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Apple Tracks Volume 3

(bootleg)

 

 レコード針を下ろすと、口笛とピアノのバックがシンプルな「マックスウェルズ・シルヴァー・ハンマー」が流れる。この「アップル・トラックス・3」は1969年のゲットバックセッションのテープから編集された海賊盤である。2枚組で1枚目はセッション、2枚目は幻のアルバム「ゲット・バック」そのものを収録してある。

  1枚目のセッションは同じ海賊盤からのシリーズの続編で、リハーサルセッションとあってラフな演奏、それも曲の全部を演奏しきらずに終わるものが少なくない。のちに各メンバーのソロアルバムで陽の目を見る「ギヴ・ミー・サム・トゥルース」「ジェラス・ガイ」(ジョン)、「ホット・アズ・ザ・サン」「エヴリナイト」(ポール)も収録されているが、正規盤ではインストゥルメンタルの「ホット・アズ・ザ・サン」が歌詞入りなのが興味を引く。

  2枚目はファン垂涎のアルバム「ゲット・バック」である。この幻のアルバムがたどる数奇な運命は多くの書物に紹介されているのでここで詳しくは書かないが、いずれにせよ正規に発売されたLP「レット・イット・ビー」と聞き比べてみるのが面白いだろう。私はこの海賊盤を入手する6年前(昭和53年)に「レット・イット・ビー」を買って聞いたのだが、ライナーノーツにポールが「ロング・アンド・ワインディング・ロード」のオーケストラ&コーラス入りのアレンジを嫌った旨の記述があり、当時はその理由がわからなかった。しかしこの「ゲット・バック」に収録されているピアノ中心のシンプルなアレンジを聞いてポールの意図がわかり、なるほどそうだったのかと思ったものである。また「レット・イット・ビー」選曲から外された「テディ・ボーイ」が完全に聞けるのもうれしい。ゲットバックセッションについては別の機会に再び取り上げてみたい。

  それにしてもこの2枚組は懐かしい。先日新品のレコード針を入手したため多くのアナログ盤が「復活」しているが、今から19年前、当時大学浪人の私が勉強の息抜きにと時折聞いていたのが思い出される。(息抜きにしては一生懸命聞いていたかな?)ゲットバックセッションの曲はのちの「アンソロジー」等でかなり容易に聞けるようになったが、当時はこのレコードにうまく巡り会えて狂喜したものである。

  音質は1枚目は海賊盤としては普通、2枚目は良いが所々スクラッチ個所があり惜しい。なお2枚目は正規発売を前提にしていたためステレオ録音されている。

 

 購入は昭和59年5月7日、横浜関内「ディスク・ユニオン」にて。価格は5800円だった。