うさうさ物語40・うさうさ北ドイツにて。
「マイふぃあんしぇ・極北なきうさぎ しゃまへ
おこんにちは。寒くなってきましたが、御元気にお過ごしでしか?
なきうさしゃまの恋のドレイ・南のうさうさでし。
うさは今、北ドイツの、中世の古城に居まし。
ここは、北海道と殆ど、同じの緯度なんだって。
山の上で標高が高いから、雪がもう、かなり積もりまちた。
雪を見るとなきうさしゃまを思い出してシアワシでし。
うさは毎日、古城の……、石垣を毎日、眺めてましの。
にぃにぃに呼ばれて、エンジン開発の研究室に連れて来られたとき、うさ、おっきいお城に、びっくぅり!
……んでも、ね。
連れて行かれたのは、お城の裏の、こじんまりしたお家、でちた。
石の壁が一メートルくりゃいあって、この厚みでサムサを防いでる、昔の農家を改装ちた、お家。
二階建てで、お部屋は7室、そりに倉庫や書庫、ちっちゃいホールも、ありましの。
夏の観光シーズンの間は、お城の従業員しゃんたちの寮になるんだって。
今は真冬で、観光客は来ないの。だからうさたち、しょこに住んで、まし。
お城の持ち主のドイツ貴族しゃま、今は自動車関連の会社をちていて、しょこの息子のハイネルしゃまが、冬の間は管理方々、ラボにちているんだって。
うさと、にぃにぃとハンサムしゃん、ふーみん、そりにマシン開発主任のハイネルしゃま、ハイネルしゃまと仲良しのアメリカのおつきぃシト。総勢、五人と一羽、でし。
ヒエラルキィは、ハイネルしゃまが頂点。研究助手のにぃにぃがそれに次いで、外部との連絡や交渉係りがふぅみん。うさは、みんなにお茶を煎れたりゴハンを作ったり、ネムネムの前にみんなにゆたんぽを配ったりしゅる、はうすきぃぱぁ、でし!
んで、ハンサムしゃんとアメリン人は、下働きの、下男しゃん。
毎日毎日、どかどかとフル雪を、ふんがぁ!と除雪して、下界との通路を確保、ちていまし。
週に一度の買出しの時は、お車のタイヤにチェーンを巻いて交代で、うさを町に連れて行ってくれまし。
最初はちっと、戸惑ったけど、こんな冬ごもりの暮らしもたのしぃでしネ。みんなと一緒に、夜はあったかなお酒を呑んで、シアワシに過ごしてまし。
んでも、うさねお城が気になってね、探険ちてきていいでしか、ってにぃにぃに、お尋ねちまちぃた。
そちたら、アメリカ人のヒトが、うさをお城の連れて行ってくれたの。
タオルに包んだ懐炉とか、遭難に備えた非常食とか、凍死を防ぐためのウオッカとか、毛布とかダウンジャケットとか、ロープに縄梯子、無線機まで持ち出した、時はうさ、きっと探険ゴッコをしゅるんだと思ってマチタ。
ハイネルしゃまが貸してくりた、アンゴラマフラーに包まれて、リュックサックにもぞもぞちて、うさは広いおせなに担がれて、ごぅごぅ、ピクニック気分。
んが、
行ってみて……、びっくぅり……。
鍵はもちろん、借りてきたのでし。裏門わきの通用口の鍵。んでも、鍵なんか、あってもなくても、オンナジ、でちたぁの……。
捺しても引いても動きましぇん。樫の木の扉は凍り付いて、うぅ、春までは動かないと、強硬に主張ちてまちた〜!
チカタないので、アメリカ人しゃんは、門の一番、低いところを狙って縄梯子を投げまちた。じょーずに投げて、先っぽの金具がうまく、引っかかったのを確かめて、ヨジヨジ。
気分は、雪国敵城特攻隊員、でしぃ〜!
門の上に跨って、今度は反対側に梯子を垂らして、よっこいしょ、って降りまちた。
降りたところはお城の前庭でし。長い石畳の道と、アーチ型の飾り門がありましの。うわぁ、しゅてきぃ〜♪
夏は噴水も動いていて、お花かたくさん咲いて、人気の観光スポットなんだって。
んでも、今は雪とサムサに閉ざされて、誰も居ない銀世界。
レンガと石に囲まれたしょこを、うさたちは進んで。
お城の建物の、ホールへ行きまちた。しょこで、固形燃料を燃やして、ウィスキーボンボンを溶かしたお茶を、飲みまちた。あったか湯気がシアワシで、ほこほこ。
がらーん、とちたホールの中を、しばらく歩いて。
中庭に抜けて、石造がいっぱいある、広い庭園をお散歩。といっても、雪かきちていない一面の大雪原、でちたけど。
大股に雪をブゥツで掻き分けて、アメリカ人のおシトがうさを、奥まで連れて行ってくれた、の。
しょこでやっと、お城の建物に到着。
もちろん、ドアは開きましぇん。
何処かのガラスを割って入ろうか、って言ってくりたけど、しょんなの申し訳ないから固辞ちて、うさたちは、逆のコースを歩いてお家に帰ってちまちた。
とっても楽しかったでし、ってハイネルしゃまとにぃにぃに言ったら、それはよかった、夏になったらまた遊びにおいで、って、ハイネルしゃま言ってくりまちた。
なきうさしゃまも、一緒に遊ぼうね!ステンドガラスの教会も、城内にはあるしょーでし。
うさうさと、しょこで……、いつか、ウェリング・ベルを鳴らして……、えへ、えへ、えへへへへ。
そりでは、今日はこのへんで。
うさは、清二しゃんが日本からいっぱい送ってくりた銀杏を、炒ってお八つを作りまし。
なきうさしゃま、銀杏はお好きかなぁ……?
来年の、北海道の雪が解ける前に、うさはそちらへ参りまし。
一緒に遊んで、くだしゃいネ!
あなたのうさぎ より」
その日の午後まで、たいへん平和な、ラボという名の田舎の家だったが。
「……え?藤原が……?来ていないぞ」
一本の電話が、そこに起居する五人と一羽をパニックに陥れる。
「いつ出発したんだ?一昨日の昼?なら遅くとも今朝には着く筈だな。車か?チェーンは巻いている?巻いていたって、この雪じゃ……」
史浩が外を見る。日は完全に暮れて、曇ったガラス窓にはぼんやり、彼の顔が映るばかり。掌を伸ばして二重ガラスの、窓の表面の水滴を拭うと、室内の光がか細く届く闇のなか、風に細かな雪が舞いながら降り続ける。室内は壁に通されたスチームで十八度に保たれて快適だが、外気温は零下十度を割った。
「わかった、こっちも捜索する。そっちからも、連絡が入ったらすぐに教えてくれ。ここは携帯は通じないから、俺たちは無線を持って外に行く。必ず誰か、電話のそばに居るから」
ちん、と電話を切って、振り向いた史浩は、落ち着いていたが緊張して。
「藤原が、こっちへ向かう途中で行方不明だ。軽装で、無線も持っていないらしい」
ざわり、うさぎを囲んでリビングで、夕食後の一時を過ごしていた面々が強張る。
「涼介、啓介。俺たちは探しに行こう。ヘル・ハイネル、申し訳ないが、電話のそばに、居ていただけるでしょうか」
「分かった」
「あいつ、ナンだってンなトコに来ようとすんだよ?」
「ミーも探しに行くよ!」
「い私が外に行こう。この辺の地理には私の方が詳しい」
立ち上がりあけた四十過ぎだが端整な横顔の、細腰のドイツ美形は、
「ハイネルさん、こちらで指揮をお願いします。俺たちは無線を一機ずつ、もって出ますから」
高橋涼介の進言に頷いた。
「分かった。遭難探索用の装備は一応、こっちに備えてある。何年かに一度、勘違いした観光客が城に来ようとして迷うからな。こっちだ」
倉庫には、非常袋とアルコール、救急箱、発煙筒その他を入れたリュックが置かれていて。
「見つけて、動けなさそうだったら発煙筒を。蛍光煙が出るから夜間でもつかえる」
「はい、分かりました……、ん……?」
バタバタみなについてきたうさぎが、カーペットを蹴って大きな音をたてた。連れて行けと言っているらしい。
「うさ、外は寒い。風邪をひくから、ヘル・ハイネルと居なさい」
涼介になだめられても言うことをきこうとせず、主人のふくらはぎにしがみついて離れない。
「うさぎ、この非常時に、ワガママ言うなよ!」
「いや、涼介、連れて行った方がいいかもしれない。俺たちが入っていけないところにうさぎは行けるし、耳もいい。夜目もきく」
今度は史浩の進言。涼介は三秒、考えていたが。
「そうだな。あったかくしておけば」
「アニキ、手袋」
「あぁ」
足もとを固め、雪靴を履き、分厚い手袋にリュック。うさぎは涼介が胸に下げたリュックの中に、ダウンジャケットに包まれて入った。
「これを」
差し出されたのは、先端が尖った鋼鉄の棒。
「熊は冬眠して居ないが、イノシシが出る事があるからね」
頷き、四人はそれぞれに武器を持って。
「……無事でいるといいが……」
二重扉の、厚いドアを開けた。
冷気が全身を突き刺す。