「山中貞雄と丸根賛太郎 特集」(東京・千石 「三百人劇場」)
作品評

:宮川一夫特集に続いて開催中の「山中貞雄と丸根賛太郎」特集です。

作品名/


主な出演者

NEW
6/10

「人情紙風船」
山中貞雄監督
PCL 1937

中村かん右衛門、
河原崎長十郎

山中貞雄監督の遺作「人情紙風船」を再見した。私の趣味からするとユーモラスな「百万両の壷」の方が好みだけれど、やはり傑作である。落語に出てくるような貧しい長屋を舞台に、長屋の住人である髪結新三(中村かん(漢字出ず)右衛門)と海野又十郎(河原崎長十郎)を中心にストーリーが展開する。冒頭は雨のシーンから一転していい天気となる。長屋では1人の住人が首くくりで自殺するという冒頭からいきなり暗い展開である。この後に新三、大家、金魚売りの3人が外で会話するシーンがある。この構図が素晴らしい。この作品で印象的なのは場面転換のシーンで繰り返し出てくる雲の空をバックにした屋外の通りの映像である。雲の不安げな感じと微妙な光線ぐあいが心に残る。浪人の海野は、亡くなった父親が面倒をみて、今は江戸の屋敷にいる毛利三左衛門(橘小三郎)に仕官を頼み込む。父親が毛利に宛てた手紙を渡そうとするが、毛利は理由をつけて手紙を受け取ろうとしない。明日屋敷を訪ねてきなさいと言われて、屋敷を訪ねていっても門番に「毛利さまは海野又十郎など知らないといっている。お帰りください」と門を閉められてしまう。門番が 門を閉める→又十郎の足と突き返された手紙→じっと一点を見据えている又十郎→屋敷と又十郎のロングショットと続く。この編集のリズムもお手本のように素晴らしい。長屋の住人が「今夜は縁日だが雨が降らなければいいが」の台詞に続き、縁日の露店のアップ→そこに雨が降り出す。露店への場面転換で最初から雨を降らせず、途中から降らせるところに山中貞雄の演出のセンスを感じる。寺の門で雨やどりをしている米問屋・白子屋の娘 お駒(霧立のぼる)に近づく、傘を手にした新三。このシーンは良く使われるスチール写真の映像で有名だ。続く雨のシーンでは、又十郎が路地で傘もささず毛利が立ち寄っている家から出てくるのを待っている。又十郎は出てきた毛利に声をかけ、「明日また屋敷を訪ねていろいろとお願いをしたいことがあるので門番に中に通してもらえるように事前に伝えといてほしい」と丁寧に懇願する。雨の中かごに乗り込む毛利は、うっとおしいと感じていた又十郎に対して「屋敷には来るな。往来であっても声をかけてはならない」という捨て台詞とともに、いくらかの金を投げる。又十郎の足とお金のショット→豪雨の中立ち尽くす又十郎と続く。毛利に人情を踏みにじられた又十郎が雨の中、傘もなしに立ち尽くすシーンは、光と影のコントラスト、雨のたたきつける音、又十郎役の河原崎長十郎の表情によってぞくぞくするほど興奮させられる名シーンである。私はこの作品では、まずこの雨のシーンを思い起こす。一番好きな場面である。粋でイナセな新三だが、長屋の狭い庭で花をいじっていたり、ラストの街の親分衆に囲まれる(殺されることが暗示される)シーンで、長屋の住人に頼まれた傘の返却 を確認するなど、いさぎいい江戸っ子の心意気を上手く描写している。もちろん演じている「かん右衛門」が素晴らしいのは言うまでもない。又十郎の女房は、夫が侍として恥ずべきことをしたと思い違いする。酒によって寝ている又十郎は背中を向けて寝転びながら「毛利さまには父の手紙を渡してある。もう心配ない」と女房に話す。濡れた着物の中から手紙を見つけた女房はすべてを悟る。暗い部屋の中できらりと光る小刀→行燈の火を消す女房→朝、長屋の住人たちのたくさんの顔。心中したことが台詞で伝えられる。子供に「大家さんに知らせておいで」と言い、長屋の外に走って行く子供、手に持っている紙風船(又十郎の女房の内職)が横のどぶに浮かんで、揺れながら流れていくラスト。このラストもとても有名な場面であって、一度観たら忘れられない日本映画史上の名場面の一つだろう。やはり古い映画なので台詞が聞き取れないところがあったが映像自体はとてもクリアーである。最近LDになったが、そのうちDVDにしてほしいですな。未見の方は6/10(土)の18:00からの上映でどうぞ。

「キャメラマン宮川一夫特集」(東京・千石「三百人劇場」)
における作品評あれこれ

:現在、三百人劇場で上映されている「宮川一夫特集」で観た作品(未見、再見含めて)
についての作品評を随時書いていきます。

作品名/
主な出演者

New 5/22


「夜の河」
吉村公三郎監督、
大映京都、1956

山本富士子、上原謙、川崎敬三、小沢栄 他

今回は、渋い話題からはいってみる。今回の宮川キャメラマンの特集で特に大映の作品を連続して観ているが、1人気になる脇役専門の男優さんを見つけた。その人の名は「伊達三郎」。この方の経歴はよく知らないのだが、大映専属の俳優さんだったらしくて、とにかく良く出てくる。「噂の女」の客、「夜の蝶」のバーの客、「炎上」の刑事、「破戒」の冒頭で小屋にいる一人、「越前竹人形」で若尾文子を運ぶ車引き、「陸軍中野学校 雲一号指令」「ある殺し屋の鍵」そして最も印象深いのは「雪之丞変化」での川口屋と。他にもまだまだあるんでしょうが、この俳優さんが出てくると大映の映画という感じがしてしまうほど。今度ちょっと気にしてみてください。というわけで、ちゃんと「夜の河」にも出演している。主人公 舟木きわ(山本富士子)の京染め店に途中入社(!)するやる気の無い従業員役だが、これがなかなか味があっていい。さて「夜の河」だが、これはなんと言っても京染め作家の主人公 山本富士子の美しさにつきるでしょう。役がら和服姿が多いのだが、着物の色と柄も本当にあっている。私は現像のことはよく知らないが、この作品のカラーの抑えた色合いのトーンは本当に魅力的だ。八坂神社をはじめ京都の風景が随所に出てきて、思わず京都に行きたくなる。四条大橋のすぐ前の鴨川の川床のオープンカフェでお茶を飲んでいる山本富士子と大学教授役の上原謙。あんな目立つ場所でお茶を飲まなくてもと思ってしまう。東京で言えば銀座4丁目交差点に面した場所で逢い引き(古い表現!)するようなものでしょう。下心のある旦那役をやらしたら右に出るもののない小沢栄があいかわらずのいやらしさでいい。山本富士子と上原謙が東京に向かう夜汽車での窓にうつる赤い色の有名なシーンにもうなる。この作品は宮川キャメラマンの色彩表現の工夫が随所に感じられる。2人が初めて結ばれる旅館の部屋のシーンのカラー映像(暗い中に外から差し込む赤い淡い光)も官能的かつ上品さを漂わせて素晴らしい。海岸で上原謙は妻が病気であることを打ち明け、「もうすぐ」という台詞をなにげなく言ってしまう。病気の妻が死んだら一緒になろうというニュアンスの台詞で、確かに残 酷な一言である。この言葉にすぐに反応して、身勝手な上原謙に対して女として嫌悪感をもつ山本富士子の演技も素敵だ。これで2人には決定的な溝が出来てしまう。皆さんも余計な一言には気をつけましょう。この作品はやはり山本富士子の代表作でしょうね。

NEW 5/21



「切られ与三郎」
伊藤大輔監督、
大映京都,1960

市川雷蔵、淡路恵子、富士真奈美、中村玉緒他






雷蔵主演の歌舞伎もので、有名なお富与三郎の話である。木更津の料理屋の2階座敷で、江戸から流れてきた与三郎に対して、お富が言い寄るシーンは映画表現の魅力一杯の名シーンだ。与三郎がいきなりお富の顔をみてほほをはたく。つぶした蚊の血がお富のほほに残る。これがなかなか官能的である。夏らしく窓の風鈴のショット→部屋の和紙がめくれるショット→ろうそくの揺れるショットで部屋にはいってくる風を感じさせる映像感覚。単純な表現のようだが、こういうショットは最近の映画にはないなあ。伊藤大輔もサイレント映画出身だからこういう表現が自然と出来るのでしょう。二人の台詞がいろいろあって、お富は与三郎に愛を打ち明ける。今度は、お富が与三郎のほほの蚊をはたく。ろうそくが消えるショットが挿入され、部屋は暗くなる。次のシーンでは、子供たちが家の前でたき火に何かいれている火のショットに続く。火をこのようにつなげるショットのつなぎは、本当にかっこいい。この作品はとにかく場面転換の省略が多くて、最近の説明的な映画やTVドラマに慣れている観客にはついていくのがきついかもしれない。私は落語マニアなので 、省略には自然についていける。場面の省略は、観客に想像力がないとストーリーの流れをおぎなえないわけである。まあ有名な話だからストーリー説明はすっ飛ばしましょうというのもあったかもしれないが。この場面でも、いきなり与三郎とお富が手をとって逃げるシーン→お富の旦那の子分が探しているシーン→小屋でつかまって与三郎がお富の旦那の木更津の親分に拷問を受けているシーン→ぐるぐるまきにされた与三郎が海に放り投げられるシーンとスピーディーな展開が続く。与三郎は奇跡的に助かり、旅役者の一行に救われる。この後もいろいろとあるのだが省略して、殺人の容疑でお縄になった与三郎は牢を抜け出て江戸に戻る。偶然にも今は商人の山城屋の女房になっているお富と再会する。ここが有名な「お富久しぶりだなぁ」の場面である。歌舞伎出身の雷蔵はさすがにイナセで素敵だ。着物姿の淡路恵子もとても色っぽい。ここでストーリー省略して、ラストは屋根の上から義妹のお金(富士真奈美)に声をかける与三郎とお金のショットが続く。そこに伊藤大輔得意の「御用提灯」の群れがロングショットで映し出される。ここの躍動感には興奮させられる。キャメラの宮川一夫は言う までもないが、美術の西岡善信のセットも素晴らしい(この方は「どら平太」や「御法度」の美術も手がけている現役ばりばりの方です)。雷蔵ファンは必見の映画でしょう。




「噂の女」
溝口健二監督、
大映京都,1954

田中絹代、久我美子大谷友右衛門、
進藤英太郎 他



「西鶴一代女」「雨月物語」「近松物語」「山椒太夫」などの有名な溝口作品の中では、あまり知られてはいない小品(モノクロスタンダード 84分)だが、傑作である。前にビデオでは観たことがあるのだが今回スクリーンで観て、その感を深めた。時代ものが多かったこの時期だが、内容としては前年の「祇園囃子」に近い。今回は祇園ではなく、京都の色街・島原が舞台である。ストーリーは島原の「井筒屋」の女主人である初子(田中絹代)と、その娘で東京の音楽学校に行っていたが失恋して自殺未遂をおこし京都へ帰ってきた雪子(久我美子)と、初子の年下の恋人である青年医師の謙三(大谷友右衛門)の3角関係を中心に展開する。タイトルバックは、不安げな電子音を取り入れた黛敏郎の音楽であるが、溝口遺作の「赤線地帯」(これも音楽は黛敏郎)に感じが似ている。冒頭は「井筒屋」の正面にタクシーが着くところを宮川キャメラマンらしい斜めからの俯瞰撮影でとらえる(ラストも同様のアングル)。光と影のコントラストが綺麗。雪子が東京から帰ってきたところから始まる。雪子は最初は母親のお茶屋という職業や「井筒屋」の芸妓の女たちへの嫌悪感を露にするが、精神的に立ち直りながら徐々に理解を示していく。この作品ではなんといっても田中絹代の演技が素晴らしい。成瀬の「おかあさん」「流れる」や小津の 「彼岸花」そして溝口の「雨月物語」「西鶴一代女」ともまったく異なり、リズミカルな身のこなしと早口の台詞まわしが印象的だ。他の作品ではわりとゆったりした演技や台詞の印象だが、この作品のテンポの良さはどうだ。たばこをよく吸うのも「井筒屋」をきりもりしている初子を特徴づける演出だろう。「井筒屋」の中で唯一洋風である久我美子(オードリーヘップバーンのようなボーイッシュな服装だけでなく、和風の離れの部屋にもいすとピアノを持ち込んでいる)もとても魅力的である。母親の初子と恋人関係にあった謙三は、次第に年齢も考え方も近い娘の雪子と相思相愛の関係になる。初子が廊下を渡り、中庭にある雪子の部屋を訪ねるシーンがある。音楽学校の生徒らしく、ピアノでドビュッシーの曲(曲名忘れました)が流れるなか、(溝口作品の映像にドビュッシーの音がかぶさるなどは興奮ものである!)途中で音が止る。初子が部屋の障子を開けると、謙三と雪子が抱き合っている。上手い演出だ。ここで初子は雪子をなじる。結局、最初は母親と対立していた雪子は、母親に同情し謙三を拒否するという複雑な行動展開をみせる。「井筒屋」の芸妓が病気で亡くなったり、客(小悪 人を演じさせたら天下一品の田中春男)に騙されたりといかにも溝口作品らしいエピソードもあるが、ショックで寝込んでしまった母親を看病しながら、最後には「井筒屋」の代理若女将として手伝い始めた久我美子は、ラストではけっこう明るくなってしまって何か成瀬作品に出てくる女性のような逞しさを感じてしまったのは私だけでしょうか。宮川一夫のキャメラ、水谷浩の美術(井筒屋のセットは凄い)、岡本健一の照明とスタッフも黄金トリオである。私は溝口作品は12本くらいしか観てないが、その中ではナンバーワンに押したい作品。肩の力を抜いた溝口演出といった趣である。

5/3

「東京オリンピック」 総監督市川崑、東京オリンピック映画協会(製作)/東宝(配給)、
1965

念願だった「東京オリンピック」をやっと観ることが出来た。おそらく私が小学生の低学年の頃に親に連れられて観たような記憶もあるのだが、もちろんその頃は映像美などには関心があるわけもなく、ただ観ていたのでしょう。2時間50分で休憩なしの作品である。オープニングは、望遠レンズでとらえられた太陽から急に東京のビルの解体現場にうつる。車や、都電や人込みの昭和39年の東京の繁華街をとらえた映像に紫の字体で東京オリンピックとタイトルが出る。このタイミングと映像には興奮させられた。最初は聖火のシーンである。この中では、俯瞰でとらえた京都あたりの聖火とやはり画面一杯の富士山の下を左から右に移動する聖火ランナーの映像はどぎもをぬかれる。次が開会式である。国立競技場の超満員の観衆(7万人くらいか)のスタンドがやはり望遠でとらえられる。スターウォーズ・エピソード1のレースシーンでもCGを使ったスタンドの群集シーン出てきたが、やはり実際の人間がぎっしりとうまったスタジアムの映像は感動的である。感極まって泣いている観衆の姿もところどころにはさまれる。一体何台のカメラを使用しているのかと 思わせる入場行進のシーンとなる。そして聖火の入場に続き、ブルーインパルスが上空に五輪の輪を描いていく。私は東京に住んでいたので、この五輪の輪はリアルタイムで観た記憶がある。そのシーンから急に「陸上競技」の競争シーンへ移る。この場面転換のあざやかさ。有名だが、100m競争のスタート前の選手の表情を超アップでとらえた映像と100mをスローモーション映像で見せるという渋さ。棒高跳びの映像から急に雨のスタンドとなり、観衆の傘の様々な映像となる。観衆の中に巨人の長嶋選手と王選手の姿が一瞬写ります。柔道では、日本選手が外国選手を背負い投げする瞬間でストップし、次に表彰台という編集もかっこいい。競歩で「この競技はさぞやいらいらすることだろう」という三國一郎のナレーションの直後に優勝選手がテープを上からばしっとたたきつけて切るシーンがあるがナレーションの絶妙なタイミングがいい爆笑シーンである。スピード感溢れるのがジャズ調の音楽にのせた自転車競技。沿道の観衆にピントを合せ、その前を時速40KMくらいの自転車が疾走していく。ヘリを使ったような上空からの移動もありとても華麗な映像である。日本が優勝した女子バレー ボールでは、優勝した瞬間の後に喜んで抱き合う選手をとらず、一人でぽつんと何ともいえない寂しい表情をしている大松監督(スパルタ練習で鬼の大松といわれた)を執拗にカメラは追う。この時の音楽が歓喜ではなく悲劇的なさびしい音楽であるのも演出の妙である。その他にもライフル競技が長時間なので選手が弁当持参でくるというナレーションに続き、ある選手を横からの俯瞰でとらえた映像が続く。左側にライフルがあり、右側で選手が弁当を食べている映像は1枚の写真を見ているようでした。クライマックスはマラソン。優勝のアベベを横移動で追った映像や望遠でとらえたアベベの表情などが感動的である。今の新宿南口から甲州街道に続くマラソンコースが何度もでてくるが今の新宿南口と違い、何にもない!競技だけでなく東京の記録映画でもある。それ以外にも湖面できらきらと金色に輝くカヌー競技(選手の顔などはまったくわからない)なども好きである。本(キネ旬ムック「宮川一夫の世界」)によるとカヌーのシーンは宮川一夫が撮影したとのこと。閉会式に続いて最後にスタッフ紹介がされるが参加するというオリンピックの精神によるものでしょうが、製作スタッフがABC 順で名前だけが流れていく。これもとてもかっこいい演出です。カラー、シネスコで観たが、ビデオとは違うのは何といっても音の迫力である。鉄棒のしなる音、フェンシングで剣がかちあう音、聖火の燃え盛る音、自転車の疾走する音などなど、素晴らしい音に魅了される。また選手の表情や足の動きなどを超アップでとらえた映像も通常のオリンピックのTV中継ではなかなかみられない映像でしょう。こういう映画こそまっさきにDVDなどで出してほしいと思います。次回の上映は5/11(木) 19:00から東京・千石の三百人劇場です。未見の方は必見かもしれません。

4/29

「手をつなぐ子等」 稲垣浩監督、大映東京、1948

笠智衆、初山たかし、島村イツオ、杉村春子、徳川夢声

素晴らしい作品を観た。知恵遅れの子供、中山堪太(初山たかし)が
いじめなどにもあいながら、担当の教師 松村先生(笠智衆)の指導のもと
同級生たちにも助けられながら、小学校を卒業していくまでの話である。
脚本は伊丹万作、稲垣浩監督で、撮影はもちろん宮川一夫。
最初に昭和12年とクレジットがでる。場所は京都の郊外か。
子供たちの遊びや学校でのエピソードでストーリー展開がされ、途中に
四季おりおりの美しい風景描写がはさまっていく。
前半で、勘太の奇妙な行動によって、女教師から廊下に机を出されて
しまったという噂を聞きつけ、学校に父親(香川良介)が見に行くシーン
がある。洋服屋のミシンを踏む足→自転車のペダルを踏む足そして学校の
階段を靴を脱いで音を立てずに上っていく足という計算しつくしたカットがある。
階段のシーンに差し込む光の素晴らしさ。宮川キャメラマンの魂を感じる。
その学校から別の学校に転校する際に、新しい学校の校長先生(徳川無声)
と担任教師の松村先生(笠智衆)に堪太の状態を涙ながらに母親(杉村
春子)が話す。松村先生は堪太を引き受けると言い、クラスで勘太を
紹介する時に、勘太の状態を話しその上で「みんな堪太君と仲良くして
いろいろと助けてやってほしい。これは君たちの義侠心が試されているんだ」
と言う。いい台詞だ!
子供たちの土手でのそり遊び、最後の相撲大会などのシーンは、稲垣/宮川
コンビの名作「無法松の一生」のシーンを思い起こさせるような、スピーディ
でオーバーラップを多用したカット割で興奮させられる。
土のだんご、ガリ版印刷、落書きを消す作業、最後の相撲大会と堪太の
能力が高まっていくきっかけとなるユーモラスなエピソードの積み重ね
の演出もあくどくなくていい。
また堪太がいじめられるシーンは可哀相でジーンとしてしまうが、
場面転換があざやかで、からっとした印象である。
これは、成瀬、山中などの名監督に通ずる省略の上手さである。
学校が好きになり、友達にもめぐまれ、堪太をいじめていたガキ大将
まで更正させてしまった堪太の卒業式である。
「仰げば尊し」の歌が講堂に流れるシーンに続き、母親に手をつれられて
校門を出る堪太。母親の杉村春子は勘太と一緒に学校の方を振り向き
深深と頭を下げる。そして道を歩いていく(バックの雲が綺麗)
と同級生たちが堪太を囲むシーンがラストである。
平凡な説明的な演出だと、ここに笠智衆の松村先生がでてきて、
何か堪太や母親に一言台詞がありそうだがそんな野暮なことはまったくない。
大人の演出である。
笠智衆の松村先生は子供の自主性を重んじる教師で、本当に素晴らしく
観ていて心が晴れ晴れとする演技である。私は小津作品よりもこの作品や
清水宏作品の笠智衆の方がずっと好きです。
校長役の徳川無声、堪太の親友で義侠心に厚い 秀才の奥村(島村イツオ)
もとてもいいです。
次は5/24(水)12:15からと5/27(土)の15:45から
三百人劇場で上映されるので、感動したい方は是非ご覧あれ。
稲垣浩、宮川一夫最高!!






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