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   ビートルズ随想記(6)

Paul's driving Japan

(ポール・マッカートニー日本公演)

東京ドーム正面ゲートの看板

   

   平成14年11月13日はついにやって来た。9年ぶりのポール・マッカートニー日本公演、開演は19時であるが、コンサート前の雰囲気を味わうべく16時に東京ドームへ。待ち合わせの人、当日券売りの行列に並ぶ人、グッズ販売コーナーに走る人…。コンサート前の喧騒が既に始まっていた。

   ドームまわりを歩いてみると多くのファンが開場(17時)を待ちわびているが、やはりファンの年代層が広いことを実感する。学生から50代のファンまで男女まんべんなくいるのだ。さらに面白いのは母と娘といった2世代ファンが目立ったことだ。ビートルズ/ウィングス/ソロと長きにわたり活躍するポールのコンサートならではの光景であろう、と思った。(アメリカ公演でも似たような傾向があったようである。)

   日が暮れる前に開演前の様子を何枚か撮影したあと、コンサートのパンフレット(2500円)を買う。内容は平成2年の時のようにインタビューその他の記事が多く内容的には満足した。ちなみに平成5年のパンフレットは写真だけで簡単過ぎ、ちょっとがっかりした記憶がある。

 

   さあ、日が暮れてドームの照明が映えてきた。小中高時代の友人(私と同じくビートルズ歴26年余り)と11番ゲートにて5年ぶり(かな?)の再会を果たす。本当はいろいろ話を交わしたかったのだが、開演の時間が近づいているため席を確認して食料&飲料(アルコール少々)を大急ぎで調達する。

   今回のチケットは「ザ・ビートルズ・クラブ」に申込んだもので、アリーナ席である。ところが我らのDブロックはやや後方のため、背伸びしないとステージが見えないではないかぁ〜。なにせアリーナ席は総立ちなもので立見席のようなもの、女性ファン等で背の低い観客には少々気の毒な感じであった。

記念グッズの販売コーナー

   

  19時10分頃、ドーム内の照明が落ちて開演ムードが高まる。そしてプレ・ショーと題したインド風の舞踊が始まった。なんとも幻想的、これなあに???  パンフレットでは必ずしも理解できなくても構いませんとあるけれど…。ポールがインドへ行ったときの印象をヒントにしたようだが、はて?

   総立ちの観客が不思議そうに見守ったプレ・ショーは15分位で終わった。そしてスクリーンの映像が消えた…。

   「ジャーン!!!」ギターのフレーズが強烈に響くとステージ中央にへフナーベースと左手を高く上げるシルエットが鮮烈に映し出された。今までのコンサートの中でもひときわ映えるオープニングでコンサートスタート、ついにポール・マッカートニーの登場だっ!!

コンサートのパンフレット表紙

 

   オープニングは「ハローグッドバイ」。いや〜、「You say yes, I say no 〜」の歌い出しにファンのヴォルテージは最高潮、わかりやすい歌詞のため歌うファンも多い。ああ、9年ぶりのポールの肉声、約70メートル(?)先に本物のポールがいる。ファンにとって現人神(あらひとがみ)の存在、後光がさしているような感じで、もうウルウル状態。9年前の「マタキマス。」は正夢となったのであった。2曲目「ジェット」はウィングス時代からの定番、1曲目とスルーで歌い切るのもお馴染みのパターンだ。

    

    HELLO, GOODBYE

    You say yes, I say no.

    You say stop and I say go go go.

    Oh, no.

    You say goodbye and I say hello.

 

  さあ、ポールの挨拶だ。今回は新たな趣向として、スクリーンにポールの英語を即訳して字幕で映し出すようになった。すごいね。ポールによればこの担当が8人もいるそうな。もっともポールの英語は発音もわかりやすく、難解な単語も使わないので苦にはならないが…。

   3曲目は早くも「オール・マイ・ラビング」、一緒に歌うファンも多い。次が「ゲッティング・ベター」と少々珍しい選曲であるがビートルズナンバーが続いた。「カミング・アップ」「レット・ミー・ロール・イット」とコンサートによく取り上げられるソロの曲が続いたあと、ニューアルバム「ドライヴィング・レイン」から3曲チョイス、「ユア・ラヴィング・フレーム」は新妻ヘザーへのトリビュート曲で、ポールがピアノでしっとりと聞かせた。

 

    

    ALL MY LOVING

    Close your eyes and I'll kiss you,

    Tomorrow I'll miss you.

    Remember I'll always be true.

    And then while I'm away ,

    I'll write home everyday.

    And I'll send all my loving to you.

   

バンドのメンバーが引き下がり、ポールがアコースティックギターを持った。「この曲は60年代のアメリカでの黒人たちの事を思って書いたんだ…」と歌い出したのは「ブラックバード」だった。確かに歌詞では『ブラックバードは飛び立とうとしている』のような意味があったが、そうだったのか黒人差別問題に心を痛めていたポールのメッセージソング、長くファンを続けていながら知らないことも結構あるのだな…。

  アコースティックの演奏は続く。「エヴリナイト」「恋を抱きしめよう」「ミッシェル」…。自分は「恋を抱きしめよう」のサビのパートではついジョンの低音パートを歌っていた。ああ、いつまでもこの心地よいアコースティックの世界に浸っていたい。

   ポールは続いてピアノの前にすわり「ユー・ネヴァー・ギヴ・ミー・ユア・マネー〜キャリー・ザット・ウェイト」を歌う。「アビー・ロード」や以前のコンサートとは異なり、ポールがピアノで哀感たっぷりに切々と歌う。この曲がかくも悲しげに聞こえたのは初めてで、衝撃的でもあった。

    BLACKBIRD

    Blackbird singing in the dead of night

    Take these broken wings and learn to fly.

    All your life

    You were only waiting for this moment to arise.

  

    THE FOOL ON THE HILL

    Day after day, alone on a hill

    The man with the foolish grin is keeping perfectly still

  

  そして「フール・オン・ザ・ヒル」…ビートルズ中期を代表するポールの佳曲、当時のプロモーションフィルムもバックに交えての演奏であった。
   「言いたいことを言いそびれ、その人が死んでからああ言えば良かったと後悔することがある…」とポールが話してくれる。そう、ジョンへの「ヒア・トゥディ」である。再びアコースティックギターをもって切々と歌う姿に会場が静まり返り、澄んだアコースティックサウンドが耳に届く。スクリーンも水色の波が静かに流れるようなシーン、時の流れを表現するような演出だった。     

    HERE TODAY

    And if I said I really knew you well

    What would your answer be?

    If you were here today, ...here today.  

   

  

   トリビュートはさらに続く。ポールはウクレレを持ち出して「ジョージはウクレレがうまかった。」と話し出す。そして旧友を懐かしむように「サムシング」の弾き語り…。ああ、1年前、辛かったのだろう。このテイクはウクレレらしくのんびりしており、弾き終わったあとポールは、ジョージなら「違うよポール、こう弾くんだよっ。」とちょっとテンポアップして弾いてみせた。 

  続いての「エリナー・リグビー」「ヒア・ゼア・アンド・エヴリホエア」は中期の佳曲。過去のコンサートでの曲の取り上げ方から見ても「リボルバー」はポールの好きなアルバムなのだろう。

 

 

    SOMETHING

    Something in the way she moves,

    Attracts me like no other lover.

    Something in the way she woos me,

    I don't want to leave her now.

    You know I believe and how.

    

 

  「バンド・オン・ザ・ラン」が出てリズミカルなステージが戻ってきた。おつぎは飛行機の音と来れば「バック・イン・ザ・U・S・S・R」で、会場の雰囲気はロックンロールショウらしくなって来た。バックではソ連時代のフィルムが流れる。 

   ピアノのイントロが響き、ソロ初期の名曲「恋することのもどかしさ(ハートのささやき)」が流れる。個人的にはこの曲はぜひ聞きたかったので有難い。今までのワールドツアーでも日本では選曲から外れており、やっと聞けた。それにしても激しいアレンジに仕上げたこの曲を歌いきるその姿は、とても還暦とは思えない。反対に「シーズ・リーヴィング・ホーム」では左手で情感たっぷりの仕草を演出、バラードらしい曲の雰囲気を盛り上げた。

会場にはCDの即売コーナも設けられた

 

   「レット・ゼム・イン」「マイ・ラヴ(リンダ・トリビュート)」とウィングス時代の曲を演奏したあと、「キャント・バイ・ミー・ラブ」で再び会場はハイな雰囲気になる。ヤァヤァヤァ!のフィルムが背後に流れる。このあたりはコンサートに不可欠な曲である。次の「007死ぬのは奴らだ」もドッカ〜ンの爆発は定番、演奏後のポールは心臓が止まりそうと言うようなジェスチャーをしてみせた。

  コンサートはいよいよ佳境に入り、超定番の「レット・イット・ビー」はピアノ前奏ありの正規ヴァージョン。ついでポールが「みんなも一緒に歌って」とくれば超定番その2「ヘイ・ジュード」、やった〜。そりゃこの曲は頼まれなくても歌うぜ(?)と言ったところ。例により後半のリフレインの部分はポールが観客に向けて歌い方を指示する。

   

ピアノを弾くポール(パンフレットより)

 

    THE LONG AND WINDING ROAD

    The long and winding road that leads to your door.

    Will never disappear, I've seen that road before.

    It always leads me here,

    Lead me to your door.    

    

   さて、ここで本編は終わり以後はアンコールとなる。1曲目は「ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード」。バックに道が延々と連なる様子が映される。続いて「レディ・マドンナ」「アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア」とビートルズナンバーのオンパレードとなった。テンポの良い曲が続きアンコール終了… 

 

 

  アンコールがこれで終わりならドームの照明が灯るわけだが、まだ暗いまま。つまり再アンコール「アリ」なのだ。そして程なくポールがステージに戻ってきた。アンコール一切ナシのビートルズ時代とは隔世の感がある。

  「Yesterday, all my troubles 〜」う〜ん、この曲を聴きたかったファンも多かったことだろう。

  さあ、「Sgt.リプライズ」「ジ・エンド」のノリまくり演奏となる。考えてみるとコンサートのエンディングのためにあるような両曲の歌詞である。  

  YESTERDAY

  Yesterday all my troubles seemed so far away

  Now it looks as though they're here to stay

  Oh I believe in yesterday..........     

 

  

  ファンが総立ちで拍手歓声、今度こそは全編の終わり…。

  ドーム天井から紙ふぶきがサラサラと降ってきた。スポットライトに照らされてきれい。そのいくつかは音もなく肩に舞い下りた。ステージの去り際にポール「マタネ!!」  この瞬間、観衆は現実の世界に引き戻される…。

  ドーム内の照明がついた。夢から醒めて我に返ったファンたちに場内整理係が「ブロックごとの退場となりま〜す、それではまずAブロック…」とスピーカーで退場を促す。アリーナ席から順々と退場、その足取りは心なしか重い。それは3時間近く立ち通しだったこともあるが、やはり数分前までの「心の遊泳」と現実のギャップによるところが大きい。ドームを出て親友と飯田橋で別れ、私は東西線への階段を下りた。