜討ちと焼き討ちが繰り返されいた。応援を要請され連合を組んで迎撃したある夜、襲撃側の頭目の、顔は頭巾で分からなかったけれど太刀使いでオトコには一目瞭然だった。ココにはゴリもトシも居ないぜ犬死するなよと、切り結びながら小声で教えてやった。
「まぁ、あれだ。そっからうまく逃げたと思ったら俺の後を尾行て、玄関の前まで侵入した挙句にピンポン鳴らして土方さんはドコですかとかって、尋ねる総悟クンの度胸は、俺もちょっと好きだよ……」
色々あった相手だけれど、一人の剣客としてはこの若い才能をかなり愛している。
「いーこにしてたら連れてきてあげるって、約束したンだよ」
若い剣客は足音をたてない。けれど近づく気配を感じてオンナがすくみ上がる。男の膝に背中を抱かれた姿勢で座らされ膝を広げられて、無防備な狭間も喉も胸も、何もかも晒している。視線が焼け付くように痛い。
「……、ぁ」
「はは……。正直だねぇ、総悟クン」
唇を軽く合わせただけで離し、そのまま咥えさせようとする即物的なやり方に男はなぜか満足そう。自身もさっきまで命がけの勢いで必死だった。この若者に優しい愛撫から始められては正直、立場がない。
「オレがお代わり終わるまで、我慢できたら、代わって、あげる、よ。トシあいかわらず、すっげー、美味い……」
自分のオンナを自慢して男はうっとり、うなじに顔を押し付けて匂いを嗅ぐ。男はこのオンナに咥えさたことは殆どない。口では自分がされるのもちょっと嫌がるから。馴れない行為、突然の屈辱にオンナの肩が揺れる。
「噛んだらダメ。可愛がってあげなきゃ」
一応、後ろから顎の合わせ目に手を這わせて、噛み千切られることがないよう協力してやった。
「ん……、ぐ、っ」
「ほら、舐めたり喉で絞ってやったりすれば。オマエ、モテモテの美形だから、ぜんぜん知らないってコトもないだろー?」
言葉で嬲りながら突き上げたタイミングで喉の奥に入ったらしい。えずく気配があって、それと同時に、若者が息を吐く。
「……、ふ」
短いけれどたいへんに深い満足のため息。この若者にしては珍しいだるそうな仕草で、ずるりと腰を引いて唇を解放した。
「ほ……、げほ、っ」
涙目で咽るのか可哀想で加虐欲を煽る。わざと優しくこめかみにキスしてやる。自分の傷跡と同じ位置に。聞いた気がする風切り音を思い出す。ぞく、っと、下腹が熱くなった。
「ヒ……ッ!」
敏感な粘膜にダイレクトに伝わった熱にオンナは悲鳴をあげのたうつ。蘂をまさぐるとやっと濡れていて、ようやくですかと、声にはしないで笑った。死ぬほどカワイイ。食い殺したいくらい。背中からうなじに喉に歯をたて、かなり本気で噛み付いた。
「どうしま、しょうか?」
妙に素直なところのある若者が尋ねる。男がまたオンナを犯すつもりだと気がついて、自分はどうしていましょうか、と。
「かわいがって、あげて」
言われるまま、沖田はオンナの胸元に唇で吸い付く。気になってならなかったらしい。熟れで尖った乳首を堪能しながら狭間に手を伸ばす。オンナはヤメロと言葉では拒絶しなかった。けれどカラダを捻って膝を立て、沖田の手を拒む仕草をした。腕は男に捕らえられていて胸に吸い付く舌は拒みようがなかった。
「……、ひ、……、ッ」
イイコにしていなかった代償は、尻を掴まれてもナカを揉むように蠢かされること。
「い……、っ、ァ……、ぅ、ア……」
男の大蛇の牙が毒液で濡れてきて、ナカの弱みを嬲りだすタイミングで外から刺激され、とてつもない刺激が全身を貫く。ビクン、と跳ねて、そして。
「……、ぅ、あ……」
とろり、沖田の掌の中で零した。
「イマの、コッチでだったよな。まぁ、オマエのこの、感度って殆ど才能、だなぁ……」
締め付けに感嘆しながら男はオンナを褒めた。男同士のセックスを知っているオンナ役がみな、そのことを愉しめるかというとそうでもない。苦痛が上回る人間の方が数としては圧倒的に多い。
昔むかし、藤原頼長という保元の乱の首謀者にして左大臣であった貴族は、イイと噂の男たちと数々の情交を重ねその感想を『台記』と呼ばれる日記に記録していた。その彼でさえ『その一義』、つまりウシロの刺激でマエを零す『才能』に当たったときは狂喜して感動を書き残しているほど。
「あー、もぉー、す、っげぇいーカンジ。ちから抜けてとろっとろ。タマリマセン……」
蜜を零して力の抜けたカラダの感触を男がは褒めちぎる。さっきまでの弾力もヨかったが、あれが完熟の果実ならこっちはシロップで煮詰てブランデーを掛けたコンポート。
「オマエってさぁ、こーやってると味が変わるから、すっげぇスキ……。飽きねぇん、ダヨね……」
夜の最初と最後では味が変わる。だんだん甘くなっていく。トロトロになるのを知っているから途中で手を緩める気にはなれない。疲れ果てるまで貪りあうのはいい大人がする真似ではないかもしれない。スマートでもクールでもない。
でも多分、それが本来のセックス。愉しみ以上の価値を持つ命の遣り取り。
「は……、」
イった直後のオンナは可哀想なくらい従順に男の欲望に添った。揺らされる動きのまま全身を波打たせて悶える。そのリズムが時々不規則に狂うのは胸元に懐いた沖田が敏感な尖りに爪や歯をたてるから。そんな刺激もなかなか新鮮で。
「わるく、ない……、」
囁きながら男が果てる。余韻の甘い痙攣までたっぷり堪能してからカラダの繋がりを解いた。
「はい、沖田クン、どーぞ」
ベッドからも出て場所を譲る。抱いていいよと言われて顔を上げた若い男10は、口元を手の甲で拭いながら。
「決闘でも、構いませんぜ。今からやり方変えても」
抵抗の素振りを見せず大人しく、シーツの上で手足を引き寄せて丸まり、無意識に防御の姿勢をとるオンナの髪を撫でながら。
「オレか、旦那か、どっちかが居なくなりゃ、それで解決、なんじゃありやせんか?」
黒髪の下で切れ長の目は閉じられて、今は辛うじて泣いていない。けれど触れれば悲しみ嘆くだろう。そんなことをしたいワケではなかった。
「ナンにも解決しないよ。トシちゃんは俺を選ぶけど沖田クンのことも捨てきれない。ふたまたかけられてンのはこっちで、俺たちに選択権はないんだ」
「棄権します、って、言っていいですか?」
「また、一人でイイコになるつもり?」
あの駐車場で、共犯だったのに、自分だけが攻撃されたことは男の傷になっている。