「彼は?どうして来てくれないんだ」
「さぁ?」
二人の女は相変わらず美しく、そうして俺に、相変わらず意地悪だった。
「あんたのこと、嫌いになったんじゃないの?」
「そんな筈は、ない」
「ずいぶん自信がおありになるんですね。あんなこと、しておいて」
「嫌われるならもうずっと、前に嫌われていたはずだから」
最初の夜から、俺はひどかった。あれを許してくれた彼の、優しさに気づかないほどの馬鹿野郎、だった。
「彼に会ったら、愛しているって伝えてくれ」
「会ったらね」
「会えませんよ。ご当主。もう、二度と」
「亡くなったわ、私たちの座主は」
「嘘だな」
「どうしてそう思うの」
「死んだなら、俺の枕もとに立つはずだから」
「自信満々なのね」
女はうっすら笑った。酌はしてくれなかったから自分で盃に酒を満たす。
「……伝えてくれるか?」
喉を潤して、改めて尋ねる。
「愛しているって?」
「そう」
「言うモンですか、そんな嘘」
「そっか。じゃあ、仕方ねぇな」
言って、俺が座を立つのと同時に、廊下から走りこんでくる武者たち。
「なにするの、お離し」
「離して……ッ」
「乱暴するなよ。客として、扱え。御供の、男たちは?」
「こちらです」
二人の男が連れてこられる。人相が悪い方も人が良さそうな方も、二人して女を心配そうに見て俺を睨みつける。ふたりがそれぞれと夫だと、俺は知っていた。
「あの人を、呼んで来い」
険しい人相の方に、言った。
「あの人と引き換えに女たちは放す。そっちの奴は、彼女らの警護をしろ」
人の良さそうな方に言うと、男二人は顔を見合わせたが、しかし。
「……頼む」
悪そうな男が言って、温和そうなのは頷く。大人しく、女二人と共に連れられていく、先は牢ではない。見張りのしやすい離れ。
俺は、女たちに感謝をしていた。大事なことを教えてくれたから。そして、彼と俺とを、繋ぐか細い縁だったから。
月と一緒に、彼を待つ。
会いたい、会いたい、会いたいと、俺の心にあわせたように、吹きぬける風が風鈴を鳴らしていた。