<新企画>
日本映画監督作品 私的ベストテン

:成瀬監督以外にも、もちろん素晴らしい日本映画の監督は沢山おります。
 日本映画で好きな監督や作品の私的なベストテンです。
 代表作や名作と言われている作品以外にもいかに素晴らしい作品が
 多いかということを伝えていければと思います。もちろん全作品見てる
 わけでないので、私が見てる作品だけからの選択です。
 一部はすでにページ内や掲示板にも書いていますが。
 ベストテンといっても、ベスト3くらいまでが私の趣味での順位かと思います。
 9位と10位の違いなど説明できません。



<市川崑(Kon Ichikawa)監督>

順位

題 名

会社、製作年

一言

ビデオ

愛人

東宝 昭和28年 お洒落でソフィスティケートされた作品。越路吹雪、三國連太郎のコメディタッチの演技、岡田茉莉子と有馬稲子の可愛い&綺麗さ、成瀬組の玉井キャメラマンの美しいモノクロ映像ということなし。私の一番好きなシーンは、冒頭の志賀高原あたりの湖のボートシーン→東京での結婚式への場面転換の鮮やかさである。ボートの若いカップルが結婚するかと思いきや、それぞれの親が再婚するという皮肉めいたおかしさ。市川崑の演出が冴えまくっています。CSでの放送かビデオ(できたらDVD)化を強烈に望む。ラストもさわやか。市川崑の最高傑作

天晴れ一番手柄
青春銭形平次

東宝 昭和28年 「愛人」と並んで大好きな作品。冒頭の平次(大谷友右衛門)と豆腐屋の娘で恋人のお静(杉葉子)とのやりとりから快調に飛ばしていきます。有名な江戸城「松の廊下」でのしびれるギャグは見てのお楽しみ。贋金が江戸に氾濫してというミステリータッチのストーリー展開もなかなか良くできている。 LDあり

結婚行進曲

東宝 昭和26年 東宝時代がベスト3を占めてしまった。これもなかなか洗練されたライトコメディでいい。登場人物の早口のマシンガントークに圧倒される。特にヒロインのカナ子さん(杉葉子)の台詞回しは凄い!私の好きな杉さんの作品で最も綺麗で魅力的なのがこの作品。 あり

東京オリンピック

東宝 昭和40年 記録映画の大傑作。特に、冒頭のナレーションに続いて「1964年、東京、日本」→タイトルのシーンは何度見ても興奮させられる。開会式や体操、フェンシング等で多用する超望遠レンズの使用方法も素晴らしい。これは映画館のスクリーンで鑑賞する作品でしょうね。競技の最中の音の迫力も凄い。黛敏郎の音楽も傑作。 現在廃盤

破戒

大映 昭和37年 市川雷蔵主演。この種の文芸映画はあまり好みではないのだが、この作品のクールな感じはいい。雷蔵が生徒の前で自分の身分を告白するシーンは感動的。 あり

恋人

新東宝 昭和26年 池部良と久慈あさみ主演。結婚式前日の花嫁が昔から好きだった幼馴染とデートする。ラストの小道具の使い方に唸った。さすが脚本・和田夏十 あり

プーサン

東宝 昭和28年 一般には東宝時代の代表作と言われている。社会風刺の色が濃く、ベスト3の3本と比べると私の評価としては落ちる。でもやはり必見の作品の一つでしょうね。伊藤雄之助が主演という珍しい作品でもある。 あり

こころ

日活 昭和30年 夏目漱石の原作自体も好きである。森雅之の先生と奥さんの新珠三千代がいい。森雅之に関しては出演作品の中でベスト1かもしれない。森ファン必見。このラストもいかにも市川崑らしい唐突な終わり方である。(例「おとうと」「太平洋ひとりぼっち」など多数) あり

ビルマの竪琴

日活 昭和31年 モノクロスタンダードで隊長が三國連太郎、水島が安井昌二のバージョンです。 あり
10

黒い十人の女

大映 昭和36年 小林節雄キャメラマンのモノクロ映像が強烈である。アヌークエーメみたいなメイクの岸恵子、和服で美しさ絶頂の山本富士子、結構可愛い中村玉緒など女優陣を見る楽しみが一杯。当時のテレビ局の雰囲気が伝わってくる。風(船越英二)の上司の俳優がみのもんたに似ている(笑) あり
番外 「ラッキーさん」
「盗まれた恋」
「足にさわった女」
「穴」
「おとうと」
「炎上」
「雪之丞変化」
「細雪」など


<小津安二郎(Yasujiro Ozu)監督>

順位

題 名

会社、製作年

一言

ビデオ

東京暮色

松竹 昭和32年 一般的には、傑作揃いの小津作品の中で低い評価の作品のようだが、私にとっては小津の最高傑作である。冒頭、笠智衆がオーバーを着て、行き付けの飲み屋にはいり「今日も冷えるね」などと言う。
飲み屋の女将は浦辺粂子、客が田中春男である。ここでの3人のやり取りは自然な演技で最高。大半の小津作品は「春から夏」「雲一つないピーカン」だが、この作品の設定は「冬」であり、寒々しい雰囲気が画面に出ている。夫とうまくいかず娘を連れて実家へ帰ってくる長女の孝子(原節子)も小津作品の中では異色の扱いである(マスク姿まで出てくる)。中絶のあげく自殺してしまう明子(有馬稲子)の不機嫌そうな表情もこの作品にはあっている。なんといっても夫(笠)と娘(原/有馬)を捨てた母(山田五十鈴)の演技が絶品である。山田五十鈴の演技を見るだけでもこの作品を観る価値があるでしょう。ラストの上野駅のシーンは小津作品の中でも屈指の名場面である。笠の家のある高台の坂道の使い方も素晴らしい演出で唸る。暗いテーマに関わらずリズミカルな音楽も耳に残る。5年くらい前にパリの映画館で小津特集があったときにも観たが、超満員であった。書籍によると小津監督本人はとても乗っていた作品だったらしい。
あり

麦秋

松竹 昭和26年 小津の戦後の代表作である「晩春」「麦秋」「東京物語」(原節子の役名から紀子3部作とも)の中では、最も完成度が高い。紀子(原)の友達のアヤ(淡島千景)の明るい雰囲気がとてもいい。小津自身がインタビューで述べているように「輪廻のようなものをテーマに、余韻を残した演出」が素晴らしい。
実際には家族の崩壊という重いテーマを扱っている。
あり


東京物語

松竹 昭和28年 これは何も言うことないでしょう。私は学生時代から映画、TV、ビデオ等で10回以上は観てる。
杉村春子の演技と香川京子の可憐さが心に残る。
尾道には一度行って、あのお寺に行ってみたい。
あり

早春

松竹 昭和31年 既婚の池部良とOL岸恵子の不倫をベースに、サラリーマンの若い世代を中心に描いた作品。高橋貞二、須賀不二男、田中春男などの演技も楽しい。
サラリーマンの中には、実は私の知人の方も1人出演している。休日の江ノ島へのピクニックシーンは笑える。ただ歩いているだけ。
あり

生れてはみたけれど

松竹蒲田 昭和7年 サイレント映画というのはあまり数は観てないが、私が観ている中では間違い無くサイレント映画の最高傑作の1本である。子役の菅原秀雄、突貫小僧が大活躍する。ユーモアとサラリーマン社会のペーソスなど、笑ってほろっとさせられるこれぞ松竹という雰囲気を持った作品。突貫小僧こと青木富夫さんとは、3−4年前、丸の内で開催された小津シンポジウムの休憩の時、売店で見かけておもわず話しかけて言葉をかわした。感激の極みでした。 あり

お早よう

松竹 昭和34年 子供が主人公で、何とも楽しい作品。ちょいと下品なとこもありますが!
杉村春子と母の三好栄子とのやり取りは最高!
黛敏郎の音楽もリズミカルでとてもいい。
あり

長屋紳士録

松竹 昭和22年 小津の戦後第1作であり、タイトル通り、長屋が舞台となる。親とはぐれた子供をひょんなことから連れてきた主人公の飯田蝶子が、最初はうっとおしいと思っていた子供に対してだんだんと愛情を持ってくる過程の演技に心打たれる。落語の人情噺のような世界。 あり

非常線の女

松竹 昭和8年 戦後のいわゆる「小津調」の作品しか観てない人には、驚かされる作品だろう。当時のアメリカ映画のギャング映画の影響をもろに受けたようなモダンな作風である。若き田中絹代が元ボクサーの用心棒(岡譲二:ハリウッド映画そのままのような服装と風貌)の情婦で、おまけにピストルをかまえるシーンを最初観た時は、それまで観ていた小津作品のイメージとあまりに違うので驚いた。ちなみにこれもサイレント。木下恵介監督が当時この作品の撮影助手をしていたようです。 あり

小早川家の秋

宝塚映画 昭和36年 最近わりと好きになった作品。中村鴈治郎と浪花千栄子のやり取り、新珠三千代の長女と夫の小林桂樹(この二人は本当に夫婦役が多い)その他、名優揃いである。小津作品には珍しく森繁まで出ている。京都の東山のあたりで、主人の鴈治郎を店員の藤木悠が尾行するシーンは、不安げな音楽もあってミステリータッチの面白い効果をあげている。 あり
10

晩春

松竹 昭和24年 これは言うまでもない名作です。好きなシーンは、
鎌倉の能楽堂で周吉(笠智衆)が三宅邦子と挨拶をして機嫌の悪くなった周吉の娘の紀子(原節子)(父に再婚の噂があったので)。周吉に用事があるのといって、反対側に歩いていくのでなく、父と娘が同じ道を離れて歩いていくという演出が素晴らしい。
あり
番外 「彼岸花」
「宗方姉妹」
「戸田家の兄弟」
「風の中の牝鶏」
「お茶漬けの味」
「父ありき」
「一人息子」
「秋刀魚の味」
「浮草」など


<川島雄三(Yuzo Kawashima)監督>

:私が成瀬監督の次に好きな川島雄三監督編です。
 あらためて作品を選んでいくと本当に傑作ばかりで、こんな
 監督も珍しいのではと思います。
 先日の三百人劇場で、未見の作品を相当見られたのが良かったです。

順位

題 名

会社、製作年

一言

ビデオ

人も歩けば

東京映画 昭和35年 先ごろ、東京・三百人劇場での「川島雄三」特集で初めて観て、断然川島作品の最高傑作となった。川島作品の冒頭のアバンタイトル(タイトルの前に展開するストーリー)は、どの作品も素晴らしいが、この作品は特にいい。タイトルが出てからもストーリーが語られるという凄さで、こんな構成見たことない!タイトルが終わるまでに既に1本分の映画を見たような錯覚に陥った。銀座の質屋に婿入りした主人公 砂川桂馬(フランキー堺)を取り巻く不思議なコメディだが、桂馬が質屋を飛び出し、桂馬の叔父の遺産相続のストーリーがからみ、まったく飽きさせず先の読めないシナリオに唸る。何とこの作品は原作は梅崎春生だが川島雄三の単独シナリオである。沢村貞子、桂小金治、藤木悠(私立探偵:金田一小五郎!)、銭湯経営者で手相見の趣味を持つ 森川信、新橋の飲み屋の女将 淡路恵子、遺産相続の代理人をしているパブ近藤(ロイジェームス)、家を出た桂馬が寝泊りする、東京湾埋立地の安ホテルの主人の加東大介などなど、芸達者の名優たちが勢ぞろいである。特に森川信(寅さんの初代おじちゃん)と淡路恵子のテンポのいいセリフと演技は最高である。ラストは未見の方のために伏せるが、これがまたよく練られたお洒落なラストで、もう言葉がない。しかしこれだけの大傑作を川島監督本人のコメントは「これはもう、負け犬でございます」というのは謎である。謙遜して言われたのだろうか。
昭和35年当時の東京の風景(銀座、晴海のあたり、新橋(鳥森神社のあたり)も懐かしい。
とにかく未見の方には絶対に観てほしい作品。といってもビデオは無いし、以前スカパーの日本映画専門チャンネルで放送したことがあるようなので、スカパーかBSの放送に期待したい。しかしこういう面白い作品をビデオやDVDにしないでどうすると文句をつけたくなる。

貸間あり

宝塚映画 昭和34年 「人も歩けば」を観るまでは、この作品が川島作品のベストワンであった。大阪を舞台に奇妙な構造のアパートに暮らす不思議な人達を描いているが、何とも物悲しい雰囲気が堪らなく好きである。与田五郎(フランキー堺)の演技は、「幕末太陽傳」よりも断然いい。この作品もアバンタイトルで始まり、そこからタイトルにいく部分がとてもかっこいい。音楽(真鍋理一郎)もとてもいい。淡島千景も色っぽいし、浪人生の小沢昭一も最高。これは先日NHK BSでも放送されたし、キネマ倶楽部からビデオも出ている。有名だが、脚本は川島監督と藤本義一である。 あり


洲崎パラダイス
赤信号

日活 昭和31年 これも大好きな作品。隅田川にかかる勝鬨橋での行くところの無い二人(新珠三千代と三橋達也)がバスに乗り込んで、遊郭のある洲崎弁天町で降りるところから始まる。新珠三千代がとにかく色っぽい。露出などほとんどないのにあの色気は凄い。もちろん川島演出のなせる技であろう。この作品のラテン調の音楽(真鍋理一郎)もいい効果をあげている。三橋達也が働く「そば屋」の店員の小沢昭一は何度観ても笑わせてくれる。ラストはまた勝鬨橋の二人で終わる構成も素晴らしい。そういえば川島作品にはよく橋がでてくる。この作品では洲崎の遊郭にはいる橋があり、「青べか物語」も橋を渡るところから始まる。「縞の背広の親分衆」も橋が出てくる。 あり

青べか物語

東京映画 昭和37年 小説家の先生(森繁)が東京を離れて、千葉県の浦安(映画では浦粕)に移り住む。そこでの奇妙な住人とのやり取りがいくつかのエピソードでストーリーが展開する。この作品は川島作品には珍しくとても叙情的な映像に満ちている。老船長(左ト全)先生のシーンでは、夕暮れの映像が美しい。

喜劇・とんかつ一代

東京映画 昭和38年 上野のとんかつ屋(モデルは現在もある井泉)を舞台にしたコメディ。この当時の東宝の駅前シリーズなどと出演俳優はほとんど一緒だが(森繁、加東大介、三木のり平、フランキー堺、山茶花究、淡島千景、団令子、池内淳子など)、やはり川島作品は一味違った作品に仕上げられている。この作品は珍しくアバンタイトルなしで東宝マーク→東京映画マークの後に、豚の顔のアップでタイトルが始まる。森繁が唄う「とんかつの唄」(〜とんかつが食えなくなったら、死んでしまいたい〜)の唄は、一度聴いたら耳から離れない。CDがあれば欲しい。山茶花究の不気味なところ(ラストに謎がとける)、怪しげなクロレラ研究家の三木のり平(何でもクロレラの食品にしてしまう:海苔のつくだにを「これが何はなくとも<江戸みどり>」とか言う!)、そして芸者のりんごちゃん(水谷良重)、フランス人で当然フランス語を話す岡田真澄などもいい味を出している。
ラストの唐突な終わり方(とんかつ屋で「とんかつの唄」を皆で唄い出す)も好きだ。

箱根山

東宝 昭和37年 西武と東急のいわゆる「箱根戦争」をモデルにした獅子文六原作。冒頭の観光バスが急な山道をカーチェースするシーンは何度見ても興奮させられる。
ライバルの老舗旅館同士のいがみ合いがベースとなってストーリーが展開する。老舗旅館の娘の星由里子がとても可愛い。またライバル老舗旅館の従業員の加山雄三もなかなか演技が達者である。
あり

幕末太陽傳

日活 昭和32年 言うまでもなく川島作品の代表作の一本である。
落語の「居残り佐平次」「品川心中」「三枚起請」「お見立て」などがベースとなっている。
黛敏郎のジャズ調の音楽がとてもいい。こはる(南田洋子)と
おそめ(左幸子)のライバル花魁同士の喧嘩のシーンも面白い。川島作品に一本しか出ていない石原裕次郎(高杉晋作)がカッコイイ。
あり

東京マダムと大阪夫人

松竹 昭和28年 松竹時代の作品。東京郊外の社宅を舞台に、二組の夫婦(三橋達也、月丘夢路=東京マダム/大坂志郎、水原真知子=大阪夫人)を中心に描かれる。社宅を仕切っているような人事課長の奥さん(丹下キヨ子)が、引っ越したと思ったら、新任でまた騒がしい奥さん(高橋豊子=後期の小津作品で有名)が来るというラストのユーモアはなかなかのものである。私はスカパーの「衛星劇場」で見た。

わが町

日活 昭和31年 織田作之助の原作。大阪の下町を舞台に、一人の頑固一徹な男 他吉(辰巳柳太郎)の生涯を描く。
他吉の妻と孫の1人2役の南田洋子がとても美しい。ちなみに日活時代の「飢える魂」「続飢える魂」でのヒロイン南田洋子もとても綺麗で驚いた。
ラストの大阪のプラネタリウムでの他吉の死のシーンには涙。
10

明日は月給日

松竹 昭和27年 三百人劇場の特集で見た。タイトル通りサラリーマンを題材としてコメディだが、シナリオも練られていてよく出来ている。会計課長の日守新一、高橋貞二、大阪志郎などの出演。
番外
:好きな作品が多くて選べませんが。
「還ってきた男」     
「天使も夢を見る」
「適齢三人娘」
「とんかつ大将」
「愛のお荷物」
「あした来る人」
「銀座二十四帖」
「風船」
「女であること」
「暖簾」
「赤坂の姉妹 夜の肌」
「特急にっぽん」
「火影」
「しとやかな獣」
「鴈の寺」など


<溝口健二(Kenji Mizoguchi)監督>

 :10本くらいしか観てないのでベスト5とします。
 1位と2位は他の代表作と比較してあまり語られることの
 少ない作品ですが、私は大好きな作品です。
 キャメラの使用方法、編集、女性の描き方などの点で、
 成瀬とは対極にある監督のような気がします。

順位

題 名

会社、製作年

一言

ビデオ

噂の女

大映京都 昭和29年 京都の色街「島原」の母(田中絹代)と娘(久我美子)を描く、溝口作品の現代劇の隠れた傑作。島原の店の女将である田中絹代は、他の溝口作品、小津、成瀬、五所等の作品のイメージと大分違い面白い。早い台詞回しで、テンポのいい演技に驚く。若い恋人(大谷友右衛門)を娘の久我美子と張り合う母親を演じている。娘の久我美子は、東京で失恋して失意の中実家に戻ってくるが、母親が倒れてから若女将のような立場になって、案外けろっとしてそれをひきうける。他の溝口作品のように、どっぷりと悲劇的に終わるのとは違い、少し希望が見えるようなラストで、この辺は「成瀬っぽい」と勝手に感じているのですが。島原のセット、京都の屋外ロケ、宮川一夫のクレーン撮影の素晴らしさもこの作品が好きな理由の一つ。 あり

武蔵野夫人

東宝 昭和26年 最近、スカパーで放送されたのを観た。大岡昇平原作の文芸作品である。成瀬組のキャメラ 玉井正夫と唯一組んだ作品として興味深かった。
溝口の特徴である「クレーン撮影による長回しカット」は随所に見られるが、田中絹代といとこの片山明彦(「成瀬作品「おかあさん」で病死する長男役)が
墓参りに行くシーン、狭山湖に行くシーンなどの屋外ロケは、白いワイシャツの背中に木漏れ日があたるなど、玉井正夫のキャメラワークが成瀬作品を彷彿とさせて面白い。音楽の早坂文雄の曲調も、成瀬作品「めし」に似ている感じがした。
当時は、武蔵野ってあんなに美しい自然が残っていたのかと驚く。とにかく屋外シーンのモノクロ映像は素晴らしい。玉井正夫キャメラマンのワンカットクレーン撮影というだけで興奮させられるのは成瀬マニアだからでしょうか(笑)


近松物語

大映京都 昭和29年 これはもう語りつくされている名作だが、やはり香川京子のおさんと長谷川一夫の茂兵衛の演技が最高かと。前半の琵琶湖の小船のシーンの美しさが印象的 あり

山椒太夫

大映京都 昭和29年 森鴎外原作。20数年前、高校生の頃「並木座」で初めて観て深く感動した。香川京子の安寿が湖に入水するシーンの淡々と描く演出は何度観ても素晴らしい。ラストの母親(田中絹代)と厨子王(花柳喜章)との再会シーンはひたすら涙!山椒太夫(進藤英太郎)の悪役振りもさすがである。 あり

雨月物語

大映京都 昭和28年 これも言うまでもない傑作。前半の霧の立ち込める琵琶湖の小舟のシーンは、小舟は止まったままでキャメラのクレーン撮影と照明で、舟が漂う映像を撮影したとNHKで放送した「宮川一夫の世界」で知って仰天した。森雅之と京マチ子(亡霊)のシーンは、幻想的でひたすら美しい。宮川一夫キャメラマンがインタビューで述べているように「絵巻物」のような作品。
あり
番外
というか観てる作品です。
「残菊物語」     
「新平家物語」
「西鶴一代女」
「浪花悲歌」
「祇園囃子」
「お遊さま」
「赤線地帯」




<大森一樹(Kazuki Oomori)監督>NEW 11.22


:ベスト1のみを紹介します。 「恋する女たち」(1986)。
 青春映画の大傑作で、個人的にとにかく好きな作品です。
 私がこれまで観ているすべての日本映画の中でも
 ベスト5にはいります。それくらい気に入っています。
 女性心理を繊細に描いたという点、抑えたユーモアなどの点で
 成瀬作品に通ずるものがあるとも思っているのですが.。
 この作品の好きな人は多いとは思いますが、少しその
 魅力を紹介してみようかなと。
 大森監督の公式ページにもデータくらいしかなく
 あまり紹介されていないので。
 この作品のロケーション地である金沢には今年の5月に1週間
 ほど旅行しましたが、とても気に入ってしまいました。
 一つお断りしておくと、私は特に斉藤由貴の大ファンでも
 なければ、少女や女子高生が出てくる映画が好きなわけでも
 ないです。
 私の好みは、成瀬作品のように<大人の女><色っぽい女性>
 であって、洋画でも好きな女優は昔のキム・ノバックやエバ・ガードナー、
 最近ではキャサリン・セタ・ジョーンズのような色気のある美人女優
 なので。
 別にどうでもいいことですが、女子高生好きだと思われるのも
 いやなので、一応弁解しておきます(笑)

順位

題 名

会社、製作年

一言

ビデオ

恋する女たち

東宝 昭和61年 大森一樹監督の大傑作である。金沢の3人の女子高生(斉藤由貴、相楽ハル子、高井麻巳子)の揺れ動く心情をユーモラスに描いた作品。

冒頭、緑子(高井)の仮想お葬式からストーリーが始まる。まずこの緑子(みどりこ)という名前からしてインパクト十分である。緑子のお葬式は3回目で、一度目は体育の平均台で足を開いてショートパンツがやぶけた時、二度目は試験の山がはずれ落第寸前の赤点を取ったとき、三度目の今回は失恋が原因の仮想葬式である。この展開から、この愛すべき作品に引き込まれてしまう。緑子は自分の可愛さを武器にするようなちょっとズルイ感じの少女である。この高井
麻巳子はさすがに可愛くて綺麗だとは思う。

小料理屋の娘・汀子 (相楽ハル子)のお店に立ち寄る多佳子(斉藤由貴)はカウンターでビールを一気にあおる。この子達はビール飲んだり、たばこ吸ったり結構おませである。斉藤由貴がビールを飲み干した後の表情は可愛い。女子高生とは思えない相楽ハル子の大人びた台詞と演技も最高である。多佳子は、同級生のまさる(柳葉敏郎)にほれている。まさるは野球部にはいっている少年。当然だがこの時の柳葉敏郎は若い。一方、多佳子は姉の比呂子(原田貴和子)が家庭教師をやっていた家の生徒で多佳子の高校の下級生にほれられている。斉藤由貴の友達で美術部の大人びた少女が小林聡美である。この小林聡美が最高にいい味を出している。

ストーリー紹介はひとまずおいて、この作品は主役の斉藤由貴をはじめ、みんな自然な演技がいい。台詞(シナリオは大森一樹)にもとても素敵なものが数多くあって、すべて紹介したいくらいである。斉藤由貴演じる多佳子は、文芸部に所属しているだけあって、結構文学的な台詞を言う。さりげなくサリンジャーを朗読しているシーンもある。相楽ハル子の別れた両親の父親が、金沢の大学のロシア文学助教授の蟹江敬三で、これがまた最高にはまっている。ちなみに母親である小料理の女将は星由里子(着物姿が色っぽい)だが、2人ともワンシーンにしか登場しない。

舞台となる金沢のロケーションも随所に登場する。斉藤由貴と小林聡美が夕方歩く河原(浅野川だと思われる)のシーンはとても美しい。
斉藤由貴が「ナインハーフ」を観る映画館も、金沢の繁華街・香林坊にある。

ユーモラスなシーンは数多くあって紹介しきれないのだが、市内の美術館で偶然に多佳子とまさるが会ってお茶を飲むシーンは笑える。
2人の交互の台詞の後に、本当の心理がピンクの文字で画面に出てくる。これって確か、ウディ・アレンの「アニーホール」にもあったと記憶している。ここで多佳子はまさるから「吉岡(斉藤由貴)にだとこういうばかな話をしてしまうんだよな。置屋のやりてはばあみたいでよ」と言われてしまう。リアクションとして斉藤由貴は笑いころげるのだが、心理のピンク文字には「なんという言われ方、女の悲劇だ」と。

ラスト前は、3人がきりたった海岸の崖の上で着物を着てお茶会を行う(不思議なシチュエーション)。ここでの3人の会話がとても素晴らしい。
ラストシーンは、とてもお洒落な展開なのだが、これは是非見てのお楽しみで

未見の方は是非観てほしい。ビデオはもちろんあります。大森一樹+斉藤由貴には他に「トットチャンネル」「さよならの女たち」があり、この2作も傑作です。
あり


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