うさうさ物語44・オカチなハンサムしゃん

 

 

 じゃーじゃー、がしゃがしゃ。ふぅ、皿洗いも、久しぶりだと、ちっと疲れましぃ〜。

「……、さ……、うさうさぁ!」

 今日はふーみんが居ないから、お片付けまでうさの御仕事なの。やっとお皿を洗い終えて、お昼ご飯になる、鳥もも肉を漬け汁につけて、ふぅ、やっとうさうさの家事、午前の部、終了〜♪

 あ、ちまった、忘れるところだった。

 よじよじ、踏み台にのんのちて、冷凍庫をパカッ!

 中から凍ったお豆腐を取り出しておきまし。

 外で自然解凍ちて、今夜は、御豆腐と肉団子の煮物にちようっと。

 うさうさ特製・自家製の高野豆腐、みんな、オイチィって喜んでくりるのでし。

 

 

 

うさうさの高野豆腐・材料……木綿豆腐

 

 本当の高野豆腐は、くちなしの実で煮たり、干したり、タイヘンでしが、うさの特製はテヌキでし。

 まじゅ、お豆腐を水切りいたしまし。いつものよーに、カレー皿の中にコーヒーカップの受け皿を逆さに置いて、その上に御豆腐を乗せて、一昼夜ほど、冷蔵庫に放置しまし。

 一昼夜、たったらお皿に溜まったお水を棄てて、お豆腐を、適当なお皿に載せるかビニールに入れるかちて、冷凍庫に、入れまし。

 こりまた一昼夜ほどで、カチコチに凍りまし。食べたい時にそりを取り出して、自然解凍。暑い時期なら冷蔵庫の下段で解凍ちてネ。

 解けてくると、お水がタラタラと流れまし。そりを、豆腐の形を崩さないように、ギュと掌で押して搾り出しまし。むぎゅぎゅ、ぎゅぎゅー!

 そして出来上がったのは、スポンジ状の、高野豆腐でし!

 スーパーで売ってあるのとは違って、豆腐の層が残ってて、煮物にちても、シコッて歯ごたえで、いいカンジなの。ちっと湯葉に近いかなぁ〜♪

 料理法、うさは、御出汁の中で鳥のひき肉と一緒に煮て、かたくり粉でとろみをつけた煮物が好きでし。

 みなしゃまも、お豆腐の安売りの時に一丁、余分に買って、試してみてくだしゃいネ!

 

 

 

「なぁ、うさ、うさってば、なぁなぁ!」

 お昼と夜の用意も終えて、しゃぁ、うさうさ御座布団を抱え、日当たりのよいサンルームに行きまちょう。しょこで、極北なきうさぎしゃまにお手紙を書くのでし。ついでに京ちゃんにもネ。スキな人には、ちゃあんと、『すきすき』って常日頃から言わないと、他のうさぎに、とられちゃうからね!

「うさぎぃ、おい、そこのカワイイうさぎ!」

 ……、ハンサムしゃん……。

 ナニでしの?さっきから、うるさいなぁ、もぉ〜。

 うさ、なきうさしゃまのココロを蕩かす、名文句を考えているんでしよ!

「なぁなぁ、一緒に街に行こうぜ!何でも買ってやるし!何処でも連れてってやるぜ!」

 ぽぇ?ハンサムしゃん、どーちたの?いきなりしょんなコト言い出して。

「いやぁ、だっていっつも世話になってるしよ!」

 ん、まあね。うさは日々、ハンサムしゃんをこき使いつつ、鍛練ちているケド。

「お礼にさぁ〜、なぁうさぎぃ〜、一緒に街に行こうぜぇ〜」

 サンルームのフローリングの上で、お手紙を書くうさ。しょんなうさと視線を合わせるために、屈んだハンサムしゃんは殆ど、お床に転がった状態。優しいオメメでうさうさを見詰めまし。うさは、お耳をピンッとたてて、警戒〜。

 ハンサムしゃん、優しすぎる、でし!

 またナニか悪いこと、企んでるでしネ!

 うさをユーカイちて、今度はどーしゅるつもりぃ〜!

「ンだよ、信用ねぇなぁ。俺ぁただ……、あ、アニキぃ!」

 あ。

 ラボから、にぃにぃが出てきまちた。中庭を歩いておらりまし。お散歩かな?にぃにぃ〜!

「暖かそうだな、お前たち。少し入れてくれ」

 サンルームは、お家の中からもお庭からも入れるガラス張りの御部屋でし。うさは、にぃにぃのタメに、ポットから御茶を注ぎまし。とぽぽぽぽ。

 はい、にぃにぃ、御茶どーじょ!

 極北なきうさぎしゃまが送ってくりた、六花亭の、ボンボンもあるでしよ。バーボンとか梅酒とかワインとか、いろんなお味がありましの。お干菓子でお抹茶をいただく時みたいに、ボンボンをお口の中に入れて、そっと紅茶を飲むと、ネ。

「あぁ……、美味しいな。それに温まる……」

 うふふ。にぃにぃが幸せそうで、うさは嬉しいなぁ。うさ、にぃにぃのお膝の上にのんのちて、お顔を胸元に、しゅりしゅり。にぃにぃ〜。

 最近、忙しくて構ってくれなかったから、うさはにいにいとのスキンシップに餓えているんでしぃの〜。

「どったの?制御ソフトが開発佳境なんじゃねぇの?もしかして疲れてる?」

「少しな。ヘル・ハイネルもお疲れで能率が下がってきたから、少し休息を入れることにしたんだ」

「んじゃ、はい」

 って、ハンサムしゃんは、お腕を広げまちた。

「……なんだ?」

「癒してあげるから、おいで」

「俺は疲れているんだぜ?」

「だから抱っこして、撫でてやるよ」

「分かってるなら、お前から包め」

「あぁ……、うん」

 ふたぁりの会話の、意味がよく、うさには分かりましぇん。

 んでも、ハンサムしゃんは自分から動いて、うさをお膝に乗せたにぃにぃを、背中から抱っこ、ちまちぃた。

「……」

 にぃにぃがオメメを閉じて……、ぁ……。

 お顔が、みるみる、優しくなって、いきましのぉ……。

「……、そろそろ時間じゃないのか?」

 お腕の中で目を閉じたまま、にぃにぃは言いまちた。

「今日は話し合いだろう?飛行機に遅れるなよ?」

 む、ハンサムしゃん、やっぱりうさを、ユーカイちよーとちていたの?

 うさ、にぃにぃから離れて、飛行機に乗せられて遠くに行くの、イヤイヤでしぃ〜!

 にぃにぃの、お胸にぺたんと張り付きましの。むぎゅーッ!

「うん、そろそろ行く。あのさぁ、アニキィ」

「ん?」

「あんたからもさ、うさぎに頼んでよ。俺に同行してくれ、って」

「うさぎを?連れて行くのか?……どうして?」

「だってそいつ、俺のマネージャーだし」

「シーズン期間だけの約束だっただろう」

「ちょっとだけスポットで貸してくれよ。漏れてきた話じゃ、あっちは須藤の奴、連れて来るらしいんだぜ。俺の代理人はオーナーに言い負かされてヘロヘロだし、二対一なんて俺に不利過ぎと思わねぇ?」

「仕方ないな。……、うさぎ」

 は、ハイ。なにでしか、にぃにぃ。

「啓介と一緒に行ってやってくれないか。来期の契約の事で、とても大切な話し合いがあるんだ。……頼むよ」

 う……、うん。

 いいでしよ、分かりまちた。うさは物分りのヨイうさぎでしからね。

 飛行機で、何処まで行くか分からないけど、にぃにぃのお頼みなら、うさうさ、ちゃーんと、ハンサムしゃんのお守りと見張りを、ちておきましぃ!

「頼むよ。どうせ啓介とあちらのオーナーじゃ、ろくな話になりゃしない。お前と京一で、来期のことをキチンと話し合ってきてくれ」

 はい!ラジャりまちた!

「ひでぇ言われ方……」

 しゃ、ハンサムしゃん、行きましよ!予定は何泊なの?お荷物は持った?オサイフとパスボート忘れないでネ!うさの為のバスケットも出してきて、空港で、うさにもお弁当を買ってネ!

「へいへぃ」

 うさに適当に応えながら、ハンサムしゃんはにぃにぃに、軽く、ちぅって、ちてまち、た♪

 

 

 

ある日のうさ日記・うさぎ、再びのマネージャー業務

 

 

 

 

 

 

 

そして。

 

 マレーシア、所属チームの本拠地の、チームオーナーの本邸の一室。

 キチンとスーツを着て髪型を整え、男っぷりを上げた花形レーサーは、凛々しくワイルドな外見に不似合いなほど、丁寧な口調で。

「……、あんたには、心から、感謝してる」

 所属チームのオーナーにそう言った。

「俺を日本で拾ってくれたのも、世界の舞台に連れて来てくれたのもあんただ。色々迷惑かけたのに、あんた俺によくしてくれたよ。ほんとに、心から感謝、してる」

「あたしはあなたにまだ感謝してないわ」

 人妻であり、今年中学生になる娘を持つ母親でもあるオーナーは、しかしお洒落な美女でもあった。真っ赤のワンピースに同じく深紅のルビーを両耳につけて、セットした黒髪は背後に、しなやかに流れる。口紅も服にあわせた深紅で、それは色艶よりも戦闘服じみた迫力で彼女を彩っている。

「ねぇ、啓介」

「俺は感謝してる。不満は何一つない。あんた、本当に、俺に優しくしてくれたよ」

「私、あなたのこと、何回、ゴミ袋に突っ込んで産廃不法投棄してる山の中に、捨てに行こうと思ったか知れないわ」

「あんたが嫌で、契約更新を、しないって言ってんじゃないんだ」

「あなたを庇う為に、あなた以外の有能な人材を、何人も諦めたわ。あなたが恋人を寝取ったチーフメカニックとか。彼が今、どうしているか知ってる?」

「あんたを裏切るつもりは、ない。他所のチームに、行くけど、金にひかれんじゃない。アニキんとこなんだ。……行きたいんだ、分かってくれ」

「うちのライバル会社の、スポーツカー部門の開発主任よ。優秀な男だったのよ」

「一生ずっと、あんたに感謝、してるよ」

「感謝は形で現して」

 へりくだる男の態度にも、オンナは強硬姿勢を崩そうとしなかった。

「そして私にも感謝させて。それまで、わたし、あなたとは手を切らない」

 最後通牒。男は硬直し、額に冷や汗を滲ませる。

 部屋の中には、強面の別の男が居た。オーナー側の応援のような形で、オーナーの隣に座ってはいるが、ガコガコと自分で交渉を進めるオーナーに何を補佐する必要もなく、指先を伸ばしてテーブルの上に乗ったうさぎを膝へ招く。

 きちんとうさぎ用に、皿にミルクとクッキーを出され、それを片付けたうさぎは、テーブルを横切って男の膝の上へ。長い耳を揺らして、久しぶりの再会を喜ぶ。

「……、オンナに借りを作るとな、倍でもおっつかねぇ、お返しをさせられんだぜ」

 男が独り言めいて呟く。形はうさぎに語りかけているが、実際は冷や汗の花形レーサーを、微妙に慰め、かつ、諦めろと、遠まわしな進言。

「いいオンナほど取り立ては厳しい。……身に覚え、あるだろ?」

 うさぎは無心に、久しぶりに会う、育ての親の、口元を舐めていた。