天使の牢獄

Ein gefallener Engelchens Käfig

穢濁に塗れて

汚れきったその翼

バベルの塔を

再建して

神に直訴しても

もう

戻りはしないのだと

優しく最後通告

 

 

その時、絳唇が動く様を如何しても見たくなったから、彼が嫌がることをした。

食事も碌にしない人だからそうそう見られないのだ。

もしかしたら俺の前でだけかもしれない、食事を控えるのは。

そうでなければ俺より1cmとはいえ、長身になるはずがない。

そんなに嫌?

「はい。口、開けて?」

写真の美しさに釣られて注文してしまったデザートの期間限定パフェ。

すらりと長い匙に掬って、畸形の欲望を無邪気さの恌いヴェールでお座成りに包んで差し出した。

眉を顰める西施の美貌もこれには敗北するであろう凄惨な艶。

かたり、と手元の紅茶のカップを鳴らして白い甘味を拒む素振を見せた。

許せなくて瞳に憎悪を篭める。

微かに慄いた猩々血の脣吻は、それでも人目のあるファミレスのこととて頑迷に開かなかった。

「………」

他人がいる場所なら無理強いしないと勘違いしてる?

余りに勿体無いからしないだけなのだと教えてやろう。

貴方の喀する様に啼く姿は俺だけが独占したい妖冶だからなのだと。

「いらない? じゃ、しょうがないか」

瞳はそのままに、口端を持ち上げ笑顔を作っておいて、融け始めた冰菓子を舌の上で堪能した。

今晩味わう、それ、を思い浮かべて。

 

 

ファミレスから帰る途中、後ろについていた筈の黄色のFDがミラーから消えて走り込みにいったのかと甘い開放感が背骨を伝ったけれど。

コンビニに寄道しただけで追ってきた。

当然のように俺の部屋へ入る。

もう縄張りの一部に組み込まれていて、ここで抗うのは法律違反。

おしおき、と言うけれど、それは死刑執行の間違いだ。

パソコンデスクの前の椅子に座した俺の背後、皺一つなくメイクされたリンネルを喬然と乱し、腰を据えた。

「もっと食べたかったから」

そういって小さな茶色のカップのヴァニラをコンビニの白いビニール袋から取り出す。

蓋を外し、中蓋のフィルムを剥がして乳白色の冷甘味を蛍光灯に晒した。

先程拒んだ罰にベッドの上で食べさせられる。

俺の命を屠るなら、俺もお前から別のものを奪って構わないだろう?

アイシテル、と囁いて報復のために抱き締めてくるのだから。

オレモダヨ、と吐息で返して掠め獲る準備を整える。

熱い呼吸で乾く唇を舐め濡らし、お前が好む様に遣瀬無く震わせた。

囀ってやるよ。

慈悲を乞うて泪だって流してみせようか?

「なぁ…もっと、声、聴かせて…」

啼いたほうがいいのか?

望みのままに。

嫐れ絡み付かせて逃がしはしない、この腕の中から。

もっと貪り喰い尽して、誘惑のため意図的に造ったこの躰を。

ヴァニラエッセンスの噎せる様な香りの接吻を飽く事無く交わして、それ、を偸窃する機会を身悶えながら窺った。

 

 

零落した死の天使

Harpies

挽歌を奏でる

吟遊詩人の傍らで

魂を貪り喰らう

恐怖の女神

その翼を癒すためならば

どんな魂でも構わないと言わんばかり