成瀬作品 台詞クイズ 解答
:ビデオからの音の採録ですので、言葉や句読点の違いが
あった場合はすみません。
@秀男(大沢健三郎)の母・茂子(乙羽信子)が客(加東大介)と駆け落ちしてしまった後の
デパート(銀座松坂屋)屋上での、茂子が勤めていた旅館の一人娘・順子ちゃん(一木双葉)
との会話
・秀男:「かあちゃん、きっと帰ってくるずら」
・順子:「でも、台所のおばさんが言ってたけどね、中年の女ってこわいんですってよぅ・・・
あんたのおかあさん、中年の女でしょう」
・秀男:「そんなこと、知らん」
・順子:「きっとそうよ。中年の女が男に狂うと、子供のことなんか忘れちゃうんだって」
<寸評>:小学校低学年の順子ちゃんの、それもデパートの屋上で言う大人びた台詞
に苦笑!
一人ぼっちになってしまった秀男に対する容赦ない言葉で、この後
「秀男ちゃん、怒ったの」という台詞があるが、誰だって怒るわ(笑)
ちなみに台所のおばさんとは<菅井きん>で、この意地悪さがまた絶品。
Aデパートに勤務する春江(原知佐子)と同僚の男性社員・山下(西条康彦)との会話
・山下:「帰りにまたジャズを聴きに行かないか」
・春江:「いいわねぇ」
・山下:「あの店、今度アート・ブレーキ−の新盤入れたんだ・・絶品だよ」」
<寸評>:ストーリーにはまったく関係のない台詞だが、ジャズファンの私としては
成瀬作品の台詞にアート・ブレーキ−(当時ジャズメッセンジャ−ズという
バンドリーダーの黒人ジャズドラマー:日本でも人気が高かった)という名前
が出てくるだけで感激!新盤とあるので「ジャズ喫茶」に誘ってるんでしょうね。
脚本にあったのでしょうが、そのまま使うところに成瀬のその時代の
風俗や流行に対する感度の高さを感じるというのはこじつけでしょうか。
この作品には、順子ちゃんが旅館の部屋で<ダッコちゃん>の顔真似
をする可愛い場面もある。
他の作品だが「乱れ雲」にも当時流行っていた<ケロヨン、バッハッハイ>
という台詞を子供に言わせている。木馬座のケロヨンって知ってます?(笑)
私はTVでリアルタイムに見てます。
B東京湾の埋立地に海を見に行った秀男と順子の会話
・秀男:「広ぇなぁ・・ここは」
・順子:「ここは海を埋めて作ったとこよ」
・秀男:「ここなら野球だって、なんだって遊べるじゃん」
・順子:「でも今にここだって、アパートやビルなんかがいっぱい建ってしまうわ」
<寸評>:「秋立ちぬ」の中で最も抒情的な名シーンだと思われる<晴海埠頭から東雲
あたりの秀雄と順子の小旅行>にある台詞。
この会話の正確な場所はわからないが、40年近くたつ現在は、おそらくビル
や高層マンションなどが建っているのではと想像させられる。
順子ちゃんの台詞はそれを思うとジーンとしてしまう。
この作品に出てくる昭和35年当時の開発中の東京湾と埋立地は、
とても荒涼とした感じが残っていて、印象深い。
川島雄三作品「人も歩けば」「花影」などにも当時の東京湾埋立地が出てくる。
C埋立地で足を怪我した秀男がパトカーで叔父の常吉(藤原釜足)の八百屋に運ばれる
・常吉(藤原釜足):「(秀男をしかりながら)今日は徹底的に言い聞かせなきゃ」
→(空のコップに気がついて)「おぃ、ビールをもう一本持ってきな」
・常吉の妻・さかえ(賀原夏子):(台所からちゃぶ台の常吉に向かって)
「子供しかるのに、なんでビールがいるのよぉ」
<寸評>:まるで志ん生の落語の世界に出てくる夫婦の会話を彷彿とさせるかのような
生き生きとした台詞である。
東京の下町(銀座といっても近くの東銀座/新富町のあたりの路地)の
夫婦そのままといった藤原釜足と賀原夏子の名演技に唸る。
最近の日本映画にはこういう自然で粋な演技のできる俳優は少ないですな。
何度観てもこの二人の演技の上手さ、台詞の言いまわしの素晴らしさに
魅せられてしまう。「秋立ちぬ」が傑作であることの理由の一つでしょう。
<寸評>:この会話のところも大好きなシーンの一つである。
原節子が肉屋についてたらたらと不満を述べるところは
小津作品や黒澤作品での原節子では絶対にお目にかかれないであろう。
このシーンの原節子の自然体の演技はとても上手いし、魅力的である。
20めや30めというのは肉の量のことでしょうね。
言葉遣いが丁寧なわりに、言ってることは結構きついので余計笑える。
<寸評>テンポのいい台詞。このシーンは成瀬得意の「目線の芸」が続き
、一つ一つの台詞と人物の部屋の中での動きが相手の目線で
表現されています。ちなみに、次郎(小林桂樹)にはすでに2人の
小さい娘がいます。
A実家の石川家に父・金次郎(笠智衆)の見舞いを終えて帰る松代(三益愛子)
と次郎(小林桂樹)が、実家の荒物屋の商品を手にとって、亡くなった石川家の長男の
未亡人・芳子(高峰秀子)との会話。
・松代:「これ、なあに?」
・芳子:「紙ぞうきんです。それ、とってもいいんですって・・・
昨日来たばっかり」
・松代:「へぇ・・・こんなもんが出来たの・・・試してあげる・・・
一つもらっていくわよ」
・芳子:「(笑顔で)どうぞ」
・次郎:「おもしろいもん出来たね・・・じゃあ、俺も一つ」
<寸評>石川家の人たちは、たばこなど実家の商品をすぐに
もらっていってしまいます(笑)
後半のシーンで、路子の夫(三橋達也)が店のたばこを
持っていこうとするのを路子にみつかり、路子が財布
からお金を出して「これで買いなさい」と言って、三橋達也
がその通りにするというギャグシーンもあります。可笑しい!
B次郎(小林桂樹)の中華料理屋で、九州から東京に戻ってきた
三女・路子(淡路恵子)と五女・雪子(星由里子)と雪子の友人の
青山(夏木陽介)との会話。
・青山:「(路子に向かって)そうですか。じゃあ。東京は何年ぶりですか?」
・路子:「3年ぶりですの。凄い変わり方ね・・・渋谷なんか、綺麗になっちゃって
まるでニューヨークみたい」」
・雪子:「行ったことあるの?・・・ニューヨーク」
・路子:「みたい・・・って言ってるでしょう」
<寸評>この淡路恵子の台詞の言い回しと表情が、また絶品。
また、この作品の星由里子は少し色気もあって本当に可愛い。
Cアパートを経営している松代(三益愛子)のところへ、アパートの住人の若い娘と
家を出て行った松代の夫・良吉(加東大介)が戻ってきた際の会話
・アパート住人の中年女:「(入り口を振り返り)あらぁ・・・」
・良吉:「(住人の中年女を見て)いゃあ・・・しばらく」
・中年女:「まぁ・・・田村さん。(部屋にいる松代に向かって)
奥さん、ちょっと・・・旦那さんよ」」
・(松代が廊下に姿をあらわす)
・良吉:「(松代をばつの悪そうに見て)いゃあ」
・松代:「(良吉に向かって)帰ってちょうだい」
・良吉:「俺・・・帰ってきたんだよぉ」
・松代:「じゃあ、出て行ってちょうだい」
<寸評>この役を出来るのは、加東大介をおいて他に誰がいるでしょうか(笑)
このシーンの後、帰宅した娘(北あけみ)がとりなし、晴れて加東大介は
家に戻れることに。
次に、このアパートが登場するシーンでは、廊下を拭き掃除している
加東大介の姿が。この変わり身の早さ(笑)