覚悟していたよりも、随分。
「、ん、っ」
「……ン?」
「ん……」
楽だった。というと語弊があるが、少なくともマトモだった。後遺症なし、心身ともに健康を保証されて退院、屯所に帰って来た王子様のセックスは。
「期待されてたンなら、おこたえしますぜぃ」
口ではそんなことを言うが触れてくる指先は優しい。好き放題の蹂躙、AVみたいなサービス、もしかしたら痛みをともなうプレイなんかも、させられるかと覚悟していたのに。
「あんた虐められんの結構スキですもんねぇ」
そういえば寺に忍び込まれた夜も、強姦だったがセックスは優しかった。押さえ込まれて無理矢理だったけどこっちの息に一生懸命合わせようとする腰つきに愛情があって、そのせいで気持ちよさを拒めなかった。
「ランボーな方がいい?」
問われる。かぶりを横に振る。このまんまが、いい。
同衾してカラダを重ねてるけど粘膜は暴かれていない。毎晩同じ部屋で抱き合ってるけど本番は二・三日に一度、抱き合って擦り付けあうペッティングで何時間も愉しむことが多い。ゆっくり愛撫されて昂ぶって、一年前の記憶よりずいぶん逞しくなった気がする肩に縋りつき、むせび泣きながら零す。
「この、イロが」
内腿に当る王子様の熱を感じながらの快楽が深い。自分の芯がじんわり熱くなってて震えてるのが分かる。これはオンナのキモチヨサかもしれない。少し苦しくて底なしに甘い。
「スキな、カンジ」
力が抜けた指先にキスされる。こっちに重みをかけないよう気遣ってシーツに肘をついている王子様が、首を伸ばしてくる、仕草は懐いてる犬みたいで。
「ごきげん?」
笑っていたらそんなことを尋ねられる。ああ、と、正直に頷いた。なぁ、お前こんなに、可愛かったっけ?
それとも今だけは爪を隠して、こっちを油断させて食いつくつもりなのか。甘えて懐いたフリしといて、また喉笛にかぶりついて噛み裂くのか?
「油断、ってぇか、ハメたい。だますの方じゃなくて」
セックスに?
「俺を散々、甘やかしてくれたフクシュー。今度は俺がアンタのことそーしてやりますぜ。そんて、もう、俺にされなきゃイケなくなっちまいな」
そう、なるだろうなそのうち。こんな抱き方を繰り返されてたら。こういうのに慣れたらフツーのオトコじゃ満足できなくなる。愛情の中に全身さらわれて頭までたぷんと漬かって、肺の中まで蜂蜜色の液体に満たされて、身動きがとれなくなる。
「……俺がされたみたいに」
お前が、どうした?
「アンタの味に慣らしといて捨てたろ」
俺にお前のクセつれてから捨てるのか?
「そんな洒落た真似できるぐれぇなら、こんな格好わりぃ破目になっちゃいねぇよ……ッ」
怖いくらいに脈打つ蛇が、そろそろ限界そうだったから体の間に指を忍ばせて撫でてやった。瞬間、ぎゅ、っと苦しいほど抱きしめられて。
「……、ッ」
全身で肌を貪られる。王子様の歓喜が伝わってきて、こっちまで妙な気分に、なる。
なぁ、おい、総悟。
お前こんなに可愛かったっけ?
「あんたの汗の匂いだけでイケますぜ、俺ぁ」
可愛いなぁ、お前。
うまくだますもんだ。
「……してねぇよ」
お前の復讐が終わったら、きっとこれを思い出して、俺は苦しむんだろうな。
「恨み、忘れてやってもいいですぜぃ。あんたが俺を許してくれるんなら」
「しつけぇなおめぇも。許してるって何べん言わせる気だ」
「あんたの返事がウソだからだよ」
「ホントだ、信じろ。ただ」
ただ、忘れられないだけだ。懐に懐いて来ながら喉笛に噛みついた、お前の牙の、痛みがどうしても。
「あんた、まだ近藤さんのこと好きなの?」
宵の口から抱き合って日付が変わりそうになっても、カラダを寄せ合いながら、そんなことを尋ねられる。
「セックスしてぇの?だかれ……」
たいのか、と聞きたがる王子様の口を、そっと唇で塞いだ。
願いを込めて優しく。頼むから、それに触れないでくれ、と。
祈りは通じて、離した後も、王子様の唇は動かなかった。代わりに腕が、こっちの肩を抱きしめ絡みつく。応じて抱き返した。
何も言わずにじっと抱き合って、睡魔がやってくるのを待つ。
「……ナンか、お願い、ねぇの?」
閉じた目蓋にキスを落とされながら、王子様が掠れた声でそっと尋ねてくる。
「約束したろ、出てきてくれたらなんでも言うこときくって。言えよ、叶えてやるからさぁ」
願い。
あったかな。あったかもしれないが、もう、忘れた。
「明日は、ヤるから」
分かった。用意しとく。
「ちょっと長いかも」
いつもの、こと、だ、ろ……。