もしかしたらオフで書き下ろすかもしれない女性化モノの予告かもしれない戯言・『檻』

 

 

 

「気を落とすな、土方!」

「つぶらな瞳をきらきらさせながら迫るな、若様」

「とりあえずこれを受け取れ」

「花なんざ食えねぇ」

「言うと思って菊にした。ほらマヨネーズ」

「……」

 しゃぐ、しゃぐ。

 菊の花のマヨがけを好きな味覚は変わらないらしい。

「ネコも楽しいものだぞとボクに教えてくれたのは君じゃないか。女も楽しいぞ、びっくりするような上物が自分から網にかかりに来る。君みたいな」

「あー……」

「心配するな、女になってもオンナを抱くことは出来る。なんなら指南してもいい」

「……あぁー」

 マヨ菊をしがみながら、二十代後半女ざかり、絶世の黒髪の美女は唸り声ともタメイキともつかない微妙な声を出す。

 最終性徴期が終わったのは十五の頃。それを終えて尚、体内に不完全な形の女性器が残っている事は察していた。セックスの相手に指摘されたこともあったし、年に数度、ほんの少しだが出血があったから。

 それは微量で、他には特に害もなかったし、オンナにもオトコにもアピールする自分の肌のツヤの、根源がソレなのは分かっていた。だから積極的に切除しようとも思わず、まぁ機会があったら手術するかという、痛み出さない盲腸のようにしか、思って居なかった。

 ホルモン環境の変化と妊娠促進剤の多用によって、性別未分化で生まれる胎児は四割を超える。柳生の若様も日野の豪農のドラ息子もその四割のうちだった。そんな胎児も99パーセントは思春期の終わる頃には性別が固定する。個人差はあるが1215歳くらい。

「ボクが18で女になったときは、君は色々、慰めてくれたじゃないか」

「……」

 この若様とは場合が違う。若様はオクテで確定が遅かったに過ぎない。美女の場合は一旦確定し、それから10年、オトコとして女も抱いたし戦争にも行って、地元では指折り、江戸でもそれなりに知られた強面として、オスの群れの中ででかい態度をとることに慣れていた。

「気を落とすなよぉ、トシちゃあぁーん」

「こんな時だけ目ぇ輝かすな、万事屋」

「うぉ、ペッピーン♪」

「坂田銀時。土方はボクがサキクチだ」

「ちょっと、こればっかりは譲れないよ若様。トシちゃんもしかしなくてもバージンじゃん。あぁ、来世の夢がイマ叶うッ」

「刀にかけてもいいいが」

「お前らなぁ」

「かけてもいいけどちょい待った。三人で、って手だてもあんじゃない?」

「死ぬぞ俺ぁ」

「大丈夫」

「手ぇ握ンな」

「土方、安心しろ。女のカラダの方が持久力はある」

「あんたが居てくれると心強いぜ、若様」

 煙草に火をつけつつ、思わず零れた本音。不幸というほどでもないが不運の外れ籤をひいてズシンと落ち込みそうな『美女』の気持ちを、柳生の若様は簡単に救い上げる。

「キスしてくれたら、もっと励ましてやる」

「ん」

 ちゅ、っと。

 顔を傾けて、万事屋の白髪頭を押し退けつつ見上げてくる若様に、くちづけ。

「きみ、カラダきもちいいなぁ」

 喉を見せて唇を受けつつ、そっと胸元の膨らみに手をあてた若様が、感嘆。

「そうか?」

「俺もー、ってぇ、ナンで俺だけ殴るんだよッ」

「テメーがヤローだからだ」

「じかに触りたい」

「……なぁ若様。俺ぁ男も女も、暫くパスだ」

「そんなことを言っているとこれから先の人生、セクスレスで過ごすことになるぞ。」
「……」
「新車は届いたらすぐに馴らしをするものだ。イヤなことはしないから愛し合おう」

「遅くなるから、屋敷で待っててくれ。合鍵つくるなよ」

 この『美女』の部屋は大奥ではない。そこは現将軍の配偶者たちが暮らす場所だから。前将軍の遺児であるそよ姫は西の丸に住む。そしてこの『美女』は姫様の侍女として、御座所近くに一室を頂いていた。

他に非番や休みの日に過ごす邸として西の丸の南門近くに戸建ての、茶室までついた中屋敷を与えられている。新参にしては信じられない、相当の厚遇。

「リョーカイ」

 若様は鍵を受け取り、総髪を揺らして離れて行った。若様自身は本日、江戸城の表に武官として仕事があって来ていた。白髪頭の万事屋はその供ということで、内堀を越えない表御殿の門際の泉水までだが、入って来ている。

 この『美女』に会いたいがために。

「押されっぱなしじゃん、ラシクネー」

「押しまくった覚えがあるもんでな」

「トシちゃんねぇ、俺もマジあんた欲しいんだけど。ケッコンしねぇ?」

「しねぇ」

 真撰組副長職には及ばないが、そよ姫づきの奥侍女というのは国家公務員で、年俸だけでも700万を軽くオーバーする。この『美女』は相変わらず高給取りなのだ。

「じゃあせめてバージン寄越せよコノヤロー」

「お前は俺にチェリーくれたっけ?」

「……」

「若様のはもらった」

「……どーりでね。アンタ弱すぎると思った」

「優先順位は絶対的にアッチだ。そもそもテメェを西の丸の門内に、入れてやれるわきゃねぇし」

「外泊シロヨ。下屋敷も郊外に貰ってんだろ税金ドロボーめ」

「ありゃ病気療養とかする時の為の邸だ。あと、俺ぁもうチガウ」

「塀ぐらいいつでも乗り越えてやっけど、違う、って」

「フコーな初体験のクセがあるらしぃや、俺は」

「……あれ?」

「もうレイプされた」

「……」

 意味を、男は、とっさには理解できなくて。

「え?」

 煙草を揉み消す、美女を呆然と、見る。

「……ゴリさん?沖田クン?」

 返事はなかった。