Pillow Talk

 

 

 ドアが開く音で、目が覚めた。

 どうやら涼介は、5分か10分ほど、意識を失っていたらしい。

 シャワーを浴びてきた啓介が、さっぱりした表情で入ってくる。

 電気をつけなくても、朝日が射し込んで、部屋はかなり明るい。

 「けーすけ」

 掠れた声で、涼介が呼びかけた。

 もう、声を出すために声帯を震わせるのも辛そうな涼介を、啓介が心配そうに覗きこむ。

 「大丈夫?」

 聞くぐらいなら、こんな無茶するな、と言いたかったが、それを言うのも辛くて、誘ったのが自分だという自覚もあるから、睨むこともできなくて、ただふるふると首を振った。

 その様子に愛しそうに目を細めると、啓介はすぐに水を持ってくる。

 腕も上がらない涼介のために、口移しで飲ませてやる。

 白い喉がこくこくと上下に動くさまは、いつもであれば、それだけで情欲をそそるのだが、今日はさすがに啓介も、これ以上はスル気になれない。

 涼介が落ち着いたのを見て、今度はタオルを濡らして体を拭ってやる。

 ほっとしたように力を抜く体を優しく抱きしめると、疲れ切った涼介はすぐに眠りについた。啓介も限界だったらしく、腕の中の相手が眠るのを確認するとすぐ、目を閉じた。

 

 

 「啓介、啓介」

 ゆさゆさと肩を掴まれ、乱暴に揺さぶられる。

 「ん〜、なに〜」

 寝ぼけた声で返事をすると、次は足のほうに、ゲシッと蹴りがきた。

 「起きろ、啓介。もう1時だ」

 まだ寝ぼけたまま、1時、とおうむ返しに呟く。

 「え!?1時?」

 「そうだ。ほら、目、覚めたか?」

 「う、うん」

 隣に寝ていた涼介は上半身だけ起こしていたが、啓介が起きたのを見て、またパタっとベッドに突っ伏した。

 「もしかして、腹、減ってる?」

 どこかに食べに行くか、という問いに、我が儘な答え。

 「動けない」

 じゃあさっき、力一杯人を蹴った足はなんなんだ、と思ってもよさそうなものだが、上目遣いに甘えるように見上げられて、そんなことには考えが及ばなかったようだ。

 「何が食いたい?」

 「何でもイイ。俺が食えそうなもん、持ってこい」

 「わかった。ちょっと待っててな」

 言いながら部屋を出かけたが、何を思ったか立ち止まり、そっと涼介に問いかけた。

 「なあ、なんで昨夜、あんなに積極的だったの」

 もし昨夜のうちに聞いたりしたら、イヤならいい、とかなんとか言って拗ねてしまうかもしれないから、聞くに聞けなかったのだ。嬉しいことは確かだったし。

 「べつに」

 「べつにってこと、ないだろ。なあ、なんで?」

 「イヤだったんなら、もうしない」

 「んなわけあるかよっ。すっげー嬉しかったに決まってんだろ」

 「嬉しかったんならそれでいいだろ」

 「だって気になんだよ。アニキのことはなんでも知りたいの」

 啓介の熱心さに負けたのか、はたまた空腹に耐えられなくなったのか、渋々涼介は口を開いた。

 「一周年だからな」

 「あっ!」

 聞いた途端、啓介は部屋に戻り、窓を全開にした。

 「何やってんだ、お前」

 ベッドの上に正座した啓介は、窓を向き、空にむかって、パン、と手を合わせた。

 「これからもアニキと一緒にいさせてください!アニキが他の奴らのもんになったりしたら、俺、死んじまうよ」

 真剣に祈る啓介を見て、涼介はぷっと吹き出した。

 「アニキ、笑ってる場合じゃねえって。ほら、アニキがお願いしたほうが、絶対きいてくれるんだからさ」

 「そうだな。俺は、気に入った人間は絶対に手放さない。もう俺から離れられると思うなよ。もちろん、俺に惚れたからには、覚悟はできてんだろ?」

 「あ、アニキ!そんな言い方・・・」

 「いいんだよ。それより啓介。メシ」

 慌てる啓介を追い出して、窓の外に不敵な笑みをむける。

 「俺を幸せにできるのは、あいつだけだ。そのあいつを書けるのは、お前だけだ。けどな、あいつがいつまでたっても甲斐性なしだったら、来年は京一と2周年を祝ってるかもしれないぜ?それもいい、なんて言うなよ。俺が誰よりも、何よりも、一番愛してるのは、啓介なんだからな」

 自分の運命を握っている相手に対する言い方にしては、まったくもってふてぶてしいが、本人に自覚はないらしい。

 最強の男、高橋涼介は、言うだけ言って満足したようで、そのまま窓に寄りかかってうたた寝をはじめたのだった。