ある日のうさ日記31・うさうさのバレンタイン

 

 

 ……くぅ、うぅん……。

 うくく……、ぅ、ん……。

 お外は雨の音。朝だけど暗いでし。時々、雷しゃんも鳴ってまし。春の嵐カナ?

 雷が、ダイキライなうさうさは、昨日の夜から、びくびく・ふるふるでちたぁ、の。

 んでも、にぃにぃとハンサムしゃんは、トキオでご用事があるから、ってうさを置いてお仕事に行ったまんま、なかなかお家に帰って来てくりなくて。

 うさ、怖くて、一人でリビングの、イッスの下で泣いていたら、ね。

「クン、クン」

 って、お外で、鳴き声が、ちたの。

 お隣の、甲斐犬の、フィッツ君。この辺では一番の猟犬で、山に猪狩りに行く猟師さんたちが、みんな誘いに来る猛犬、なんだって。体重は十キロちょっとしかないけど、二十八キロのハスキー犬もお道を譲るの。首輪はしてるけど、ご用がない限りは自分ちぃの庭から出ないから、鎖はつけてないの。

 そんなフィッツ君が、うさを心配ちて、垣根を越えてきて、くりたの。

 うさうさは、嬉しくて、すぐにお玄関のくぐり戸からお外に飛び出したの。

 お外、土砂降りだったけど、フィッツ君のぼんぼんの下に庇われて、うさうさは、フィッツ君の犬小屋に連れて来てもらったの。

 ねむね、ちなさい、って言われたけど、うさは眠らないつもり。だって、にぃにぃが帰って来たらお帰りなさい、しなきゃ、って思って。

 んでも、フィッツ君が、あのウルサイ車が帰ってきたら起こしてあげるよ、って。

 言ってくりたから、ちっとだけ、ねむねむ。

 しょのまま、朝になっちった。

 横になったフィッツ君の、柔らかなお腹の毛の下に、うさは半分、埋もれてくぅくぅ。うさね、うさうさ、こーやってるの、しゅごく、スキスキなの。

 なんか、昔、こーやって、ねむねむちてた、気がするの。

 きっとうさのおかーさんが、こーやってうさを、寝せてくりていたんだと、思うの。

 フィッツ君はわんこしゃんで、うさぎじゃないけど、優しいところ、ちっと似ているの。

 もちろん、うさはにぃにぃに抱っこちてもらうのが、一番スキだけど。

 やーらかいアッタカイ、フィッツ君の毛皮は、懐かしい、の……。

 うさが、お腹にお顔を埋めていたら。

 フィッツ君が、ふわふわお尻尾でうさのおせなを、ポンポン、ってタタキまちた。

 うぅーん。うさうさ、まだ眠いぃ……。

 ごそごそ、もぐりこもうとするうさの、おせなをも一度、ポン、ポン。

 ナニかな?って、うさが仕方なくオメメを開けたら。……ぁ。

 うさのうさ耳にも、ハンサムしゃんの、お車の音が聞こえてキマチタの!

 ありがとフィッツ君。起こしてくりたんでしぃノネ。

 うさもお耳はいいつもりだけど、フィッツ君は、そりどころじゃなく凄いの。うさが、お口元を舐めてご挨拶ちたら、フィッツ君もぺろん、ってちてくりまちた。えへへへへ。

 仲良し、でしぃ〜。

 うさがお外に出よーとちたら、あ・フィッツ君、またうさうさを庇ってくりたぁの。

 フィッツ君のぽんぽんの下から、うさはお家の駐車場へ。

 お帰りなしゃい、にぃにぃ〜!!

 ちょうど、お車から降りてくるところだったにぃにぃは、

「ただいま、うさぎ」

 フィッツ君の下から転がり出た、うさをひょいって、抱っこちてくりまちた。

「一緒に居てくれたのか。ありがとう」

 にぃにぃがお礼を言うと、フィッツ君、チラッとお尻尾を揺らしまちた。ほんのお愛想、でちたけど、お人に懐かないので有名なフィッツ君にとっては、しゅんごーい愛情表現なの。証拠に、ほら。

「……、この、クソイヌ……」

 お荷物を下ろしていたハンサムしゃんが唸ってる。うぅーん。多分、泥で汚れたアンヨで革靴を踏んだんでしネ。磨かれた靴を見ると、踏まずにはおれないみたい、フィッツ君。

「いっぺん勝負すっか?あぁ?!」

 ハンサムしゃんが凄んでまし。フィッツ君は、チラット笑いまちた。ううん、笑ったよーに見えるダケ。片方のオクチをぴらっと捲って、おキバを見せたの。うぴぃーん!こわぁあぁーい!

「負けるから、止めておけ、啓介」

 うさを抱いたにぃにぃに止めらりて、ハンサムしゃんはしぶしぶ、お荷物を抱えてお家に歩き出しまし。ガレージからは、裏口に、お雨にぬれずに直接入れるんでし。うさうさも、にぃにぃと、お家の中へ。さよなら、フィッツ君。昨日からホントにありがとう。またね。

「ちょっと、待ってくれ」

 ん、にぃにぃがフィッツ君を呼びとめまちた。

「これを持ってお行き」

 ポケットの中から取り出したのは、ちぃさい箱。リボンを解いてあけると、うわぁ〜!

 雨のニオイを押しのけて、チョコの香りがガレージじゅうに、充満〜♪くん。くん。ウィスキーのニオイも、いたしましぃのぉ〜。

「ウィイスキーボンボン、嫌いじゃなかったら」

 普通のボンボンの、五倍くらいあるおっきぃのを、にぃにぃはフィッツ君に差し出しまちた。フィッツ君はさっきと同じく、チラッて尻尾をゆらして、二個入りのうちのイッコを、お口に咥えて雨の中を、平然とお小屋に帰って行きましぃ。

 うさは、残ったイッコを、じいぃいぃぃー。

「ほら、ちゃんとうさぎのだよ」

 うきゅん!ありがとぉ〜!!

 受け取って、うさがにこにこしながら、リビングへ帰ると。

 ハンサムしゃんが、両手に持った紙袋を、テーブルの上にばさっと置きまちた。

 ……なぁに、しょれ……。

 いいニオイ……。チョコのお匂いが……、いっぱぁい……。

「昨日、バレンタインだったからな」

 チョコをたくさん、貰って来たんだ、ってハンサムしゃんが言いまちた。昨日、着ていったお洋服と同じのを着てまし。ヨレヨレのネクタイをとって、ソファーに腰掛けて、ふぅーって。

「……疲れた……」

 瞑った目蓋をモミモミ。昨日はしょういえば、対談の公開録音、とかでちたネ。うさにはどーいゆものなのかよく分からないけども、よーするにお仕事でしね。お疲れ様ぁ〜。

 お茶、入れてあげるね。うんちょ。

 そうしながらも、うさはにぃにぃから貰ったチョコレィト・ボンボンを離しましぇんでちた。

「サンキュ、うさぎ。お前のお茶、美味いよ、ホント」

 お茶を飲むハンサムしゃんのお隣に、にぃにぃがお座り。身体を寄せてあげまちた。ナンか慰めてるみたい。ハンサムしゃん、にぃにぃのそばでうっとり、しゅるうちに、どんどん元気が出て来る、みたい。

 ねぇねぇ、二人とも、いったいどーちたの?

「追いかけられたんだよ、帰り道。ファンと、記者に」

 あ、しょう。ハンサムしゃん、人気者でしもんね。

「携帯が普及して以来、追っかけから逃げるのは大変になったな。仕方ないから、高速を乗ったり降りたり。途中、ドライブインのお嬢さんが同情して、倉庫に車を入れさせてくれたんだ。そこで隠れて夜明けを待った。うさぎのことが、凄く心配だったよ」

 てへへ。うさうさはダイジョウブ!元気でケナゲな、うさぎでしからね。

「……ベッドで眠るか?」

 ハンサムしゃんに、優しぃく、にぃにぃが言いまちた。

「ん……。も、ダイジョウブ。それより勝負、しよ……」

 ソファの上で身体を起こしたハンサムしゃん、なんか、顔色までイキイキ、生き返ってましの。ハンサムしゃんは、にぃにぃがスキスキでしぃのねぇ。お側に居ると、元気になるんでしネ。

「ちょっとぐらい、数があるからって、いい気になるなよ」

 二つの紙袋の、片方をにぃにぃが手にとりまちた。

「へへ……。まず、ひとーつ」

「一つ」

「ふたーつ」

「ふたつ。啓介、お前は三個出せ」

「え、なんでぇ」

「そんなコンビニで買って来たようなチョコに、マリーの詰め合わせが一対一じゃ、マリーに気の毒だ」

「愛は同じだぜ、愛は」

「愛の深さは違うだろう。出せ」

「へいへい。三つで、次、よっつぅ〜」

「よっつ」

 ……二人、ナニしているでしか……?

「チョコレート勝負だよ。毎年、やってんだ」

「そうか。去年はうさぎ、風邪をひいて寝込んでいたから、知らないんだ」

「バレンタイン・ディっていってな、二月の十四日には女の子たちが、好きな男にはチョコをくれるんだ」

「あとでうさぎ、好きなの好きなだけ喰っていいぜ。鼻血出さない程度にな。いつーつ」

「五つ」

 勝負は、やっぱり、ハンサムしゃんの、圧勝でちた。やっぱり有名人だから?

 あぁ、うさうさ知っていたら、にぃにぃに、手作りチョコを作っていたのにぃ〜!!

「えへへへへー」

 む、ハンサムしゃんが、笑ってる。

「ニヤケるな」

 にぃにぃは、ちっと不機嫌。チョコが欲しかったの?うさうさ、今から買って来てあげる!うさ貯金箱、割ってくるから、ちっと待っててネ!

 どたどた、うさのお座布団と貯金箱がある縁側へ行こうとちたら。

「欲しかった、のとは少し違うんだけど」

 にぃにぃがうさを抱き締めて、頭を撫でてくりながら。

「なんだろうな。やっぱりすり込みかな。チョコレートをもらえる男が価値のある男、みたいな気が、やっぱりするんだよ。チョコなんか、俺は食べやしないんだけど」

「へへへへへー」

 目尻を下げながら、ハンサムしゃんが。

 持ってた、も一個の紙袋を、がさがさ。ナニでしの?

「アニキ、これ。……でかいだろ?」

 へらへら、嬉しそうな、ハンサムしゃん。

「あぁ、凄い、すごい」

 拗ねたみたいににぃにぃが答えまちた。ハンサムしゃんが持ってるお箱を、見もしないで。一抱え、うさぎのうさうさが五羽くらいのんの、出来そうな、おっきぃお箱、でしぃ〜。

「いいだろ」

「あぁ、いいな」

「はい、アニキの」

「……?」

「俺から。俺が買ったの。昨日のうちに渡そうと思ってたんだけど、疲れ果てちまってさ。一日遅れで、ごめんな」

 リボンのかかったおっきいお箱を、ハンサムしゃんがにぃにぃに渡しまちた。

 ずしん、ってカンジ。重そう。

 にぃにぃは、硬直しちって、動きましぇん。

 うさうさは知ってまし。こりは、にぃにぃが嬉しい時の表現でし。

「……ありがとう。開けていいか」

 にぃにぃがお尋ね。どうぞ、って、ハンサムしゃんは言いまちた。お箱のリボンを、にぃにぃは、はらり。うさうさは、ドキドキ……。

「……」

 ウッ、ヒャーッ!!

 凄い、すごおぉーい!

 うさの、うさぎのカタチの、チョコが並んでまし!おっきいうさが真ん中、周囲にはちーちゃいうさぎが、わらわらって、いっぱぁい!!

「でかいのは純カカオ。カップに入れてミルク入れて、ちょっとレンジであっためりゃ、ホットチョコにもなるって。ちっちゃいのは、中にナッツが入ってる。ピーナツとか胡桃とか、カシューナッツとか、いっぱい」

 うひゅーん!しゅごぉおぉぉーい!

 ホットチョコがダイスキで、ナッツがスキスキなにぃにぃには、ピッタリの贈り物ぉ〜!!

「ほい、こっちはうさぎにな」

 うさにもあるの?ありがとぉ。開けていい?

 くるくるリボンを、解きとき。……うひゃーん!

 乾燥野菜と果物の詰め合わせ、でしぃ〜!高菜、野沢菜、りんご、イチジク、ニンジン、ポテト、いっぱいありまし。嬉しいぃ〜!!

「気に入ったか、よかった」

 笑う、ハンサム、しゃん。

 ……、ハイ。

「なんだよ、うさぎ。ケツそんなに上げて」

 うさうさは、くりんとハンサムしゃんに、オチリを向けて、差し出しまちた。

 ゴメンね、うさ、バリンタイン、知らなかったカラ。

 ハンサムしゃんに、チョコ用意、ちてないの。

 だから代わりに、うさのオチリを、撫でていいでしヨ。

「なに言い出すのかと思えば……。んでも、まぁ、気持ちだけ……。あー、お前、気持ちいいなぁ」

 うさを、サワサワのハンサムしゃん、途中でうさを抱っこちて本格的に、さわさわ。

 そんなうさうさとハンサムしゃんに、ふらっと立ち上がったにぃにぃが。

 うひゃん!

 きゅうん〜。うさうさの、上に被さってきまちたのぉ〜。

 うさ、ハンサムしゃんとにぃにぃの間で、愛のサンドイッチ。

「……ナニ?」

 ハンサムしゃんのお声はとろけそう〜。

「あんたのことも、触っていいの……?」

「……」

 にぃにぃは、お答えはちましぇんでちた。

 代わりに、ほっぺを、すり、っていたち、まちた。

「……」

 ハンサムしゃん、ハンサムなお面が顔面崩壊、しゅるほどニコニコ。

「……うさぎ」

 ハイ。

「チョコ、好きなだけ、食っていいぜ。俺のもアニキのも」

 うん。ありがとぉ。

 うさうさは、モゾモゾ。二人の隙間から這い出してテーブルに、ぽてん。

 どりがオイシイかなぁ〜?

「……行こうか」

 にぃにぃとホッペをあわせながら、ハンサムしゃんが言いまちた。にぃにぃは、こっくり頷きまし。

 ふ、仲良きことは、美しきカナ、でし。

 さぁ〜!うさうさは、ドリをアムアム、ちよぉカナ?

 

 

 

 ある日ある時・うさうさ、チョコの山に埋もれる