7月17日、現在名古屋ボストン美術館で開催中の、開館15周年記念 「ボストン美術館 ミレー展 バルビゾン村とフォンテーヌブローの森から」に行ってきました。名古屋YWCAの美術ガイドボランティアグループ「アートな美」の皆さんの企画した鑑賞会です。参加者は、私もふくめ視覚障害者12名とボランティアの方々合せて25人余、かなりの大人数でした。
午前10時前には全員美術館前に集合、10時開館とともに入館しました。まず初めに学芸員の比戸さんが、この展覧会の趣旨や構成、注目の作品などについて、ミレーの生涯の話を織り込みながら30分ほど話してくださいました。今年は名古屋ボストン美術館の会館15周年であるとともに、ミレー(1814〜1875年)の生誕200年でもあるとのことです。比戸さんの話はとても分かりやすいお話で、とくに注目の作品についてその絵の構図などを簡潔に説明してくださったので、その後の展覧会場での鑑賞にとても参考になりました。
ミレーの生涯やバルビゾン派についてはいろいろなページで紹介されていますので、以下、当日私がガイドの方と一緒に鑑賞した絵を紹介します。
ミレーの「自画像」と「種をまく人」、およびトロワイヨンの「身構える猟犬」の3点については、立体コピー図版が用意されていました。立体コピー図版は順番待ちの状態だったので、私たちはまず展覧会場に行き、立体コピー図版は最後に図書室に展示されているのを触りました。
●自画像(1840〜41年ころ):左右に分けられた長い髪が細かく描かれている。眉間には縦皺がある。1840年にサロンで初めて入選はするが、パリでの暮らしにはなじめずまた生活も貧しく、当時の不安な状況が表れているようだ。
●種をまく人(1850年):とても暗めの色遣いのようで(照明のせいもあるかも知れないが)、目をこらして視てようやく絵の輪郭がぼんやりと見えてくるようだ。画面中央に大きく農夫が描かれている。赤いシャツに青のズボン、頭に帽子、寒さ除けに足に藁を巻き、木靴のようなのをはいているらしい。左肩に種の入った大きな袋を下げ左手は袋の口あたり。右足を前に出し、右腕を大きく伸ばして種をまこうとしているところ。画面右奥には、牛2頭と人物が描かれている。大地(畑?)は荒れている感じ。背景の左上に鳥が数羽、まかれた種をねらっている。べた塗りの感じで、輪郭線がはっきりとは描かれておらず、物の形は色の違いでなんとか分かる感じ。なお、「種をまく人」のたとえ話は新約聖書の福音書にある。
●刈入れ人たちの休息(ルツとボアズ) (1850〜53年):1853年のパリのサロン(官展)で初めて入賞(2等)した作品。男女十数人が描かれている。一番左は落穂を持っている女性、その隣りに女性の肩に手をのばし誘っている様子の男性が描かれている。その他の十人余は、大きな皿のようなものの回りで食べたり休んだりしている。画面右側には大きな藁の山が2つ描かれている。手前の藁の山は全体が大き過ぎて画面に描き切れていないとのこと、向こうの藁の山は上まで全部描かれていて、いずれも山に上るためのはしごのようなものがある。なお、左端の男女は、旧約聖書の「ルツ記」にある話(落穂拾いをして姑のナオミに尽すルツが、その畑主のボアズと最後には結婚することになる)を表している。
●馬鈴薯植え(1861年ころ):農民の夫婦。左の男が鍬のようなもので地面に穴を空け、そこに右側の女性が種芋を入れようと手から種芋を離した瞬間。夫婦の左奥に木があり、その木陰に大きな籠があり赤ちゃんがいる。その後ろのほうにロバがこちら向きに立っている。光に照らされかなり明るい画面で、色が美しい。「種をまく人」の暗い感じとは対照的なようだ。画面は横にほぼ3分されていて、下3分の1はジャガイモを植えている地面、中央の3分の1はよく育った緑のジャガイモ畑が続き、上3分の1が明るい空。(ジャガイモは、当時パンを買うことのできない貧しい農民たちの主食で、貧しさの象徴のようなものだったが、そういう農民一家をあかるく描いている。)
●編物のお稽古(1860年ころ):暗めの部屋の中で、お母さんが女の子に編物を、向い合って手を取るようにして教えている様子が細かく描かれている。後ろのほうには、皿の中の餌を食べているらしい白い猫が見えている。左側の窓から光が差している。
●洗濯女:川の流れの中に2人の女が立っている。1人は洗濯物を持ち上げ、それをもう1人の女の肩に乗せようとしているところらしい。左上には三日月が描かれているとのことで、夕方らしい。洗濯を終わってこれから帰るところかも。川には舟も描かれている。
●羊飼いの娘(1870〜1873年):縦160センチ、横120センチくらいの大きな作品。岩に腰掛け、糸紡ぎの棒を持っている娘が大きく描かれている。目は全体が黒くてぼうっとしているような感じで、あまり表情はなくおだやかな感じがするそうだ。後ろには羊が2頭くらいいるようだ。仕事もせずにのんびりしている雰囲気が伝わってくる。なお、この作品の下には、X線で調べたところ、1848年にサロンに出品したという「バビロンの捕囚」が描かれていることが分かったそうだ。当時ミレーは、普仏戦争による混乱を避けて故郷に近いシェルブールに滞在しており、手ごろなカンバスが入手できず、買手のなかった「バビロンの捕囚」をカンバスにしてこの絵を描いたという。
●縫物のお稽古(1874年):亡くなる前年に描かれた未完の作品。女の子の横に、お母さんが左手に赤ちゃんを抱き右手で指し示すようにして縫物を教えている様子。後ろには明るい外(庭?)が描かれている。同年にパリで第1回印象派展が開かれているそうだ。
●身構える猟犬(コンスタン・トロワイヨン):トロワイヨンはバルビゾン派の画家で、いろいろな動物の姿を描いているらしい。崖のようになった地面の端に前足をかけ、尾を後ろに水平にぴんと伸ばして、後ろのほうをちょっと振り返っているような感じ。緊張してなにかを待っているのかも。画面右奥にはシラカバ?の林があり雲も見えているとかで、嵐の前らしい。
●フォンテーヌブローの森(ジャン=バティスト・カミーユ・コロー、1796〜1875年。1846年作):コローは風景画を多く描いた画家。1820年代からバルビゾンでも制作し、ミレーなどとも親交があって、バルビゾン派の画家とされる。手前に池か川のようなのがあり、その左奥辺で牛が水の中に入っている。池の後ろには木々が2列続いていて、右側の木々の枝葉が左側に伸びてトンネルのようになっており、そのトンネルのような道には牛が4頭くらいと女の牛飼いが見えている。
(2014年7月28日)