バードカービングを観る――見えない人にも楽しい博物館を

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バードカービングを観る――見えない人にも楽しい博物館を

 6月21日、家内の友達でバードカービングをしている方のお宅に伺い、1時間ほどでしたが、彼女自身の作った作品を中心に観て楽しみました。

 実は、以前からその方がバードカービングをしていることは聞いていて、ぜひ一度見てみたいと思っていました。と言うのも、動物や鳥や昆虫など、動き回ったり飛び回ったりしているものの実際の姿全体を触って確認することはほとんど不可能ですが、バードカービングなら実際の姿が分かるのではと思ったからです。

 家内と2人で訪ねると、もう準備万端で、早速作品を観ました。実物の10分の6(20cm強)のコガモ、デコイで雄雌対になったオナガガモとヒドリガモ、実物大のツバメやスズメ、様々な状態のメジロたちがいました。メジロは、木の幹には子どもが、その枝には成長したメジロが止まっているもの、造花ですがツバキやサクラに蜜を吸うような感じで止まっているものもいまた。とくに、サクラにはほとんど逆さにちかい状態で止まっていて、バランスを取るために、尾羽を強く腹側に曲げているのが印象的でした。

 その方はまったく独学でバードカービングをしていて、リューターなどの工具も使わずにほとんど彫刻刀で作っているようでしたが、とにかく羽の様子などその精巧さには感心しました。また、こういう精巧なカービングを作るための、いろいろな方向からの図面やバーニングペンも見せてもらいました。製作には1点につき数十時間はかかっているようでした。

 バードカービングで私がとても良いと思うのは、羽の枚数やその様子、嘴の長さや目の大きさなど(しばしば倍率は異なりますが)ほぼ実物通りに作られている事です。ふだんはほとんど鳴き声や羽音・水音でしか知ることのできないものが、触ってじっくり観察できるのです。さらに1種類の鳥でも、上のメジロの例のように、そのいろいろな状態の姿を観察し比較できるのも魅力です。

 バードカービングの源流は、猟のための囮として作られる、簡素なデコイにあるようですが、最近の自然保護や自然観察の気運の高まりとともに、バードウォッチングと並ぶ趣味として広がり、また博物館では剥製に代わる物としてしばしば展示されているようです。

 さらに、私の立場からすれば、カービングを鳥に限らず、魚や昆虫、野生の動物等にも拡大して考えるなら、目の見えない人の自然観察の可能性が大きく広がることになるはずです。なにしろ、ふだんは丁寧に触ることのできないものを心行くまで観察できます。また、たとえばある昆虫が幼虫から何回かの変体を経て成虫になっていく生活史などをはじめ、1個体のその時々の多様な姿をカービングで示せば、見えない人ばかりでなく、見える人にも手軽な自然観察の入門になると思います。

 このようなコンセプトに基づいて、博物館内にカービングの展示コーナーを作ってはいかがでしょうか。さらに、カービングを集めた「動物園」なんていうのも面白いかもしれません。もちろん、カービングの製作はたいへんな労力がかかりますし、どんなカービングをどのように展示すれば良いのかも難しい問題でしょう。そのためには、学芸員ばかりでなく、カービングをしているグループや個人、触覚の専門家、視覚障害者などの連携がぜひとも必要でしょう。

 私はこれからも機会があればバードカービングなどを見たいと思っています。大阪近辺でカービングをしている方、またカービングを展示している博物館をご存じの方、ぜひメール(of-4889@muf.biglobe.ne.jp)にてお知らせください。

(2001年6月24日)