□ yes,summerdays □
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啓介が選んで入ったのは、海辺沿いのラブホテル…だった。
ただ単に、海岸線を走っていたら見つけたところ。
何の迷いもなく何の相談もなく、すうっと入っていった。
かなり暗い駐車場にFDを停め、荷物はそのままで貴重品のみ持って降りる。
こんなところは、入るのも出るもの、外からわからない仕組みになっていた。
啓介が手を差し出してきて、それを取る。
そして手を繋いで…すぐ近くにあったエレベーターに乗って、上に上がった。
「……」
何も言わない啓介。
何処となく余裕の表情。
オレはこんなところ来るのは初めてだけど…啓介は絶対に初めてじゃないよな…。
この態度。誰と来たのかは知らないけど……むかつく。
エレベーターはある階につくと、扉が開く。
啓介はオレの手を引っ張って、歩いて行った。
空いている部屋のドアを開け、オレに中に入れと促す。
”そういうこと”をするための部屋なんだよな…そう思うと、何だか胸がドキドキする。
変なオレ。もう、みんなこの姿のせいにしてしまおう。
中に入ると、大きなベッドが一つだけ。
壁は鏡張り。天井も。照明は雰囲気作りか、少し暗い。
「…何で鏡なんだ?」
後から入ってきた啓介にそう尋ねると。
啓介はさあ?と言って笑った。
何故か知ってる顔。…言いたくないんだったら…いいよ、もう。
「アニキ」
きょろきょろ部屋を見渡してるオレを、啓介は背中から抱きしめた。
そして……部屋の真ん中にあるベッドにどさっと倒れこむ。
啓介の下になって……見詰め合って、自然にキス。
「……ん…」
最初触れるだけのキスも、だんだん深くなっていく。
思わず声が漏れた。気持ちよさに。
啓介とするキスは好き。
…他の人としたことなんてないけど、すっごく気持ちいい…。
下手すれば、キスだけでいけるような気もするし。
キスをしながら、啓介は器用にオレのシャツのボタンを外していく。
オレも…啓介の着てるTシャツの裾から手を入れて、捲り上げて脱がそうとした。
でも、上手く行かない。
自分だけ脱がされるなんて、そんなの割にあわないだろう?
それに気付いた啓介はくちびるを離し…くすっと笑うと、身体を起こし腕を上げた。
オレにシャツを脱がせるために。
「……」
オレはそのまま裾を持って、引き上げる。容易に脱がせた。何か…こういうのもいいよな?
上半身裸にさせられた啓介を見て…ため息が出る。
均整のとれた身体。太りすぎず痩せすぎず。
筋肉も程よくついてて…でも、最近逞しくなった気がする。
…男の身体。羨ましいほど。
今日ので少し日焼けしたのか…いつもより違う感じ。
「どした?」
ぼけっと見てるオレに不思議に思ったのか…啓介はオレの顔を覗き込むようにして見る。
見惚れてた、啓介に。
恥ずかしくて、何でもない…と啓介にちゅっとキスをした。
座ったまま、啓介はオレの服を脱がしていく。
ボタンをすべて外され、はだけたシャツの中から、覗く…白のフロントホック(じゃないとオレが留められない)のブラ。
それを外して、直に胸に触る。
…ほんっと、啓介って胸が好きだよな…。
抱くたびに執拗に揉むから、今使ってるブラが少し、きつくなった。
…これって大きくなったってことだろう?
「そう言えば…アニキ、何でもしてくれるって言ったよな…」
さっきのシャワー室での一件を啓介は思い出してそう言った。
確かに、言った。何でもするから、と。
ふと啓介の顔を見ると…にやにやと何か企み顔。
…やな予感。
「だったらさ……してほしいこと、あんだけどさ…」
「何だ?」
オレの耳に口を寄せ…囁くようにして、その”してほしいこと”を言った。
「―――!」
聞いた瞬間、啓介から離れる。けど、啓介は許さなくて。
腕をしっかり掴んだまま……にっこり笑っていた。
「や…やだっ」
「何でもするって言ったよな?アニキ、ウソツキじゃねえよな?」
「〜〜〜〜〜」
何も言い返せない…。確かに、言ったから。何でもすると。
は…恥ずかしい…。そんなこと、出来る訳ない…。
「オレ、アニキが女になってからずっと…やってもらいたかったんだよな…」
オレの胸の形を確かめるように両手で優しく掴み…ゆっくり揉む。
それに、オレの身体はびくん、と跳ねた。
啓介が、要求してきたコト。
『アニキのこの胸で……オレ、いかせてよ』
つまり…オレの胸で啓介自身を挟んで…擦っていかせる…という、あれ。
「アニキのこの胸の大きさだったら、余裕でできるって……な?」
「……」
どんなふうにお願いされたらオレが断れないか、啓介は知ってる。
だから、たちが悪い。
…年甲斐もなく、上目遣いでオレを見て……甘えるような口調で。
バカ。
「……今日一回きりで…もうしないからなっ」
やっぱり断りきれず、そう言うと…啓介はうれしそうに大きく首を縦に振った。
「……すっげ、アニキ……気持ち、い……」
それから。
お互い服をすべて脱がし合って。貪るように深いキスをして。
啓介の望むまま……自分の胸で啓介を挟んで……擦る。
すごく恥ずかしい。こんな思いをするのは、もう一生に一度でいい…。
自分の胸をこんなにしっかり掴んだこともなかったので、あまりの柔らかさに…驚きでもあり。
…啓介が好きなわけもわかるかも。
「ど、う……?」
初めてすることに、本当にこんなのでいけるんだろうか…不思議でたまらないけど。
啓介の表情見てたら…こんなのもいいかも。なんて思い出す。
いつもはオレが啓介のひとつひとつの動きに翻弄されて乱れてるのだが、
今は…その逆。オレの動きで、啓介の表情は変わる。
「いいよ…アニキ。続けて…」
「ん…」
言われるまま、胸をぎゅっと内側に寄せて…上下に揺らす。
そのたび啓介のは熱く固くなっていった。
……そして、俺も何故か…感じている。
身体が熱い。啓介に……触って欲しい…。
「…くっ、あ、にき……ごめ…っ」
「え…」
ふとした瞬間、啓介は限界が来たのか。
オレの胸に挟んだまま、いった。
勢い良く出た白濁した液は、思いっきりオレの顔にかかる。
思わず、胸を離し…身体を起こした。
「けーすけ……」
「ごめん、アニキ……」
顔にかかったものを、腕で拭う。荒くなった呼吸を整えながら、啓介もキレイにしてくれた。
…いや、でも満足。
オレのしたことで…啓介がいってくれたから。
「気持ち…良かったか?」
「うん。もう、めっちゃ…クセになりそ…」
「…二度としないからなッ」
啓介の言葉に、オレは口調を強めてそう言うと。啓介は笑ってわかってるって、と言った。
あたりまえだ、今日は特別なんだから。
もう…こんな恥ずかしいことは二度としない。
啓介をいいように出来るのは何だかいい気分だけど…自分の胸に触るのには未だ抵抗があるから。
ぷくっとふくれたオレに、啓介は苦笑し…そのまま、オレを押し倒す。
そして、キス。
「じゃあ、さ……今度はアニキ、気持ちよくしてやるな…?」
そう言った後、オレの足を大きく開かせ……今啓介に奉仕してる間に感じて濡れたそこに、くちびるを這わせた。
「……や、あぁ…んっ」
いつもと同じパターン。
啓介の舌や指の動きで……甘い声がとめどなく漏れる。
いいように乱れさせられて。ベッドの上で踊らされる。
気持ちよすぎ。啓介相手だから…こんなに感じるのだろうか。
感じれば感じるほど、啓介がどれだけ女を食い物にしてきたか思い知らされて。
繋がれば、兄弟と言うことを思い出して…罪悪感に苛まれる。
本当は…こんなことはあってはいけないのに。
でも、啓介を離したくなくて…見て見ぬ振りをする。
シーツをぎゅっと握り……押し寄せる快感の波に必死に耐える。
「気持ちい…?アニキ…」
そう尋ねてくる啓介に、オレは首を縦に振ることしか出来ない。
気持ちよすぎ…。
いつもより、感じてる。何でだろう…不思議だ。
ふとした拍子に…顔を横に向ける。
壁の方を見て、目を大きく見開いた。
…鏡張りになってるため、自分と啓介の姿が映し出されている。
(……っ)
足を大きく広げた、オレ。その足の間にある啓介の頭。
すっごい恥ずかしくて…顔を背けた。天井を見るが、天井も鏡。違った角度でオレと啓介が映し出されて。
……こういうための、鏡なのか…?
しかし、不思議と身体が熱くなるのを感じた。芯が熱い。
啓介に弄られてるそこから…更に液が出るのがわかった。
「すげ…アニキ、めっちゃ感じてる…?」
「ん……ふぅ…」
くちゅくちゅといやらしい音がする。
その音も、鏡に映る淫らな自分の姿も…弟と繋がる罪悪感もみんな、快感へ変わる。
もう、何も考えられない……頭は真っ白。
欲しいのは、ひとつだけ。
「けーすけ……も、いいから、きて……」
「アニキ」
オレの顔を見る啓介を抱き寄せて…キス。
足りない足りない。
啓介が欲しい。オレを啓介でいっぱいにして……。
そう言うと…啓介はにっと笑い、十分濡れたオレのそこに啓介自身を当てた。
その感触に…オレは無意識に息をつく。
そして、啓介はぐっと入れた。
「―――――あ…っ」
いつ抱かれても、この時は慣れることはない。
いつもきつくて…苦しくて。でも啓介は優しく、ゆっくりと先を進めてくれた。
啓介に言わせれば”いつもしまりが良くて最高”ならしいけど。
そんなの…オレにとっては、めちゃめちゃ恥ずかしいだけだ。
無駄に強張った身体から、力を抜けさせようと…啓介はオレのくちびるにキスをする。
口を割って、舌を入れて…オレのそれと絡めて。
そうすると、キスの方に意識が集中し、身体から力は抜けた。
「アニキ…動く、な?」
「ん…」
それを鋭く察知した啓介は、くちびるを離し…オレの耳元でそう言った。
その声すらも感じて、オレは返事と言うか、熱い吐息を吐くだけしか出来ず。
でも、それを肯定と受け取った啓介は、ゆっくりと腰を動かし始めた。
「ぁ、あ……ん」
啓介が動く度、湧き起こる快感。それは背筋を通って…頭まで来る。
頭の中が、真っ白になる。
他には何にも考えられなくなって……。
啓介の、コトだけ。
甘い声を出しながら…啓介に与えられる快感のやり場がなくて…シーツをぐっと掴む。
それに気付いた啓介は、その手を取り…自分の背中に回させた。
「……アニキ」
「けー…すけぇ…」
見つめて、キス。
…すごく、幸せ。
だんだんと、啓介の動きは強く…激しくなっていく。
啓介の背中に、爪を立てる。
激しい感覚に、どこか飛ばされそうな錯覚がして…しっかりと啓介にしがみついて。
「も…オレ、だめ…。アニキ、中…で出させて……」
「…っ!だ…だめ……ッ、やだ…けいすけ……」
限界が来たのか啓介はそう言う。歯を食い縛り…。
オレは、啓介の言葉に思いっきり抵抗する。
冗談じゃない……ただでさえナマでやってるのにっ。
いくら元々男と言えど…今はオンナなんだから……。
しかし、オレの言葉を聞かずに啓介は、そのまま…。
「…っ!」
「い、や…ああッッ」
オレの中で、果てた。
そして、敏感になった中に勢い良く叩きつけられるものに、オレも…目の前がはじけた。
+ + +
一緒に風呂に入ると言う啓介を蹴飛ばし、バスルームへ行く。
あの後、啓介は落ち着くと…オレに謝った。
ごめん…と項垂れて。その仕草が可愛くて…思わずオレは笑ってしまった。
もう、いいよ。そんなに怒ってないから。
そう言うと、啓介は明るく笑った。
……言わなくていい余計な一言を足して。
『でも、生理直前って安全って言わねえ?』
その啓介を殴ったのは言うまでもない。
シャワーから湯を出し…身体に当てる。
自分の腕を手のひらで擦って、気付いた。
(何か……つるつる…)
女の身体になって、つくづく思う。女になると際立って肌が白くなり…キレイになる。
それも…最近、増してきたようだ。
この身体でも、啓介に愛されるようになってから。
「……」
目の前の鏡に、自分の顔を映し出し……見る。
普段より、可愛く女のようになった顔を…。
恋をすると、女はキレイになるって言うの、本当だと思う。
大体本人は自覚はないが…ココロとカラダが違うオレにはわかる…気がする。
この身体はどんどん、キレイになってるから。
ある意味…自分がどれだけ幸せか……物語っている物証。
つくづく、思う。
最愛の人に愛されて。自分も愛して……その、幸せを。
「…大好き、けーすけ……」
本人には口に出しては言えないけれど。思わず、呟いた。
身体をすみずみまでキレイにして、バスルームから出ると…。
啓介は不貞腐れたのか、ベッドに寝転がってビデオを見ていた。
……それも、こんな場所だから当然のアダルトビデオ。
平然と見ている啓介に、何か呆れた。
「何見てんだ、おまえ……」
「ん〜?いや…このオンナ、演技下手だよなって思って」
「……」
啓介にとっては、普通のテレビ番組を見てるのと同じなのだろう…。
それだけ、免疫もついてるのか?
啓介はテレビのリモコンで電源を切る。オレはそんな啓介の横に…座った。
「これから、どうする?アニキ」
オレの顔を見上げるようにして、そう言った。
……どうしようか。
出来れば…まだ、帰りたくなんてない。帰っても、いつもの日常が待ってるだけだし…。
啓介とすれ違いで、十分一緒にいられなくなる。
もうちょっと…一緒に、いたい。
そう思っていると、啓介はそのオレの心情をわかってくれたのか。
「明日は…空いてるの?」
「うん…空けようと思えば、空けられる」
「じゃあ…ここ出て、ちゃんとしたホテル取ろう…。メシ食ってそこに泊まって、明日も遊ぼう…な?」
帰るのは、明日の夜でいいよな…?
そう言う啓介に、オレは目を見開く。
うれしくて……あと1日、一緒にいられると思うと。
「ああ…いいよ……」
返事をして、啓介にキスをした。
+ + +
それから、啓介がシャワーを浴びて出てくるのを待ってから。
そのラブホテルを後にした。
土曜日でいきなりホテルの部屋も取れるか心配だったが…無事取れて。
そこに、泊まった。
そして……次の日は、ドライブしながら…めずらしい物、楽しそうなものを見つけては、
停まって見たり遊んだりした。
楽しかった。思いっきり…笑えた。
前日の海と同じくらいに。
「啓介…今度は、温泉でも行こうな?」
「あ、いいな、それ」
夜。ようやく帰路についたFDの中で…啓介に提案してみる。
すると、のってくれる。…また、頑張って時間を作ろう…。
今後、更に多忙を極めるだろうけど。
啓介と一緒に旅行できると思えば…そんなことは何でもない。
昨日と、今日のことで……実感したから。
こんな幸せな時間はない、と。
…楽しかった、2日間。啓介とずっと一緒で。
絶対に忘れない…忘れられない、夏の日。