成瀬作品 台詞クイズ 解答

:ビデオからの音の採録ですので、言葉や句読点の違いが
あった場合はすみません。


(1)「流れる」(脚本:田中澄江、井手俊郎)


 @冒頭、女中・梨花(田中絹代)が「つたの家」を訪ねるシーン

  ・つた奴(山田五十鈴):「(紙を見て)ちょっと、何てえの。梨(なし)の花・・・・」
  ・梨花(田中絹代)   :「梨花(りか)と申します」
  ・つた奴         :「りか。へぇー」
  ・勝代(高峰秀子)   :「珍しい名前ね
  ・米子(中北千枝子)  :「異人さんみたい
  ・なな子(岡田茉莉子) :「
呼びにくいわねぇ

  <寸評>:3人のテンポが良くてユーモラスだけど、人の名前をここまでけなす
        こともないのでは(笑)


 A続くシーン
  
  ・つた奴:「ご主人は」
  ・梨花 :「亡くなりました・・・一昨年・・・子供は昨年。あとはずっと一人で働いて居ります」
  ・つた奴:「あら、そう。まぁどっちかってぇとお、あんたみたいな年寄りの方が
        いいんだけどねぇ」
  ・勝代 :「悪いわぁ、年寄りだなんて・・・素人さん、驚いちゃう
  ・米子 :「この土地じゃ、三十なりゃ誰でもばばあよ
  ・つた奴:「まぁ、とにかくね。若い人は惜しげもなく使えるけど、気がきかないでしょう。
        そこへいくと年寄りはね・・・」
  ・米子:「まかせておけるけど、文句が多くてねぇ

 <寸評>:この作品には玄人、素人という言葉が結構出てくる。


 B水野の女将・お浜(栗島すみ子)の家で、お浜/佐伯/つた奴

  ・お浜:<(甥の佐伯=仲谷昇)に向かって>「ねぇ、今夜連れて来られない、ここに」
  ・佐伯:「今夜ですか」
  ・お浜:「あら、あんたこないだ、おつたにもずいぶん久しく会わないなっておっしゃってらした
       って。会わないってのはね・・・会いたいってことなんだよ
      「ねぇ、おつたさん。先生だって年だもの。昔の人が恋しくなるはずでしょう、ねぇ」

 <寸評>:お浜を演じる栗島すみ子(戦前の松竹の大女優:成瀬作品にも出演)の
       貫禄も凄いが、ここいう台詞の言いまわしは本当に上手い。
       味わい深い大人の台詞ですね。

 Cつたの家にて、化粧をしている染花(杉村春子)となな子(岡田茉莉子)
  
  <つた奴が風呂にはいって小唄をうなっている>
  ・染花:「(なな子に向かって)ねぇ、今日は何だか妙ね、この家(や)の雰囲気」
  ・なな子:「特に、今日に限ったことないわ。いつも妙よ、この家(うち)

 <寸評>:この作品での杉村春子、岡田茉莉子のやり取りは絶品である。
       この家(や)の「や」という音が、効果的。
       この台詞の杉村春子のイントネーションの素晴らしさは実際の作品で
       味わってみて下さい。

 Dつたの家の玄関先で、夜見回りに来た警察官と梨花の会話

  ・警官:「あんた、新しく来た人」
  ・梨花:「山中梨花と申します。45歳でございます
 
 <寸評>:別に年齢など聞いてないのですが(笑)田中絹代がほがらかに、かつ
       丁寧に言うのでさらにおかしい。上映の際に<くすくす>笑いが起こるシーンの
       一つ。
 


クイズページへ戻る


(2)「秋立ちぬ」(脚本:笠原良三)

@秀男(大沢健三郎)の母・茂子(乙羽信子)が客(加東大介)と駆け落ちしてしまった後の
 デパート(銀座松坂屋)屋上での、茂子が勤めていた旅館の一人娘・順子ちゃん(一木双葉)
 との会話

 ・秀男:「かあちゃん、きっと帰ってくるずら」
 ・順子:「でも、台所のおばさんが言ってたけどね、中年の女ってこわいんですってよぅ・・・
      あんたのおかあさん、中年の女でしょう
 ・秀男:「そんなこと、知らん」
 ・順子:「きっとそうよ。中年の女が男に狂うと、子供のことなんか忘れちゃうんだって

 <寸評>:小学校低学年の順子ちゃんの、それもデパートの屋上で言う大人びた台詞
       に苦笑!
        一人ぼっちになってしまった秀男に対する容赦ない言葉で、この後
        「秀男ちゃん、怒ったの」という台詞があるが、誰だって怒るわ(笑)
        ちなみに台所のおばさんとは<菅井きん>で、この意地悪さがまた絶品。


Aデパートに勤務する春江(原知佐子)と同僚の男性社員・山下(西条康彦)との会話

 ・山下:「帰りにまたジャズを聴きに行かないか」
 ・春江:「いいわねぇ」
 ・山下:「あの店、今度アート・ブレーキ−の新盤入れたんだ・・絶品だよ」」

 <寸評>:ストーリーにはまったく関係のない台詞だが、ジャズファンの私としては
       成瀬作品の台詞にアート・ブレーキ−(当時ジャズメッセンジャ−ズという
       バンドリーダーの黒人ジャズドラマー:日本でも人気が高かった)という名前
       が出てくるだけで感激!新盤とあるので「ジャズ喫茶」に誘ってるんでしょうね。
       脚本にあったのでしょうが、そのまま使うところに成瀬のその時代の
       風俗や流行に対する感度の高さを感じるというのはこじつけでしょうか。
       この作品には、順子ちゃんが旅館の部屋で<ダッコちゃん>の顔真似
       をする可愛い場面もある。
       他の作品だが「乱れ雲」にも当時流行っていた<ケロヨン、バッハッハイ>
       という台詞を子供に言わせている。木馬座のケロヨンって知ってます?(笑)
       私はTVでリアルタイムに見てます。       


B東京湾の埋立地に海を見に行った秀男と順子の会話

 ・秀男:「広ぇなぁ・・ここは」
 ・順子:「ここは海を埋めて作ったとこよ」
 ・秀男:「ここなら野球だって、なんだって遊べるじゃん」
 ・順子:「でも今にここだって、アパートやビルなんかがいっぱい建ってしまうわ

 <寸評>:「秋立ちぬ」の中で最も抒情的な名シーンだと思われる<晴海埠頭から東雲
        あたりの秀雄と順子の小旅行>にある台詞。
        この会話の正確な場所はわからないが、40年近くたつ現在は、おそらくビル
        や高層マンションなどが建っているのではと想像させられる。
        順子ちゃんの台詞はそれを思うとジーンとしてしまう。
        この作品に出てくる昭和35年当時の開発中の東京湾と埋立地は、
        とても荒涼とした感じが残っていて、印象深い。
        川島雄三作品「人も歩けば」「花影」などにも当時の東京湾埋立地が出てくる。
        

C埋立地で足を怪我した秀男がパトカーで叔父の常吉(藤原釜足)の八百屋に運ばれる

 ・常吉(藤原釜足):「(秀男をしかりながら)今日は徹底的に言い聞かせなきゃ」
             →(空のコップに気がついて)「おぃ、ビールをもう一本持ってきな」
 ・常吉の妻・さかえ(賀原夏子):(台所からちゃぶ台の常吉に向かって)
                    「子供しかるのに、なんでビールがいるのよぉ
 
 <寸評>:まるで志ん生の落語の世界に出てくる夫婦の会話を彷彿とさせるかのような
       生き生きとした台詞である。
       東京の下町(銀座といっても近くの東銀座/新富町のあたりの路地)の
       夫婦そのままといった藤原釜足と賀原夏子の名演技に唸る。
       最近の日本映画にはこういう自然で粋な演技のできる俳優は少ないですな。
       何度観てもこの二人の演技の上手さ、台詞の言いまわしの素晴らしさに
       魅せられてしまう。「秋立ちぬ」が傑作であることの理由の一つでしょう。


クイズページへ戻る


(3)「驟雨」(脚本:水木洋子)


@冒頭、日曜日朝の並木l亮太郎(佐野周二)と妻・文子(原節子:編物をしている)の会話
  
 ・亮太郎:「(略〜)だが、俺たちは日曜日にどっかに行くために夫婦になったわけじゃ
       あるまい・・・もう少し、うちにいたって陽気な生活ができるはずだ」
 ・文子:「あなたが話をなさらないからよ」
 ・亮太郎:「話?・・・どんな話がある」
 ・文子:「話はするものよ・・・あるもんじゃないわ
 ・亮太郎:「なんだぁ・・そりゃ・・哲学か?」

<寸評>:なかなかうまい台詞です。


A文子の姪で新婚旅行帰りのあや子(香川京子)が並木家を訪ねて、
 隣の今里念吉(小林桂樹)に庭先で尋ねる

 ・あや子:「(念吉に向かって)あのぉ・・・こちら留守でしょうか?」
 ・念吉: 「ああ、奥さんは近所でしょう。さっき・・緑色の買い物かごを
       さげて出かけられました」
 ・念吉の妻・雛子(根岸明美):「(家から顔を出して)よく見てるわねぇ・・・あんた

<寸評>:この後の小林桂樹のばつの悪そうな顔が可笑しい。


B新婚旅行で夫と喧嘩した様子を涙ながらに訴えるあや子と文子の会話

 ・あや子:「(略〜:行きの列車の中での夫との口喧嘩の様子)しまいに日本地図も
        書けないのか・・そりゃしつこく言うの・・・だからあんまりしゃくでしょう。
        日本地図くらい書けますわ、多少覚えてる通り書いたのよ」
 ・文子: 「書けたの?」
 ・あや子:「うん・・・そしたら全部書かないうちに『何だ・・そりゃきゅうりか?』って
       (あや子泣き出す)」
 ・文子: 「えっ?」
 ・あや子:「(泣きながら、強い調子で)
きゅうりかって・・言ったわよ」
 ・文子: 「(笑いをかみころして)ずいぶん・・失礼ねぇ

<寸評>:驟雨の前半の名場面の一つである。香川京子の台詞は物凄く
      長く、台詞の言いまわしもとても難しいと思うのだが、
      テンポ良くすらすらと語っている。
      ここでのまくしたてる香川京子(可愛い)と聞き役にまわる原節子の
      演技を見ていると、何か幸せな気持ちにさせられる。
      こういう日常のユーモラスなシーンが成瀬演出の最も素晴らしいところだと
      思うのですが。


C亮太郎(佐野周二)と念吉(小林桂樹)が出勤前に庭の井戸で歯を磨きながらの会話

 ・念吉:「うちなんか、雨が降ったって駅に傘持ってきませんよ・・・
      癖になるって言うんです。外に出る時は、帰りに雨が降るものと思えって・・・
      こうなんです」」
 ・亮太郎:「そりゃあねぇ。奥さんはあなたに甘えておられるんですよ・・・
        可愛らしいもんじゃないですか」
 ・念吉:「そうですか?」

<寸評>:凄い理屈!!


D文子(原節子)が引っ越してきたばかりの雛子(根岸明美)に商店街を案内するシーン。
 態度の悪い肉屋についての会話
 
 文子:(略〜)「こないだもね・・・うちはシェパードのいるお得意が何軒とかあるなんて・・・
         まるで20めや30めのお客なんて・・・問題じゃないみたいな顔をするんですの
 雛子:「まぁ」
 文子:「ですから・・もう・・私、絶対あそこじゃ買わないと決心したんですのよ」
 雛子:「生意気ですわねぇ」 

<寸評>:この会話のところも大好きなシーンの一つである。
      原節子が肉屋についてたらたらと不満を述べるところは
      小津作品や黒澤作品での原節子では絶対にお目にかかれないであろう。
      このシーンの原節子の自然体の演技はとても上手いし、魅力的である。
      20めや30めというのは肉の量のことでしょうね。
      言葉遣いが丁寧なわりに、言ってることは結構きついので余計笑える。
      
  

クイズページへ戻る


(4)「晩菊」(脚本:田中澄江、井手俊郎) NEW12.17


@冒頭、倉橋きん(杉村春子)の家を訪ねた不動産仲介業者の板谷(加東大介)の帰りぎわ
  玄関での会話
  
 ・板谷:「(きんが飼っている犬に向かって)いいかぁ。変なやつがきたら吠えるんだぞ。えぇ」
 ・きん:「あんた、近頃吠えられなくなったわね
 ・板谷:「(きんの方を向いて)えぇ。おかげさまで。じゃあ」

<寸評>きんの皮肉っぽい性格がよく表れた台詞。この時の加東大介の動じない表情
     がいい。


Aきんが金を貸している中田のぶ(沢村貞子)の飲み屋を訪ねてのシーン

 ・きん:「こんにちは」
 ・のぶ:「(きんの方を見て)あらぁ。裏から」
 ・きん:「えぇ、このあいだみたいに、裏から逃げ出されちゃ困ると思って
 ・のぶ:「今日はちゃんと用意してきました」

<寸評>きつい!ひたすらきつい(笑)


Bきんの家に昔の恋人 田部(上原謙)が訪ねてきた晩に二人で酒を飲んでいるシーン
 
 ・きん:「(田部に向かって)この頃、何を稽古してらっしゃるの。
      小唄やってるって、言ってらしたわね、この前」

 ・田部:「いゃあ・・・もう・・・さっぱり」
 ・きん:「唄ってくださらない、あたし弾きますわ」
 ・田部:「へぇ・・・三味線なんか、まだ持ってるの」
 ・きん:「(笑いながら)売って、宝くじでも買えば良かったんだけど・・・

<寸評>田部を演じる上原謙が酒に酔うにつれ、生活の苦しさを愚痴っぽく
    語るのがせつなくていい。きんも元芸者だけあって三味線を弾ける。
    

C北海道に転勤する1人息子 清(小泉博)を送る母親のたまえ(細川ちか子)と
  たまえの昔の芸者仲間で同居している とみ(望月優子)が上野駅地下の食堂で。
 
 ・たまえ:「ねぇ、清。もしママに何か変わったことがあっても帰ってこないでいいよ。
       ママのこったから、かぁつとなって急に死にたくなる時があるかもしれない
       けど・・・いいょ・・・帰ってこないで」
 ・とみ:「出先(でさき)に何よぉ・・・縁起が悪い
 ・清: 「大丈夫だよ・・・ママは死なないよ・・・なかなか」

<寸評>この作品で、しっかり者のきん(杉村春子)と対照的に描かれる
    貧乏している元芸者仲間のたまえととみ。
    ママという言葉に、母親のたまえと息子 清との甘えたような関係が
    よく出ている。ばくちと酒が大好きなとみ(望月優子)はこの作品にユーモラス
    な感じを与えている。
    しかし、息子に対する脅迫めいた台詞!


クイズページへ戻る


(5)「おかあさん」(脚本:水木洋子) 12.26 NEW


@病気で療養所に入院していた長男の進(片山明彦)が、療養所から逃げたとの電報を受けて、
  父親の良作(三島雅夫)と妻・正子(田中絹代)の会話
  
 ・正子:「進が療養所から、逃走したんですか」
 ・良作:「何だって・・ばかやろうが・・・せっかく無理して入れてやってんのに」」
 ・正子:「食べ物でも、悪いんじゃないかしら」
 ・良作:「食べ物が悪いったって・・うちより悪いとこ、あんまりねぇだろう

<寸評>面白い台詞


A正子が次女の久子=通称チャーコ(榎並啓子)におつかいをいいつける。
 

 ・正子:「チャーコ、踏み切りの八百屋で夏みかん買ってきておくれ」
 ・久子:「いくつ?」
 ・正子:「うん。2つでいいわ」
 ・久子:「(顔をしかめて)あぁ、すっぱい」」
 ・正子:「くだもの屋じゃない・・八百屋よ。値段が違うから
 ・久子:「はい」

<寸評>生活のリアリティのある台詞です。川本三郎さんがこの台詞について
    どこかで書かれていました。

    久子が、夏みかんを想像して、すっぱそうな顔をするところが
    なんとも無邪気で可愛い。


B長女・年子(香川京子)、次女・久子、いとこの哲夫=通称てっちゃん(伊東隆)を
 ピクニックにつれてきた、年子のボーイフレンドの平井ベーカリーの信二郎
 (岡田英次)が、昼食に作ってきたパンを見せるシーン。
 ・信二郎:「(年子に向かって)ピカソパン食べてよ」
 ・(久子/哲夫の歓声と感想)
 ・年子:「(パンを眺めて)芸術的ねぇ・・
 ・信二郎:「わかる?中にクリームと蜜とジャムとソーセージとカレーがだんだんと
        出てくる仕掛けなんだよ

<寸評>凄い仕掛け!。年子がうっとりという台詞が妙におかしい。
    信二郎役の岡田英次は、しょっちゅう「オー・ソレ・ミーヨ」を口ずさんでいる
    快活な青年。この作品に明るい雰囲気を与えています

C正子の家(クリーニング店)にやってきた正子の妹で哲夫の母親の則子(中北千枝子)
 と正子と年子の会話
 
 ・則子:「今日はね・・みんなに映画でもおごろうと思って」
 ・正子:「そんな・・・無理しないでよ」
 ・則子:「もう何年見ないかしら」
 ・正子:「お互いにねぇ」
     (則子と顔を見合わせて、笑う)
 ・年子:「(則子に向かって)ねぇ・・おばちゃん。いいのやってんのよぉ・・駅の前で
      <悲しき恋>っていうの」
 ・則子:「うん・・看板みてきたわ。
      泣いてください。閑古鳥(かんこどり)って言うんでしょう」

<寸評>この看板のコピー、意味不明なのですが(笑)

D家族揃って、向ヶ丘遊園に遊びに行く日の朝の会話
 ・正子:「あら。ここにあった梅干どうした?」
 ・久子:「おへそへ貼る、梅干?」
 ・哲夫:「僕、食べちゃった
 ・年子:「だめじゃないの、てっちゃん。かあちゃん電車に酔うから、貼っていくのに
 ・正子:「出つけないから困るのよ・・かあちゃん・・梅干ないと」

<寸評>このおかげで、かあちゃんはこの後、不安げの表情で電車に乗るはめに

クイズページへ戻る


(6)「女の座」(脚本:井手俊郎、松山善三) 1.17 NEW


この作品は、1962年の、成瀬の「大家族もの」の一つですが、一人一人の人物描写も
的確で、ストーリー展開のうまさ、ユーモラスな雰囲気に満ちていて、大好きな作品
です。よく見ると、テーマは小津の「東京物語」にも似ていますね。父親役も笠智衆だし。



@冒頭、会社が倒産して失業中の四女・夏子(司葉子)に対して、中華料理屋をやっている
 次男・次郎(小林桂樹)が店を手伝ってくれないかと頼むシーンで、長女・松代(三益愛子)と
 次女・梅子(草笛光子)も加わった会話
 
 ・次郎:「なっちゃん、遊んでるんだったら、俺んとこ手伝ってくれよ。
      出前に辞められて困ってるんだ・・・蘭子(注:妻=丹阿弥谷津子)は
      またできちゃったしさ・・・」
 ・松代:「あら・・・またできたの」
 ・次郎:「(頭をかきながら)やんなっちゃったよ・・・」
 ・梅子:「今度もまた女よ、きっと。うちは女が多い血統だから
 ・次郎:「ええぃ・・・よせよぉ」
 ・松代:「出前がいないと困るだろう」
 ・梅子:「あたしがお花教えているパン屋さんもね・・・出前が全然いなくて
      とうとうつぶれちゃったのよ」
 ・松代:「そう」
 ・梅子:「おまけに、奥さんが子供おいて、出て行っちゃったんだって」
 ・次郎:「いちいち、変なこと言うな


<寸評>テンポのいい台詞。このシーンは成瀬得意の「目線の芸」が続き
    、一つ一つの台詞と人物の部屋の中での動きが相手の目線で
    表現されています。
ちなみに、次郎(小林桂樹)にはすでに2人の
    小さい娘がいます。



A実家の石川家に父・金次郎(笠智衆)の見舞いを終えて帰る松代(三益愛子)
 と次郎(小林桂樹)が、実家の荒物屋の商品を手にとって、亡くなった石川家の長男の
 未亡人・芳子(高峰秀子)との会話。

 ・松代:「これ、なあに?」
 ・芳子:「紙ぞうきんです。それ、とってもいいんですって・・・
      昨日来たばっかり」
 ・松代:「へぇ・・・こんなもんが出来たの・・・試してあげる・・・
      一つもらっていくわよ」
 ・芳子:「(笑顔で)どうぞ」
 ・次郎:「おもしろいもん出来たね・・・じゃあ、俺も一つ

<寸評>石川家の人たちは、たばこなど実家の商品をすぐに
     もらっていってしまいます(笑)
     後半のシーンで、路子の夫(三橋達也)が店のたばこを
     持っていこうとするのを路子にみつかり、路子が財布
     からお金を出して「これで買いなさい」と言って、三橋達也
     がその通りにするというギャグシーンもあります。
可笑しい!


B次郎(小林桂樹)の中華料理屋で、九州から東京に戻ってきた
  三女・路子(淡路恵子)と五女・雪子(星由里子)と雪子の友人の
  青山(夏木陽介)との会話。

 ・青山:「(路子に向かって)そうですか。じゃあ。東京は何年ぶりですか?」
 ・路子:「3年ぶりですの。凄い変わり方ね・・・渋谷なんか、綺麗になっちゃって
      まるでニューヨークみたい」」
 ・雪子:「行ったことあるの?・・・ニューヨーク」
 ・路子:「みたい・・・って言ってるでしょう

<寸評>この淡路恵子の台詞の言い回しと表情が、また絶品
    また、この作品の星由里子は少し色気もあって本当に可愛い。


Cアパートを経営している松代(三益愛子)のところへ、アパートの住人の若い娘と
  家を出て行った松代の夫・良吉(加東大介)が戻ってきた際の会話
 
 ・アパート住人の中年女:「(入り口を振り返り)あらぁ・・・」
 ・良吉:「(住人の中年女を見て)いゃあ・・・しばらく」
 ・中年女:「まぁ・・・田村さん。(部屋にいる松代に向かって)
        奥さん、ちょっと・・・旦那さんよ」」
 ・(松代が廊下に姿をあらわす)
 ・良吉:「(松代をばつの悪そうに見て)いゃあ」
 ・松代:「(良吉に向かって)帰ってちょうだい」
 ・良吉:「俺・・・帰ってきたんだよぉ
 ・松代:「じゃあ、出て行ってちょうだい

<寸評>この役を出来るのは、加東大介をおいて他に誰がいるでしょうか(笑)
    このシーンの後、帰宅した娘(北あけみ)
がとりなし、晴れて加東大介は
    家に戻れることに。

    次に、このアパートが登場するシーンでは、廊下を拭き掃除している
    加東大介の姿
が。この変わり身の早さ(笑)

クイズページへ戻る


(7)「山の音」(脚本:水木洋子) 6.1 NEW


川端康成原作の鎌倉を舞台にした文芸もの。
成瀬作品の大きな特徴である「人物の視線の交錯」
が最も発揮された作品の一つだと思います。
台詞には、成瀬作品には珍しく、遠まわしに
エロティックな表現が出てきます。


@鎌倉から会社のある東京へ向かう電車の中で、
 尾形信吾(山村聡)と、息子で菊子(原節子)の夫である
 修一(上原謙)との会話。
 
 (修一の浮気についての二人の会話)
 
 ・修一:「別れますよ、もぉ。別れようとはしてるんです」
 ・信吾:(雑誌に目を通しながら)「菊子のどこが不満でそういうことに
      なるのかねぇ・・・わからんよ」
 ・修一:「つまり湖と激流の違いですね。
      おとうさん、女と遊んだことないんですか?」
 ・信吾:「ごまかさんでいい」
 ・修一:「わかるでしょう。まあ、別れてからゆっくり話しますよ」

<寸評>信吾と修一が電車の中で交わす会話のシーンは
     原作にもありますが、「湖と激流」のくだりは
     原作にはありません。なかなかの喩えです。



A鎌倉の実家に子供を連れて一時戻ってきた、信吾の娘の相原房子
 (中北千枝子)と信吾の妻で房子の母である保子(長岡輝子)と
 信吾(山村聡)、修一(上原謙)、菊子(原節子)の室内での会話。

  (房子の愚痴っぽい会話に続いて)

 ・房子:「お父様は菊子さんにおやさしくていいわねぇ。
      あたくしなんか、相原(夫=金子信雄)のおばあちゃんに
      不服顔ばかりされて」
 ・保子:「(房子に向かって)おまえの出ようですよ。
      この人があたしたちに大変やさしくしてくれるから
      あたしだって菊子にはやさしくしてるつもりですよ」
 ・修一:「(縁側に立ったまま憮然と)亭主にだけは、やさしくないね

<寸評>修一の皮肉っぽい性格が良くあらわれている台詞。
    原作にも同様の会話シーンがあります。
    このシーンでの山村、上原、原、中北、長岡の5人の俳優の

    目線と室内での動き、台詞の間の成瀬演出は、何度観ても
    スリリングで興奮させられます。



Bラストの新宿御苑での信吾と菊子の会話

  (菊子が夫・修一と別れることを決心したという会話に続いて)

 ・信吾:「(菊子に向かって)さぁ、行こうか。寒くなった」
    (信吾と菊子はベンチから立ち上がり、歩きだす)
 ・信吾:「さぁ、顔を拭きなさい。そんな顔では、一緒に歩けないよ」
 ・菊子:「(涙を拭きながら)はい」
 ・信吾:「(前方の庭園を見ながら)のびのびするね」
 ・菊子:「ヴィスタが苦心してあって、奥行きが深く見えるんですって」
 ・信吾:「ヴィスタって何だ」
 ・菊子:「見通し線って言うんですって」

<寸評>この新宿御苑のシーンも原作にあって、「ヴィスタ」の

    会話も出てきますが。ラストではありません。
    こういう台詞を「文芸作品」のラストシーンに持ってくるというのが
    何とも渋い。こんな台詞のラストシーンの映画って記憶にないです。
    唐突なラストシーンで有名な市川崑監督もびっくりでは(笑)

    しかし、この新宿御苑でのラストシーンの映像美は、言葉がありません。



クイズページへ戻る