五日後、ボンゴレからの使者が携えて来たのは目録。

「……これは、つまり」

「結婚おめでとう、だ」

 使者は跳ね馬にも銀色の鮫にも馴染みの門外顧問・沢田家光だった。珍しくスーツを着込んで、花束を持って、その花を同席した銀色の鮫に渡す。

「うおぉおおぉぉーい」

 美しい女に薄紫とピンクが貴重の花束はよく似合ったが、本人の顔色はみるみる青白くなる。

「よかったな、スクアーロ。ディーノは優しい、とてもいい男だ。お前のことをずっと好きだった。幸せにしてくれるだろう」

「ちょ、オイ冗談じゃねぇぞぉっ!」

「それはボンゴレ全体の意思か?」

「そうだ」

 ファミリーからの移籍に関する書状を携えて沢田家光はやって来た。書状には本人の身柄と一緒に渡す縄張りや酒場の権利証が添えられている。

これだけの剣士を譲られる場合、本来ならばキャバッローネの方がビルや盛り場の利権を代償に差し出さなければならない。なのに、逆に、のしを付けて渡されるというのは、通常ではない、異常事態だった。

「オレぁ承知してねぇぞ!キャバッローネになんざ移らねぇ」

「スクアーロ」

「ザンザスは知ってんのか?知らねぇだろぉ?」

「スクアーロ」

 沢田家光がちらりとドン・キャバッローネを見る。夫になる予定の男の前でしにくい話だった。けれど金の跳ね馬は落ち着いた様子で、ボンゴレの紋が入った目録を眺めている。

「ザンザスは十六だ」

「それが、ナンだよ」

「未成年だ。そしてまだ幼い。責任はお前にある。あいつとおまえ自身の為だ。もうやめろ」

「ザンザスがオレのボスだ。オレの持ち主だぜ」

「スクアーロ」

「あいつに引導渡されねぇ限り、俺ぁ何処へも行かねぇ」

「ボンゴレにはもうお前を受け入れる場所は無い」

「ザンザスに、知らせてねぇだろ、てめぇら」

「お前たちのことを誰も喜ばないし、祝福もしない」

「イラネェよ、クソッタレェ」

「別の始末のされかたを選ばれる前に別れろ」

「うるせ……、ッ!」

 威勢よく怒鳴り散らしていた銀色の言葉が不意に途切れ、黒のデニンスにグレイと白の混じったラッセルチュニックという、可愛らしい格好をした細いカラダがソファに崩れ落ちる。

「スクアーロ!」

 目録を放り出して金の跳ね馬が銀色の鮫を受け止め抱き起こす。びく、っと、オンナは跳ね馬の腕の中で痙攣。意識はある様子だが声は出ないらしい。

「なんだ?」

 加害者が沢田家光であることを承知の上で、跳ね馬は来訪者を睨む。昔馴染みの若者に責める視線を向けられてボンゴレの門外顧問は悲しい顔をした。

「辛い役目だ」

 言いながら、掌に握りこんだリモコンのスイッチを跳ね馬に手渡す。それが何なのか、跳ね馬にも見当がついた。ボンゴレ構成員の中でも本邸の最奥に出入りする数人の側近たちは心臓近くに、電撃ショックを与える端末を埋め込まれていると聞いたことが、あった。

「が、この子が殺されるのを見るよりはマシだ」

「……」

 端末のリモコンを渡すということはつまり、支配権を委譲するということ。銀色は必死で開いた視界の中、差し出す家光と受け取るディーノに何かを言いたそう。けれど唇は震えて動かない。

「いいのか。こんなに簡単にオレに渡して」

 代わりに跳ね馬が沢田家光に尋ねる。

「二代目剣帝になるヤツだぞ?」

「ボンゴレ御曹司の将来には替えられん」

「雨の守護者はどうするんだ?」

「磨けば光る珠はいくらでも居る」

「こいつより光るのが?」

 跳ね馬の口調は抗議だった。長年恋焦がれていた相手を猫の子でも譲るようにやり取りされて、嬉しいよりも先に腹が立っている。馬鹿にするなよ、という男の怒りはオンナを本気で愛している証拠。オンナに与えられる侮辱を自分自身への恥辱のように感じている。

「それは、やってみなければ分からん」

「居るわけねぇだろ」

「かもしれないが、この子にはもう活躍の場が無い」

「御曹司様に手を出したから、か?ご大層なことだな。そんなに大事ならガラスの箱にでもしまってろよ」

「ディーノ。その子は可哀想な子だ。身分や財産が目当てではなくて、ザンザスを本気で愛している様子なのが本当に哀れだ」

 と、言う家光自身、銀色を本当に可哀想にと思っている優しさが透けて見える。抗議をするべきはこの相手ではないと、ドン・キャバッローネも薄々は分かっている。

「お前の愛情で救ってやってくれ」

 その、言葉が何を、意味するか。

「イ……、エミ……、」

「そのうち様子を見に来る」

「ザンザ、……、に……」

「お前たちに幸せになって欲しいと思っている」

 そう告げていく大人の男に、嘘は見えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 優しくされた。でも容赦なかった。

「……イヤ……」

 拒む語尾さえし蜜を含んで滴るような響き。

「いや……、い、やだ、ぁ……」

 カラダは潤まされ、内側にオスの楔を打ち込まれて、もう。

どうしようもない。抱き合う姿勢で、ちゅ、ちゅっとわざと音をたてて、男はオンナの柔らかな肌を唇で堪能する。

「ヤ……、ハナセ……」

「きもち、イイぜ。……スクアーロ」

 男もうっとり、目尻がとろけている。二年ぶりに抱く好きなオンナのカラダは甘くて美味くて、腰の奥から痺れてしまいそう。一息に喰らうのは惜し過ぎる。子供が飴を口から出して眺めてはまた舐めるようにさっきから、突き上げて盛り上がりかけては止まり、かけては止まりを繰り返している。

「う……、ぁ……」

 前戯の愛撫でとろとろにされたオンナにはそれが辛い。涙をぽろぽろ零しながらヤメテくれと願う。可哀想な願いはもちろん、叶えられはしない。

「ずっと、お前の夢ばかり、みてた」

 オンナが正気なら男の台詞を笑い飛ばしただろう。ドン・キャバッローネには恋人がたくさん居る。女優やモデル、ファッションデザイナーという錬金術を司る業界の複数の美女『たち』と浮名を流している。

「オレがホントに、欲しいのはオマエだけだ……」

 でもそれは仕事。利益を得るために必要な手段。恋をしているのはお前にだけだと、ゆっくりとまた、動き始めながら跳ね馬が囁く。ヒイッと声を上げ暴れかけるオンナを押さえつけた拍子に、素晴らしい弾力の胸の膨らみが当たって、たまらずむしゃぶりついた。

「あ……、ぁ……ッ!」

「ちゅ、くちゅ。……ちゅ」

「イヤ、イヤだ、いやぁッ」

「くちゅ。ちゅ、ちゅ」

「イヤ……ッ」

 繋がる前にも散々に嬲られた胸は張り詰め、乳首吸われて充血しコリコリに尖っている。ムチを扱う硬い指先で弄られると疼く。じんじんとした痛みは、濡れた舌先でトップを嬲られるとズキンという快楽に変換されて、オンナのカラダの内部の洞を濡らす。

「あ……」

「……あったかい……」

 オンナの花びらに包まれた中で、分泌された蜜に浸って、オトコは満足のため息を零す。興奮よりも陶酔に近いうっとりとした痺れに全身を絡めとられていく。

「ん……、っ、ふ……。うぇ……」

 刺激されすぎて辛くて。とうとう泣き出したオンナを優しく、そっと抱きしめて。

「ずっと、オマエのこと思い出す、たびに考えてた」

「う……、ぇ、え……、ぅえ……」

「オマエが恋しくて。オマエをもっと、たくさん、気持ちよくして、おけばよかったって……、思ってた……」

「ふぇ……、ぁ……」

「時間、なかった、もんな。アノトキ」

 抱き合った幾日かは、犯人の『捜索』をしながらその該当者を庇いながらの、慌しいセックスだった。気持ちほどには情熱を注ぎつくせなかったことを跳ね馬はずっと悔いていた。

「もっと、ちゃんと、色々、してれば、オマエも分かって、くれたんじゃないかって」

「ん……、ン、ふ……、ッ」

「ずっと」

「……ァ」

 ビク、ビクッと痙攣を繰り返す肢体を抱きながら。

「死ぬほど、オレは、シアワセだ。いま」

 愛したオンナに命を含ませるのは、どうしてこんなに気持ちがいいのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 起きている時間の殆どを抱きしめられて過ごした。

「も……、ヤダ……。イテェ……」

 オンナはすぐに泣き言を口にする。意地っ張りで強がりの気性だが、セックスに関しては自分が『弱い』ことを知っている。海千山千、業界の美女たちと浮名を散々、流してきてドン・キャバッローネには、とてもかなわない。

「ヤりたく、ねぇ。眠らせてくれよ」

 憔悴した様子は演技ではない。馴染みの無い種類の疲労にやつれた目の下が青い。