殺傷能力
いつものように涼介を待っていた季節外れの寒い夜。
その待っていた涼介が白い肌に白い包帯を巻いて帰ってきた。聞けば痴情の縺れだと言う。
「誰に?」
聞いた啓介に涼介は事も無げに言い放った。
「昔、付き合った男から」
鋭い刃物で背中を切りつけられて、とっさの事で避ける事も出来ずに切られてやった。真っ直ぐ上下に、引き裂かれた白い背中。縫う事もないと判断したから止血だけしたと言う。
顔色を変えて傷を見せろと言い寄る啓介に、黙ってシャツを床に落とした。
薄く紅色に滲んだ包帯。かなり広範囲に渡って巻かれたそれが、啓介の手によってするすると剥ぎ取られていった。
現れた無残な傷跡を正視する事が出来ずに、啓介が顔を背ける。
「―――――っ!!」
ひゅうと喉を鳴らし、息を呑む気配。
言いたいことは、手に取るようにわかった。だから煽るように先回りして啓介の逃げ道を塞いだ。
「もっと酷い事を俺にする癖に」
こんな事で何も言えなくなるのか?
「・・・・・違ぇよ」
啓介の地を這う低い声に、涼介は目的を達した事を知る。
「オレ以外の奴に、あんたにこんな傷つけさせんな」
その権利があるのは、オレだけだ。
「だから、新しい傷を埋め込んでやる」
その背中に。身体に。心に。
晒された、血を滲ませる傷跡を丁寧に舐め取った。鉄錆びた味を美味しく味わう。
「い、たいっ・・・・!」
涼介の言う通り、傷自体はそんなに深くはない。せいぜい皮膚が切られた程度。神経が集まると言われる背中を、涼介の性感帯でも在る所を、存分に嬲ってゆく。
抗議の声が上がろうが、知った事じゃない。
皮が捲れて、再び血が流れて、それを舐める事の繰り返し。
傷を唾液で癒しているのか、啓介の唾液で汚しているのか。
どっちでもあって、どっちでもない。
全身を啓介の視線に見つめられて、今更ながらの羞恥が涼介を襲っても啓介は知らぬ顔を通す。
それどころか。
背中を舐められる事で感じて雫を零す涼介に、冷たく激しい一撃。
「ヤラシイ体・・・・。今日はそっち、弄ってやらない」
だから、自分で慰めてよ。
オレは、こっちに専念するからさ。
濡れた舌で後ろすらも嬲られて、出し入れされる舌に震えても、啓介は前に手を伸ばそうとしない。
「――――ふっ!」
頭を枕に押し付けた不安定な状態。腰を高く揚げて、自慰を始めた。絡まる己の指に纏わりつく先走りの液。
濡れた音を響かせて自分を慰めて、後ろを嬲られて懇願しないわけがない。
「あっ・・・・う、んっ!」
傷を指で辿り、舌で蕾を舐める啓介を、収縮する後部が誘う。
「け、啓・・・・もっ・・・」
入れて欲しい。
あの狂おしいほどの熱で、掻き乱して欲しい。
「じゃあ、聞くけどさ。ダレを想像してヤッてる訳?」
そこをそんなに濡らして。
「ふふっ、・・・・・切、った、男・・・・」
「いいね、その答え」
そう言うが早いか、猛った啓介が荒々しく侵入してきた。遠慮も慣らしもナシで。
「ああっ―――!」
揺さぶられる衝撃に、前を慰める手が疎かになっても達けそうな勢いだ。
擦られる内部に新たに血が滲んでも、止めようとはしない。細い腰を掴んで揺さぶり続ける嫉妬に駆られた愛しい啓介。
どんな顔で自分を犯しているのか、見たい気もするが。
「うあぁ、はあっ、は・・・・!」
ふと思い出したかのように傷に触れる彼を、単純に愛していると思った。
啓介に抱かれて、他の男を思う隙間を無くして欲しかった。
そんな事は、叶わないと知りつつも。
散々に突いて、思う様に抱けばいい。
それが許されるのは、啓介だけだから。
「んんっ、んふ、ああぁっ」
白く濁する意識も。擦られる感覚をリアルに感じる自分の身体も。淀んだ涼介を浄化させる啓介の精液が迸れば。
底から広がる快楽を飲み込んで、血を洗い流す。
交合によって血液の循環が良くなり傷口から血が流れても自分を犯しつづける啓介。
お前だけが愛しい。
分かってるんだ、この卑怯な人は。こうする事で逐一オレを試そうとする。
その誘いに乗って、十分に堪能してやるよ。あんたが望むように嫉妬に駆られた男を演じながら。
そんなことをしなくても、あんたはオレしか感じないって分かってるのに。