隕石:宇宙からの手紙

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はじめに
 隕石についてこのようなエッセイを書いてみようかと思ったのは、昨年末に兵庫県立大学西播磨天文台で行われたインクルーシブデザイン・ワークショップに参加して鉄隕石に触ったことがきっかけです。(そのインクルーシブデザインワークショップの内容については、「宇宙にふれる−−インクルーシブデザイン・ワークショップに参加して−−」 に書きました。)
 博物館や天文台を見学すると、しばしば隕石が展示されていて、触れられることもあります。私はこれまでにおそらく十数個以上の隕石に触りましたが、その大部分は鉄隕石で、今回西播磨天文台で触ったのも鉄隕石でした。私のメモをちょっと調べてみると、鉄隕石以外では、奥州宇宙遊学館で小さな石質隕石(そこには鉄隕石とテクタイトもありました)に触っています。このほかにも1,2個石質隕石に触ったような気はしますが、記録には残っていませんでした。実際に触れられるのは大部分鉄隕石のようですし、博物館によって展示内容はそれぞれ異なっているでしょうが、鉄隕石中心の展示になっている所が多いのではないでしょうか。ちなみに、神奈川県立生命の星・地球博物館では、巨大な鉄隕石に触れることができ、また触ることはできませんでしたが、有名なマーチソン隕石やアエンデ隕石などの石質隕石、さらには石鉄隕石も展示されていました。なお、2019年4月に行った名古屋市科学館でも、鉄隕石(ギベオン隕石)、石鉄隕石(イミラック隕石:パラサイト)、石質隕石(アエンデ隕石:炭素質コンドライト)が展示されていましたが、触れられたのは鉄隕石だけでした。
 隕石全体の中では石質隕石が9割以上で、鉄隕石はわずか数%に過ぎないのに、どうして博物館などでは鉄隕石中心の展示になっているのでしょうか?これが最初の疑問でした。
 また、鉄隕石を触っても、表面がちょっとざらついていてゆるやかに凹凸があるのを感じるくらいで(溶けた跡のような所やさびついているような所などがなんとなく感じとれるようなこともある)、重さを実感できること以外では、触って得られる情報はそんなに多くはありません。隕石にちょっと触るだけでなく、それをきっかけに、面白い宇宙の世界に広げて行けるような展示方法や話はないのだろうか?と思いました。
 西播磨天文台では毎夜観望会もしているので、観望会で流れ星を見、鉄隕石を触り、「隕石は宇宙からの手紙」という視点で話を組み立てられるのではと考え、このエッセイを書いてみました。
 *とはいっても、流れ星の多くは彗星に含まれる氷や塵がもとになっているのにたいして、隕石は主に小惑星が起源になっているので、これらを一緒くたに扱うことはできませんが。
 
*この文章を書くにあたって、とくに以下の資料が参考になりました。
 「隕石: 原始太陽系の“タイムカプセル”」(『ニュートン』2016年6月号 basics of Science)
 地球のささやき の中の1_17 宇宙からの贈り物、1_18 石鉄隕石の起源、1_19 コンドライト、1_20 太陽のかけら、1_21 エイコンドライト、1_22 火星起源隕石(その1)、1_23 火星起源隕石(その2)、1_24 鉄隕石、1_25 プレソーラーグレイン、1_26 隕石の年代
 隕石全般については、宇宙や隕石の画像や動画と最新ニュース がとても参考になりました。
 隕石の分類などについては、
神戸隕石/隕石の分類 - 国立科学博物館
隕石の話
 また、各隕石の詳細については、隕石展示室 が参考になりました。その他、随時Wikipediaや日本大百科全書などネット上の資料も参照しました。
 
 
1 隕石の分類と割合
 隕石は、宇宙空間を飛んでいる物体が、大気圏を通って燃尽きずに地上まで到達した物です。(そのうち、1mm以下の物は宇宙塵と呼ばれていて、宇宙塵は地球上に年間数万トン以上も降り注いでいるらしいです。)
 隕石は、大きく、主に珪酸塩鉱物から成る岩石質の石質隕石、珪酸塩鉱物と金属鉄(鉄-ニッケル合金)を半半くらいの割合で含む石鉄隕石、主に金属鉄(鉄-ニッケル合金)から成る鉄隕石に分けられます。そして石質隕石は、コンドリュール(chondrule)と呼ばれる大きさ数mm以下の小さな球粒を含むコンドライト(chondrite)と、コンドリュールを含まないエコンドライト(achondrite。a-は否定の意の接頭辞)に分かれます。
 これら、コンドライト、エコンドライト、石鉄隕石、鉄隕石の4種の隕石は、どれくらいの割合で地球にやって来ているのでしょうか。
 隕石の博物館 に、1992年までに落下するのが観測されて回収された隕石の数(落下数)と、落下は観測されていないが落ちていたのが発見された隕石の数(発見数)について、次のようなデータがありました。(ただし、南極で多数発見されている隕石は含まれていない。)
 
表:隕石の種類と数
隕石の種類    落下数 発見数 合計数
石質隕石
 コンドライト  822   1023  1845
 エコンドライト 70   25   95
石鉄隕石     11   61   72
鉄隕石      49   689   738
合計       952   1798  2750
 
 上の表から、まず落下数について各隕石の割合を出すと、コンドライトが86.3%、エコンドライトが7.4%、石鉄隕石が1.2%、鉄隕石が5.1%となります。地上に到達する隕石の割合は、この落下数の割合とほぼ同じと考えて良いので、コンドライトとエコンドライトを合わせた石質隕石が94%弱、石鉄隕石が1%強、鉄隕石が5%強ということになります。圧倒的に石質隕石が多いということですね。また、石鉄隕石はかなり珍しいということです。
  * 1970年代以降南極で多くの隕石が発見されるようになっていますが、南極で見つかる隕石では石鉄隕石や鉄隕石はさらに少ないです。古いデータですが、日本の国立極地研究所が1995年時点で所蔵している8994個の隕石中、石鉄隕石は11個(0.1%)、鉄隕石は25個(0.3%)しかありません(その他はコンドライト 8648(96.2)、炭素質コンドライト 126(1.4)、エコンドライト 184(2.0)。隕石の発見より)。落下隕石の割合と南極で発見される隕石の割合の大きな違いについては、南極で発見される隕石の特異な集積メカニズムが関係しているように思われます。南極では隕石が氷の流れの中に取り込まれて運ばれ、主に山脈の麓の裸氷帯に集まったものを人が見つけているわけです。石鉄隕石や鉄隕石は石質隕石に比べて密度がかなり大きいので、氷の流れの底に沈みやすく、裸氷の表面にはなかなか露出しにくいのではないでしょうか。
 次に、発見数について各隕石の割合をみてみると、コンドライトが56.9%、エコンドライトが1.4%、石鉄隕石が3.4%、鉄隕石が38.8%となります。落下数の割合と大きく異なっていますね。鉄隕石は落下数の割合の7倍強の4割近くに増え、石質隕石は6割弱に減っています(とくに、エコンドライトは落下数の割合の5分の1にも満たない1.4%に減っています)。
 落下数の割合と発見数の割合のこのような大きな違いの理由としては、鉄隕石は石質隕石に比べて風化に耐えて長期間残っていやすいということが考えられます。石質隕石は長い間には風化して崩れてゆき、回りの石や砂に紛れて行ってしまうでしょう。とくにエコンドライトは、たとえ塊が残っていたとしても、見た目はふつうの火成岩とたいして変わらないと思いますので、専門家でないかぎり見分けるのは難しいでしょう。これにたいして、鉄隕石はある程度の大きさがあればだれでも用意に見分けられるでしょう。人類が初めて出会った鉄は鉄隕石かも知れないと言われていて、エジプトや中国の遺跡からは鉄隕石を使った鉄器や飾り?が見つかっていますし、イヌイットは鉄隕石を加工して刃物を作っていたらしいです(鉄隕石にはウィドマン・シュテッテン構造という特有の模様が見られるので、製錬した鉄や自然鉄とは区別できる)。
 1969年に日本の南極観測隊が昭和基地の南西300kmくらいにあるやまと山脈の麓で隕石を発見して以来、南極で多くの隕石が發見されるようになりました。日本だけでもすでに2万個近くを採集し、世界各国が集めた南極隕石を合計すると5万個くらいになります。また、サハラ砂漠でも数千個の隕石が発見されて、市場にもかなり出回り、とくに石質隕石は値段も安くなっているようです。こうして隕石は以前よりもずっと入手しやすくなっているようですが、石質隕石だと見た目ではふつうの石とたいして変わらないので、まずは鉄隕石が展示されることが多いのでしょう。
 なお、日本はなにしろ面積が狭く、また雨が多くて風化が激しいので隕石が残りにくいですが、それでも国立科学博物館の日本の隕石リスト https://www.kahaku.go.jp/research/db/science_engineering/inseki/inseki_list.html によれば、2018年10月現在、日本国内で落下または発見が確認されている隕石は52個となっています。内訳は、コンドライト:42(落下数 38、発見数 4)、エコンドライト:0、石鉄隕石:1(落下数 1)、鉄隕石:9(落下数 3、発見数 6)となっています。この中には、落下記録があるものとしては世界最古と言われる「直方隕石」(861年(貞観3年)に現在の福岡県直方市の須賀神社の神域に落下。1979年に国立科学博物館の調査で、L6のコンドライトであることが判明)、世界的にも落下例の少ない「在所隕石」(1898年2月1日に高知県香美市の旧在所村に落下。カンラン石の結晶が鉄-ニッケル合金の中に多数混じっているパラサイトという石鉄隕石)があります。
 
 これまで述べてきた分類は、隕石がどんな物からできているかという視点によるものでしたが、隕石がどのような状態でできてきたかという視点による分類もあって、それによれば隕石は「始原的隕石」(primitive meteorites)と「分化した隕石(differentiated meteorites)の2種に大きく分けられています。
 始原的隕石は、太陽系形成初期のころ(45.66〜45.67億年前くらい)の細かい塵のような物をほとんどそのまま集めたようなものです。上の分類のコンドライトがほぼこれに当たるものとされています。
 これにたいして分化した隕石は、太陽系形成が始まって間もなく原始惑星が成長して行く間に、全体が一度溶けてしまって物理化学的な分別を受け分化して行った各部分からできてきた隕石です。上の分類のエコンドライト、石鉄隕石、鉄隕石がこれに当たります。そして、エコンドライトは原始惑星の岩石質の部分(マントルと表層部)、石鉄隕石はマントルと核の境界付近、鉄隕石は中心の核の部分に対応していると考えて良さそうです。
 以下、それぞれの隕石種について、私なりに資料を参照しながら少し詳しく書いてみます。
 
2 コンドライト
 すでに述べたように、コンドライトはコンドリュールと呼ばれる1mm前後の球粒を多く含んだ石質隕石です(ただし後で述べるように、コンドリュールが欠けているものや明瞭には見られないものもある)。コンドリュールはカンラン石や輝石などの珪酸塩鉱物からなっています。多数のコンドリュールの間には微小な鉱物や金属鉄などが詰まっていて、これはマトリックスと呼ばれます。コンドライトには金属鉄が2割以上も含まれているものも多くあり、そのようなコンドライトは磁石にくっつくそうです。
 コンドライトがいつできたかについては、放射性核種を使っていろいろ詳しく調べられているようです。測定で一番古い値が出ているのは、後でも述べるアエンデ隕石中のCAIと呼ばれる白色包有物から得られた45億6720万年前(誤差は±60万年)です。これは太陽系最古の年代とされていて、このころ原始太陽系星雲が形成され始めたと思われます。そしてコンドライトの多くは(そして隕石の多くも)、これから数百万年の間にできていることが分かっています。
さて、コンドライトの中の小さなコンドリュールがどのようにしてできたかですが、塵のような小さな物がいったん溶けて(たぶん1500度くらいは必要)液体になり、それが表面張力で丸くなってすぐに冷えて固まったものだと考えられます。では、原始太陽系円盤中の塵がどのようにして溶けるくらいまで加熱されたのでしょうか。これについてはいろいろな説があるようですが、その1つとして、太陽のX線フレアなど激しい活動によって生じた衝撃波により円盤中のガスが急に加速されて、加速されない固体の塵との間に摩擦が生じて加熱されるという説があります。
 
 コンドライトは、化学的にどんな環境でできたかによって、次の3種に分けられています。酸素の少ない還元的な環境でできたと考えられるエンスタタイトコンドライト(enstatite chondrite: e コンドライト)、酸素の多い環境でできたと考えられる炭素質コンドライト(carbonaceous chondrite: C コンドライト)、その中間の環境でできたと考えられる普通コンドライト(ordinary chondrite: O コンドライト)です。これら3種のコンドライトには原素としての鉄が20〜30%含まれているのですが、 E コンドライトではほとんどが単体としての鉄あるいは硫黄と結び付いて存しているのにたいし、 c コンドライトでは金属鉄はほとんど存せず酸化物あるいは珪酸塩として存在します。
 またコンドライトは、熱などによってどの程度影響を受けているかによって1から6までの数字を付けてタイプ分けされています(岩石学的分類というそうです)。数字が大きくなるほど熱の影響を受けて変成し、コンドリュールの輪郭がはっきりしなくなります(最近は、熱による変成度が 7に分類される隕石も見つかっているようです)。1から3までは熱の影響をほとんど受けておらず、1と2は水の影響を受けて含水鉱物になっています(1と2は炭素質コンドライトだけに見られる)。
 化学的分類による3種のコンドライトの中では普通コンドライトが大部分(92%)を占めていますので、まず普通コンドライトについてみてみます。(炭素質コンドライトは5%、エンスタタイトコンドライトは2%と僅かです。また、落下隕石全体の中では、普通コンドライトが約80%ということになります。)
 
2.1 普通コンドライト
 普通コンドライトは、主に金属鉄の割合によって次の3つに分けられています。金属鉄が多い H(high total iron)、金属鉄が少ない L(low total iron)、金属鉄も他の金属も少ないLL(low total iron, low metal)です。これに上の岩石学的タイプの3から7の数字を付けて、例えばh5などと記されます。初めに紹介した直方隕石はL6でしたし、2013年2月15日にロシアのウラル地方のチェリャビンスク州にばらばらになって落下したチェリャビンスク隕石は、LL5の普通コンドライトでした。この隕石の元となった小天体(小惑星)は、直径20m弱、質量1万トン程度と見積もられ、その軌道は近日点が金星と地球軌道の間、遠日点が火星軌道の外側の小惑星帯にある楕円軌道で、もともとは小惑星帯にあった小惑星同士の衝突でべきた破片であったようです。秒速20km弱で大気圏に入り、高温のため大部分は蒸発してしまい、残った塊が上空20kmほどで爆発・分解し、衝撃波のために多くの建物に被害が出て、ガラスの破片などで千人以上の人が負傷したそうです。(隕石の落下の様子を複数の地点でカメラなどで撮影できれば、その軌道を詳しく求めることができ、これまでに調べられた軌道はいずれも小惑星帯と交わっているそうです。)
 ジリン(吉林)隕石は、1976年に中国の吉林省吉林市近くに落下した隕石で、H5の普通コンドライトです。総落下重量は4トン、もっとも大きい破片は2トン近くもあり、これまでに見つかっている石質隕石では最大のものです。この隕石については、宇宙線照射年代*の測定により、母天体を離れてからの宇宙空間での足跡が明らかにされています。それによれば、まず約900万年前にジリン隕石を含む母天体が破壊され、ジリン隕石になる岩石部分は直径10m程度に破壊された小さい母天体内の深さ1m付近に存在しました。約850万年経過した後、小さい母天体が再度破壊され、約50万年間宇宙を漂った後地球に落下したということです。
  *宇宙線照射年代:陽子やヘリウム原子核などの高エネルギーの宇宙線が宇宙空間を漂っている隕石の表面に当たると、隕石を構成している原子から「宇宙線生成核種」が生じる。元の核種と生成核種の量を比較することで、隕石が宇宙線に照射された時間を見積もることができる。石質隕石ではNe21がよく使われるようだ。
 
 ザグ隕石は、1998年にモロッコに落下した隕石(総回収量 175kg)で、H3-H6の普通コンドライトです。コンドリュールがはっきり見えるH3の部分(熱の影響を受けていない始原的な部分)に、コンドリュールの輪郭が明確には認められないh6の部分(熱による変成を受けた部分)が取り込まれたような、ちょっと角礫岩に似たような構造になっているそうです。このザグ隕石(および同じく1998年にアメリカのテキサス州に落下したモナハン隕石: H5)には、岩塩 NaCl が含まれていて、その岩塩には液体の水が包有物として含まれているそうです。この隕石は太陽系最初期のものなので、太陽系形成当初から液体の水があったということを示しています。
 隕石そのものではありませんが、日本の探査機はやぶさ*が行った小惑星イトカワの探査および持ち帰ったサンプルの分析は、隕石についてもより確かな情報をもたらしました。
イトカワは、近日点が0.953AU、遠日点が1.695AUで、近日点が地球軌道の内側に入るアポロ群の地球近傍小惑星です。大きさは、535m×294m×209mで、細長い形をしており、長軸の3分の1ほどの所でくびれて大きく曲がっていて、ラッコの形に似ているとか。このくびれを境に密度が大きく異なっていて、大きく2つの破片が合わさってできたもののようです。また、イトカワの平均密度は1.90と推定されていますが、持ち帰ったサンプルの密度が3.4であることから、イトカワの内部の40%ほどは空隙で、大小の破片が衝突・再集積してできたラブルパイル(rubble pile)小惑星であることが明らかになりました。また、イトカワから持ち帰った微粒子の成分や組織は、LL4、LL5、LL6の普通コンドライトと同じで、このことから落下隕石の8割くらいを占める普通コンドライトの多くはイトカワのようなS型小惑星*由来であることが明らかにされました。さらに、イトカワのLL5やLL6の微粒子の存在から考えて、イトカワは、直径20kmほどの母天体が大きな衝突によって破壊され、母天体の中心付近で650〜800度くらいの熱変成を受けたLL5やLL6と、表面付近の熱変成が弱いLL4が再集積して形成されただろうということです。
  *はやぶさ:2003年5月9日 打上げ、イオンエンジンにより航行。2005年9月12日 小惑星イトカワに到達、11月19日と25日にイトカワに軟着陸、その後イトカワを離れるが、燃料漏れをはじめ次々とトラブルが発生して制御不能になる。2007年3月 イオンエンジンの再始動に成功、4月イトカワの軌道を離れ地球へ向う。2010年6月13日 地球に帰還、オーストラリアの砂漠に着陸。11月、資料回収カプセルの中に回収されていた約1500個の微粒子がイトカワ由来のものであることが確認される。
  *小惑星は、表面の色やスペクトル型、アルベド(反射能)によって、大きく、C型、S型、M型などに分けられている。C型小惑星は、アルベドが0.03くらいでとても暗く、炭素系の物質を主成分とする。水素やヘリウムなどの揮発性物質は含まないが、それらを除いて太陽とほとんど同じ化学組成で、炭素質コンドライトに対応している。小惑星全体の75%を占め、その軌道は小惑星帯の木星に近いほうに分布している。現在(2018年11月)はやぶさ2が探査中のリュウグウ(アポロ群の地球近傍小惑星。直径700mくらいのほぼ球形)は、このC型小惑星である。S型小惑星は、アルベドが0.1から0.22くらいで、石質ないし珪素質で、珪酸塩に鉄などの金属が混合した化学組成をしている。小惑星の約17%を占め、その軌道は小惑星帯の内側のほうに分布する。イトカワも含まれる地球近傍小惑星のほとんどはS型小惑星で、上述のように、はやぶさによる探査と持ち帰った資料の分析でそれが普通コンドライトであることが明らかになった。M型小惑星はアルベドが0.1から0.18くらいで、小惑星の数%がこれに当たる。鉄やニッケルの金属だけ、あるいは岩石分を少し含んでおり、太陽系が出来て間もない頃に衝突等によって引き剥がされた、原始惑星の金属核だろうと考えられている。鉄隕石(および石鉄隕石)に対応していると思われる。小惑星の型にはこのほかにもいろいろあって、例えばE型小惑星はアルベドが0.3くらいと明るく、エンスタタイトコンドライトやオーブライトに関係があるだろうと考えられている。また、D型小惑星は、アルベドが0.02以下ととても低く、赤っぽいスペクトルで、有機化合物の多いケイ酸塩、炭素、無水ケイ酸塩などを含むとされる。木星の軌道ないしそれより外側に分布し、太陽系のもっとも始原的な情報を保持しているのではと考えられている。
 
2.2 炭素質コンドライト
 炭素質コンドライトは、初めに発見され代表とされる隕石の頭文字を取って、いくつかに分けられています。炭素質隕石は熱による変成を受けていないものが多く、岩石学的分類では1から3のものが多いです。熱による影響が少ないので、水や炭素や硫黄など揮発性の物質も含んでいることが多いです。
 
●CIコンドライト
 1938年にタンザニアに落下したイブナ(Ivuna)隕石の頭文字を取って名づけられました(CI1)。この種の隕石は、1864年にフランスに落下したオルゲイユ隕石など、ごく少数しか確認されていませんが、太陽系のもっとも始原的な状態を反映しているとされていて、とても貴重です。
 CIコンドライトにはコンドリュールがほとんど含まれていませんが、組成が他のコンドライトに似ているのでコンドライトの仲間に入っています。CIコンドライトの大部分は微細な含水珪酸塩鉱物や蛇紋石からなり、少量の磁鉄鉱や磁硫鉄鉱なども含んでいます。その化学組成をみると、水、炭素、イオウなどの蒸発しやすい成分が隕石の中で最も多く(水 20%、炭素 3.5%、硫黄 6%)、また蒸発しにくい元素の組成は太陽大気の組成とよく一致するそうです(微量元素の化学組成については、太陽大気から求めるよりもCIコンドライトのほうが正確に分析できるので、太陽の精密な化学組成としてCIコンドライトの化学組成が使われているとか)。CIコンドライトはたぶん、コンドリュールができるほどの熱にさらされることもなく、原始太陽系星雲の塵が水も取り込んで寄り集まった粘土のようなものなのでしょう。そしてとても脆くて壊れやすく、それだけ発見例も少ないのかもしれません。
 
●CMコンドライト
 ウクライナに落下したミゲイ(Mighei)隕石の頭文字を取って名づけられました(CM2)。コンドリュールは少なく大きさも小さく、熱による影響は受けておらず水による影響を受けています(ミゲイ隕石の岩石学的分類は 2です。)
 CMコンドライトとして有名なのは、1969年9月にオーストラリアのビクトリア州に隕石雨となって落下したマーチソン(Murchison)隕石です(これもCM2)。約100kgほど回収されたそうです。水を重量で16%も含水鉱物のかたちで含み、またアミノ酸などの有機化合物が初めて確認された隕石でもあります。グリシン、アラニン、グルタミン酸などを含む少なくとも17種のアミノ酸、炭素数13〜23程度の炭化水素が見いだされているそうです。初期の地球では今とは比較にならないほど隕石にさらされていたと思われますので、宇宙由来の水や有機化合物がかなりもたらされていたと考えて良さそうです。さらに、マーチソン隕石にはカルシウム Ca・アルミニウム Alに富む高温で安定な鉱物からなるインクルージョンが含まれていて、これらの中から太陽系の平均的な値と異なる同位体組成をもつ酸素 O・マグネシウム Mgなどが見いだされ、太陽系形成以前の超新星爆発などでできた物質(プレソーラーグレインと呼ばれる)についての情報をも読み取ることができるらしいです。
 
●CVコンドライト
 イタリアに落下したビガラノ(Vigarano)隕石(CV3)の頭文字から名付けられました。
 CVコンドライトとして有名なのは、前にも少しふれたアエンデ(Allende)隕石です(CV3。岩石学的分類が 3ということは、熱による影響も水による影響も受けていないことを示している)。1969年2月8日にメキシコのチワワ州のアエンデ村付近の10×50kmほどの広範囲に数千個の隕石雨となって落下しました。総重量は5トンくらいで、その内3トンくらいが回収され、よく研究されているとともに、今でも1グラム千円くらいで販売もされているようです。 表面には、他の隕石同様、大気との衝突で生じる高熱による溶融皮殻(fusion crust)があり、内部には、暗い色のコンドリュール、白っぽい不定形のCAI(Ca-Al rich inclusion)と呼ばれる包有物、それらの間を埋める灰色のマトリックスなど、不均質な構造が見られます。
 アエンデ隕石でとくに注目されるのは、この CAIです。CAIは、カルシウムとアルミニウムに富むという意味です。CAIを構成している主な鉱物は、スピネル(MgAl2O4)、ペロフスカイト(CaTiO3)、アノーサイト(CaSi2Al2O8)などの高温鉱物です。
 原始太陽系星雲は、集積の過程でいったん加熱され、その後ゆっくり温度が下がっていくとともにいろいろな固体成分が析出してゆきますが、その際に最初に結晶して析出してきたのが、これらの高温鉱物を含む CAI の部分だと考えられています。そして、この CAI から太陽系最古の年代45.67億年前が測定されているというわけです。
また、CAI からは 5μmほどの炭化ケイ素(SiC。モアッサン石)が含まれており、これは超新星爆発の際に吹き飛ばされた粒子由来のものだそうです。太陽系形成以前の情報まで含まれているというわけです。
 
●CRコンドライト
 1824年にイタリアに落下したレナッゾ(Renazzo)隕石の頭文字から名づけられました(CR2)。炭素質コンドライトでは水の影響で金属鉄は極めて少ないですが、CRコンドライトでは他の炭素質コンドライトに比べて金属鉄が多く、鉄・ニッケル合金が10%ほど含まれているそうです。コンドリュールの大きさはCVコンドライトと同じくらいで比較的大きいそうです。レナッゾ隕石や NWA 801(CR2)などはほとんど熱による影響を受けていませんが、最近サハラ砂漠で発見された NWA 2994や NWA 3100はCR6に分類されているとのことです。これらは、始原的物質が集まったというよりも、かなり大きな母天体由来なのかも知れません。
 
●COコンドライト
 フランスに落下したオーナンズ(Ornans)隕石の頭文字を取って名付けられました(CO3)。岩石学的分類が 3ということは、水や熱による影響をほとんど受けていないということになります。CVコンドライトに似ているが、コンドリュールの大きさがCVコンドライトよりも小さく、金属鉄の量がCVコンドライトよりも多いそうです。
 
●ckコンドライト
 1930年にオーストラリアに落下したカローンダ(Karoonda)隕石の頭文字から名付けられました。CK4です。炭素質コンドライトの多くは岩石学的分類が1〜3で、熱による影響を受けず水による影響を受けているものが多いですが、CKコンドライトは3〜6で熱による変成を受けているものが多いです。
 
●CBコンドライト
 1930年から計3回、オーストラリアの西オーストラリア州のベンカビンで回収されたベンカビン隕石(Bencubbinite)の頭文字から名付けられました。CB3です。総回収量は130kgくらいになるそうです。これはとても変った隕石で、炭素質コンドライトに分類してもいいの?と思うくらいです。cmサイズの金属鉄が大量に含まれ、コンドリュールはほとんど見られないそうです。鉄・ニッケル合金が50%弱、頑火輝石と橄欖石が20%強、その他灰長石や単硫鉄鉱(トロイライト)、少量のクロム鉄鉱などが含まれ、微小なダイヤモンドも見つかっているそうです。CBコンドライトは珍しくて、発見例はまだ10個にもなっていないようです。その中で、1984年にナイジェリアに落下したガジュバ(Gujba)隕石(CB3)は、多数の大き目のコンドリュールの間に球形の大きな鉄・ニッケル合金がたくさん入っているそうです。原始惑星が金属核ができる程度まで成長した後、互いに激しく衝突して粉砕されて、金属核と他の部分の鉱物が混ぜこまれて形成されたのでは、などと想像してしまいます。
 
 炭素質コンドライトには、このほかにも、上の分類のどれにも当てはまらないものがあります。その中でとくに注目されるのが、2000年1月18日にカナダ・ユーコン準州からブリティッシュコロンビア州にまたがるタギシュ湖付近に落下したタギシュ・レイク隕石です。(詳しくは、エポックメイキングな隕石たち その9 タギシュ・レイク隕石〜D型小惑星由来の隕石参照。)高高度で火球が爆発し、多数の破片が凍結した広い湖面に散って落ち、合せて10kgほどが回されました。その中でも、最初に回収された850gほどはとても保存状態が良いそうです。隕石片は、見た目は暗灰色から黒に近い色で、明るい色の小さな含有物も見られるそうです。特徴としては、密度が約1.6g/cm3で、どのコンドライトよりも小さく、角礫岩様の組織で空隙が多く、かなり脆いようです。タギシュ・レイク隕石は、炭素質コンドライトに分類され、岩石学的タイプは2(熱による変性は受けず水質変性を受けている)ですが、化学的には既存のどの分類にも当てはまらず、未分類とされています。反射スペクトルは、小惑星帯の外延部にあるD型惑星に似ており、太陽系のより始原的な状態を保持しているようです。隕石の年齢は約45.6億年と推定されており、他の天体と合体したりすることなく当初の物質からできていると思われます。さらに、タギシュ・レイク隕石中の炭素の一部は超新星爆発で生成される微小なダイヤモンドになっていて、太陽系の形成以前の物質も含まれているそうです。
 
2.3 エンスタタイトコンドライト
 エンスタタイトコンドライトの「エンスタタイト」とは頑火輝石のことです(熱に強くて耐火材として使われるほどなので日本語では「頑火」と呼ばれ、英名の Enstatite もギリシャ語 enstates (対抗するの意)に由来しているそうです)。エンスタタイトコンドライトの主要な構成鉱物の輝石が頑火輝石(エンスタタイト)なので、このように名付けられました。頑火輝石はマグネシウムに富む斜方輝石で、化学組成は Mg2Si2O6です。ふつうは、 Mgが Fe2+ に置換した鉄珪輝石 Fe2Si2O6 と連続的に固溶体を成しますが、エンスタタイトコンドライトでは、酸素が少ないため鉄は珪酸塩にもなれず、ほぼ純粋なマグネシウム輝石になっているわけです。
 エンスタタイトコンドライトには、このマグネシウム輝石と金属鉄(ニッケル・鉄合金)のほか、地球では珍しいトロイライト FeS(コンドライトや鉄隕石にはふつうに見られる)、地球上ではこれまで発見されていない oldhamite: CaS、osbornite: TiN、sinoite: Si2N2O、niningerite: MgS、perryite: (Ni,Fe)5(Si,P)2、djerfisherite: K6Na(Fe2+,Cu,Ni)25S26Cl、caswellsilverite: NaCrS2 というような、私のような者には化学式を見ても何だか分からないような珍しい鉱物が含まれているとのことです。鉄は Fe2+ で硫黄などと結び付いていますし、普通は酸素と結び付くことが多いマグネシウムやカルシウムやクロムも硫黄と結び付いています。これらの物質は、太陽系形成の初期に、酸素が極めて少なく硫黄が豊富な、ちょっと特殊な環境でできたと考えられます。
 エンスタタイトコンドライトは、岩石学的分類では3から6(あるいは7)があり、金属鉄の多少によって、普通コンドライトの場合と同じように、金属鉄の多い EH と少ない EL に別れます。とは言っても、どちらにしても金属鉄は多くて、 EH は約29%、 EL は約22%くらいの金属鉄を含むそうです。
 エンスタタイトコンドライトは全隕石の2%弱で数は少ないです。その中で有名なのが、1952年にカナダのアルバータ州エイビーに落下したエイビー隕石です。総回収量は100kg以上で、EH4型に分類されるそうです。なお、エイビー隕石には、上に挙げたエンスタタイトコンドライトに含まれている多くの珍しい鉱物が含まれています。
 その他、ネットで調べてみると、2005年アルジェリアの砂漠地帯で発見されたNWA 2965(EL6-7に分類される。総回収量100Kg)や2007年モロッコで発見されたNWA 4945(EL6に分類される。総回収量は 3kg強)などが売りに出されていました。
 
3 エコンドライト
 エコンドライト(achondrite)は、その名の通り、コンドリュール(球粒)を含まない石質隕石です。エコンドライトも、もともとはコンドライトと同じように太陽系形成初期の始原的物質が集まったものだとは考えられますが、その後一度全体が完全に溶けてしまってコンドリュールがなくなり、化学組成もすっかり組み直されてしまったものだと考えられます。地球の火成岩も、いったんマグマになって溶けてしまってから冷え固まったものですので、見た目だけでは地球の岩石と区別するのは難しいです。また、金属鉄をほとんど含んでいませんので、磁石にもくっつきません。エコンドライトは、落下隕石の中では7%余、発見隕石の中では1%余ですが、日本国内ではまだ確認されていません(日本は風化が激しいので、過去に落下したエコンドライトの発見はなかなか難しいと思います)。
 エコンドライトには、組成や特徴から少なくとも10数種類がありますが、ここでは、それぞれのエコンドライトがどこからやってきたか、その推測されている起源から、小惑星由来、火星由来、月由来の3つに分けて紹介します。
 
3.1 小惑星由来のエコンドライト
 まず、小惑星ベスタ由来であるとされている3種のエコンドライトがあります。ホワルダイト(Howardite)、ユークライト(Eucrite)、ダイオジェナイト(Diogenite)の3種で、それぞれの頭文字を取ってHEDグループと呼ばれています。これら3種の隕石は、連続的に変化する化学組成を持つこと、共通の酸素同位体比の組成の特徴を持つこと、またこれらの隕石の反射スペクトルが小惑星ベスタのそれと酷似していることなどから、小惑星ベスタ由来、あるいは少なくともベスタと関連があると考えられています。このHEDグループの隕石は、エコンドライトの3分の2ほど(隕石全体の5%くらい)を占め、かなりたくさん見つかっているようです。(HED隕石については、エポックメイキングな隕石たち(その3):Yamato-74159 ポリミクトユークライト がとても興味深く読めました。)
 ベスタは、太陽から2.2〜2.3AUの距離を3.63年で公転する、直径468〜530kmの小惑星です。1807年に4番目に発見された小惑星(最初に発見された小惑星は1801年のケレス)で、3番目に大きい小惑星です。ベスタのアルベド(反射能)が0.423 ととても明るく、肉眼でも見えることがあるらしいです。ベスタは内部が分化して層構造を持つ、とても珍しい小惑星です*。中心部に鉄とニッケルからなる核、その外側にカンラン石からなるマントル、表面は溶岩流に起因する玄武岩になっているそうです。そして、ダイオジェナイトはマントル(あるいは地殻の深部。ベスタの地殻とマントルの境界=モホロビチッチ不連続面は80km以上の深さにあるという)、ユークライとは地殻の表層に由来し、ホワルダイトは前2者のダイオジェナイトとユークライトを機械的に混ぜた角礫岩のような構造をしているとのことです。また、これらの隕石の放射性同位体比による年代測定では、その結晶化時期は、約44.3億年前から45.5億年前と推定されているそうです。ということは、ベスタは地球などと同様原始太陽系形成時に誕生し、45.5億年前には分化して層構造になり、その後1億年余の間は火成活動があったということになります。
  *小惑星の直径が100km以上になると、主に短寿命の放射性核種の改変による熱によって中心部が溶け始めて、分化した層構造を持つようになると考えられる。太陽系形成当初はこのような層構造を持った小惑星がかなり多数あったと思われるが、その後小惑星同士の衝突によって金属核部分、マントル部分、表面の岩石部分などばらばらの破片になり、それぞれ別の小惑星になっていると考えられる。いっぽう、直径が数十km以下の小惑星はあまり分化が進まず、始原的な状態をある程度留めている(=コンドライトの状態)と考えられる。
 ベスタについては、ハッブル宇宙望遠鏡やアメリカの小惑星探査機ドーン(2011年7月から翌年9月までベスタの周回軌道で観測)によって詳しく調べられ、詳細な地形図も作られています。ベスタの南極付近には、直径460kmもある巨大なクレーター・レアシルヴィア(中には高さ20km余もある中央丘がある)があり、南半球にはその他にも多くのクレーターがあるそうです。これらのクレーターは他の小天体との衝突でできたもので、その破片の多くがベスタと類似した軌道と反射スペクトルを持つ V型小惑星になっているようです。そして V型小惑星が互いに衝突したりして一部が地球近くの軌道に移り、その一部が地球にやってきてHEDグループの隕石になったのでしょう。
 ユークライトとして有名なのは、1960年10月に西オーストラリアに隕石雨として落下が確認され、1970年に本体が回収されたミルビリリー隕石です。主な構成鉱物は斜長石と輝石で、地球の玄武岩によく似ているそうです。母天体=ベスタの地殻の表層に由来すると考えられています。地球上では、スコットランドの古第三紀と新第三紀の環状岩脈として産するものがユークライトのよい例とされるらしいです。
 ダイオジェナイトとしては、1991年10月にアフリカ西部のブルキナファソに落下したビランガ隕石、1931年6月にチュニジアに落下したタタフィン隕石など、40個くらいが知られているそうです。主要な鉱物はマグネシウムに富む粗粒の斜方輝石で、少量の斜長石と橄欖石も含んでいるそうです。地下深くの高圧下で、ゆっくり冷えて結晶化していったものと考えられます。また、ダイオジェナイトの反射スペクトルは、ベスタの南極付近のレアシルビアクレーターの部分(小天体の衝突で深くえぐり取られた部分)の反射スペクトルと似ているそうです(ベスタの他の大部分の反射スペクトルはユークライトに似ている)。なお、ダイオジェナイトは、隕石が宇宙に由来すると初めて提唱した古代ギリシアの哲学者ディオゲネスに因んで命名されたということです。
 ホワルダイトとしては、1942年4月にスーダンに落下したカポエタ隕石(回収量11kgくらい)、1999年にリビアで発見されたDar al Gani 779、2003年5月にモロッコとアルジェリアの境界付近で発見された NWA 1929、南極で発見された QUE 94200など、200個くらいが知られているそうです。カポエタ隕石の写真では、淡黄色や白色や灰色の角張った石ころが含まれている様子が分かるようです。そしてこの淡黄色の部分がダイオジェナイト起源、白色の部分がユークライト起源であるらしいです。このように、2種ないしそれ以上の岩石の破片が集まって形成された隕石をポリミクト(polymict)角礫岩と言います(1種だけの岩石破片が集まってできたものはモノミクト角礫岩と言う)。このようなポリミクト角礫岩は、他天体の衝突による強い衝撃で、小惑星(ベスタ)の地殻の異なった層の岩石が角礫化し混ぜ合わされたものだと考えられます。ホワルダイトの主要な構成鉱物は輝石と斜長石で、その化学組成もユークライトとダイオジェナイトの中間的な組成だということです。
 
 小惑星起源とされるエコンドライト(石質隕石)はこの他にもいろいろあるようですが、はっきりと特定の小惑星と石質隕石を1対1で対応させるのはなかなか難しいようです。隕石の中には、小惑星同士が何度も衝突を繰り返し、その度ごとにできた破片が集まって形成されたものも多いでしょうから、各隕石の素性まで明らかにするのは難事と言えます。そのようななかで、具体的に小惑星との関連が指摘されているエコンドライトをいくつか紹介します。
 オーブライト(aubrite)は、先に紹介したエンスタタイトコンドライトと類似した特徴を持ち、e型小惑星、とくに登録番号 44の小惑星ニサに由来しているかも知れないということです。オーブライトは、1836年にフランスのニヨンに落下した Aubres という小さなエコンドライトに由来する隕石の 1分類だということです。オーブライトとしては、1932年にスーダンのホー・テミキ(Khor Temiki)に落下したホー・テミキ隕石のほか、南極では ALH-78113 などかなり見つかっているようです。
オーブライトは、ほとんどマグネシウム輝石 Mg2Si2O6(エンスタタイト)だけで構成されていて、エンスタタイトの大きな結晶の間を細粒化したエンスタタイトが埋め尽くした構造(この様に単一の鉱物種からなる角礫岩をモノミクト角れき岩と言う)になっており、鉄が少ないため色は白っぽいようです。エンスタタイトが結晶化しているということは火成作用を受けているということで、ある程度大きな小惑星起源だろうと推測されますし、またエンスタタイトの結晶には強い衝撃の痕跡があるということです(なかには、捕獲岩としてコンドライトを含むオーブライトもある)。オーブライトにはもともと鉄は少ないですが、その鉄は酸素と結び付いて珪酸塩にはならず、トロイライト FeS や金属鉄として少量存し、強い還元的な環境で形成されただろうことを示しています。さらに、エンスタタイトコンドライトに含まれていた oldhamite: CaS、osbornite: TiN、sinoite: Si2N2O、niningerite: MgS、perryite: (Ni,Fe)5(Si,P)2 なども含まれているそうです。このようにオーブライトとエンスタタイトコンドライトは構成鉱物種がとてもよく似ていて、ともに同じような環境で形成されただろうと思われます。オーブライトの反射スペクトルをいろいろな小惑星と比較すると、e型小惑星でもっとも大きな小惑星番号44のニサ Nysa(直径70kmくらい。ちょっと円錐のような形状をしていて、もしかすると大きな小惑星に小さな小惑星が衝突したような形かも、ということです)と似ているそうです(e型小惑星はアルベドが0.30以上でかなり明るい)。
 ユレイライト(ureilite)は、主に粗粒の橄欖石とピジョン輝石の結晶からなり、見かけは地球のマントルの岩石であるカンラン岩に似ているそうです。ただし、結晶の間にはグラファイトやダイヤモンドの形態で炭素が多く含まれ、また希ガスが多く含まれているのも特徴だそうです。(1888年に、隕石では初めてユレイライトからダイヤモンドが見つかったそうです。このダイヤモンドがどのようにしてできたかについては、触媒・溶媒作用、衝撃作用、気相成長(非平衡成長)が考えられるが、詳細はまだよく分からないとのことです。)ユレイライトとしては、1972年にアメリカ・ニューメキシコ州で発見されたケナ(Kenna)隕石(回収量10.9kg)、1997年にリビアで発見された Dar al Gani 319 (回収量740g)、2006年に北西アフリカで発見された NWA 4471(回収量881g)などがあります。
 ユレイライトがどんな小惑星と関係するかは具体的には分かっていないようですが、地球に接近・衝突する可能性がある近地球型小惑星の発見・予測を行っているNASAを中心としたグループが、2008年10月6日に見つけて落下を予測し、同7日午前2時45分にアフリカのスーダン北部で大気圏に突入、同年末から翌年にかけてその破片が回収された隕石(総回収量4kg)が話題になりました。小惑星は、2008_TC3、その落下した隕石は、アルマハータ・シッタ(Almahata Sitta)隕石と呼ばれています。アルマハータ・シッタ隕石はユレイライトに分類されていますが、かなり特異な隕石のようです(詳しくは、エポックメイキングな隕石たち(その5):   Almahata Sitta隕石〜落ちてきた不均質 小惑星“2008 TC3”〜を参照)。アルマハータ・シッタ隕石の主要な隕石種はユレイライトですが、その他に、普通コンドライト、エンスタタイトコンドライト、さらには炭素質コンドライトまで含まれており、空隙が多く、これらの異なった隕石種が混ざったポリミクト角礫岩のようになっているようです。これら複数の隕石種は、もともとは別々の母天体で形成されたと考えられますので、衝突で破壊された各母天体の破片が再集積したものが、小惑星 2008_TC3でありアルマハータ・シッタ隕石であると考えられるようです。
 アングライト(angrite)は、1869年にブラジルのアングラ・ドス・レイス(リオデジャネイロの西150km)に落下した隕石にちなんで命名されたもので、これまでに十数個しか発見されていない珍しい隕石だそうです(その中には南極で発見されたものもある)。主要な構成鉱物は普通輝石と斜長石で、その他に橄欖石やトロイライト FeS などを含み、見た目は地球の玄武岩に似ているようです。結晶化時期は約45.5億年前(45.56億年前となっている資料もある)で、太陽系最古の火成岩と言われています。アングライトの反射スペクトルをいろいろな小惑星と比べると、登録番号 3819のロビンソンや 289のネネッタと似ているそうです。また、水星起源(水星に小惑星が衝突した時に飛び出した破片)ではないかという説もあるようです。
 エコンドライトとしては、その他にも、ブラチナイト、ロードラナイト、ウィノナイトなどがあります。ブラチナイト(brachinite)は、南オーストラリアのブラチナ隕石からなづけられました。ネットで調べてみると、nwa 595や NWA 4929などが出てきます。主に鉄を多く含む橄欖石から構成されていて、その他に斜長石やトロイライトなども含みます。層構造に分化した小惑星のマントル部分かも知れません。ロードラナイト(lodranite)は、1868年にパキスタンのロードランに落下した隕石から名づけられました。ほぼ等量の橄欖石、輝石、金属鉄から構成され、トロイライトなどの硫化物も含みます。S型小惑星の深い部分に由来するかも知れないということです。ウィノナイト(winonaite)は、1928年にアリゾナ州のウィノナで考古学者が発見した隕石(シナグア族の村の石棺の中から見つけた)から名づけられました。この隕石は風化作用で詳しいことは分からず当初はメソシデライト(石鉄隕石の1種)ではないかと考えられていましたが、その後エコンドライトに分類されています。主に、エンスタタイト、橄欖石、斜長石、金属鉄、トロイライトからなっているそうです。中心に金属核のある小惑星の深い部分由来のようです。

3.2 火星由来のエコンドライト
 エコンドライトの中には、火星が起源とされる隕石もあります。火星に大きないん石(小惑星)が衝突し、その強い衝突で火星の岩石が宇宙空間に飛び出し(火星からの脱出速度は5.02km/s)、それが回り回って地球に到達したと考えられるものです。火星由来の隕石については、火星から来た隕石 - 平塚市博物館 火星隕石 エポックメイキングな隕石たち その4 Elephant Moraine A79001隕石なども参考にしました。
 火星起源とされる隕石のほとんどはSNC隕石と呼ばれるグループに属しています。SNCは、1865年にインドのシャーガーティ町に落下したシャーゴッティー隕石(Shergottite. 回収量約5kg)、1911年にエジプトのナクラに落下したナクラ隕石(Nakhlite. 回収量約40kg)、1815年にフランスのシャシニー村に落下したシャシニー隕石(Chassignite. 回収量約4kg)の頭文字を合せた略称です。1970年ころから、その後に見つかった隕石も含めこれら3種に属する隕石は同じような特徴を持ち、同じ母天体を起源とするのではと考えられ、SNC隕石と呼ばれるようになりました。3種の隕石に共通の特徴とは、約1億8000万年〜13億年前という極めて若い結晶化年代を持つこと(ほとんどの隕石の年代は45億年前ころ)、わずかながらも水質変成の証拠を持つものがあること、磁鉄鉱をはじめとする3価の鉄イオンを含む鉱物が含まれていること、大きな重力のある環境でつくられたことを示唆する鉱物組織があることなどです。このような条件(とくに少なくとも13億年前までは火成活動があった)を満たす母天体としては、火星がもっとも有力な候補とされていました。1980年にアメリカの探査チームが南極で発見したEETA 79001(シャーゴッタイト。回収量約8kg)に含まれる希ガス等の同位体組成を計測した結果、1976年に火星に着陸して火星大気の成分を分析したバイキング探査機のデータと一致しました。これにより、SNCグループの隕石が火星起源であることが確認されました。
 1970年代まではSNC隕石は10個くらいしか見つかっていませんでしたが、1980年代以降南極で次々に発見されて(2000年以降にはアフリカでも発見されている)、Wikipediaによれば、2016年までに172個の火星起源の隕石が発見されているそうです(その中でシャーゴッタイトに分類されるものが140個で大部分を占め、ナクライトが18個、シャシナイトはわずか3個だということです。残りの10個ほどは、sncグループに含まれない火星起源とされる隕石ということになります)。
 1962年10月にアルジェリアのザガミに落下したザガミ隕石(Zagami。回収量 約18kg)は、玄武岩質のシャーゴッタイトです。主に、ピジョン輝石(カルシウムに乏しい単斜輝石の1種)と普通輝石およびマスケリナイト(maskelynite。ガラス化した斜長石)などで構成されています。マスケリナイトは、隕石衝突の際発生する強い衝撃波で非晶質化した斜長石組成のガラスで、同一組成の普通のガラスより高い密度と屈折率をもち、液体となって流れた模様や穴のないことから、普通のガラスと区別できるそうです。マスケリナイトは地球および月の衝突クレーターでも確認されており、隕石衝突による強い衝撃を物語るものです。また、マスケリナイト中に含まれる希ガス(ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン)の存在比や同位体比が、バイキングによる火星探査で得られた火星大気の分析結果とほぼ位置するそうです。
 シャーゴッタイトには、上のザガミ隕石のような玄武岩質シャーゴッタイトのほかに、レールゾライト質シャーゴッタイトと呼ばれるものがあります。例えば1998年5月にリビアの砂漠で発見された Dar al Gani 476(重さ 2kg余)はレールゾライト質シャーゴッタイトで、カンラン石やクロム鉄鉱(chromite。Cr2FeO4)を微細な輝石や斜長石などが取り囲んだ構造になっているそうです。そしてこのような構造は、ある程度以上の重力の下でマグマの中から沈積した結晶が集積して形成された集積岩の特徴を示しているということです。(レールゾライト(lherzolite)は橄欖岩の1種で、橄欖石40%以上で単斜輝石と斜方輝石の両方を含むもので、レールゾライト質シャーゴッタイトとは組成や構造がちょっと違うようです。なぜこのような名前になっているのかはよく分かりません。)
 ナクライトやシャシナイトについては詳しくは分かりませんが、ナクライトはオージャイト(augite。カルシウムに富む単斜輝石)集積岩、シャシナイトは橄欖石集積岩だということです。
 ザガミ隕石をはじめSNCグループの隕石について年代測定を行うと、Sm-Nd法(147Smがα崩壊で143Ndへ、半減期1060億年)では約13億年、Rb-Sr法(87Rbがβ崩壊で87Srへ、半減期488億年)では約1.5〜1.8億年、という異なった値が得られているそうです。測定法によってこのように年代が異なっていることについてどう解釈すれば良いのか私にはよくは分かりませんが、結論として、次のように解釈することもできるようです。まず、約13億年前の火星で激しい火山活動があり、その火成活動で後にSNC隕石となる岩石も形成されました。その後1.8〜1.5億年前ころにその岩石の近くに別の大きな隕石が衝突し、その強い衝撃でSNC隕石となる岩石が火星の外へ弾き飛ばされたということらしいです。なお、SNCグループの隕石の組成や構造を詳しく分析してみると、火星のあちこちからでなく特定の数箇所の火山周辺の岩石片に限られているようです。たぶん、1.5〜1.8億年前に何度か大きな隕石衝突があり、その度ごとに多数の岩石片が火星から飛び出したのでしょう。
 SNCグループの隕石以外で火星起源の隕石として有名なものに、1984年12月にアメリカの調査隊が南極の Allan Hills と呼ばれる地で発見したALH84001(重さ 1.93kg)があります。ALH84001は、マグネシウムに富む斜方輝石の集積岩のようです。まず、この隕石で注目されることは、その結晶化時期として40億年前以上という、火星起源の隕石としてはとても古い値が得られていることです。NASAの研究によれば、ALH84001は今から約36億年前に火星で溶岩から生成された岩石であり、1300万年前から1600万年前に大きな隕石が火星に衝突した際に、破片として宇宙空間に飛散、そして1000万年以上にわたって宇宙空間を漂流した後、約1万3000年前に地球に落下したと推定されるということです。さらに、ALH84001からは、バクテリア様の生物痕跡らしきものが見つかり、一時期火星生命の痕跡かもと話題になりました(結論はまだ出ていないようです)。

3.3 月由来のエコンドライト
 月は火星に比べて引力が小さく、脱出速度も2.38km/sと小さいため、火星起源の隕石があるなら、月由来の隕石が地球に到達している可能性は十分にあると考えられます*。1982年に南極で発見された Allan Hills 81005(重さ31g、斜長岩質のレゴリス角礫岩)は、アポロ計画で持ち帰られた月の石と比較することで、月起源であることが分かりました。その後の研究で、1979年11月に南極で発見されたYamato 791197(重さ 52g、斜長岩質のレゴリス角礫岩)も月起源であることが分かり、これまで発見された隕石の中でこのYamato 791197が最初の月起源の隕石だそうです。月起源と思われる隕石はその後も南極や北西アフリカを中心に次々と発見されていて、 ワシントン大学の地球・惑星科学部門の中の月隕石のリストによれば、2017年7月現在、約140個の月隕石が掲載されています(その中には、 1個の隕石が地球の大気圏内でいくつかの断片に別れて落下したと思われるものもあり、そのような場合には複数の断片をまとめて 1個とカウントされています。複数個に別れた断片まで合わせると 300個近くになります。また、これらの月隕石の総重量は 200kg 弱になります)。
  * 試算によれば、月に直径数キロ、場合によっては数百メートルのクレーターを残すくらいの隕石衝突で、月から物質が飛び出すそうです。なお、隕石の直径は、クレーターの直径の約1/10くらいだということです。
 ここで月の概略について簡単に説明しておきます。月の赤道半径は約1737kmで、地球半径6378kmの約27%です(体積では地球のほぼ50分の1)。月の平均密度は3.34g/cm3で、地球の 5.52よりかなり小さく、それだけ鉄などの金属部分が少ないと考えられます(月の全質量は地球の81分の1)。月の公転周期と自転周期はともに約27.3日で等しく、そのためいつも月の同じ面が地球に向いており、地球から見ると月の裏側は見ることができません*1。人類が初めて月の裏側を見たのは、1959年10月、旧ソ連のルナ3号の写真撮影によってです。さらに、1960年代末から1970年代初めにかけて、アメリカのアポロ計画やソ連のルナ計画で月面から月の物質が持ち帰られ、詳しく研究されました(これらの月から持ち帰った資料の特徴については、アポロは何を行ったか?の後半部にまとめられている)。ただし、これらの月資料は月の表側の赤道近くの一部の地域のものに限られています。これに比べて、月起源の隕石は、月の裏側も含めて*2、月面のあちこちからまんべんなく(現在までにたぶん100箇所くらいの地点から)届いていると思われます*3ので、月の全体の研究にはとても貴重な資料だと言えます。最近では、クレメンタインやかぐやなど月探査機によって、月の裏側も含め、詳細なデータが得られています。
  *1 月の満ち欠けの周期(朔望月という)は約 29.5日ですが、これは、月が地球を公転する間地球も太陽の周りを公転しており、その分月は余計に公転しなければならないからです。そのだいたいの値は、27.3+27.3×1/12 です。朔望月は、太陽を基準とした月の公転周期と同じなので、正確な値は、360/(360/27.32-360/365.25)≒29.53日です。
  *2 オマーンで見つかった Dhofar 489(斜長岩質の衝突溶融角礫岩で、地殻深部由来と思われるマグネシウムに富む橄欖石を含む)や南極で見つかった Yamato 86032(砕屑角礫岩)は、アルゴン−アルゴン法で得た年代が40億年以上前と古く、また、希土類原素やトリウムなどの微量原素の含有量が極めて少ないことから、月の裏側起源だと考えてよさそうです(月隕石の化学組成からみた月裏側地殻の形成過程 月隕石研究による最新の月の描像など参照)。
  *3 月への1回の隕石衝突によって、同じ地点から複数個の岩石が飛び出し、それが別々の隕石として地球で見つかることがある(例えば南極の別々の地点で見つかった Yamato 793169, Asuka 881757, MIL 05035, MET 01210 の4個の隕石は、宇宙線照射年代や化学・鉱物学的組成から、1回の隕石衝突で同じクレーターから飛び出したものだとされている)。そのため、月隕石の数よりも、その起源の月の地点は少なくなる。
 月を見ると明暗の模様が見え、明るい部分は「高地」と呼ばれる部分、暗い部分は「海」と呼ばれる部分です。月の高地は比較的に高度が高く、大小無数のクレーターがあり、白っぽい斜長岩が多いです。月の海は、比較的平坦な地で、クレーターが少なく、黒っぽい玄武岩からできています。月の表側では、海が30%くらいだそうです。ところが、肉眼や望遠鏡では見えない月の裏側では、ほとんどが高地で、海は2%くらいしかないそうです。なお、月の裏側の南半球から南極にかけて、南極エイトケン盆地と呼ばれる直径2500km、深さ13kmもある、月最大の衝突盆地(クレーター)が広がっています(月の最低点もこの中にある)。この大クレーターの中では、直径200kmくらいはある大きな天体の衝突で上部地殻が剥ぎ取られて大きな溶岩の海ができ、斜方輝石など超苦鉄質の密度の大きい地殻ができているらしいです(また、南極エイトケン盆地だけでなく、月の表側の大きな衝突盆地(海)の周りには、上部マントルを形成していると思われる橄欖石が見出されています)。
 月も分化した天体で、地殻、マントル、核からなっていることが分かっています(月の内部構造については、アポロが着陸時に月に設置した月震計による月の地震の観測である程度分かる)。中心に半径数百キロの液体の部分があり、その外側がマントル、表層の60kmくらいが地殻になっているようです。月の進化モデルとして、マグマオーシャン説があります。45億年以上前、地球とほぼ同時期に誕生した月は、表面から深さ500kmくらいまではマグマの海に覆われていたと考えられます。このマグマの海で最初に結晶化したのが鉄とマグネシウムの珪酸塩である橄欖石と輝石で、これらは密度が大きいために下部へ沈降してマントルを形成しました。その後、より密度の小さい斜長石などが結晶化して表層の平均60kmくらいの地殻になったようです*1。さらに、鉱物が晶出するさいに陽イオンとして取り込まれ難い不適合元素*2がマグマに農集していって、地殻とマントルの間に KREEP*3 の割合の多いマグマが形成され、それが固まったクリープ玄武岩が月の表側の嵐の大洋や雨の海などの周辺で見つかっています(これらの場所では大きな隕石衝突によって地殻深部からの衝撃溶融物も飛び散っていると考えられる)。
  *1 理由はよく分かりませんが、月の表側と裏側で地殻の厚さやその組成が違うようです。月の表側の地殻は厚さ50kmくらいで、鉄に富む低カルシウム輝石を含む斜長岩(Ferroan anorthosite: FAN と呼ばれる)からなっているのにたいし、月の裏側では地殻は70kmくらいとより厚くなり、マグネシウムに富む橄欖石を含む斜長岩(magnesian anorthosite: MAN と呼ばれる)も見られるようです。またたぶん、核やマントルに比べて密度の小さい地殻が裏側のほうで厚くなっていることも一因だと思いますが、月の重心は月の中心よりも2km近く月の表側=地球の側にずれています。
  *2 マグマの分別結晶作用の際に鉱物中の陽イオンの位置に入りにくい元素としては、イオン半径が大きい K, Rb, Cs, Sr, Ba, 希土類元素、Th, Uなど(LILE: large-ion lithophile elements と呼ばれる)と、イオン価が大きい Zr, Nb, Hf, Taなど(HFSE: high field strength elements と呼ばれる)がある(「岩石学辞典」による)。
  *3 KREEP は、カリウム K、希土類元素 REE(rare earth elements)、リン P の頭文字からなる略称。月の海の一部の玄武岩や隕石衝突による溶融角礫岩の中には KREEP の割合が異常に高いものがあり、そのような KREEP質の岩には、希土類元素ばかりでなく、原子核崩壊によって熱源となるカリウムやウラン・トリウムの割合も高くなっているそうです。
 月の誕生後 1〜2億年で、月の斜長岩質の表層地殻(現在「月の高地」として見られている部分)ができたと思われます。月の海の部分は、その後に繰り返された大きな隕石衝突でできたクレーターの底から薄い地殻を破って内部のマグマが大量に流れ出してできた玄武岩質の厚い溶岩原だと考えられています。地球の溶岩と比べると鉄の含量が高く、粘度が低くて、クレーターの底を埋めるように広く平らに広がっています。月の海の多くは40〜30億年前ころにできたようです。その後も火山活動は続きますが、月はやはり地球などに比べて小さな天体ですので内部は早く冷えていって、20億年くらい前ころには火山活動はほぼ終わったようです。月には大気や水がないので、その後の月の地形の変化はほとんど外からの隕石衝突によるものだけになりました。なお、月の表面は、月の誕生から現在まで繰り返されてきた隕石衝突によって砕かれ、飛び散り、一部は溶融したりしてできた、レゴリスと呼ばれる細粒に覆われていて、その厚さは数十センチから数十メートルにもなっているそうです(新しい地形ほどレゴリスの厚さは薄い)。
 これまで述べてきた月の様子は、アポロなどによる月の石の回収、月探査機による詳しいデータの収集、月起源の隕石の分析などによって分かってきたものです。以下に、月の高地起源とされる隕石と月の海起源とされる隕石を1つずつ紹介します。
 Dar al Gani 400は月の高地起源とされるもので、1998年3月にリビアの砂漠で発見され、重さは1425gと月隕石としてはかなり大きいものです。隕石の表面の一部は茶色で、大気中を落下中に表面が溶けてできた溶融被殻になっています。写真を観察すると、白色や灰色の角張った岩石の破片が含まれている構造をしていることが分かるそうです。破片の多くは斜長岩であるが、花崗岩に似た岩石や、衝突でできた溶融物やガラス玉も含まれており、複数の種類の岩石の欠片が集まってできたポリミクト角礫岩だということです。月の高地起源の隕石の多には、このような特徴が見られるそうです。
 Northwest Africa 032は月の海の玄武岩で、1999年10月にモロッコの砂漠で発見され、回収量は約300gだそうです(月の海の玄武岩には、地球の玄武岩に比べて、ナトリウムやアルミニウム、水など揮発性の成分が少なく、また鉄やマグネシウムに富み、クロムやチタンが多く含まれることもあります)。この隕石には、橄欖石・輝石・チタン鉄鉱の結晶が含まれており、結晶の隙間を輝石と長石の微結晶が埋めているそうです。そして、脈のような模様に見えているものは、熱によって隕石の一部が溶けることによって生じたもので、また長石は強い衝撃を受けてできるガラス質になっていて、これらの痕跡から大きな隕石衝突による強い衝撃でできたものと考えられるということです。
 
(以下続く)
(2017年3月1日、5月4日、7月12日、8月4日、2018年11月13日更新)