殺傷能力 2
背中を生暖かい液体が流れるのがわかる。
汗とは違う、痛みを伴う傷口から流れ出でる血液だ。
傷口が塩分を帯びた汗に塗れて、更に痛みが増す。愛撫もそこそこに啓介によって広げられた秘部も、痛い。
「う、ああああぁっ」
「きちぃぜ・・・。気持ちいー・・・」
ぎゅうと締め付ける涼介の内部がひくひくと震える感じまで。纏わりついてくる襞が全てを啓介に、包み隠さず教えてくれる。
何度揺すっても弛める事をしない体が、鬱陶しい程に。
傷を手で辿っても、あっけない痙攣を返すだけ。
それでは自分がつまらない。
啓介だけが傷つけることを許される身体に、そうとわかってて他の男にあっけなく傷を許してきやがった。
こんな身体は殺して、一度新しく創り直してやりたい。自分だけに従順で、大人しく従う人形みたいな身体に、今の涼介の魂だけ閉じ込めて。
「殺しても飽きたらねぇ」
「あっ・・・・なに、が・・・」
奥を突付いたまま、動きを止めてそう呟いた啓介。後ろ抱きにされてるので、表情がわからない。
「何だと思う」
そう言って、涼介から全部引いてしまう。
「さっきと同じようにオレを満足させたら、もう一度入れてあげる」
ただし。
「間違えても、ご褒美あげる」
「俺、を・・・切った、男が許せないか・・・?」
答えを得て、しめたと思った。この人はオレの演技に騙されている。
そしてそれに慢心している。
「ぶーっ!残念だったねアニキ。それじゃ満足できないなぁ」
いっそ嬉しそうに、嬉々として。啓介は涼介を咎めた。
それだけじゃないって事に気付いてない筈がない。
オレに関しては、神懸り的勘が働く兄の事だ。すぐに正解を打ち出してくるに違いない。
「じゃあ。俺か」
ほーら、な。
「そうだよ」
「啓介、お前に俺が殺せるもんなら、とっくに殺してるさ」
出来ないのは、お前にその気がないからじゃないのか。
「つまり、啓介には俺を殺すだけの甲斐性がない」
それをさせない身体である事は承知してるが。
代替品を見つけて満足してるなら、とっくにしてるだろう。何も男を、しかも実の兄である自分を抱く理由はどこにも見つからない。
それだけの執着が啓介を縛っている事に満足を覚えている。いや、執着と言うより妄執か。
さあ、ここまで煽ってやった。あとはどうでる。
「返す返す残念。それだけじゃアニキを殺せない。もっとくだらない理由で殺すって決めてるから。例えば・・・」
言うが早いか、血を滴らせる傷口に指を這わせた。
「ここに指突っ込んだら、可愛い声で泣いてくれる?」
っていうか、泣いてくれなきゃ殺せないだろ?
爪を立てて、力任せに傷口に押し込んだ。皮を、肉を裂いてめり込んでいく。
「い、や、あっ―――――!!!」
締まりかけていた肉が、再び開かれる。啓介の指で。
爪の間に何かが詰まるのも気にとめず、そのままゆっくりと下へ押し下げた。柔らかくて、まるで涼介の中のようだった。温かい体温も、纏う肉も。違うのは血が溢れる事だけ。
「あっく・・・・んんんっ!!」
背中が熱い―――――。
焼かれる痛み、とはこれか。焼き鏝を押される中世の魔女のような。
理不尽なまでの痛覚と、それを大して面白くもなさそうに見つめる啓介と。
最後まで指で抉りきって、ようやく傷から指を出した。切られた傷に新たに刻み込んだ啓介による傷。
同じ場所に、違う男に。
「あ、あああっ、ふ・・・」
耐え切れず身体を横たえ、大粒の涙を零す涼介に。残酷な支配者の一言。
「もっと泣いてくれるかと思ったけど」
案外、我慢強いんだなアニキ。
「んん、ふっ・・・・」
「約束通り、泣いてくれなかったから。殺してあげる」
ねぇ、だからもっと我慢してオレを困らせて。そうしてくれないと殺し甲斐もない。
「・・・ほしい―――」
「ん?」
「殺して欲しい――――」
お前を、困らせる為にはなんだってする。
「何、で?」
「ソレで、ころして」
指差したのは、啓介の指。涼介の血と肉が付いた。
「ココを弄って・・・」
猛った自分を。それだけで死ねる。