by あき
どうもまだ頭がすっきりしないもともと寝起きはよくないほうだけど、それにしてもここまでぼんやりしてるのは、やっぱ、あれのせいだろうな。
妙にこまかいところまで詳しくて、リアルだった夢――
ふつう夢なんてものは、起きたら何がなんだかわからなくなることが多いのに、はっきり思い出せるし。
それ以上に不思議なのは、その内容。
オレが宗主なんてものになってるのは、ともかく、アニキがあんな役回りなんて。夢ってのが無意識がみせる願望だというのが正しいなら、オレはアニキを、あんなふうに囲ってしまいたいと思ってるってことで。
――そっか、まんまじゃん、それ。
なんの不思議もないわ。
「どうしたんだ? ぼんやりして」
「ん、ああ、おはよう、アニキ」
「啓介……、おまえそれ2回目だぞ」
いくぶん呆れたような声。
「あ……?」
「さっき起きてきたときに、挨拶したろ、自分から」
「んー? そうだったっけ? よく覚えてねーや」
片手で頭を掻く。
まだ髪はセットしてないから落ちてきてうっとおしい。
「覚えてないって、おまえ」
今度こそほんとうに呆れた声。
「いーじゃん、そんなことより」
ソファをまわりこんで、アニキの前に立つ。邪魔な新聞は取り上げて、朝の挨拶。おはようのキス――これで週末が始まる。
かるく触れただけで、離す。
「アニキ、これも2回目?」
「いや、今日初めて」
「そっか。じゃあ、マジでいくか」
隙間をみつけて舌を潜り込ませる。強引に舌を絡ませ、味わう。本気で全開のディープキス。アニキが完全に力を抜いて、オレに体をあずけるまでやめなかった。
夢の中でも、何度もしたキス。飽きるほどしても、満足することのなかった、それ。
満足できないのは、現実でも同じで――
お互いの唇をあわせるだけなのに、どうして飽きないんだろう。
舌を絡めて、おたがいの唾液を交換して、吐息までとりこむ。それだけなのに……。
アニキの唇をじっと見つめるだけのオレを変に思ったのだろう。
「……どうした?」
「……なんか、さぁ、今日、変な夢みてさ」
「夢?」
「俺さ、トルコ帝国の宗主――要は王様だわな――になってて、っていうか親父を殺して宗主になろうとするんだけど……。その理由、なんだと思う?」
思わせぶりにいったん区切る。
「さぁ……」
「すげえぜ。親子でオンナを取りあうんだ。オレが親父のオンナが欲しくって反乱起こすんだわ」
アニキの表情に特別変化はない。
でもオレはわかる。アニキがちょっとおもしろくない気分だってこと。
本人も、もしかしたら無意識かもしれない。でもオレにはわかる。
アニキはポーカーフェイスが上手い。夢の中の人もそうだった。だからオレは目の前の人の機嫌を、気持ちの変化のサインを窺うのに、自然に慣れた。
そうでもしないと、この人は頭がよすぎて変な方向へさまよってしまうのがわかってたから。
いじわるするのはやめて、さっさとネタばらしをする。
でも、ついつい楽しそうな口調になるのはおさえきれなかった。
「そのオンナ、誰だと思う?」
「……」
オレをひと睨みした視線は、どんな言葉より雄弁で。
うれしくなって、歌うように告げた。
アニキだよ――と。
それだけじゃ物足りなくて、髪に手をすべらす。
さらさらでくせのない、絹糸のような黒髪。これもあの人と同じ。
「アニキはさ、小さい時から親父のオンナにされてて、いちばんのお気に入りでさぁ、アニキとは異母兄弟なんだけど、愛しあってて、オレはアニキが欲しくって、欲しくって、とうとう反乱起こして手に入れたんだ。ほかの後宮の女どもなんかめじゃないくらいにきれーで、色が白くて……。
見せつけるために親父の前であんた抱いて……もちろん、オレのいちばんのお気に入りもあんたで。親子二代で第一オダリスクだもんな、すげーよ」
あの人を誉める言葉は、この人を誉めるもの。
それがわかっていたから、熱も入るし、マジだったのに。
アニキはそんなオレの気持ちなんか、わかってくれなかった。
返ってきたのは、そんなので、よく国が維持できたな、なんていう鋭すぎる指摘。
「おまえと俺は兄弟なんだろ?」
「そう」
「俺が枕席にはべることができるくらいの年ってことはおまえだってずいぶん若いはずだ。しかもおまえの目にはオンナのことしか写ってなかったんだろ? どうせ。そんな人間が国を支えていけるはずないじゃないか。すぐダメになった。そうだな、地方の反乱か、対外勢力の侵攻か、それとも部下に背かれたか――そんなとこだろ。違うか?」
「……違わない」
すらすらと述べられた分析と予測は、的を射たものだったから、おもしろくなかった。なにしろアニキのいうとおりの展開だったのだから。
懐刀の京一――なぜか、よりによってあの須藤京一がオレの母方の従兄弟で、最大の協力者だった。ちなみに京一もアニキに惚れてて、ほとんど崇拝していた――に背かれ、地方はばらばら、十字軍はいつきてもおかしくないという状況だった。結局、親父が宗主に返り咲き、オレは親父が心臓発作で死ぬまで幽閉された。
それを画策したのが、アニキだったのがオレをうちのめした。
キモチも体も入れ込んで、丸ごと裏切られた、痛み。
夢のコトのはずなのに、どうして、こんなにも鮮やかなのだろう?
わかってはいた。
あの人がオレのために身を投げ出したんだってことは。
オレの命を救うためだったってことは――
それでも。我慢できることと、できないことがあって。
そもそも京一に背かれる原因になったのだって。
「っていうより、それもあんたのせい。あんたがオレから逃げ出したりするから、オレやけになっちまって……」
無意識にここにいる人に手が伸びる。その肩を抱き、引き寄せる。指にずいぶん力がはいっているのは気づいていたが、どうにもできなかった。
「で、最終的にどうなったんだ?」
「…………」
「そうか、殺されたか」「違う、殺されてなんかねーよ。オレ、カムバックしたし……」
「じゃあ、しばらく幽閉されただけですんだのか」
「そうさ。オレ、コンスタンチノープル陥落させたくらいだし、あとで」
それも、アニキのためだったんだぜ。
純情だろ? オレ。
「ふうん、2度目は成功したんだ」
「……」
「……で、俺は?」
とうぜん訊かれるだろう問い。――でも、訊いて欲しくなかった問い。
「おまえのいうトルコ帝国二代にわたる寵姫の俺はどうなったんだ?」
答えたくなかった。
オレのなかでは完全にあの人と、目の前の人がシンクロしてたから。
答えることで、アニキまであの人と同じ最期をとげることになりそうな気がして。
「……当ててやろうか」
「えっ? アニキ……」
「おまえの邪魔にならないように、自害した――違うか?」
「ア、アニキ……」
「わかるさ、それくらい。だってそれ、俺なんだろ?」
「……」
「きっと満足げな、幸せそうな死に顔だったのじゃないか」
アニキの態度は、言い当てたことを誇るようでもなく。
ただ、わかりきったことを言ってるってカンジで――
「…………じゃあ、アニキも同じこと、するっていうのかよっ?」
「……」
「オレがあの後、どんな想いでコンスタンチノープルを陥落させたと思ってんだよ? どんな想いでハギア・ソフィアの鐘を聞いたかわかるっ? ――
あんたがいなくなってから、どんなに悔やんだか、空しかったか、あんたにわかるかよっ? もうオレのために二度とかすり傷ひとつつけたくなかったのに、なのに、オレの言葉があんたを殺させた。……残されたものの気持ちが、あんたに、……」
アニキまで、オレにあんな想いをさせる気かよっ?
あんたはいいよ。満足して死んでったんだから。
残されたオレは、それでも生きていかなくちゃならなかったんだぜ。十年分の追憶をかかえて、ひとりっきりで。
「絶対、やめろよ。オレのために自殺なんかしたりするなよっ! 許さねーからな、んなコトしたらっ」
「……」
「約束しろよ、絶対そんなことしねーって」
オレは完全にキレかかっていた。
アニキからの答えはなかった。そのかわりに。
頬に手が触れ、やさしいキス、ひとつ。
ついでに誰もが見蕩れる、オレの大好きな微笑。
――ずりぃ、アニキ。そんな顔するなんて反則。
すうっと怒りの熱がひく。タイミングを見計らったかのように。
「啓介」
「な、なに?」
「……愛してる」
――――!!
アニキが、あのアニキが自分からこんなこと言うなんて。信じられない。
「啓介だけ……。啓介だけを、子供の頃から――」
ちいさなやさしい声としなやかな腕が、オレをかかえこむ。
「啓介は、違う?」
「んなことあるわけねーだろ」
「俺はここにいるだろ? なあ、啓介が愛してるのはここにいる俺で、夢の中の『俺』じゃないだろう? 夢だよ、啓介。夢なんだ」
「アニキ……」
「もう夢のことなんか気にするな」
「……」
「そんなことより、……して」
腕のなかにいるのは、夢の中の人よりしっかりした肢体。それでも――
下から見上げるようにして、唇を薄くひらき、舌を覗かせる仕草には見覚えがあった。継承式のあと、親父に見せつけるようにして抱いた時に、あの人がキスをねだった。それと同じ――
オレも同じ台詞を返す。
「オレを好きか?」
聞くと、そのままの姿で頷く。そんなところも同じ。
「オレに会いたかった? オレを愛してる?」
頷く頬に指を這わせれば。なめらかなその肌触りまで覚えがあるもの。
舌を絡めれば、親父の声がする。
幻聴だとわかっていても、腕の中の人には聞かせたくないと思った。ふりはらうように、キスに溺れた。
アニキとのキスは好きだ。
渇き切った人間のように貪って、息苦しさに舌を解放して。でも唇は離す気になれなくて、触れあわせたままで。じきにどちらからともなく、舌でノックして、また絡めあう。押したり引き込んだりして、焦らしあって。
何度も何度も繰り返し、口付ける。
いつもならキスしながらとっくに手はアニキの服を脱がせてるんだけど、今日は頭の後ろと、首をホールドしてるだけ。なんかキスを存分に味わいたい気分だから。
アニキがちょっと苦しそうに首をふる。
仕方なく、離してやって。
でもほとんど触れるか触れないかの、そんな距離。
「どうしたの?」
「…………そ、れは、俺の台詞だ……」
大きく息をついて。
伏せていたまぶたをあげ、オレを見る。
いまのキスですっかりキたのか、うるんで欲の滲んだ漆黒の瞳――。長い睫毛がつくる影と目の下の隈がなまめかしい。
「どこで覚えた? こんなキス」
「さぁ……どこって言われても……」
夢の中のあんたに教わったっていったら、どうする?
「俺……じゃあ、ないよな……?」
なじるようなきつい視線。ゾクゾクする。
男を責めるその奥で、誘って引きこむその瞳の色。
「アニキこそ、そんな目つきどこで覚えてきたんだよ。煽られてたまんねーぜ」
反対に聞き返してやると。
くすくす。額をオレのにあてて、楽しそうに。
「そりゃあ、だって煽ってるから、さ」
「……?」
「いつもならとっくにこうして――」
言いながら、自分でシャツのボタンを2つほどはずし、オレの手をとって。
「悪戯しかけてくるのに……、っ、今日は、全然、こないから……」
自分でオレの手を入れて、そこにふれさせたくせに、瞬間、声を詰まらせた。
――アニキ、もしかしてむちゃくちゃ、欲しがってる?
ためしに指を1本すべらせると、ぴくんとふるえた。
「そっかぁ、ごめん。アニキ、そんなに欲しかったんだ、気がつかなかった」
ゆっくりかるーくなでるように愛撫してやる。
「んっ……あ、啓介……」
「なに? ごめんな、気がつかなくて。そのかわりたっぷりサービスしてあげる」
アニキはオレの肩に顔を埋めて、声を噛み殺してる。
「だめだよ、アニキ。声、我慢しないで。オレ、ぜんぶ聞きたい」
もう片方の手で、顔を上げさせ、唇を指でなぞる。
オレの手が乳頭のまわりで円を描いたとたん、あごが跳ね上がる。
眼前に差し出された白いのどに、思わずむしゃぶりつく。舌先を下から上へ、上から下へ何度も往復させる。
「けい……す、け……」
「うん、なに?」
「ああっ……ん、……」
とっくに熟れてかたくなったそこを、探って、なでて、引っ掻いて。
ひとつひとつの愛撫にあざやかに反応を示す人が愛しくて。
吐息と喘ぎ声をBGMにして、アニキを追いこんでゆく。
シャツの残りのボタンをはずし、熱い体をかかえて、下のラグに横たえる。
見下ろす先には――
はだけられたシャツから見える、目に痛いほどの白い肌と、対照的に赤い徴――なんど見てもそのインパクトがうすれることのない、姿。
両脇に手をつき、体重をかけないようにして、顔をうずめる。
さっきから弄っている左胸に。
思うまま舐めて、しゃぶって、歯をたてた。
アニキの両の手がオレの頭をおさえつけて、もっととねだる。
ふいに髪の毛が引っ張られて。
「……っく、ん……け、啓介――」
「なに? アニキ?」
いいたいことはわかってたけど。
「啓……、っち、も……」
右胸に手をそえて、ねだるアニキは、どうしようもなくかわいくて。
唇にキスを落とす。わざと音をたてて。
そのままあごから首筋、鎖骨のくぼみとすべらせてから、目的地へ。
右は口で、左は手で。
アニキはもともと感じやすい。今日はダメだと言われた日なんかには、さんざん利用させてもらった。触りたおして、どうしようもなくなったアニキを抱いたことは数え切れないほどある。
それにしたって、今日はずいぶん感度がいい。それに積極的だ。
こんなおいしいアニキ、さっさといただいちゃあ、もったいない。
ゆっくりゆっくりすすめることにした。
*****
「どう? 気持ちよかった?」
1度繋がったあと、いつになく乱れたアニキに我慢できなくなって、きいてみた。
そういえば。こんな問いかけを夢のなかでもしていた。
あの人が毒殺されかけて、まだ回復していないからと、抱かなかった。ただ手で慰めあった、そのときに。
でもあの人より、恥ずかしがりのこの人は。
「……バカ、そんなこと聞くな」
と、オレの頭を叩いた。
「ってー、バカってなんだよ」
「そんなに強く叩いてないだろ? それより、風邪ひきたくないんだ。もう服着てもいいのか」
「……」
「いいんだな。なら、さっさとどいてくれ」
「なに、それ……。アニキ、もしかして、オレ、誘ってンの?」
ちょっと視線をそらせたのが、その答え。
「ほんと、さっきから、どうしたんだ、アニキ?」
「……不満か」
不機嫌そうな声はただの照れ隠し。
「まさか。むしろいつもこうだといいくらい。でも気になる」
ぐっとアニキを握りこんで
「吐けよ。いったい、なにがあったんだよっ?」
「……啓介」
なにか忘れたいこと、マズイことがあるとき、この人は抱かれたがる。それを知っているだけに、マジにならざるを得なかった。
「い、痛い……、啓介っ」
「……」
「っ、い、たっ…………いう、……いうか、ら……」
力は抜いたけど、手はそのままで。
「――おまえのせいじゃないか。おまえが……あんな話をするから」
ラグに顔を埋めるようにして、話し出す。
「あんな話って、夢の話のこと?」
「そう……」
思いもよらなくて、びっくり。
「だって、おまえは……そのなかの『涼介』が好きだったんだろ? 絶対権力者に背いても手に入れたいくらい……」
そうだけど。
「でも、もし、それが俺なら……」
「……なに、言ってんだよ。あれはアニキだったって。オレが間違えるはずないだろ? あの人はアニキだったのっ!」
「違うよ、それは俺じゃない。――自分のことのようにわかるけど、俺じゃない。俺は、ただ……」
それきり、アニキは口を噤んでしまった。
ピンときた。アニキのこととなると、勘はいいんだ、オレ。
「もしかして……、羨ましかった? ――違う?」
半瞬だったけど、竦んだ身体に、答えはもらったようなものだった。
手をつかんで引っ張り上げて、力一杯抱きしめる。
「アニキ、かわいい。どーして、こんなにかわいいの。もぉ、オレ、むちゃくちゃうれしい」
わしゃわしゃとアニキの髪をかきまわす。
「でもさ、アニキ、かわいいけど、馬鹿。お馬鹿。あのね――」
視線を避ける顔を両手で固定して、覗きこんで。
「さっきも言ったけど、あれ、アニキだったよ。オレがアニキ以外好きになるはずないだろ?――だから嫉妬する必要なんかない。それに、アニキが言ったんだぜ、夢の話だって。――だろう? 夢だよ、夢。ここにいるオレは、誰よりアニキが好きだぜ」
そのままキスを仕掛けた。必要以上に考え込むこの人に、考える隙をあたえないように。
もういちど寝かせて、内腿に手をすべらせ、さらにその奥を探る。
やわやわと周囲をめぐらせると、それだけでひくつく。
指を潜らせれば、つぷりと呑み込む。ゆっくりとなかで動かし、広げてゆく。反応がはやい。さっきの余韻が残ってるからだろう。
「なぁ、アニキ、我慢できない。入れていい?」
アニキが嫉妬した――この事実がオレをたかぶらせた。いつもいつも嫉妬して、八つ当たりをするのはオレのほうだったのに。アニキがオレのことで妬いた。それだけでキた。
アニキはなにも言わなかった。ただ瞼を閉じた。
開かせた脚のあいだに落ち着いて。
「アニキ、きれい……」
「…………バカ。どこ見てんだ」
「そう、バカ、バカ言うなよ、さっきから」
そりゃ、オレ、バカだけどさ。
実のアニキにこんなにいれこむくらいにさ。
「そんなこと言ってる間があったら、さっさと――っ……う、あっ!」
「さっさと……なに?」
「あ、……ん、……」
「そりゃあ、オレ、アニキみたいに」
「……ふ、あぁ、ン……んん」
「頭よく、ない……けど……」
「んん、ん……あっ、く…………」
「でも、オレにもわかることは、ある、よ」
だってそれは、オレの専売特許だったから。
甘い蜜の味をもういちど味わってみたくて、尋ねる。
「ねぇ、ほんとに、羨ましかった、の? あの人が」
「……あ、……ぬく、な……」
「――ほんとに、妬いてくれたの?」
「け、すけ……もっ、と…………」
「だったら、言って」
「……」
「言って、お願い」
快楽に濡れた瞳が、オレの顔で焦点をむすぶ。
唇が開いて、白い歯が見えた。
「おまえのそばに、いたいんだ」
「……」
「……ただ、誰よりも近くに、おまえのそばに、いたいだけだ……」
「アニキ……」
「だから――おまえの目に映ってもいいのは、俺だけ、なんだ」
「――!」
「そうだろう?」
そう言う、微笑――凄艶、っていうのか。オレにはわからない。
わかるのは、この人が欲しい、それだけ。
たまらず、穿つ。深く、深く――。
衝動のまま、奥へ叩きつけるような抽送をくりかえす。
捩るように搾り取られ、頭が白く、快感に侵されてゆく。
そうして。
昇りつめたあとにくる墜落――
そう。あれは夢。
たとえ、どんなにその仕草がそっくりでも。
極みの音がそのままでも。
時折もらす台詞が、同じものでも。
あの人とこの人は違う。
だから、あんな結末には、ならないはず。
午後の光のなか、おだやかに笑う人を見て、思う。
――あんたじゃなきゃ、イヤだ。
責任とって、ずっと隣にいて。
今度こそ……。
Fin