形代

 

 



12人のオダリスクの内の1人が死んだ。死因は阿片中毒。ハレムではよくある死因の一つだった。宗主の訪れのない女達が孤独な座ったままの生活の憂さを晴らすために阿片を水煙管で吸い、そうでなければ直接噛み。
阿片のもたらすケイフの中で死んでいくのである。
また孤独でなくとも、阿片のもたらす恍惚に溺れていく者は数え切れない。
けれども定員12名のオダリスクは宗主に直に仕えるゲディクリでもある。宗主の生活、着替え、入浴、食事の給仕、そして伽をする、なくてはならない美しいハレムの女たちの中から選ばれた極上の、奴隷。欠員は補充せねばならなかった。
女は。市場では馬よりも安い商品で、馬1頭につき女3〜5人買える消耗品。その日、新しくハレムに入れられた者たちを含め、宦官長は女達に共同大浴場で入浴することを命じた。1人死んだという噂を聞いていた女たちは、我こそ次のオダリスクと惜しみなく陽光に豊満な裸体をさらす。どこかから選んでいるはずの宗主の目に止まるようにと。
「…宗主、どれを?」
「あん? かまわねぇよ、テキトーそうなの選んどけ。京一、表で待たしてんだよ」
女を選ぶ時、必ず不機嫌になる宗主の端整なしかめっ面に宦官長は気付かれないように息を吐いた。
「…では、前と同じような女で構わないのでしょうか?」
男なら皆好むであろう豊かな胸をした女を指差す。
「あぁ、それでかまわ……、ッ!」
『……お前の女たちの、靴でも床でも磨くから、いらせて……』
 酔った腕の中で昔聴いた最期の哀願が、現実になったかと己が目を疑った。
「? 宗主?」
じっと一点を見詰めて動かなくなった宗主の視線の先を宦官長は追う。
「…おい…、あそこの、下女。黒い髪の」
女主人の叱責を受けているのであろうか、タイルの上で叩頭を繰り返す黒髪の少女がいた。
「あぁ、あれは確か……今回新たに買い入れたものです。長い船旅で連れてこられたらしく体はガリガリ、言葉もまだ満足ではなく躾中で……」
「…あれで」
「は? 宗主は豊満な女がお好みなのでは…?」
あの人を忘れないようにわざとそんな正反対の女ばかり選んできた。
「…うるせぇ。あれがいい。すぐ、目立たねぇよう連れて来い」
低い声に慌てて宦官長は小走りに連れに向かった。
まだ怒鳴っているらしい女に、ムカついた。
新たな叱責を受けるのかとこぢんまりとした、だが豪奢な部屋に連れてこられた少女は怯え、隅で伏礼したまま顔を上げようとしなかった。
「顔、見せてみろ」
震えた白い、荒れた指先が痛々しかった。あの人の指はいつも最愛の弟のために滑らかに磨かれていたから。
「…宗主、この者、いまだ言葉が」
控えていた宦官長は耳打ちした。
「…そう言ってたな」
厚い絨毯とクッションから立ち上がると、宗主は歩み寄ると少し乱暴に手で顎を持ち上げた。
そして。
「! …ァ、ニキ…ッ」
遠かったから確信がなかったが。こうして間直で見て思わず、ここ何年も使っていなかった呼称が細いながらも口をついて出てしまった。
華奢な四肢といい。少年の頃のあの人に酷似していて、ただ、やはり女ならではの線の柔らかさだけが違っていたが。さらりと流れる黒髪も、白い美貌も、赤い唇も。
宗主の指に篭った力の恐怖に濡れた、黒瞳に映る己の顔に宗主は自嘲的に笑んだ。
「おまえ、どこから、きた?」
ゆっくり含ませるように出自を尋ねた。あの人の母親は確か…。
「………!」
問いが解らなかったのか答えない少女に宦官長が通訳し、答えさせようとする。
おずおずと開いた唇、言葉を発そうと揺れる舌先が見えた。
「…わたし、うみ。…むこう、とおく、から」
たどたどしい発音、期待したあの艶やかな声に似てなくってちょっとがっかりした。優しい声ではあったが。どうやら同じ地の出身者らしくはあった。謁見で色々な人種を見てきたから言える、こんな透けるような象牙の肌をした女はあの人しか知らない。
「なまえは?」
ここに入れられる時に付けられた名前でなく本当の名を暗に要求した。
「つぐみ」
それだけは伝わったのか、トルコ風に付け替えられた名は答えなかった。


慣例を、無視した。
何度か寵を受け気に入られて、それからはじめてオダリスクの中の最も高い地位イクバルになれるところを即日に取り立てた。
何もわからない小娘がオダリスク、しかもイクバルになったと知った女たちの嫉視を遮るように、与えた私室はハレム内でも宗主のプライベート居住区マーベインに近い愛妾〈ハセキ〉の館の一つ。船遊び用の屋形船、馬車、奴隷、これらも与えて寵愛の度合を誇示して表立った嫌がらせの動きを封じた。奴隷は性悪でない、従順な性格のものを。宦官たちにも彼女の肌には触れるなと禁じた。他の女たちはかまわないがと。
あの人が宦官に触れられ、嫌がって泣いていたのを昨日のことのように覚えている。嫌悪に震えてすがってきた指。叛旗を起こす最後の一押しになった、悲鳴。
……タスケテ。
躾が行き届いておりません、と苦言を呈された。
そんなもん、いらねぇ。する必要あるなら俺がする。
黙らせた。そのくらいの絶対君主になれたことが嬉しかった。押え付ける権力、あの人がそのキレイな体でくれた。だから、それ、で今度は俺が守るのだ。俺以外、誰にも触らせない。
正妻と、政略で娶った夫人たちへの対策も立てていた。母親を見ていたから簡単だった。毎月、決まった日にきちんと彼女たちを訪れればよい。それぞれに後ろ盾がある分、彼女たちは奴隷あがりの言葉も満足に話せない卑女など気にしなかった、内心はあえてプライドを慮ってうかがわなかった。政略の意味もその犠牲になった覚悟も彼女たちは弁えている賢い女だった。国のため実家のため、宗主の気にいるように振舞う義務がハレムの中のどんな女より重い妻たち。賢い女が好きだと常々言っていたおかげもあった。慈悲くらいかけてやらないと、可哀相だった。
それでも不満は湧いて出る。押え付けていれば貯まるのは早い。
目先のことで女たちの不満を誤魔化してやることも定期的に行った。ハレムの広間で宝石を雨のように撒いてやる。ダイヤモンド、ルビー、サファイヤ、トパーズ、エメラルド、真珠。ハレムを追われる時、唯一の彼女たちの財産になる物品。
愛されないハレムの女の、己の行末が不透明でそれを払うすべを持たない不安から湧きあがる不満なのだと学んでいた。


「最近、毛色の変わったのを、寵愛してるんだって?」
肖像画を描かせているとき、そう話し掛けられた。
大砲の功で褒美はなにが欲しいかと聞いたら、宮廷画家、自分が死ぬまでそう保障しろと要求した変わり者。そのくせ絵はヒデェしろもので。図面のほうがよほど立派に描く。だけどそう雇ったからにはそれらしい仕事はさせてやらねばならないと思ったから、今こうしている。
「…ベツに。手足がふつうより数多いとかじゃねぇぞ」
「それはそれで、俺は興味あるな。ぜひとも見たいから下賜してくださいって願い出るところだ」
「相変らずヘンなヤツ」
「なんてコトを。未来の大芸術家にむかって」
人の良さそうな風貌で周りの警戒というものを殺いでしまう男だから多少の失言も聞き流されてしまう徳持ち。その顔を裏切って、実はかなり賢いことは幽閉時代、こっそり紹介されて知っていた。須藤が連れてきたのだが、後で知った事情で本当はあの人の紹介だと聞かされた。
「なに言ってんだ、史浩。おめぇの絵じゃ、どっこの画商も引き取ってくれねぇよ。せいぜい俺の声がかかってやっと、ってところが関の山だろうが」
「まったく……兄弟そろって絵心がわからん貧困な感性だな」
溜息をつきながら懐かしそうに呟かれた言葉に、どきりとした。
ふいに緒美に、この絵を見せたらどんな反応をするのか気になった。あの人と同じ仕種を教え込んでようやく、板についてきた。心、そう同じ心を教える段階かと思い始めていたところだった。まったく同じくなるように。まっさらに白い画板へ俺の歪んだ愛情が、描かれていく。いや、緒美はあの人の生まれ変わりだと思っているから、失われた前世の記憶を思い出させようとしているだけなのだと……。
「…どうした?」
「あ?」
「眉間にシワ。疲れたか? ならここまでにするが」
筆の柄の先で史浩は自分の眉間を軽くつついた。
「あ、あぁ。…そうしてくれ」
「ま、なんどでも直しはきくからな。俺の腕だと」
「言ってろ」
立ち上がって動かさずにいた体をのばした。史浩は画材の片付けにはいる。
「史浩」
「なんだ?」
 屈む丸い背に声をかける。
「その、おまえの絵だけどな。何枚か俺が買ってやるよ」
先ほどの話の流れから、何気なさを装ったつもりだった。
「……俺の絵が理解できる絵心が短時間に芽生えたはずはないが……まぁ、いいだろう。絵の具が欲しかった頃だ。俺の傑作を届けさせればいいんだな、ハレムの寵姫殿に」
「……聡すぎるヤツ」
でも踏み込んでこない。たしかにイイ奴なことには間違いなかった。


美しい絹布に包まれた板状の物が、宦官数人によって恭しく部屋に運び込まれてきた。括られた紐の結び目の蝋で固められた封印はそのままに、続けざまに三つ。
緒美はすっかり困ってしまっていた。
自分の新しい仕事は、この連れてこられた豪奢な部屋の部屋番になったことだと思い込んでいたからだった。
宗主が一日二日置きくらいの間隔でやってきては、今まで見たことのない煌びやかな品々を見せて手にとらせてくれ、それらをそのままこの部屋に置いて帰ってゆく。
きっとこの部屋は宝物庫なのだ。だって、扉の外には常に宦官がいる。
今日運び込まれたこの大きな平べったい物、果たして自分が管理できる物なのだろうか。たぶん同僚なのだろう、この部屋に出入りする他の召使とは、自分は言葉が充分にわからないから尋ねようがなくって。それに今まで誰も何も語りかけようとはしてくれなかった。ただ、食事が運ばれればそれを食べ、一日中宝物に変わりはないか、じっと見詰め。入浴の時間に、たぶんその時だけ部屋番の交代時間なのだろう、体を清め、戻れば部屋の真ん中に敷かれている厚い絨毯の上で宝物を守るように寝る。それの繰返し。
辛い叱責を受けることがないから楽なのかとも当初は思っていたが、宗主の宝物に何かあればきっと殺されてしまうのだろう、そんな恐怖がじょじょに募ってきた。部屋番ではなく、元の床磨きの下女のほうが謝っていればそのうち許されていたから、よくよく考えると恐怖はなかった。
けれど、何ゆえにかここへ来てしまったのだ、自分は。
売られたことへの恨みはなかった。そう自分が決心すれば、両親の日々の糧を得る金子を、今まで育ててくれた恩返しができると思ったから。
自分が生まれるずっと前、母の年の離れた姉が縁談を嫌がって不出の蚕種と桑苗と共に異国の男と逐電したそうだった。大層な大騒ぎになって幼心にも大人たちが怖かったと、母は肩をすくめて過去を振り返って言った。当然、縁談相手の家からは圧力を受けて、蚕のことでも土地の者たちから非難されて。家は、名家だったそうだが簡単に落ちていってしまった。
そんな辛い中であったのに、晩くなってから生まれた、たった一粒種として両親には大切にしてもらった記憶しかない。だから…。
故郷で信じていた神へ、心細い両手を合わせて祈った。親より先に死んでしまうことは、子供にとって一番の不孝だと昔の聖人様が言っていたから、死んでしまったらきっと自分のみならず親にも地獄が待っているから、どうか、この宝物を災禍なく守ってくださいと。


先触れより先に宗主は緒美のいる部屋へむかった。史浩から絵を三枚、買い入れたから。早く封を切って見せてやりたかった。どんな反応をするのだろうと浮き足立っていた。
だから、緒美が部屋の真ん中で座り込んで泣いているのを見たとき、咄嗟に過ぎったのは館付きの宦官たちの仕打ちだった。躾、と称してあの人を苦しめていた所業がまざまざと脳裏に甦る。それなりに若い頃よりは冷静になったと自覚していたことがウソだと突きつけられた。
血が、頭に上る。
扉を力任せに開け放ち、大声で呼ぶ。
「宦官長!!」
まろぶように駆けつけてきた宦官長を思うさま罵倒した。
「言ったハズだ! 触れるなと! 誰なのか審議してソイツを麻袋に詰めて、マルマラ海へ投げ込め!!」
宦官長より先に室外に控えていた宦官が悲鳴をあげた。
「宗主! あまりな御疑い、心外でございます、わたくしどもが入室いたしましたのは、これら三つの荷を運ぶ間だけでございます! どうか、御部屋様に、お訊ねくださいませ!」
宗主の荒げられた声に部屋の中で顔を伏せていた緒美も驚いた。己のことかもしれないと涙も忘れ、足許に駆け寄り必死で言上する。
「宗主さま…ッ、今日、何もなかった、これ、きただけ。なにもこわして、いないです!」
「…緒美?」
「わたしも、このひとも。なにも、こわしていないです、だから、おこらないで…ッ!」
「………」
「……ごめんなさい……」
『めん、なさい。ごめ……、ユルシテ……』
別の声が耳許で遠い幻を囁く。
似た顔で同じ言葉を、同じように目許を哀願で赤くして見上げてくる仕種には脳内を掻き回されて、目眩でくらりと倒れたくなる。自分でそう、教えておいたくせに。
「ゆるして……」
溜息で怒りを体外へ押し出す。手を振って、もういいと宦官たちを下がらせた。
静かに閉められた扉を横目で確認して、床に手を付く緒美を立たせた。掴んだ繊手が緊張の汗と、その前の涙で湿っている。
「……おこっちゃいねぇよ」
抱き締めた体からはあの人が使っていたのと同じ乳香の香り。似てなくてがっかりした声、だが泣き声は微妙にかぶっているようだ。
「きを、つけます。たくさん、だから……」
気に掛る言葉だった。全てこの部屋は緒美のものだというのに。
促して部屋の中央、厚い絨毯の上、大きめのクッションを引き寄せて座った宗主は緒美も前に座らせる。初めて見たときよりは随分と体に曲線が出てきた。あの人が纏っていたのに似せて作らせた、シンプルな服からそれが窺える。
「なんで、きをつけるって…?」
同じ黒瞳を見詰め、努めて柔らかい声色で訊ねる。
「わたしの、しごと。ここの部屋番。宗主さまのもの、みてる……」
「! 部屋番って…おい……」
まだ抱いていなかったことが大きな誤解を生んでいた。痩せた細い体に無理強いはしまいと考えていたことだったのだが。昔、毒殺されかかって痩せたあの人に無理強いをしなかった時と同様に。
額に手をついて二度目の目眩をやり過ごす。
「……緒美」
「はい、宗主さま」
「おまえ、部屋番じゃねぇよ?」
「…え……?」
見開かれて揺れる長い睫。
「そうじゃなくって……」
白い腕を引いて胸に抱き込んで口付けた。言葉を教えていないから行為で教える。
「! ゆるして…ッ、宗主さま……ッ!」
宗主のすることに嫌を言ってはいけないということは教えられたのだろう、驚いた緒美は寛恕を求める言葉を赤い唇から零した。
許さなかった。こうしないとあの人と同じ心が緒美の中には戻ってこない気がした。仕種だけでは戻ってこない、あの人は。そんなのには少しも耐えられない。
「ア…ッ……」
首筋の肌を吸い上げても聞えたのは驚愕の悲鳴。甘い声ではなく。
突き飛ばして逃げる不敬と反逆ができるはずもなく。
そういう目的のためでもある厚い絨毯の上に力で縫い止めた、女の腹の上にのりあげる。舌を、噛む可能性を考えて紫のメンディルを口の中に無理矢理含ませた。
「……ン…、ッ……」
呼吸の浅い苦悶のうめきも、拒まれているようで熱くなった頭の芯が冷されて腹がたつ。戻ってきて、脚をひらいて受け入れて。
仰け反った胸は、僅かなふくらみを攣った筋に沿ってなくしてしまい、平坦さを見せてあの人そのまま。けれど下肢は、何時かの初めてを、という望みを叶えてくれるために、きつい。
余裕を失うのはいつだってこの人のせいだったから、名前を呼んで意識をここへ繋ぎ留めて欲しくなる。唾液で重くなったメンディルをとって、己の口で新しい呼気を含ませた。
「……よ、んで……なまえ…」
「ヒ……ッ!」
囁くために重ねた体、深くなって痛みに強張っていた白い肢体が痙攣する。腕を強く絡めて押さえ込む。
「けーすけ…って、なぁ、よんで。けーすけって……ゆるしたげる、から……」
中々思い出せずにいることも、何もかも。もう誰も呼んでくれない、尊称でしか呼ばれないから寂しいんだ。
我ながら情けなさ過ぎる声音だった。
絨毯に爪を立てていた指を、緒美は戸惑いながら肩に伸ばしてきた。わななく唇が宗主の要求を紡ごうと努める。
「ッ……け、すけ……?」
掠れた声はあの人そっくり。何故早くこうしなかったのだろう、思えば殺されかけたあの時も折れそうな体で欲しがっていた。この人によかれとしたことはいつも裏目だった教訓を生かしていない。
「そう、たくさん、よんで……?」
「…けーす、け……けぇすけ……ッ」
「…うれしい、…もっとたくさん……」
名前を呼んでもらったことがこんなにも感情を揺さ振って、視界が滲む。見下ろす紅潮した頬を濡らしているのがこの人の涙なのか、そうでないのか。
同じ心を収め、受け入れ包んでくれている体にあっけなく溺れた。名前を繰り返す同じ声が、それを勧め。
気をつけようと決心していたことを忘れさせ、中、一番奥に全部、吐き出した。
「! …ッ、……ァニ、キ……」


夜明け前、気付いたらいつものように絨毯の上。
違っていたのは裸体をさらして、それを抱き締められていたこと。
内腿に乾いた体液がこびりついているのが分った。自分がそうされることを、望まれていたことをようやく知った。宗主が愛でる宝物と同じものなのかと体を起こそうとして。それを阻んだ、眠る腕に考えを伸ばした。
見詰めてきた目が、女衒や市場で見られていた人々の目とは異なっていたこと。
囁かれ、もらされた、言葉。
国の、言葉と似た言葉だった。
「ai n?」
初めてまみえた時にも、それを呟いていた。
愛しい、という意味の故国の言葉に似た言葉。
愛しいと囁いてくれたのだろうか。
思い至ったら、何もわからない異国でそう自分にいってくれた絶対権力者に涙が出そうになった。
涙は、結局とめられなかった。