皿のセッティングとグラスの配置を手伝わされながら。
「ボスってマジ、日本支部のあいつオキニだよねー」
ティアラの王子様は呆れたように言う。
「ったく、ナンで王子が、王子なのに……」
続けて食卓の準備を手伝わされることへの不満を小声で呟いた。文句を言うわりに手つきは流れるようで、整列するナプキンやカトラリーの類は定位置をピタリとキープされ寸分の狂いもない。
「あんたが王子様で、こういうの凄く上手だからよ。ボンゴレ十代目をお招きする新年のテーブルを、あんた以外には任せられないわ。ボスもカフェを煎れるのが凄く上手だし、ホントの上流階級はこういうことを、ちゃんと習うのよね」
オカマはてきぱきと答える。
「ゴックンのことはボスお気に入りね。でもそれだけじゃないわ。本当に困っておられたのよ」
いつも元気な『妻』にしょんぼりとされて。
「了平たちが来てくれて良かったわぁー」
そして獄寺がザンザスの、何年ぶりかの『おめかし』に感嘆してくれて本当によかった。スーツ姿を披露できて銀色も満足だろうし、新年のパーティーに行くつもりだったことを十代目に披露できて政治的な意義も皆無ではない。銀色がポーカーでザンザスに勝つという奇跡が無駄にならなくて、何もかもよかった。
「ルッスーリアがそう言ってくれると有難いぞ!元旦から押しかけてしまって申し訳なく思っている」
「気にしないで。食べるものは一年以上、篭城できるように備蓄してあるから大丈夫よ。それにアタシは新年早々、了平の顔を見れてとーってもシアワセ〜」
「そう思ってくれるのか!もちろんオレもだぞルッスーリア!」
「了平!」
スーツの上からルッスーリアのエプロンを借り着した若い男と筋肉フェチのオカマががっしと抱き合う。体育会系の汗臭さを嫌いな王子様は嫌な顔をしたけれど、そんなことを気にするカップルではない。
かろうじてキスはしていないけれど、かなり露骨に頬を擦り付けあうスキンシップの途中で。
「アネゴ、ナンか手伝わせてー」
「ちゃーす、逃げ出してきましたー」
「なんでもします、ここに居させてくださいー」
日本支部の残り三人がやって来る。
「うわ、こっちもラブシーンだぜ、ツナ、獄寺」
「なに、オマエら、どったの」
指先でテーブルクロスをピーッとなぞって、皺一つなくピンと張り詰めさせながら王子様が尋ねる。
「聞くなよ。あの二人のらぶ光線に耐えかねたに決まってっだろ」
「いい、おれここで手伝う。ザンザスとスクアーロさんのエロラブに比べれば笹川先輩とルッスーリアさんの方が健康的で可愛くて、まだ耐えられるよ」
「ボスんこと煽っといて逃げてくんなよなー」
「オレなんかに煽られるタマじゃねぇだろ。ハナっから相手にされてねーよ」
という獄寺の自己認識はマチガイ。ここのボスはアッシュグレイの美形をかなりお気に入り。
「オマエのボスがちょっと嬉しそうだったのは、銀色が笑ったからだろ」
でも、したたかに現状を認識していた。
「まぁいいけどよ。将を射んとすりゃ馬だ」
てきぱきとした物言いは凛々しくて気持ちがいい。けれど台詞の内容はバチアタリで、聞き流せない語句を含んでいた。
「馬どっち、なのなー?」
皆がひやりとした中で、なぜか面白そうに尋ねたのは山本武。
「検討中だな。テメェはどっちが美味いと思う?」
「聞くなよ、オレに」
「ああ、テメェは選択の余地ねぇか」
性的な嗜好において山本武はバリバリのオス。とすると狙うのは決まっている。
「損な生き方してやがる」
「オマエが節操なさすぎんのなー」
「どっちも美味そうで、心揺れるったらねぇ」
「お愉しみはオレに殺されない程度にしとけよ?」
「人生最後のオタノシミは今、ソレに決まったぜ」
くすくす、若い恋人同士は額をぶつけんばかりに寄せて楽しそう。
「後進恐るべし、だわ」
戦慄とともにオカマは二人に、心の底からの感嘆の声を漏らす。
「オレに安息は、いつか訪れるでしょうか」
若いボンゴレ十代目は、食卓にパン籠とワインを運びながら泣きそうな声をあげた。