□ yes,summerdays □

 

 

 

 

+ + +

 

 啓介がビーチパラソルをレンタルしてきて…適当な場所へ立てる。
 影になったそこに入り…一応、肌が出ているところは日焼け止めを塗った。
 ちょっとは日焼けの具合もマシになるだろうと思って。

 …自分で言うのも何だが、オレは嫌になるほど色白で。
 昔から、日焼けには苦労していた。
 啓介みたいに、黒くなるのなら別にいいのだが。
 オレは、赤くなってヒリヒリする。軽いやけど状態になるのだ。
 そうなると、もう…服を着るのも、風呂に入るのも一苦労。
 だから、夏になると日焼け止めは必需品になってくる。

 念入りにたっぷりと、ちょっとやそっとでは落ちないくらい、日焼け止めクリームを塗り。
 一緒に借りてきた浮き輪やビーチボールを持って、啓介と海へ行った。

 

 久々の休みに、久々にまともに当たった太陽の光。
 おまけに、啓介と二人。
 海に入って、水をかけ合って。ビーチボールで二人でバレーもした。
 浮き輪に乗って、ゆらゆらしてるオレを…啓介はわざと沈めたり、沖に流したり。
 そんな、小学生みたいにはしゃいで、騒いで。

 それから―――。
 一緒に海に潜って……キス。
 ここじゃ、自分たちが兄弟ってことを知ってる人なんて、誰もいない。
 まして、オレは女の姿。周りから見れば、普通のカップル。

 楽しくて。本当に…楽しくて。
 帰りたくない。ずっと、このままでいたい……。
 自分たちのことを、誰も知らないところで。ずっとずっと。

 

 海面から顔を出すと、啓介はオレを抱え…オレの耳や頬にキスをする。
 それがくすぐったくもあったし…周りに人がいるため、やめろと止めさせた。
「アニキ…めっちゃ、キレイ…」
 耳元で、そう囁く。
 その言葉に、オレは少し啓介から身体を離し、啓介を見た。
 …啓介は、いつもそう言う。
 何処がきれい?オレにはよくわからない…。
 オレから言わせれば、啓介の方がよっぽどきれいだと思うのだけれど。

 屈託なく、いつまでも純に笑う啓介。
 素直で優しくて…眩しい。
 大好き。

 啓介はその後、もう一回だけオレの耳にキスをすると…オレを下ろし、手を引っ張って海から上がらせた。
 そして、立てたビーチパラソルの下に連れて行くと、タオルを頭にかける。
「何か、冷てえもんでも買ってくる…」
 そう言って、オレを置いて行った。

 オレは、そんなパラソルの下で…砂浜の上に座り、膝を抱えて顔を伏せた。
 …胸が、ドキドキする。
 毎日啓介の顔を見てるはずなのに、何だか今日の啓介は違う気がする。
 啓介にいちばん似合う太陽の下、海と言う場所がそう思わせるのだろうか。
 ひとつひとつの仕草に、見惚れて。ひとつひとつの表情に、惚れ直して。
 もう、どうしようもないくらい……好きだ。
「なあんか……オレ、情けない……」
 ぼそっと呟く。そう…何だか情けない。
 女装すると自然と女の仕草になってくるって言うけど。
 女の身体になるオレは…気持ちまですっかり女になっちまうんだろうな…。

 

 色々考えてると、啓介がこっちに向かって歩いてきているのが遠くからでも見えた。
 何か持って。冷たいものを買ってくる、と言ったけど…何を買ったのだろう?
 …オレの方へ来る啓介を、じっと眺めてた。
 すっごい、いい男だよな〜…と。(笑)

 そんな時、だった。

「……!」
 こちらへ歩いてくる啓介を呼び止める、女の子3人。
 年は啓介と同じくらいか、ちょっと下か。
 茶色の長い髪の…少し肌が黒く、化粧もバッチリとしていた。
 ここからでもよく見える、彼女達の明るい表情。
(逆ナンか…)
 まあ、あれだけの男が一人で歩いてたら…声をかけられないはずもないよな。
 無理もない。
 ……でも、オレにとっておもしろいわけは当然なくて。
 しばらく、眺めてた。

 話し声は聞こえない。
 啓介は後ろを向いてたから、表情は見えない…けど、彼女達の表情を見てみると、
そんなに悪い反応は返してないのだろう。
 …胸がムカムカする。
 そんなやつら、振り解いてくれればいいのに。
 見てるのが嫌になって、オレは立ち上がる。
 そして、小走りで啓介に近付き……背中に勢いよく抱きついた。

「けーすけっ」
 腹の方に腕を回し、しっかりと抱きつく。
 それに啓介は驚いたようで…後ろを振り向いた。
「あに…っと、涼ちゃん」
「何してんだ?」
 啓介の背中から、彼女達を睨む。
 女になっても、オレの眼力と言うか迫力は、男のそれより大して変わらなくて。
 彼女達3人は竦みあがってた。

   ちょっと〜カノジョいるんじゃん〜。
   しかも、ちょっと勝てないよ〜。

 ひそひそと3人、話してる声が聞こえる。
 何だか、不思議な優越感に浸った。
「…涼ちゃん、日焼けすっから戻ろう?」
「あ、ああ…」
 オレを背中から離し…隣に来させてあいている方の手でオレの肩を抱いた。
 啓介をナンパした女の子3人は呆然と啓介を見てる。
 …何か、くすぐったいような…変な気分。
「じゃ、そういうわけだから、ごめんな」
 にっこり笑って、彼女達にそう言う。
 そしてその後、オレの肩を抱いたまま…パラソルまで、戻った。

 

 啓介が買ってきてくれたのは、かき氷。
 イチゴミルク。けど、あのことで時間を食ってしまったので溶けかけていた。
 スプーンストローでしゃくしゃく形を崩し、すくって食べる。
 口の中で冷たさと甘さが広がった。
「何か…怒ってねえ?」
 黙ったままかき氷を食べるオレに、啓介が恐る恐る尋ねる。
 オレの表情を窺うように…隣から覗き込んで。
 ……怒る?何を?
 でも、さっきので気分が悪くなったのは確かだけどな。

「バカ啓介」
 顔も見ず、食べながらそう言った。
 そんなに怒ってはなかったのだけれど、啓介はそのオレの態度に怒ってると思ったのだろう。
 オレの頬に、ちゅっとキスをした。
 驚いて、啓介を見る。…オレが啓介の方を向くように、仕向けたみたいだ。
「オレ、無実だと思わね?だって、オレが声かけたんじゃねえもんよ」
 口を突き出して…すねたようにそう言う。
 それが、何かすごく可愛くて。
 一見クールでキツイ印象を与える顔は、こんなにも可愛くなる。
「ああいう子がいいんだろ?おまえは…。茶髪で化粧してキレイな、胸の大きな女の子」
「あーのーなー」
 かき氷を食べる手を止めずにそう言うと…啓介はオレの肩に頭を乗せた。

「オレのタイプは黒髪のショートの、色白の人ッ!んでもってすっげえ頭良くて、クールでカッコイイし、
女になった時はその時で超カワイイ人!……誰のことだかわかるよな?」
「……さあ?」
 くすくす笑いながら、オレは啓介に食べかけのかき氷を渡すと。
 海の方へ行く。
 怒ってはないけど、悔しいから…お返し。
「オレもナンパされてくるな!」
 そう言うと、啓介は目を大きく見開いた。
 そして、オレを大きな声で呼ぶ。
「涼ちゃんっ!!!!」
 すっごい、楽しい。

 知ってるよ?おまえがオレだけだってこと。
 でも…啓介の隣に何であろうが他の女の子がいると、不安になるんだ。
 余計な心配なのにな?
 それだけ、オレはおまえだけってこと。
 ……大好き。

 

 

+ + +

 

 

 色々あったけど…日が暮れて、人がまばらになるまで、遊んだ。
 最後は疲れて、啓介の”帰ろうか…”の言葉に頷いた。

 あっという間に、過ぎた時間。
 夕日の光で真っ赤に染まっていく海を見つめ…すごくさみしい思いがした。
 自分達を誰も知らない、場所で。
 啓介と二人きり。
 もう帰ったら、いつもの日常に戻ってしまう……。
 啓介とすれ違いの。
 ――――――帰りたくない。

 パラソルをたたみ、借りてきたものを返しに一緒に行き…手を繋いで更衣室へ。
 ちょっとゆっくり歩いてもらって…海を目に焼き付ける。
 帰りたくないな…。
 ぎゅっと啓介の手を握り締め、そう思う。
 ずっと、この手を繋いでいたいのに。

 

 更衣室に戻ると、もう誰もいなかった。
 自分達が最後らしい。あんなに結構人がいたのに…今はさみしいくらいだ。
 身体についた海水を落とすために、備え付けられてるシャワー室に啓介と一緒に入った。
 勢いよくお湯を出し…啓介はオレの身体に当てた。

 日焼け止めを何度も何度も塗ったおかげか、さほど日焼けはしてなかった。
 いつもなら熱くて痛くて赤くなって…シャワーどころじゃないのに。
 オレの後ろにいる啓介は、背中を見て安心したようだ。
 ……去年だったか。一緒にプールに行って、すごい日焼けをした時を啓介は見てるから。
 その時はまだ、こんな変な身体…女になるような身体じゃなかったから、男のままだったけど。
「ちょっと赤くなってるくらいだな〜…いてえ?アニキ?」
「いや…大丈夫」
 流してくれるお湯で、身体をキレイにするために手で擦る。
 日焼け止めのクリームのせいで、ぬるぬるする…それを、キレイに落として。

 その時。

 何故か、自分の着ている水着の右の肩ひもが…はらりと落ちた。
 水気を吸った柔らかい布は、安易にはだけ…右の胸がこぼれた。
「…!!」
 啓介のくれた水着はビキニタイプで。上の肩ひもはかけるタイプではなく、結ぶもの。
 それを……啓介は解いたようだ。
「何……」
 隠す間もなく、左も解かれて。後ろのボタンも外されて…脱がされた。
 足元に、落ちる。

 後ろから、抱きしめられて。
 露になった胸を……片手で揉まれた。もう肩の方の手は、シャワーを持ってオレの胸にお湯を当てる。
「やっ…だ、啓介っ!」
「すみずみキレイにしような〜?」
 口調が、楽しそう。
 女になったオレの力と言うものは、ないものに等しく。本気で啓介に抵抗しても…絶対に解けないのだ。
 今も、必死に暴れても啓介は全然ものともしなかった…。
 すごく、悔しい…。
 調子に乗って啓介は、シャワーをオレに向けたまま…止め金にかけると。
 あいた手でオレの胸を執拗に揉んだ。
 両方の胸で、感触を楽しむように……。
「け、い…や……っ」
 こんなところで!いくら誰もいないからと言っても…安心なんて出来ないのに。
 やめて、とお願いしてみるが、やめられるはずもなく。
 どんどん、エスカレートしていく。

 敏感な先端を指で擦られて。途端に立ち上がった突起を、人差し指と親指で摘まれる。
 そこから湧き上がる感覚に、オレは身体を震わせた。
 同時に首筋にもくちびるを這わせられて。
 …身体が、熱くなる。
 当たってるお湯のせいじゃない。身体の中から、じわじわと…。
「やだ…やだ、けいすけっ」
 首を横に力なく振る。目から涙が出てきたけど、シャワーのお湯でわからないだろう。
 本当に嫌なのに。オレのその気持ちは弱いんだろう…身体は反応する。
 だから、いつも…啓介に流されるんだ。

 現に、啓介はやめてはくれない。
 やめてくれるどころか、興奮してるみたいで…息は荒いし、オレの腰らへんに当たる啓介の感触が物語ってた。
 オレも男だから、気持ちはわかるけど……。
「啓介、ダメ……ココは、ダメ…ぇ」
「……アニキ」
 オレの胸を触る啓介の腕を取り…そう言うと。
 興奮の色を隠し切れない目で、啓介はオレを見た。
「お願い…後で…何でもするから…」
「…マジ?」
「ココはダメ…。だったら、FDの中でも…ホテルでも…いいから…」
 FDの中はいくら何でもできないだろう。あんな狭いのに。
 そう言ったオレの身体を、啓介は離し…オレの手にキスをした。
 ニヤリ、と笑ってオレを見て……。
 その表情に、背筋がぞくり、とする。
「約束な……」
 それから、啓介はオレを置いて出て行った。

 

 服を着替えて荷物を持ち、駐車場へ。
 日が落ちたと言えども、昼間の名残かFDの中は地獄のように暑くて。
 エンジンをかけ、クーラーを最大にして…適温になるまで待った。
 その間に、啓介はサンダルからスニーカーに履き替える。オレはリアシートに荷物を全部押し込んだ。
「さあて…何処行くかなあ……」
 オレを見て、にやっと笑ってそう言う。そんな啓介の頭をぽかっと叩いた。
 何処でも連れて行けば?約束は約束だし……。
 でも、啓介の「家に帰る」という言葉が聞けなくて、ほっとしてる自分がいた。
 帰りたくないから。まだ、二人きりでいたいから…。
 ナビシートに乗り、シートベルトを締めると。
 啓介はそれを確認した後、FDを発進させた。

 …楽しかった場所。
 真っ赤に染まる海を、目に焼き付けるようにオレは窓から…見ていた。