成瀬作品の音楽について
2004.2.13 NEW

 先日、読書しながら小津作品のテーマ音楽を集めたCDを聴いてました。
音楽で聴く小津作品はまた別の魅力があります。癒される感じでいいですね。
邦画の映画音楽といえば、私が真っ先に思い浮かべるのは黒澤作品です。
「七人の侍」「羅生門」「用心棒」「天国と地獄」「赤ひげ」など、
早坂文雄や佐藤勝の作った音楽の黒澤作品への貢献は非常に大きいと思います。私は5枚組のCDも持ってます。

 成瀬作品にももちろんテーマ音楽がありますが、ほとんど論じられたことがないのでは。
確かに成瀬作品のテーマ音楽は、あまり特徴がない平凡な曲調が多いですし、
スタッフのインタビューを読むと成瀬監督自身、あまり音楽に関心がなかったようです。
 しかし、私が多くの成瀬作品を愛す理由には、やはりあの成瀬作品の地味ですが心に染み渡る音楽も一つの要素ではないかと思います。
私は成瀬作品のテーマ音楽が割りと好きなんですね。
 
 成瀬作品の音楽担当では圧倒的に多いのが斉藤一郎という作曲家です。
この方のことは良く知らないのですが、インターネットで調べると昭和の初期から映画音楽を作曲しているベテランの方のようです。
斉藤一郎は「舞姫」(1951)以降数多くの成瀬作品の音楽を担当していますが、
凄いのは「稲妻」(1952)から「杏っ子」(1958)まで連続して14本の作品を担当しています。
晩年の60年代の作品も約半数はこの方が担当していますので、ともかく成瀬作品の音楽といえば斉藤一郎が代表でしょう。
 斉藤一郎の音楽(特に1950年代の成瀬作品)は、メロディの線の細い、淡い中間色のような感じが、
ブラームスに似ていると思います。ブラームスの影響を強く受けてるのではないかと想像します。
専門家でないので理論的なことはわかりませんが音からはそんな印象を受けます。私もブラームスは大好きなんですが。

 その他、数多くの作曲家が参加しています。何人か挙げると
・服部正 「まごころ」(1939)、「石中先生行状記」(1950)
・早坂文雄 「旅役者」(1940)、「めし」(1951)
・伊福部昭 「コタンの口笛」(1959)
・黛敏郎 「女が階段を上る時」(1960)
・林光 「女の中にいる他人」(1966)
・佐藤勝 「ひき逃げ」(1966)
・武満徹 「乱れ雲」(1967)
戦前の作品では1本ごとに違う作曲家という感じでかなり多い作曲家が担当しています。

 そこで私の好きな成瀬作品テーマ音楽ベスト10を挙げてみます。
音楽なのでなかなか言葉で魅力を表現するのは難しいので、作品名と作曲家名、一言コメントという感じでまとめてみます。
戦後の作品が中心です。

順位

作品名

音楽担当

一言コメント

1位

「流れる」

斉藤一郎

タイトルの大川(隅田川)の流れの映像と
マッチした音楽が心地よい

2位

「女の中にいる他人」

林光

成瀬晩年のミステリー調の異色作だが、
美しい旋律の甘美な音楽。タイトルバック曲
の途中で終わるようなラストがいい

3位

「秋立ちぬ」

斉藤一郎

マンドリンの音が、少年の寂しい心を
表現しているようでなんとも切ない音楽

4位

「鰯雲」

斉藤一郎

これもタイトルの夕暮れの鰯雲と見事に
マッチしている

5位

「夫婦」

斉藤一郎

いかにも成瀬作品調の音楽としか
いいようがない。繊細で美しい旋律

6位

「娘・妻・母」

斉藤一郎

小津の「彼岸花」「秋日和」の音楽と比較
すると面白いかも。しかし特徴のない音楽
です。でもそこがいい

7位

「乱れる」

斉藤一郎

旋律の中に挿入されるギターの音が
いかにも60年代ぽい。「驟雨」などでは
ピアノの音が挿入されている。
斉藤一郎音楽の特徴のよう

8位

「まごころ」

服部正

明るい旋律の中に、わびしさも漂い
耳に残る音楽。作品の雰囲気ともあってる。
同じ石坂洋次郎原作、服部正音楽の「石中
先生行状記」の牧歌的な音楽も好き

9位

「浮雲」

斉藤一郎

映画と同様、救いのない、エキゾチックな
感じのする悲しい旋律とリズム。
映画で泣けるのはあの旋律の効果も大きい。
やはりこの音楽が斉藤一郎の代表作か

10位

「乱れ雲」

武満徹

「怪談」(小林正樹監督)など実験的な映画
音楽の方が有名な武満徹の映画音楽だが
この音楽はひたすら美しい

 

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