『ルードウィヒ・B』あらすじ・続き~終章〝月光〟

前書き

2016/9/26UP・あらすじ訂正UP・終章UP

これは「亡き手塚治虫先生の夢」に出てきた手塚治虫先生の遺作・作品『ルードウィヒ・B』の続きです。

しかし、あくまで私の見た夢なので決して現実と混同しないでください。

出版する場合には、手塚治虫先生の関係者の方々のOKを条件にします。

印税は災害用のユニセフ・NGO・NPOへの募金にお使いください。

また、夢なので前後関係がかなりはっきりしない処があり歴史的な矛盾等が生じている可能性もあります。

ご容赦ください。

『ルードウィヒ・B』あらすじ・続き~終章〝月光〟

漫画の神様・手塚治虫先生。最後の作品。『ルードウィヒ・B』

あらすじ

貴族出身だったフランツは、貧しい平民ベートーヴェン、〝ルードウィヒ・B〟を相当、憎んでいた。

幼少時からの、トラウマが原因だった。

フランツの実母に、死を招いた、飼っていた孔雀の名が。〝ルードウィヒ〟

フランツは、ベートーヴェンの耳を、強い力で棒で叩き、ベートーヴェンの耳を本当に悪くした。

手塚治虫氏の亡くなる以前の、最後の最終回。

貴族出身のフランツが、邸侵入のベートーヴェンを見逃す条件に、生まれた息子ユリシーズに、捧げる曲を作曲せよと要望。

それに対し、ベートーヴェンはピアノの椅子に座り、どうする?〝ルードウィヒ・B〟

続き~終章〝月光〟

フランツはベートーヴェンに、自らの息子、ユリシーズの為に曲を捧げるよう迫った。

しばしの沈黙の後、ベートーヴェンの返答は、


曲だった・・・


「や・・・やめろ・・・」

鍵盤を叩き続けるべートーヴェン。

「やめろといっているのが聞こえないか!屋敷の者を呼ぶぞ・・・!」

しかし、その声も掻き消される程、なおも強く鍵盤に指を叩きつけるベートーヴェン。


先程の曲とはケタが違う。

耳を塞いでも音から逃れられない。

心の中を掻き毟り、入り込んでくる、音、音、音。

フランツの心の奥底に仕舞い込まれていたものが引き摺りだされる感触・・・!

「やめろーーーー!!!」

その場から逃げ出したのはフランツの方だった。


「くそっ!!!」

激しく拳を樹木へ叩きつけるフランツ。

しかし、背後からベートーヴェンの音楽が追いかけてくる・・・音から逃げるようにフランツは走った。


その後、再びルードウィヒの音楽家生命を絶つ機会が訪れた。


「これで・・・お前も終わりだ・・・!」

以前より憎しみは増しているはずだった。しかし、一瞬の躊躇が、それを妨げた。


ベートーヴェンは難を逃れる。

フランツの体にまとわりつく、自らの声。

「消そうと思えば・・・消せたのに・・・何故躊躇った・・・?そうだ・・・本当はお前は・・・

ルードウィヒの音楽を聞きたいんだ・・・もっと・・・本当は・・・


違う!!違う!!違う!!!わたしは・・・!あいつを破滅させる為に生きているんだ・・・!!!」


一方、ユリシーズは、すくすくと成長した。フランツの息子への溺愛ぶりは周囲も呆れるものだった。

彼は息子に、貴族としての最高の教育を施した。ゆくゆくはわたしの跡取りとして、何不自由無く・・・


しかし、ユリシーズは、自分がフランツの実の息子でないことを知ってしまう。

「僕は、平民の子なんだ・・・周囲の目が冷たかったのも・・・そして、僕の親を殺したのは、貴族なんだ・・・

ひょっとしたら、義父かも・・・」


ある日、フランツは、ユリシーズが共産主義的な書物を読んでいるのを見咎める。

「こんな物!お前は貴族の子息だ!!恥を知れ!!!」


「違うでしょう、お義父さん。僕は貴方の本当の子供じゃない。僕は平民なんだ。

それに、此れからは貴族も平民も無い社会が出来る・・・僕は真に平等な社会の政治家になるんだ!」


父子の間に、亀裂が生じた・・・思惑とは正反対の方向へ進む息子。理解しあえない、古い体制の父親。

深い愛情は、憎悪へと変化していった。


「どうして・・・どうして解らないんだ・・・!?こんなに・・・こんなに・・・」

とうとう手元から離れていった息子にフランツは号泣する。


ユリシーズの行方はぷつりと途絶えた。


その頃、ルードウィヒの耳はとうとう、全く聞こえなくなった。

死を覚悟したベートーヴェン。彼は、人知れず、河へ入水自殺を図る。


深夜だった。誰も通らぬ筈だった。


しかし、橋の上からそれを目撃してしまった人物がいた・・・


「ルードウィヒ・・・」

フランツは戦慄を覚えた。憎むべき敵が目の前で死のうとしている。


「そうだ・・・放っておけばいい・・・勝手に死んだらいい・・・わたしは、ルードウィヒを破滅させる為に・・・

そう、わたしがルードウィヒを・・・」


フランツは川面に投石し、大声で人を呼んだ。人が集まっては、入水も出来ない。

フランツはベートーヴェンの動きが止まったのを確認し、安堵してその場を大急ぎで立ち去った。


「そうだ・・・わたしがルードウィヒを破滅させる・・・!自殺なんかされてたまるか!!!」


ベートーヴェンは、その後、一生自分の命の恩人の名を知ることは無い。


ベートーヴェンは、復活した。


耳は全く聞こえなくなっていたが、それでも彼は作曲を続けた。

次々生み出される名曲・・・音楽家としての成功・・・


一方、フランツは貴族としての地位も財産も失った。かつて、溺愛していた息子、ユリシーズの手によって。


運命の子、ユリシーズは立派に成長し、革命家として活躍し、結果的に彼の手によって貴族の社会は終止符を打たれる。

彼の手はかつての義理の父にも及び、フランツは全てを愛する息子の手によって失い、失意と落胆の日々を送っていた。


そして、重なるようにして彼を襲う不幸。


「ルードウィヒ・ベートーヴェンが死んだ・・・?死んだ・・・・・・?」


自分よりも若い筈だった。

それが先に逝くなんて・・・


「ルードウィヒは・・・、わたしの手で破滅させるんだ・・・神よ・・・!

わたしから全てを取り上げないでくれ・・・・!!」

天に両手を伸ばし、叫ぶフランツ。彼にはもう、何も残っていなかった。

そう、何も残っていない筈だった・・・


絶望の淵にあって、ふと耳にしたメロディー。子供がピアノを弾いている・・・

彼の拗れた心が開かれる様に、懐かしささえ感じる旋律・・・この曲は・・・


ルードウィヒ・ベートーヴェンの遺作。

今迄、寧ろ聞かぬようにしてきた、曲の数々。

それを、今になって、貪る様に聞く、フランツ。


彼の心の冷たいものを、捩れた醜いものを、溶かし、絶望と病の淵から彼を立ち直らせたものは、

皮肉にも、破滅を望み憎悪してきたルードウィヒの曲だった。


彼の中で何かが変わった。


生まれて初めて得られた満足感。

母が生きていれば、得られたであろう、幸福感。


「ルードウィヒ・・・、ルードウィヒ・・・」

その名は、もはや彼に憎悪を呼び起こさせなかった。


そんなある日、彼はある陰謀を知ることになる。年老いた、彼の人生が再び動き始めた。


ベートーヴェンの曲を反体制として、消そうとしている者たちがいる・・・

その首謀者の中に、ユリシーズがいた。


彼はもう、息子と戦うことを躊躇わなかった。


人知れず、ベートーヴェンの曲の為に奔走するフランツ。

年老いた彼には、もう、財産も、自由の利く体も、何も残ってはいない。

ただ、その足のみが武器だった。

来る日も来る日も駆け回るフランツ。


「ルードウィヒを消してたまるか・・・!ルードウィヒは・・・ルードウィヒは・・・わたしの人生の全てなんだ・・・!!!」


ユリシーズは敗れた。今度は義父に息子が追われることになった。


もちろん、歴史には何も記されてはいない。

この戦いも、たったひとりで、ベートーヴェンの音楽を守り抜いた、一人の元老貴族、フランツ・クロイツシュタインの名も・・・


ただ、ルードウィヒ・ベートーヴェンの名とその音楽が残るのみである。



終章:夢でみた、始まりのフランツに捧げる曲。

〝月光〟

ベートーヴェンの晩年作と云われている。


同じ〝月光〟を、ベートーヴェンが2度、弾くことになります。ユリシーズの為というより、フランツのために。

同じ〝月光〟でも、夢の2度目は、曲が明らかに違います。


武者震いがする程、寒気がする程、すばらしい曲である。


ベートーヴェンは耳が聞こえなくなり、自ら入水自殺を試みた。

が、誰かが遠くから川に石を投げ、ベートーヴェンは自殺を断念した。


それは本当にあった事実である。

いまでも、誰が石を投げたのかは、謎のままである。

〝月光〟

フランツ・クロイツシュタインに捧げたい。