うさうさ物語・27

 

  ぽてぽててててッ。 
 スタタタタタタタタタタッ。
 京ちゃん、京ちゃーん!!居ないの?お部屋にも居ないし、ドコ?
「あれ、うさぎどーした?そんな必死で駆け回って」
 松葉箒を片手に、石庭に流水に似た筋をつけてるハンサムしゃんが、お庭からうさうさに聞きまちた。
 うさ、京ちゃんを捜しているの。知らない?
「あぁ、あいつなら、新館でシーツ交換、してる筈だぜ」
 ありがとう!
 ン・バ・ビューン!
「……どうした、うさぎ」
 お昼前。ちょうどオキャクサマが入れ替わる時間。
 シーツ交換、っていうとカンタンなオシゴトそーでしが、実はなかなか、大変なんでしの。
 このお旅館のお布団は、ふかふかの羽根布団。
 しかも、ぜぇんぶ、セミダブルサイズ、でし。
 おっきいお布団を、ばさっと拡げて、何十枚も、シーツを掛け替え。
 重労働、でしぃ。
 客座敷の青畳みの上で、姿勢をキメてピットおせなをお伸ばしちて、ばさばさ手際よくシーツを替えていく京ちゃんは、んふ。ちっとだけ、おステキぃ。
 あ・でも、そんな場合じゃなかった。
 京ちゃん、京ちゃん、ねぇ京ちゃーん。
「だから、何だ。……布団の上で暴れるな」
 うさぎ小屋に、だぁれも、居ないの。
 うさ、挨拶ちよーと思って、うさぎ小屋の前でスピスピ、ってお鼻を鳴らしたのに。
 誰も、お返事、ちてくりないのぉ〜。
 うえぇえぇぇーん!
 京ちゃん、みんなを食べちったんでしか……?
 うぇえぇぇーん。うさ殺しぃいぃぃいー!
「布団の上で泣くな。馬鹿、山でとってきたあおくび(鴨)ならともかく、飼ってるうさぎを、イマドキ食べるかよ」
 コテン。うさが乗ってたおシーツが引かれて、うさうさはお畳に、コテテン。
「車庫に居る。真冬はな。お前、去年、小屋うつす前に、涼介のところに貰われたからな」
 ……ぁ。
 しょう、なの。
 そーでしネ。いくら板で目張りをちてもらってぇも、戸外のお小屋は寒いでち。
 車庫、でちね……。……車庫。…………。えぇと……。
 ドッチ?
「ランエボが置いてある方だ。ちょっと待ってろ。この部屋の分を終わったら連れて行ってやる」
 はぁーい。んじゃ、うさ、小屋の前に置いてきちったオカラの袋を、取りに行ってきまーし!

 

 おからの袋を抱いたうさうさを、抱っこちた京ちゃんに連れられて、うさは車庫へと、向かいまし。
 のっし、のっしと、京ちゃんは歩いて行きまし。
 旅館の裏、従業員さんたちの寮を通り過ぎて、さらに坂を登ったところが、京ちゃんのガレージでし。
 ……っていうか。
 外観は、わらぶき屋根の、小屋でしの。
 昔、農作物や農機具を、収容していたお小屋なんでし。
 お壁は藁まじりの土壁。土の隙間から、組んだ竹編みがところどころ、見えてまし。んでも、夏は涼しいし冬はあったかくって、いいところ、なんでし。
 電気は引いてありましの。京ちゃんが、パチン、ってスイッチをいれると。
 ……ア。
 奥で、気配が、いたちまち。
 みんな、みんなぁ〜!!
「いてっ、突然暴れるなよ」
 うさが蹴っちったお顔をなでながら、京ちゃんは、うさを下ろしてくりまちた。
 うさうさは、おからの袋を抱えてばたばたた!
 みんなぁ……!
 小屋の奥には藁がこんもり置いてあって、こりがみんなの寝床みたい。
 みんな、久しぶり、久しぶりでしの。
 うさでしよ。覚えてくりてましぃか?お正月だから、ちっと帰って来たの。
 こり、オミヤゲでし。お豆腐のオカラ。大豆で作るんでし。
 えへへ、うん。うさ、おっきくなったでちょ?
 この前、一歳になったんでしぃ〜。
 とっても元気に、シアワセに暮して、まし。ちょっとここの若女将さんに似た、ビジンの飼い主しゃんに貰われてね。いっつも一緒に居るんでし。
 可愛がられてましぃのヨ!
 じぃじぃうさぎのじじしゃまが、よかった、よかったのぉ、って。
 泣いたらダメでしよ、じじしゃま。おメメが悪くなっちゃう。ぺろぺろ。
 じじしゃまも、お元気そうで、うさ嬉しいでしぃ〜。
 若ボンが、って京ちゃんのことでしが、うさを突然連れて行ったから、みんなで心配ちてた、って。
 みんなが、かわるがわる、うさのお顔を、なめなめ。
 うさも一生懸命に、舐めかえしぃ〜!
 うん。京ちゃんのお友達が、うさの今のご主人様なの。ううん、家族、なの。一緒に暮してるの。
 うさね、うさうさ……、みんなのおかげで、とっても……、しぁわ……、
 うえぇえぇぇーん!!
「……夕方、また迎えに来る」
 なきなきのうさをそこに置いて、京ちゃんは小屋から出て行きまちた。
 うさは、久しぶりに会った仲間たちと、コロコロロ。
 ねぇ、みんなゴハンはもう食べた?
 おから、おいしいでしよ。一緒に食べようよ!
 袋を開けて、みんなでアムアム。
 みんなおいしい、って、言って食べてくれまし。えへへへへ。
 文太パパがいっぱいくりたから、みんなでオナカイッパイに、なりまちた。
 こりで安心たい、いつお迎えが来てもよか。おまえさんが他所サンで可愛がられて、毛並ツヤツヤで元気にしとるて、月に行ったら、おかーさんに言うとくけん。
 そう言って、おじーちゃんうさぎのじじしゃまは、おクチにおからをつけたまま笑いまちた。

  

「うさぎを知らないか?」
 離れの布団の、シーツを替えにきた男に賓客は尋ねた。
「昔の仲間んとこ、遊びに行ってる。言わなかったのか」
「言ったけど、遅いから」
「大騒ぎになってたからな。おからの大袋と一緒に行ったから、夕方までは帰って来ないと思うぜ」
「……そうか」
「呼ぼうか、弟」
「……」
「昼飯の相手が欲しいんだろ?」
「……」
 答えずに、けれど肯定をこめて、ビジンは微笑んだ。
 陽がさしたように明るく。

 

 

ある日のうさ日記・うさと昔の仲間たち