SSexEleven

 

 

 再会から、十日目。休日。

 初めて一晩、セックスしないで過ごした。

 なんでンなことしたのかってぇと、特に理由はなくて、敢えて言うならあの男がこの人のこと『保護』していらい何日も、そういえば、抱いてなかったな、って思って。

 俺にも出来るだろうかって、試してみたのが、一番大きな動機。

「馬鹿なことを」

 宵の口から夜明けまで、ベッドで抱きしめたままの俺を、腕の中の人が笑う。まったくその通りで、反論の言葉はない。

 でもやってみないと、出来るかできないか、それさえ分からないじゃないか。俺が大人になったらあんたとちゃんと、恋愛からやり直す約束はダメになったけどさ、せめて。

 ちゃんと好きって証明したいんだ。

「馬鹿だな、君は」

 そんなしみじみ、言わないでくれよ。

 どーせ俺は、馬鹿でナンにも、分かってないガキだよ。

「そんなことは言っていない。……ガマンしなくていいのにと、呆れているだけだ」

「迷惑?」

 悶々としてる俺にベッドの上で、ひっつかれてるだけなのは鬱陶しいだろうか。一緒に横になって、喋ったり眠ったりして過ごすのも俺には幸せだったけど、またこの人を、無理につき合わせたのか。

「いや。気持ちがいいよ。暖かいし」

 よかった。でもそれが本当にそうだっていう保証はない。あんたは嘘つきだ。いつも俺を優しい嬉しい言葉でだましていく。

 そっと、胸元に手を伸ばす。服の上から膨らみに触れると、くすくす、俺の恋人が笑い出す。……どったの?

「あぁ、ごめん。おかしいんじゃないよ。ほっとしただけだ」

 なにが。

「君が興味を示さないから、好みじゃなかったのかと思っていたんだよ。心配していた」

 笑いながらそう言う、口調は軽かったけど表情はマジっぽくて、案外本気で気にしていたんだって、分かった。

 いや、興味がなかったとかじゃなくて。

「怖かったんだ。あんまり柔らかいから」

 女の子の胸の膨らみに触ったことは、ないわけじゃないけど、それは娼婦や庇護者を欲しがる連中に、無理に押し付けられただけ。向き合って自分の掌でこうやって、包んでみるのはあんたが初めてで、柔らかすぎて、ビビってただけだよ。

 夜明けのうす明るい部屋。彼の背中から抱いて、前に廻した左手で膨らんだ胸を、そーっと揉んでみる。柔らかくて、弾力があって、なんか、すごくキモチイイんですけど。

「今更……。シタ、ばかり熱心だったくせ、に……」

 ぎゅ、ぎゅって揉んでく俺の手をふりほどくような仕草で、腕の中の人が背中を捩る。させずにカラダで押さえつけて、背中から圧し掛かって、ふくらみを揉み上げると。

「……、ン……っ」

 感じたらしい声が漏れて、腰がぴくってシーツから浮き上がる。裸にして突っ込んで繋がって揺すり上げんのも好きだけど、こーやって、あんたのこと撫でて、それであんたが、気持ちよさそーにしてくれると、幸せ。

「……、たよ……」

「ん?ナニ?」

「夜が、あけ……」

「……だから?」

「……」

 シーツに肘をついて彼が姿勢を変えるのを、今度は邪魔しなかった。言葉じゃなくて向き直って、潤んだ芽のままぎゅーって俺を抱きしめることで意思を伝えてくる、俺あんたのことダイスキ。たまんなくって唇を寄せて、息も奪うくらい深く、キス。

「……、ん……、ぅ、ン……ッ」

 しながら、胸を揉むことはやめない。服の上からでも形と、何よりも手応えが変わってくるのが分かる。特に先端の変貌が顕著で、驚きながら、左手だけじゃ足りなくて、キスを離した顔を寄せてもう片方に触れる。

「ちょ、エドワー、ど、……んッ」

「こんなに、なるんだ」

「ッ、たい、って、馬鹿……ッ」

「……すげー」

 抱いてる人の息があがるにしたがって、掌の中の手応えが重く、弾みだす。コリコリに尖った乳首はさっきまでと全然、別の部分みたいに固く屹立して、左手をそっと離すと、パジャマの生地を押し上げて張り出してた。

「脱がせていい?」

 一旦手を引いて、体重をかけないように膝をついて下腹に跨ったまま、自分も脱ぎながら尋ねた。俺に押さえつけられた格好で俺の好きな人は、自棄じみて不自由な手を動かして、自分でパジャマの上を脱ぎ捨てる。裾を俺が踏んでて、脱ぎ捨てられなかったから片膝を浮かして手伝った。

「……したいだけじゃねーよ?」

 下も自分で脱ごうとして、俺が邪魔になって、苛立ちのまま俺の胸をドンって、拳つくって殴る恋人が愛しくて、退く代わりに尻を浮かして、パジャマの下とそのしたの下着も脱がせてやる。つるんって、果物の皮が剥けたみたいな、素っ裸。

「ん……、ぅ、ん……ッ」

 男でも、女でも、基本的には、違わない。

「は……、ッ、ド……ッ」

 撫でて舐めると気持ちがいいんだろう。狭間から蜜が、とろって溢れてくる。もっと発情させたくてきつく揉みながら、片方の先端をしゃぶって吸い上げる。

「……、きゅ……」

 殆ど降服。そんな風情で、全身を差し出されて。

「ん、ン……ッ、ぁぅ、は……、ん……」

 開いた膝をそっと立てて、俺を誘ってる風なのがたまらなくて。

「……、ぁ、あ……」

 性器や胸の形は違っても、皮膚の下、神経の位置はそれほど変化はない。染色体四十八対の片方だけの差異で、別のイキモノになるほど人間は複雑じゃない。昔はあんたの内側で、こりっと膨れてた性線が今は花びらの飾りの粒になって。

「や……、め、クチは、イヤ、だ……ッ」

 前より無防備に、おれの目のまえにある。

「いや、いや、い……、ッ、……、ゃ……」

 下肢の狭間に、顔を埋めて舌を差し入れた。左右の花びらをぬらして開かせて、襞にそって舌で舐め上げて、ちゅ、って。

「……、ヒ……」

 小さい粒を可愛がってやる。ぺろぺろ舐めるたびに蜜がじわって、狭間から染み出して来るのが楽しくて、熱心に繰り返す。

「……、から……、シテ……、も……」

「……ホント?」

「うん……」

「約束だぜ。ゼッタイ?」

「ん……」

 バチアタリな約束を取り付けてから、おれは俺の、もう随分、カタクなってたモノを恋人の、狭間に当てて。

「……痛かったら言って」

 乱暴にならないようにだけ、気をつけながら沈んで行く。力の抜けた場所は吸い込むみたいに、俺のを招き入れてくれる。

 俺は男のカラダでも女でも、あんたなら大好きだよ。でも。

 あんたがさ、痛がんないのは、いいね。

 そうして俺に何度でも、付き合ってくれるのは……、イイ……。

 

 

 抱いて食べて、寝て食べて抱いて。

 休日を怠惰に、裸で、過ごす。

 朝日を受けながら抱いて、夕日を浴びながら犯した。

 さすがにクタクタに疲れ果てた人を未練げに撫でてると。

「……、ご挨拶、しておいで」

 ちょっと意識、とばしてた人がそんなことを言った。

「夕食は、奥方と一緒にとって、おいで……」

 違うよ、って、俺は言わなかった。代わりに。

「そろそろ、アルが来るかも、しれない」

 湿った肌が馴れた毛布みたいに気持ちよくて、鼻面押し付けて脇の下のにおいを嗅ぎながら、違うことを言ってみる。

「その間はあんたと会えなくなるけど、長くても三日だ。待っててくれるよな?」

「……本当に?」

「すぐ戻って来るよ」

「そうじゃなくて。本当にアルフォンス君が?」

「俺さぁ、やっぱ、権力ってゆーか、偉い男の適性ないみたい」

「エド……」

「あんたと離れてた間はそれなりにやってたけどさ。あんたが居るのに、男同士で張り合うなんて、時間の無駄だよ。馬鹿馬鹿しい」

 どっちが強いか決める喧嘩よりはるかに大事な、ことがある。

「落ち着いたら、おれ軍人やめるから。そしたらシンの田舎にでも行って、ゆっくり、一緒に暮そうぜ。二人っきり、って訳にはいかないけどさ。アルが居ないあいだ、あいつの女と子供、俺が守ってやんなきゃならないし」

 でも俺は、あんたと一緒に、ずっと。

「十年でセックスできなくなっていいよ」

 それまでに一生分するから。そもそもあんたが生きててくれなきゃ、セックスどころか、キスも出来なかった。

「それから十五年も、俺あんたと居るよ」

 あんたが『若返って』、生まれる前に『戻る』瞬間まで。

「その後は、あんたの墓守して暮す。最初からそのつもりだったんだ。あんたが処刑されてんの覚悟してた。骨だけでいいから探して、俺が死ぬまで、抱いとくつもりだったよ」

 なぁ、ロイ。

「もう信じるだろ?あんたなかなか分かってくれなかったけど、俺は最初から知ってた。俺、あんただけなんだよ」

 他の女と、男とも、裸になって抱き合う事なんか考えられない。気持ち悪いんだ。俺は多分、ガキの頃に歪んだ。歪みはあんたのせいじゃない。両親の愛憎がキモチワルくって、そこでもう、俺の性欲は狂った。

「あんただけ平気でダイスキなんだ。なんでなのかは、分かんないけどさ……」

 触って匂い嗅いでると、もうそれだけで幸せ。

「俺の全部、あんたのものだよ」

 一生懸命に口説いた。日が落ちた部屋の中、腕の中の人がどんな顔をしているかは、見えなかったけど、あんまり嬉しそうじゃないのは分かった。

「貰ってよ」

 お願い。俺を受け取って。