昔みた夢・5

 

 

殺されたグラン准将が、『殺された』ことは最後まで秘密にされた。老いたとはいえ現役の軍人で国家錬金術師だった人間がやられたとあっては軍の面目に関わる。
 心不全で倒れて緊急入院、ということになっていたからそのまま、臨終してもらい、葬儀は中央で行われた。殉職でないから葬儀に大総統の列席はなかったが、長年の功績を賞して花輪は、遠くからでも目立つ見事なのが届いた。
 葬儀は軍が主催した。葬儀委員長は同期の将軍で、その下で、実際の運行をしたのはヒューズだった。能ある鷹はこき使われる、なんて軽口を叩きながら、葬儀に集合した軍の幹部たちをさばいていく。
 見送られるのがじじいなせいで、見送る方も年寄りが多い。若いのは参列者ではなく、腕章をつけて下働きしてる。参列者の中で最年少なのは俺で、後継者に目されているのも俺だから、俺の周囲には人が集まった。国家錬金術師の統括は大切な仕事で、しかも専門職だ。国家資格を持つ将官にしか与えられてこなかった職務。
「全く、グラン准将も無念だろう。せっかく仇を討つ機会があったというのに、みすみす取り逃がされて」
 ハクロ准将が俺に聞こえよがしに、加害者を捕らえきれなかった俺を糾弾する言葉を発した。俺に何かと話し掛けていた将官たちが一瞬、みな口を噤む。そこへすっと、寄っていったヒューズがなにを言ったかは聞こえなかったが、大体の見当はつく。心不全で亡くなったグラン准将に『加害者』など居ないと釘を刺したのだろう。ハクロも馬鹿な男だ。何のために軍法会議所の人間が葬儀に一枚噛んでるか、ちょっと考えれば分かりそうなのに。これは無言の脅迫だ。黙っていろ、という意味の。
ハクロが黙った後で、また口々に、将来を期待しているだの故人の功績を君が引き継ぐんだ、だのと雀がかますびしい。俺は大佐で、大佐という身分でさえ年齢に比較して行き過ぎという声が多いのに、この上、准将になられたら黙ってはいないぞという視線も、幾つかは感じた。
肩の金条や星の数にこだわる連中は知らない。俺の目的が星を増やすことではなく、もっと根本的で不遜な企みだということ。
葬儀が終わって、参列者も解散する。じじいの群れから開放されて、やれやれと、俺は公用車を待った。車は偉い奴の車から順に車止めに廻ってきて、おかげで俺は、少し待たされた。なんということない筈の時間が長く感じられるのは、背後に。
「ロイ、ちょっと待ってろよ」
 仕事は終わり、という雰囲気で、葬儀を取り仕切った男が。
「久しぶりに中央に来たんだ。酒ぐらい飲んでいくだろ?」
 俺の肩に肘を当てて離れないから。
「夕べは夜行汽車で眠れなかったんだ。今日はもうホテルに戻る」
「じじくせぇこと言うなって。明日一日、どうせ中央司令部だろ。准将の仕事の引継ぎがあるし?」
 最後の台詞の音階が微妙だった。ちらりと背後に視線を流すと、細い眼鏡のレンズごし、怖い男が、俺を見て笑う。
「ここの店で。八時に」
 差し出されたメモを受け取らないわけにはいかなくて、中を確認する俺を確かめ、ポンと肩を叩いてヒューズは片手を、駐車場に向かって振る。公用車が俺の目の前に止まる。心の中で車を待っていた俺はなんだか、馬鹿馬鹿しくなった。この場所はこの男が仕切ってる。迎えの車のタイミングも、何もかも思い通りに。
「来るな?」
 最後の詰めに、ヒューズは停止した公用車の後部座席の、ドアに片手をかけて振り向く。俺は無言で頷いた。
「じゃ、また後で」
 ヒューズの手でドアが開けられ、ふざけるように恭しい会釈に見送られて、車に乗り込む。……疲れた。
葬儀にじゃなく、ハクロの嫌味にでもなく、俺はただ、あいつのそばに居るというだけで、疲れ果てていた。
 

 軍の士官用宿舎に戻るとリザは居なかった。フロントに伝言が預けられていて、士官学校時代の同級生と会って来る、ということだった。俺は一人で部屋に戻る。まぁ、もともと、軍の宿舎は当然、男女では部屋は別々だが。
 それでも居れば食堂で、お茶くらいは付き合ってくれるだろうに。中央勤務の同級生に会って情報を得て来るつもりのリザの気遣いは分かったが、出来ればそれより、そばに居て欲しかった。
 一人だと、ろくでもないことばかり思い出す。部屋に着いてから気分転換のために窓をあけて、一層、俺は気分が沈みこんでしまった。街並みに見覚えがありすぎて。
 ここは中央司令部から近い。ここから少し行ったところの、路地を曲がったアパートに昔、俺は住んでいた事があった。士官学校を卒業してから暫くの間、新任の少尉として、中央司令部に勤務していた頃。食事はつかないが部屋の掃除と洗濯は大家の主婦がしてくれる、このへんにはよくある形式の、独身の軍人相手のアパートに、昔、住んでた。一人でじゃなかった。
 士官学校時代からの続きで、恥かしげもなく同じ部屋に、俺はその頃、身体の関係があった『男』と一緒に、住んでた。
 時計を見る。時刻は午後の五時。リザは早く帰って来てくれないだろうか。食事をするにしても酒を飲むにしても中途半端な時間で、仕方なくベッドに転がると、思い出したくないことばかり心に浮かんでくる。


 同棲の、最初の頃はそれなりに楽しかった。所属はお互いにばらばらで、自然と勤務時間も別々で、俺たちはお互いの勤務表を交換して、それなりに助け合ってた。十代の前半から寮住まいの俺たちは二人とも、料理や家事を殆どしなかったけど、時々、休みや非番が重なると郡の食堂じゃなく店に行って食べた。
締め付けの厳しい寮生活から開放されて伸び伸びと、好きな事をして暮していけるのが嬉しかった。新任少尉とはいえ士官の端くれである俺たちの給与は、独身男が自分自身を養うには十分すぎるほどで、学生時代はビールかシュナップスだった酒がワインと、時々はシャンパン、ブランデーになる、そんなの細かな事がひとつひとつ新鮮で。
 点呼を気にすることなく、コトが終わっても朝まで同じベッドで眠っていられる、そんな自由も、凄く……、嬉しかった。
 それをいいことに、俺とあいつはセックスを繰り返した。本番は毎晩、って訳にはいかなかったが、触りあわずに眠る事はまずなかった。夜勤明けや早番前の慌しい、ほんの十数分の邂逅でも、キスをしながら肌をまさぐりあって、抱き合って重ねあって、いた。
 それがどこか、おかしきなってしまったのはあいつが、俺より先に中尉に期限前昇進した頃から、だった。通常、一つの階級に昇進したあとは一定の期間を置いてから功績評価が行われ、次の階級への検討が行われる。その『期間』満了を待たずに昇進するのが期限前昇進で、特別の功績と成績の者だけが対象になる。確率は、少尉から中尉への場合、1千分の2、程度。五百人に一人、といえば簡単なようだが、士官学校の年度卒業者は二百人に満たない。三年に一人、あるかないかの、昇進。
 あいつがそれを、得たのは不思議じゃない。士官学校じゃ、学年主席ってだけじゃなく、教官たちにも一目置かれるほどの秀才で、
『マース・ヒューズの前にマース・ヒューズはなく、マース・ヒューズの後にマース・ヒューズはない』
 なんて、よく分からない格言が囁かれるほど、歴代主席の中でもピカイチだったのだから。
 ……ただし。
 中央司令部の人間みなが、そう思った訳じゃない。期間満了後も中尉に昇進しない『万年少尉』の割合は四割を超える。連中にとってあいつは相当に目障りだっただろう。努力しない人間に限って嫉妬は激しい。あいつが先輩たちにいびられて、きつい仕事を押し付けられている様子が俺にはよく分かった。
 疲れて苛つくあいつを、一番そばで見ていたから。
 帰って来る時間が不規則になって、職場で泊まり込みも珍しくなくなった。セックスが間遠になって、それだけなら、まだ良かったんだが。
 酷く、なった。
 けどまだ、それはまだ、我慢できた。不規則になったあいつの帰宅時間に合わせて不意うちに揺り起こされて、甘い言葉も愛撫もなしに抱かれるのまでは、俺には許容範囲だった。
 耐えられなかった、最初はあいつが寝室を移したこと。日当たりのいい窓の大きな部屋にダブルのベッドを俺たちは置いていたのに、あいつは玄関脇の書庫に、俺が知らないうちにもう一つ、ベッドを買って、俺の留守のうちに据えた。帰宅の時に俺を起こすから、って、あいつは言ったが、嘘だって分かった。あいつは俺に、煩わされたくなかった、のだ。
 それから書庫には、俺は足を踏み入れなかった。あの部屋から出て行くまで、二度と。あいつはむ時々、奥の寝室でも眠った。それは機嫌がいい時で、俺があいつに話し掛けてもいい時だった。
 口数が減って、セックスが減って、一緒に眠ることが減って。時々は帰って来たのに、俺が部屋にいるのに、また外に行くように、なって。
 それがどういう意味か、くらいは分かった。飽きられたのか、嫌われたのか、ともかく鬱陶しく思われている事は。自然と俺も無口になって、なるべく物音をたてないようにした。気持ちが塞がることだった。外から帰って来た家の中でさえ、緊張と溜息に埋もれている事は。
 そういう時に、先輩の壮行会が、あった。士官学校で一級上だった彼は俺とはあまり接点のない人だったのに、俺がいろんな奴から来い来いって声をかけられたのは、その先輩が、俺を好きだと、みんなが知っていたからだった。……俺も、知ってた。
 知っていて、行った。俺が行くと、友人知人に囲まれていた先輩は、その輪を掻き分けて一目散に俺に近づいてきて、それでいてろくに口をきけずに、でも離れようとはしなかった。周囲の連中に押されるまま、俺は先輩の隣の席に着いた。……戦死がもう、半ばは決まってる、そういう戦場に、行ってしまう人だった。
 だから俺も見送りに行った。気がきかない俺に周囲が、ほら酒だとか、肴だとかって、グラスや皿を渡してくれた。俺はそれを先輩に差し出した。だいぶ酔ってから、先輩はそっと、俺の手を握った。握った後で不安そうに俺の顔を見た。俺が嫌がったら、すぐに離してくれそうな気弱さで。
 俺は笑った。手を握られたのは久しぶりだった。あいつとはその時点で十日、半月、それくらいは、ろくに顔をあわせていなかった。禁欲自体は、俺はそんなに辛くない。皮膚の内側に募る欲求は自分で、どうにでも始末できる。
……処置に困るのは。
セックスの欲望じゃなくて、相手にされていない、という、寂しさと惨めさ。
 俺が先輩に笑ったのは、俺を価値があるものみたいに、大切そうに触ってくれたから。もう随分、そんな風には、されていなかったから。
 それから、結局、最後まで付き合った。先輩の家へ一緒に帰った。途中で俺とあいつのことを知ってる士官学校の同期が、逃げなくっていいのかトンズラするなら手伝うぜと、耳打ちに来たが。
 俺は逃げなかった。先輩を好きでも嫌いでもなかった。戦死の運命には少し同情したけど、ついていった一番の理由はそれじゃない。俺は、ただ、大事にされたかった。
 大事に、された。一晩中、抱き締められたけど、ちょっと触られただけだった。俺があいつのオンナだってことを先輩も知っていて、そのせいだったかもしれない。駅前の喫茶店で一緒に朝食を摂って、帰って来れたら、ゆっくり話をしようって、最後に言って、それから先輩は戦場へ旅立った。彼はまだ帰って来ない。だから話は聞いてない。
 俺は自分の部屋へ戻った。そこには珍しくヒューズが居て、朝刊を読んでた。ただいまと言うとお帰りって返事を、してくれたのが久しぶりだった。サーバーから落としたコーヒーがいい香りだった。コーヒーを飲み終えたヒューズは新聞を持ったまま出て行った。俺の朝帰りにコメントはなかった。多分、夜勤明けとでも思っていたんだろう。勤務表の交換は、ずいぶん前にやらなくなっていた。
 先輩を『見送った』朝のことを、ヒューズが他所から聞いてきて怒り狂ったのは三日後。俺を顧みなくなって長くたって居たのに、不思議なくらい、あいつは怒った。他の男の匂いつけて自分に寄るなって言って、水風呂に突っ込まれながら思った。気付かなかった、くせに、って。
 どうしてそんなに怒られるか分からなかった。だって本当に、随分長く、俺たちはセックスしていなかったんだ。その日も体は繋げなかった。俺が痛めつけられて、一方的に、苛められただけで。
 ……抱きもしないくせに、なんで?
 見栄だと、俺は理解した。一応は隣に置いてる俺が、他の男の近くに寄るのはヒューズの自尊心と、何よりも、外聞を傷つけるからだろう。強くて優秀で、要領がよくて外聞を気にする男だった。率直に言えば格好つけが激しくて、笑っちまうほどのスタイリストで。
 格好がいいところを好きだった。でも付き合いきれなくなった。確かに部屋を、先に出て行ったのは俺だ。けどその前に、俺は棄てられてた。だから恨まれるのは筋違いだ。責める言葉を、後になっても一言も、あいつは俺に言わなかった。当たり前だった。
俺にもその頃、悩みはあった。国家錬金術師の資格をとるかどうか、随分考えてた。
 ……相談、しようとかは、一度も思わなかったけど。
 あいつは強い男だった。強すぎる男は協調性をなくす。強い男の周囲は家来と敵だけ。そして自分よりの偉い、強い、早いのは無条件に敵と見なしてく。俺は……、だから。
 だから。
 黙りとおした。ずっと黙ったまま、牙を隠して、そんなものあったことさえ忘れて。
 それでもいいと、思ってたこともあった。あいつが笑ってくれるなら、俺は俺なんか、どうでも、良かったんだ。


 雨が降ってる。静かに気配だけ。こんな降り方は東部では、しない。雨音に混じって鈴が鳴ってる。それが電話と、気付くのに少し時間がかかった。東方司令部の電話とは音が違っていた。
「……、もしもし」
 周囲はもう暗い。いつの間に眠ってしまったんだろう。そんなことを考えながら時計を見ると、時刻は夜の、八時五分。部屋に気配はない。こんな時間まで俺を起こさなかった、ということは、リザはまだ帰っていないのだろう。
『……、遅刻だぞ』
 電話の向うから、声。声音は責めてたが語尾は優しかった。その、懐かしい響きに俺は、なんとなく笑ってしまう。
 懐かしい。何もかも、前世の記憶みたいに朧だけど、暖かくて柔らかくて、優しかったことも、あった。
「お前の夢、みてた」
 ベッドの上で仰向けのまま、天井を眺めながら話す。
「ここから、あのアパートが見えるんだ」
俺がするする喋るのが意外だったらしい。ヒューズは一瞬、黙り込んで言葉を捜したが、
『迎えに、行くか?』
 そんなことを言い出す。
『雨が降ってる。迎えに行ってやろうか?』
 約束の時間にうるさいお前がそんなことを、言い出したのは初めて聞いた。いつも五分だけ待って、連絡なしの時はそのまま、約束ょ相手ごと切り離してたくせに。
「最後のこと、覚えてるか」
 俺は少しおかしかった。雨の気配のせいだ。そしてこの、セントラルの空気のせい。夕方に見た町並みのせい。そして電話の向う側でヒューズが、昔みたいな話し方をする、せい。
「俺はさよならを言いたかった。お前は言わせてくれなかった。それだけが心残りだった。……今まで忘れてたけどな」
 いろんな事があって、時間が流れて俺たちはもう遠い。今だけほんの少しだけ、近づいた気がするのは錯覚。雨の気配と、電話の優しい声。こんなことが、以前もあった。
 まだ本当に俺たちが若く、同棲が順調で仲睦まじかった頃。スレチガイの勤務が続くとお前はよく、俺の職場に電話してきた。仕事の用事にかこつけて短いやりとりだけだったけど、声が聞けて嬉しかった。
『……覚えてる』
 どうした。今日は正直なんだな、ヒューズ。
「だったら俺の望みに正当性があるのは分かるだろう?」
 なら、頼むから、もう。
「俺に、近づかないで、くれ」
 お前の近くは辛くて苦しくて悲しくて、息苦しくて、緊張してしまう。お前とは無関係に、生きていきたいんだ。
 俺はお前に、せめてさようならを言いたかった。だから勇気を出して最後の朝、お前が寝てる書庫のドアを叩いた。お前は返事をしなかった。それは俺と離したくないって意思表示だった。でも俺は話をしたかった。……顔が見たかった。
「勝手に近づくなって、先に俺に、言ったのはお前だ」
 勇気を振り絞った。お前に『会いたかった』。だから許可をえずにドアに、手を掛けた。ドアノブを廻しただけ、ほんの数センチも開かないうちに、お前は部屋の内側から俺に言った。勝手に入って来るな、って。
 同じ事を、いま、俺は言ってるだけ。勝手に入ってくるな。
 俺の気持ちの、中にこれ以上は。
「お前は死んだんだ」
『……ロイ』
「俺にとっては、そういうことなんだ。だからもう、近くに来ないでくれ。……友達のふりなんか……」
 されたくない。お前は俺の、一番深い傷口。なのに自分だけ一人だけ、平気な顔で俺に近づいてくるな。俺だけ一人だけ、馬鹿みたいじゃないか。思い出だけ安らかに、埋めていたいのはそんなに贅沢な願いじゃない。
『女みたいなことを言うな』
「昔のおんなの、最期の頼みぐらい、きけよ男だろ?」
『悔やんでる』
「もう遅い」
 もう、遅いんだ何もかも。死んだら二度とは蘇らない。分かってることだ。分かってただろうお前だってそれくらいのことは。
『ロイ』
 そんな風に、お前に気持ちを篭めた声で名前を呼ばれると嬉しかった『前世』の記憶も、ぼんやりあるけれど。
「……リザを返せ」
 もう、全部終わったことなんだ。
「今日、彼女は非番だ。職務放棄でも待機命令違反でもない。手続き書類にも不備はないはずだ。なかっただろう?」
 手続きしたのは、俺じゃなくリザだ。
「これ以上、俺の部下を令状なしにそっちで押さえ込むんなら、こっちにも考えがある」
 ベッドの上で起き直る。前世の回想は終わり。
「俺とリザの出張指令は東方司令官のサイン入ってる。お前がその気なら、出るとこ出てもいいんだぜ、ヒューズ。最近の軍法会議所の独断専行は目に余るからな」
『俺は酒場だ。もう勤務あけだ』
「白々しい。何もかも仕切ってやがるくせに」
 自分の目の届かないところなど、自分の周囲には絶対に許さないくせに。
「お前が迎えに行って、お前が送って来い。手違いをリザに重々、詫びろよ、責任者」
 言って、返事を待たず電話を切る。リザを拘束して俺を酒場に呼び出して、それからどうするつもりだった?お前のそんな用意周到さを昔は好きだったよ。今は大嫌いだ。
 後悔してるならしてるって、どうして直接、俺に言ってこない。
 半日も要らない。半時間でいい。三分で済むかもしれないのに。

 一生そうやって格好つけていろ馬鹿め。俺はもう付き合えない。