どうして俺を選んだんですか。
尋ねると、亜麻色の髪の女は、曖昧に微笑んだ。
滅多に和まない茶色の瞳が細く和らいで、大変魅力的ではあったけどそんなことでは誤魔化されない。はっきり理由を、教えてください。
「理由が必要なの?女の子みたいね」
それは性差別です。
「あなたが男だから」
男なんか、掃いて棄てても追いつかないくらい、その辺に山盛りです。ここ軍隊なんだから。
「あなたが彼を好きだから」
そんな男は、山ほど居るでしょう。俺は東部の田舎者で知りませんでしたが、あれだけの『オンナ』なら、パートナー候補はわさわさと。
「あなたが彼の、大切な人に似てるからよ」
誰なんですか、それ。
「あなたの知らない人」
何処が似てるんですか。
「やっと本題ね。男のくせに回りくどいわよ、あなた」
それは差別用語です。
「どうしてそれを聞きたいの」
気になって仕方ないからです。
「こんな時間に制服に着替えて、職場に戻って来るくらい?」
はい。
「うまくいかなかったの?」
……プライベートです。
「うまくいったんでしょう?そういう顔してるわ。よかったじゃないの。どうしてあなたがわざわざ、私を詰問しに来たか分からないわ」
時刻は午前五時、夜明け前。
セックスし過ぎて糸が切れて、俺のベッドで眠ってた人がよろよろ、起きて自分の部屋に帰ったのは一時間ほど前。眠ってるうちに体はざっと拭ってたから、ドアの前まで送って部屋に引き揚げた。もう一度、眠ろうと横にはなったけど、どうしても気になって眠れなくて。
軍服を着て車庫に降り、当直の奴に緊急の用件だと言って門扉を開けさせた。公用車の私用乗車だが構う気はなかった。そのまま司令部に乗り付けて、夜勤の中尉の、もとへ一目散に。
「どうぞ。飲んだら帰りなさい。大佐のコートを持って。あなたはそれを、取りに来たことにしておきます」
お気遣いは嬉しいんですが、教えてもらえるまで帰りません。
「薄々分かっているんでしょ?」
澄ました表情で、彼女はコーヒーに口をつける。俺も礼儀上、手を伸ばした。備品のインスタントだが、女が煎れると味が違う。
「あなたが嫌な男だったからよ」
……。
そう、ですね。
薄々、分かって、ました。
「そんなに落ち込まないで。かわいそうになるわ」
……晴れ晴れと、言わないで下さい。
「嫌な男は魅力的なものよ?」
……嘘だ、そんなの。
すごすご、俺は尾を巻いて撤退した。大佐の官舎の、自分の部屋に戻って煙草を吸いながら夜明けを待つ。正確に言うなら、彼の目覚めを。
一途に、待った。
……スキって。
セツナイ……。