シスプリクエスト
なんでこんなことになったのだろう……。
僕たちは今、洞窟の中を進んでいる。
この先には世界を支配しようとする魔族の王が僕たちが来るのを待っている。
その魔王を僕たちが退治しなければならないんなんて……そんな馬鹿な。
事の起こりは鈴凛ちゃんが発明した体感バーチャルゲームの暴走からだった。
いつものように鈴凛ちゃんの発明に不安を覚えながらもバーチャルゲームで遊んでいた。
遊んでいたのはファイナルモンスタークエストと言う今はやりのゲームをもとに、
鈴凛ちゃんが独自に作ったゲームだそうだ。通称はモンクエ。
勇者と仲間たちが世界を支配しようとする魔王を倒しに行くというオーソドックスなものらしい。
らしいというのは、僕はゲームに詳しく無く、借りた雑誌を見て知った知識だから。
僕はどちらかというと試験とかに役立ちそうなゲームの方が良かったんだけど……。
そのゲームをやっている最中に何かが起こって暴走したらしい。
最後の記憶は、鈴凛ちゃんがゲーム機から出るように叫んでいたところ。
そして気がつくと僕はお城の前に来ていた。
そして門番によって王様の前に連れて行かれ、いつの間にか勇者にされて魔王退治に行かなくてはならなくなった。
なんでもお姫様がさら攫われたので助けて欲しいのだそうだ。
肖像画を見せてもらったら、お姫様はなんと鞠絵ちゃん。断ることもできずに旅立つことになった。
旅立つ前に仲間をと思って酒場に行ったら咲耶ちゃん、千影ちゃん、可憐ちゃん、雛子ちゃん、が待っていた。
全員じゃないけど、会えて良かったと思ったら様子がおかしかった。
みんな性格が変わっていて、しかも記憶が無くなっていた。
たぶん、この世界の住人になったからだと思うけど……。
元に戻すにはどうしたらいいのかわからず、今に至っている。
それぞれが何かの職についていて、咲耶ちゃんは全身を覆うような鎧を着て大きな剣を背負っていた。
聞くと正義の神官戦士だとかで、悪い奴を倒す為に勇者を待っていたという。
「邪悪、即、滅です!」
と張り切っている。
千影ちゃんはというと、メイドのような服を着て銃を装備したアンバランスな格好をしていた。
「じっとヤラシイ目で見ないでください。エッチなのはいけないと思いますっ!」
いや、そんな目で……ごめんなさい。
と、とにかく自分のことを戦うアンドロイドと言って咲耶ちゃんと仲間になったらしい。
可憐ちゃんは魔法使いの格好をしていて咲耶ちゃんの幼馴染らしい。
可愛らしい魔法のステッキを使って魔法を唱えるそうだ。
「まだ未熟ですが」
雛子ちゃんも魔法使い見習いで可憐ちゃんの妹弟子らしい。使える魔法は少ないけど空を飛べるらしい。
「プリティー・ウィッチー・雛子っち♪」
得意気にポーズを決める雛子ちゃん。ちょっと可愛いかも。
とにかく、咲耶ちゃんたちが仲間になり旅立つことになった。
魔物に襲われている村を助けたり、襲ってきた盗賊を倒したりしながら旅を続ける。
戦いの連携も取れるようになり実力もついてレベルも上がってきた。
そうそう、僕の装備は最初の頃は弱い武器と防具だったが、今では伝説の武器や盾、兜に鎧を着ている。
なんでも勇者にしか装備できないそうだ。
しかし、他のみんなとは中々会うことが出来なかった。
「これは遠見の水晶球です」
ある悪い魔女を倒した後に見つけた水晶球。
魔法使いの可憐ちゃんが言うには、遠くを見ることが出来るそうだ。
ちょっと覗いてみようかな……。
「はい、アニキ。どう? 元気してる?」
覗いてみると突然、鈴凛ちゃんが水晶球に映った。
「ごめんね、アニキ。連絡が遅くなって」
「鈴凛ちゃん、どこにいるの?」
「私は現実の世界にいるよ。白雪ちゃんも衛ちゃんも四つ葉ちゃんも一緒」
「そうなんだ……こっちは咲耶ちゃん、可憐ちゃん、千影ちゃんに雛子ちゃんが一緒なんだ。
でも、そうすると春歌ちゃん、花穂ちゃん、亞里亞ちゃんはどこにいるかわからないんだね」
「鞠絵ちゃんは、あにぃ?」
鈴凛ちゃんの横から覗くようにして守ちゃんが聞いてくる。
僕はざっと今の状況を説明した。
「元の世界に戻ることが出来れば記憶は戻ると思うよ。
でもそのためにはきちんと修理しないと……でも下手に修理するとみんなが閉じ込められちゃうから」
「ようするにこのゲームを終わらせないとダメって言うこと?」
「さっすがアニキ、話がわかる」
鈴凛ちゃんはそう言うと、クリアした後のことを説明してくれた。
このゲームはクリアすると新たな世界にいけるゲートが開くそうで、そのゲートを現実の世界へ戻るゲートにするらしい。
クリアするまでにみんなを探さないと。
「じゃあアニキ、また連絡するからね」
通信が途絶えると僕は水晶球を大事にしまった。
そんなこんなで僕たちは装備を整え、魔王のいるダンジョンへと向かった。
幸い前に見せてもらったゲーム雑誌でどうすればいいのか分かったので、なんとかダンジョンまで来ることが出来た。
そうそう、旅の途中で新たな出会いがあった。
春歌ちゃんに花穂ちゃん、亞里亞ちゃんと出会い仲間になった。
春歌ちゃんたちは魔王の手先だったが、改心して仲間となった。
春歌ちゃんはヴァンパイアだそうで、花穂ちゃんは貧乏神見習い(なぜ?)、亞里亞ちゃんは黒いマントを来た魔法少女。
まあ、そんなわけでまもなく魔王の間に着く。元の世界に返るためにも絶対に勝たないと。
万が一のときは妹たちだけでも帰してあげないと……。
「この先に邪悪がいるのですね」
咲耶ちゃんがビシッと指差してそう言った。相変わらず性格は変わったままだ。
「罠があるかもしれません。慎重に行きましょう」
「作戦を立てておきましょう。前衛には春歌さんと千影さん、咲耶さん、航さんにお願いします。
後方支援は私と雛子さん、花穂さんに亞里亞さんで」
可憐ちゃんが怪しげな飲み物を飲みながらそう提案する。
「私は使い魔を出しましょう。前衛の数が増えますわ」
「私は戦闘用アンドロイドなので局地戦も大丈夫です。私もサポートメカを呼び出しますね」
「正義の心があれば邪悪に屈することはありません!」
「騎士見習いスパ……もとい、勇者として頑張らないと。とにかく、サポートを頼むよ」
「では、開けますよ」
咲耶ちゃんが扉を蹴り開ける……が、勢いまして扉が吹き飛ばされる。
「なんてちゃちな扉なんでしょうか。扉の役目を果たしていませんね」
いや、咲耶ちゃんの力が強いだけだよ。
あまり力任せだと女の風上にこそっと置かさせてもらっている身分になってしまうよ。
「良くぞここまで来た。我が名はオルガルド。誇り高き魔族の王」
「貴方が魔王ですね」
ビシッと指を突きつけて咲耶ちゃんが言う。
たったいま魔王と名乗っていたけど、聞いていなかったのか確認する咲耶ちゃん。
「いかにも。さあ、どうする虫けらどもよ。我に平伏すか、ここで死ぬか、好きなほうを選べ」
「邪悪に屈しません! 汝は邪悪なりっ!」
咲耶ちゃんが大きな剣を構えて突っ込んでいく。僕も慌てて後を追う。
「サモン・ザ・ファング!」
千影ちゃんはさっきの言葉どおりサポートメカを召喚した。現れたのは黒い豹のような姿をしたメカだった。
「召喚!」
春歌ちゃんの声とともにどこからか蝙蝠がやってきて魔王を襲う。
蝙蝠は普通とは違い化け物並みの大きさで魔王といえどもただでは済まないだろう。
僕も負けていられない。剣を構えて一気に間合いを詰めた。
そのまま剣を振り下ろすが、片手で簡単に掴まれてしまう。
そのまま壁に向けて投げ飛ばされ体を打ちつけてしまう。
「航君、不幸!」
誰かがそう呆れたような声を上げる。そう言われると本当に不幸になりそうだ。
「白○雷!!」
後ろから可憐ちゃんが魔法で援護してくれる。
その間に体勢を立て直し再び攻撃に加わる。ダメージはそれほど無いが、背中が痛い。
「ピー○カピリ○ラ……」
可憐ちゃんの隣で雛子ちゃんが呪文を唱え始める。
「不幸になってくれませんか? 不幸になってください」
さらに横でそう言って念じる花穂ちゃんがいる。
花穂ちゃんが念じると魔王の攻撃は外れていく。まさに不幸って感じ。
亞里亞ちゃんは無言のまま、杖らしきものから魔法を放っている。
「ほう、やるではないか。だがこんなレベルでは我は倒せん。もっと我を楽しませてみろ」
あれだけの攻撃を喰らっていながら、若干の傷しかついていない。さすが魔王と呼ばれるだけはある。
魔王は手を掲げて呪文を唱える。すると手のひらの上に黒い炎の玉が浮かび上がってくる。
「いけない……風○結界!!」
可憐ちゃんが魔法を唱えるのとほぼ同時に魔王が黒い炎の玉を投げつけてくる。
だが可憐ちゃんが作った風の結界が弾いて炎に焼かれることは無かった。
「正義の鉄拳を受けなさい。強打っ!」
渾身の力で振るった大剣が魔王の腕に食い込む。
「世界の平和を乱すものには容赦はしません」
そう言うと千影ちゃんは銃を魔王に向かって続けざまに撃ち込んだ。
そして一回転しながらジャンプすると、そのまま隠し持っていたナイフを投げつける。
あの格好でよくあんな動きが出来るなぁ。
後方では亞里亞ちゃんも杖を構えて魔法攻撃をし続けている。
こちらも攻撃しなければ、ここが正念場。頑張って勝たなければ!
「と、いう夢を見たんだけどね」
「もうお兄さまったら、私をそんなイメージで見てたのね」
「ワタクシもヴァンパイアではありませんよ」
「アニキ、そういうのをやりたかったなら早く言ってくれればいいのに」
「ボクもそういうのやってみたいな」
「ヒナも、ヒナも」
初夢がこんな変なのだったけど、みんなが喜んでくれたから話してよかったかも。
でも、もっと良い夢を見たかったな。
終わり
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