TSexEleven

 

 

 ……だからさ……。

 呆然と、するのは何度目か、だった。

……謝られても、さ……。

 ごめん、って、泣きそうな顔で赦しを乞われても、おれは返事、出来ないよ。

 だってまだ分かってない。なにが起ってるか。

 わかりたく、ないんだよ。

「そっちのガキに手錠はかけるな。まだ十五歳で、少年法適用だ。ギリギリ、な」

 櫛目の通ったキメたオールバックでテキパキ、部下に指示してるその男にも、おれは呆然とさせられた事があった。つい二ヶ月前、おれが見せた写真の報復を、物凄くえげつなく仕掛けられて。

「ロイ。手を、揃えろ」

 言われるまま、大佐は手首を揃えて差し出した。かしゃん、って、構えられた手錠が大佐の手首に嵌まる。それを俺は、床に這いつくばって、呆然と、見てた。

 大佐が目を伏せる。それは自分にはまった手錠からじゃなく、俺の視線を避けるみたいに。ンな、場合じゃ、ないだろう?

 こっち、向けよ。

 向いて、俺の顔を見て、俺に説明しろ。何が起こってる。あんたは何をした。ここに忍び込むことを前もって調査部のそいつに通報して包囲させて、そして。

 そして。

「まだ子供だ。乱暴しないでくれ」

 俺を引き起こそうとした憲兵にそんなこと、言ってるヒマがあったら教えてよ。あんた、なに考えてんの。

 あんたを庇って伸ばした俺の右腕を掴んで、ぐしゃ、って。

 まるで、水飴を歪めるみたいに、俺の機械鎧の関節部を、伸ばして。動かないオートメイルが今、ひどい重しになって俺は床に這いずる。腕を壊された後で、左足のを、膝から引き抜かれて。

 神経通ってるからさ、イタイ。

 ……なぁ。

 こんな風にされたら俺が、地面這いずってるしかないみじめな姿に、なるの分かってて、あんた。

 ……あんたがなんで、俺に、こんなコト、すんの?

「その子供との逃避行は甘ったるかったか?」

 口調はふざけて軽いけど、眼鏡の奥ではまなじりの鋭い目が、俺と大佐を糖分に眺める。大佐は少し、ほんの少しだったけど、機嫌をとるように笑って、そして。

「……時刻を」

 そんなことを言い出す。眼鏡の切れ者は手首を返して、腕時計の文字板を大佐に見せて。

「十二月八日、二十三時、五十六分。ロイ・マスタングもと大佐の出頭と、もと鋼の国家錬金術の身柄確保を確認」

「うん」

 安心したように息を吐いて、大佐は一度、ぎゅっと目を閉じてから。

「エドワード・エルリック」

 勇気を振り絞った。そんな感じで、俺の方を向いて。

「さようならだ。私が釈放される日が来ても、君には連絡をしない。君とはもう二度と、会わない」

 だからさ。

 あんたがなにして、なに言ってんのか、俺まだ。ぜんぜん、わっかんねぇんだよ……ッ。

「騙して、遊んで、つき合わせてすまなかった。さよなら」

 なんにも答えてくれないくせに、なんでそんな言葉だけはっきり言うの。

 ……なぁ、大佐。

 ……これナンの冗談?

 分からないままの俺を置いて、踵を返した人が遠ざかる。背中をまるで庇うみたいにヒューズ中佐が後に立って、俺の視界から大佐を消した。

 なんで、そいつと遠ざかるの。

 なんで俺から、そんなにスタスタ、離れていっちまうの……?

「大将、……触るぜ」

 聞き覚えのある声がして、それは金髪の少尉だった。俺の恋人を写真の中で抱いてた奴。それを一瞥した瞬間に、こいつのこと大嫌いになった。でも今はそれどころじゃない。

なぁ、大佐どーしたんだ?これナンの冗談?

 大佐どこに連れてかれてんの?

「罪が重いんだよ、あの人は」

 地位が高かったからとか、責任能力がありまくるからとか、俺そんなこと聞いてんじゃないんだ。

 なぁ、これなに?どーなってんの?大佐どこ?

「たぶん、全部、あの人がひっ被るつもりだろうから、大将は、資格取り消しと説諭と、長くても留置所に二ヶ月以内の拘留。少年法じゃ、監獄での懲役と禁固はないからな」

 俺を起こしてくれながら、なぁ、そんなこといいから、それとってくれよ。大佐が引き抜いて俺の手の届かないトコに置いてった、俺のオートメイルの左足。

 ……はめて追いかけなきゃ。

 ……大佐、どっかに行っちまう。

「だから、迎えに来るなら、セントラルの監獄じゃなくて軍法会議所の留置所だ」

 ちょ、待ってくれよ、少尉。

 なんで、俺の左足、壁に飾られたアルの、鎧の中に入れるのさ。それ返してくれよ、俺んだ。

 それがないと大佐のこと追っていけない。

 大佐どこ行ったんだよ……ッ。

「誰にも分からないところさ」

 ようやく俺は、その頃になって、俺を起こして担架にのせる、少尉が声を出さないで泣いてんのに気付いた。

「あぁいう偉い人が失脚した後はな、大抵、長い禁固の後で『生死不明』なんだよ……ッ」

 どん、って。

 俺の、左肩を叩いて。

 ちょっと、待てよ。いまナンてった?

「どうしてこんな馬鹿な真似をした。俺を殺して、それでカタつけりゃ良かったじゃないか」

 なに、が。

「大佐嫌がってたのは写真でも分かっただろう。なんであの人にいった……ッ」

 なにが。罪が、罰が?

「復讐なら、俺と中佐に、すりゃ良かったじゃねぇかよ……ッ」

 ちょ、なぁ、少尉、なに。

 教えてくれよ。なにがどーなって、そんで。

 ……俺の大佐が、ロイがどーなるって……?

「どうして……」

 あんたがなんで、泣いてんの。

 ……あんたが泣くほど、ロイがひどいことに、なんの……?