馬鹿なオンナだと心から思った。

「えーっ、と……。どー、ナの、か、な……」

 どうだと尋ねたら正直に答えたから。よく分からない、と。

「むずむず、っていうか、ナンか、こう、ナン、か……」

 服を脱がせて裸にして触った。細身だかしたたかな張りを帯びる肢体は手ごたえが良かった。尻も胸も服の上から眺めるよりは豊かで、その胸の膨らみを両掌で左右同時に揉まれて、オンナは眉を寄せた顰めツラ。

「ヨクねぇのか」

「こー、ゆーの、を、イイってゆー、の、かぁ?」

 刺激に声は途切れがち。暴れようとする自分を必死に押さえている様子が、カラダを重ねて薄いシャツごし抱き合う御曹司にも伝わってくる。

「オレに尋ねるな」

「うー、あー、うぁ、ぎゃー、あぁー、いでぇー」

「……色気のねぇ声を出すな」

 力を篭めたら濁音で喚かれて若い御曹司も顔をしかめる。けれど指に篭めた力はそっと抜いた。どのくらいがちょうどいいのだろうかと加減しながら探っていく。真面目で勉強熱心な資質の御曹司だった。

「んー、あー、んー」

「これぐらいなら痛くねぇか」

「あー。んー。キモチイイ、のかも、しんねぇ……」

「ふん……」

 映画のベッドシーンのような派手な嬌声はあげないが、眉間の皺を解いて浅く喘ぐのに御曹司は口元だけで笑った。手ごたえをましてきた胸の膨らみから右手を離し、現れた朱鷺色のトップに唇を当てる。

「う……、わ……ッ」

 突然与えられた濡れた感触に、オンナは正直に身悶える。刺激を与えられれば反応する健康な成人。カラダはきちんと甘く熟れてオトコを迎え入れ種子を孕み命を育てる準備を整えている。ずっと前らそうだった。でも精神が勝負の世界のスリルに浸りすぎて、セックスの快楽に興味が沸かなかった。

 闘犬は子孫を残さないことが多い。それと同じことが人間にも起こる。名のある剣士には身辺に異性を近づけない場合が少なくない。粘膜の接触に対する欲望が沸かないのだ。

「お……、ぅあ、お、い、オイッ!」

 そんなオンナが幼馴染の跳ね馬に手を掛けられ、シャクッと齧りつかれて割られた瞬間を御曹司は知っている。隠れたクローゼットの中から、扉の透かし模様ごしに見ていた。

「なんだ」

「ちょ、オマ、そこまでかよっ!」

 下肢の狭間に右手を進めて、そこを暴こうとする御曹司に、オンナはプリンと張り詰めた胸を揺らしての抗議。色づいた肌が動くのを目の端で眺めながら、

「ここが肝心だろうが」

 御曹司が強い口調で決め付ける。確かにその通りで、オンナはうがぁーと呻きながらも大人しくシーツに横たわる。細いが引き締まった脚に手を掛け、無慈悲に膝を押し開く。銀色のくさむらの中に隠されていた深みを、覆った左右の花弁さえつられて開く勢いで。

「……こっちも銀色かよ」

 それが珍しいことだという知識を得ていた御曹司が驚く。髪の毛しと同じくブルネットで、肌の色と比較して生々しい自分の股間と比べると、優しい色合いは植物じみてさえ見えた。

「けっこう……」

 違うな、と、図解を思い出しながら比べて呟く。蘭の花弁に似た形状は同じだが、花弁の色合いや厚みには個人差があるのだろう。眺めているうちに、羞恥にゆっくり、充血していくのが分かって。

「赤いぞ」

 おもしれぇ、と思いながら御曹司は言った。二枚の側花弁と一枚の唇弁の狭間からほんの少しの香りが鼻先をくすぐる。汗の匂いに似ているが、別の要素が混ざっていることを嗅覚の鋭い御曹司は気づいた。地とは違う、もっと濁って、生臭くないでもないがギリギリで甘ったるい、その匂いは熟れた果物の香りに少し似ている。

 指先を添えて更に押し開こうとした、途端。

「う、が、ぅー」

 持ち主からの抗議の声が届く。

「……いてぇのか?」

「いーたーくーは、ねーけどよぉ。うがあぁー」

「なにを言っている?」

「ふだん閉じてんのがパックリ開いて空気に当たってんのがぁー、ヘンなカンジなんだぁー」

 知識の探求だと思っている銀色は本当のことを言った。

「塞いで欲しい気分になるか?」

「ヤられてぇかってかぁー?バカ言うなぁー。ンなに簡単だったら、世間のヤローどもが苦労しやしねぇぞぉー」

 銀色が喚く台詞に、それもそうだなと御曹司は答えようとした。

「……」

した、のだが、口を開いた瞬間、突然、別のことを思い出す。

「……」

「おわ、オマ、ちょ、うぁあぁ!」

 鼻先を花弁の狭間に縦に細く開いた、蜜壷に続く狭間へ埋め込む勢いで。

「ヤメ、おいっ、コんなのしねぇだろフツウ、やめろぉ!」

 唇を狭間に押し当てる。オンナの生殖器の匂いと味に頭から突っ込む。口を開いて、舌を伸ばす。オンナの腰が跳ねる。腕を腿に廻して腰ごと押さえつける、イヤだぁと悲鳴が上がる。語尾が真剣だったけれど無視した。

 激しく跳ねる腰と捩られるカラダの手ごたえが強い。花弁の上部にフツリと膨らんだピンク色の真珠に舌を這わせるとわたみがいっそう、深くなる。じゅちゅ、っと吸い上げてやると腰を震わせて、悲鳴さえ細くなった。本気で嫌がっているオンナを無理やりに従わせる快感が若い御曹司の背筋を走り抜ける。

「……イヤ……、やだぁ、も、イヤぁ……」

 させたじゃねぇか、アイツには、と、心の中で御曹司は、泣き声で寛恕を乞うオンナに心の中で告げた。発情を知らないこのオンナとの交合を、あの跳ね馬は少し手間取った。無理やりすれば出来ないことはなかったろうが、ひととおりの愛撫では濡れないオンナをこうやって無理に滴らせた。クリトリスを弄られて強すぎる刺激にオンナはヤメロと、その時も細い声で叫んだ。

痛くはしたくないんだ、と。

しとどに濡らした後で、膝を広げさせ尻を揉み、やわらかく蕩かせようと努力しながら、あの金髪はこのオンナに言った。さっさとヤって終わってくれと哀願されて切なそうに。苦しめたくはないけど痛めつけたくはもっとないんだ、と。

気持ちがいいコトだって思ってくれ。オレの愛情を分かってくれ。愛しているからしたいんだ、と、純情ぶった台詞を海千山千の腰つきと一緒に捻じ込まれて、たまらずこのオンナが上げた悲鳴は破瓜の痛みではなくて歓びの声だった。確かに。

「イヤ……、やだ、ぁ、……、うぇ……」

 後始末までオトコに全部させた手取り足取りの、寝付くまでキスを繰り返されながら抱かれていた甘ったるい初夜を御曹司は見ていた。その後も数夜、情熱的なオトコに愛されて甘い蜜をとろりと零した、様子も全部、何もかも。

最後の方はオンナも随分と気持ちよさそうで、リズムにノリながら自分から腰を揺らすこともあった。それで興奮したオトコが胴震いして細いカラダに踊りかかるのを、ひどい息苦しさとともに眺めていた。

「う……、ぁ、あ……」

 てっきりそのまま、このオンナは跳ね馬と付き合うつもりかと思っていた。それくらい。張る馬の腕の中でサーモンピンクに染まって震えるオンナは気持ちがよさそうだった。余韻に時折痙攣しながら目帆閉じているオンナを、抱きしめる跳ね馬は幸福そのものの表情で、オンナの為ならなんでもしそうだった。

「も……、ヤ……」

 なのにあっさり、『取引』が終わった途端に腕を伸ばして、金の跳ね馬に近づくなと告げたオンナの残酷さに御曹司は惚れ惚れとした。快楽をあれだけ与えられ貪っておきながら、そんなことがあったかという、まさに何食わぬ顔でしらっと、している強さに心から。

たぶん、きっと、それも恋とかいうものの一種。

「ん……、ぅ、ふ……」

 それから二年、知っている限りでこのオンナに触れたオスは居ない。キャバッローネの極上を袖にしておいてそのへんの駄馬を腹に乗せるとも思えない。それにボンゴレ次代のボスの側近という立場はファミリー内部でも相当の地位。無礼を働くには命を掛ける覚悟が必要だ。髪に触ろうとしただけで指を折り取られた男もかつて、ファミリーの内部には居た。

「う、ぁ……、ちょ、も……、マジ……、うぁ……」

 豪華絢爛な血と権力に塗れた世界の中、それでも性的な意味では二年、キヨラカに暮らしていたオンナを再度、強引に濡らして年楽の快楽に引きずり込む。

「ん……、ぅあ……、ン」

 知っているカラダは知らないよりも弱い。本当の初めての時よりもかなり、短い時間でオンナは悶えだす。細い腰がくねりだして御曹司は舐めしゃぶっていた狭間から顔を上げた。とどめを、そこで、さすつもりはなかった。

名残にちゅっと音をたて溢れる蜜を啜ってから。分泌される潮の匂いの体液の味は、味覚ではない甘い味がした。

「あー……、もー、てめ……、ヘンタイ……」

 終わった、と思ったらしく手足を引き寄せ、起き上がろうとするオンナは本当に愚か。