貴方が
野の気紛れな鳥なら
自分は
後ろ指指される
虚け者になって
窓を全壊に開け放って
飛び込んで来る日を待とう
晴れの日も
風の日も
雨の日も
雪の日も
嵐の日も
赤銅の優美な骨董鳥篭を用意して
白銀の繊婉な匙で奢侈を食させ
黄金の絢爛な水桶で清めてあげる
黒鉄の無粋な錠を鳥篭の蓋に掛けるなんて真似はしたりしない
ただ…
傍に居て欲しいだけ
子供の我が儘めかした口調に反して、掴まれたシャツの袖が小さく絹鳴きする程の禍心に塗れた強梗さに涼介は淡い困惑と濃い怖懼を感じた。
無理に引き離した後、如何なるか奈何に扱われるかの想像力ばかり逞しくなって嫌になる。
仕打ちを忘れて優しく微笑むことができる様な莫迦もできないくらいには、己を愛しているし。
「…啓介…」
放してくれる様、微量の溜息で弟の名を喉から辛うじて送り出したが。
白絹を掴んだ手の筋が浮き上がっていくのを煽るしかない怯えに掠れた声。
何も言えなくなっていく。
徐々に冰りゆく指先。
吐息すら肺から出せなくなる。
引き攣った素布が呻吟すら漏らさなくなる。
苦しさに蒼白の塑像になった頃、漸く袖を離してくれた。
代わりにシャツを纏った躰が啓介の腕の中。
忿恚やるかた無く、せめてもの意趣返しにたっぷりと厭魅を篭めた接吻をこちらからしてやった。
まるで空城の計。
開いてくれているのに一歩たりと踏み込めない。
孤高の清らな白亜の牙城。
蹂躙するため迂闊に押入れば手痛い竹箆返しを喰らう。
悴容した冷艶は油断させるための狡猾な婾合。
奸猾な策にはそれに値する報復が相応しい。
「…アニキ…」
悚慄と震える蒼白い肢体の耳許で酷薄な溜息と共に囁いてやった。
そうすればただ開いただけでなく、自分から恩赦を求めて誘い込んでくれることを知っているから。
いや、そうするように誣欺を以って教え込んだ。
侮ってはいけないし、侮られてもいけない、吐く息にすら緊張を篭める切迫した距離に怳忽とする。
蕩かされる程の蠱惑の猛毒に緩慢に痺れさせられてゆく躰。
理性を打遣って恣逸に挑む。
魔王の傲慢と残虐と慈愛を有りっ丈注ぎ込み。
断末魔の悲鳴を張上げ堕ち行く白膚の背を肅条に抱いて、言葉をも蒸発させるかの様な灼熱の接吻をしてやった。
…そう
傍に居て欲しい!
居て欲しいから
大理石の床に落とし
割ってしまった
青磁の哀れな欠片で
その強かな翼を傷つけ
二度と野に
帰れなくしてもいいかい?