11月16日から19日まで「第27回 手で触れて見る彫刻展」が藤沢市民会館で開催され、私は11月18日に行きました。桑山先生ご夫妻はじめ、土曜会の皆さん、またお世話になっている点字図書館の方々にも久しぶりにお会いできてうれしかったです。
彫刻は全部で70点以上あったでしょうか、私も 3点展示させていただきました。また、彫刻展とともに、木版画のすり体験や版画の制作体験、触る絵本や点字のメッセージカード作りも同時に行われていて、私は版画の制作体験など大いに楽しませてもらいました。
私が出品したのは次の 3点です。
●囚われの身 (2017年6月) (幅12cm、高さ32cm、奥行20cm)
前に向って進もうとする人が、後ろから多くの目で監視され、手で抑えられ、ぎゅっとつながれている、そんな姿をイメージしてつくってみました。このようなイメージは、若いころから持っていました。
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●かにさん散歩 (2016年6月 幅14cm、長さ10cm、高さ7cm)
大きなはさみをもったカニさんが、ふらふら歩いているところを想像して作ってみました。右のほうのはさみはとくに大きくて、このカニさん、歩くのはたいへんだけどがんばっています。
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●考える II (2017年8月) (幅20cm、高さ32cm、奥行12cm)
船の形に似せた台に座し、頬杖をついて考えている姿を、磨崖仏のように、彫り込んでみました。彫り込むのはなかなか難しかったですが、磨崖仏にはあこがれます。
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上の「考える II」については、大きな直方体の木の塊から作品が出来上がるまでの過程を示した説明文を写真付きで展示してもらいました。また、「囚われの身」と「考える II」は、この展覧会が始まるまでの 1週間ほど、総合市民図書館の受付に展示していただき、図書館利用者の皆さんにも見て触っていただけたようです。こうして作品をより多くの人たちに見てもらえる機会を与えてくださったことに、心から感謝です。
私の作品については、来場者がこられたときにしばしば説明させていただきました。「囚われの身」はちょっと分かりにくかったようで、どんなつもりで作ったかもふくめて話しました。皆さん丁寧に見て、また触ってもらいました。自分の作品の良し悪しは自分ではまったく分かりませんが、こうして皆さんに見て触っていただくことで、作品が育っていくような気がします。
桑山先生の作品は 2点展示されていました。
●花化粧(2007年)
これはハナミノカサゴという、各鰭がとても大きな魚をモデルにしているとのこと。背鰭や胸鰭がいくつにも別れて大きくひろがっていて、とてもダイナミックな感じ。このダイナミックな鰭を触って、私はまるで鳥のように飛ぶこともできるかと思ったほど。とくに、体の両側面の胸の辺からいくつもの鰭がきれいに広がり開いている様子は、花が開いているところを連想させます。頭部は大きく、たくさんつぶつぶの突起が並んでいました。
解説文には「水族館で見たミノカサゴの姿は優美でまるで化粧をしている女性のように見えた。」とあります。
●「道のり」(1996年)
向こうまで続く道の両側は高い壁になっています。手前が広く、奥に行くにつれて細くなっていて、遠近法的に表現されているようです。奥のほうでいったん作品が途切れていて、さらにその向こうに四角い枠の開口部があって、道のはるか遠くには出口があることを示しているようです。手前の右の壁には、女の子が膝をそろえて腰かけています。
解説文には「20代のヨーロッパ一人旅の不安な気持ちと遺跡の印象を表現」とあります。
土曜会の皆さんの展示も多彩でした。いくつか印象に残っているものについて記します。
Iさんの「冬の水辺」は、氷が浮いている水面(たくさんの円い形が切り込まれたプラスチック?の板を使っていた)の上に、鴨が2羽前後に並んでいます。前のほうの鴨のくちばしは、180度回って、後ろの鴨を振り返るように後ろのほうを向いています。鴨はこんなにも首を回すことができるんですね。Kさんの持国天と増長天は、ふつうは片足で餓鬼を踏みつけているのに、大きな四角い岩を踏み締めていて、新鮮でした。Tさんの和太鼓を打つ」は、両脚を大きく広げて踏ん張るようにして、両手に撥を持って、斜め前の太鼓を打つ姿で、力を感じました。Hさんの薬師如来立像、私がこれまで触ってきたのはほとんど坐像だったので、薬壺を掲げ持つ姿など印象に残っています。また、如意輪観音坐像は、左肘を立て、その上に左肘を乗せ、左てを左頬に当てている姿で、三角形がうまく組み合わさっていて興味ある形に思えました(右膝は外に広げ、右手は地に付いている)。制多迦童子立像は、頭の上で上と左右前後の5箇所で髪を高く丸く結った姿で、形が面白かったです(後ろになびく衣もよかった)。ていて、
十一面観音や千手観音をはじめ多くの仏像がありましたし、ミレーなどの絵の中の人物、流木をうまく使った作品、さらに陶器や竹を使った作品、篆刻もありました。木彫以外の作品でとくに印象に残っているのは、Hさんの「聖ベロニカ」という大理石の作品です。ちょっとうつむきかげんですが、石の滑らかな顔はとてもやさしそうな感じがします。頭の上から後ろにかけての髪の手触りもよかったです。この作品は、舟越保武(1912〜2002年。「長崎26殉教者記念像」が有名)の「聖ベロニカ」(1986年)の写真を見ながら作ったとか。ちなみに、聖ベロニカは、イエスが十字架を背負ってゴルゴタの丘に向って歩いている時に、汗をふくようにとベールを差し出した女性です。
同じ会場で、藤沢浮世絵館のスタッフの指導で、浮世絵のすり体験と針金を使った版画の制作体験が行われていて、私は大いに楽しませてもらいました。
すり体験は、広重の「諸国名所十景 相模江の島」です。版木の大きさは、横20cm弱、縦25cm余くらいだったでしょうか、まず版木のどの辺に何が描かれているのか丁寧に触り、頭に入れておきます。版木の上にインクを載せてもらって、刷毛で丁寧に広げてゆきます。紙を、版木の右下の見当に合わせて置き、上からバレンで強く押し回すようにして紙にインクを写します。うまく刷ることができたようです(力が強かったせいか、紙の裏に版木の凸の部分がわずかに浮き出して触っても一部分かる部分がありました)。それを持ち帰り、数日後少し拡大して立体コピー図にして触りました。
手前にこちら側の海岸が、左下からゆるやかにやや右上に伸び、右端で大きく湾曲して向こう側の海岸(江の島)に続き左上に伸びています。手前の海岸は砂浜のようで、3人ほど人が見えています。2人は駕籠を担ぎ?、その前の1人が荷物を持って、3人とも右の方(江の島のほう)に向っています。江の島側では、右に湾曲したすぐの所に鳥居があり、そこから左上に家並が続き、また右上には急な崖や木々が見えているようです。手前の左側の海岸の向うには水平な線があって、そこに帆が 3つ並んでいます。またその右にも船が見えています。海には少し波も描かれています。左上の空白部には、「諸国名所十景 相模江の島」の文字が書かれています。砂浜がぶつぶつした模様のように感じられて印象的でした。
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次に、版画の制作体験。まず、絵の基本を、ということなのでしょう、立体を平面で表現するとどんな風になるかを、具体例で示してくれました。関節が動くようになっている人形で、走っている形をつくります(前に出している脚と腕の関係がどうだったのか少し迷ってしまいました)。次にその走っている姿を横から見て平面にするとどのようになるかを、紙にその輪郭線に合わせて針金を張ったもので確かめます。立体では脚も腕も左右はもちろんはっきり分かりますが、平面にすると脚・腕ともに左右を区別するのがとても難しくなることが分かりました。
それから、銅板に浮き出しになっている、冨嶽三十六景の中の「山下白雨」に触りました(この図は立体コピー図でも触ったことがあるが、稲妻が印象的!)。次に、この山下白雨の輪郭線を、A4くらいの大きさの板の上にアルミの針金を張って示したものに触ります。そしてこれを見本にして、アルミの針金を輪郭線の形にできるだけ合わせて曲げ、それを板の上に乗せてセロテープでとめてゆきます。まず、長さ40cmくらいの太い針金を富士山の輪郭に合わせて曲げてゆきます(頂上の位置を決め、左側に長く裾野を伸ばすようにします)。それから、頂上の下に、山肌を示す?針金5本を一定の角度で並べます(左から右に向って針金の長さが短くなっていく)。次に、右下の稲妻を、針金の先をぎゅっと曲げたり、短い直線の針金を数本組合わせたりして、かたちを作ります。そして、富士山の右側と左側に、雲のかたちを針金で適当につくって張り付け、版木が完成です。
写真はこちら
その後、この版木の上に、湿らせた紙を乗せ、手回しのローラーにかけて浮き出している針金の形を紙に写します。紙に少ししわができてしまいましたが、しっかりと輪郭が浮き出しています。オリジナルの山下白雨?ですね!< BR>
今回の刷り体験と版画制作体験、とてもよく考えられているプログラムだと思いますし、私は十二分に楽しませてもらいました。版画体験、まだまだいろいろできそうに思いますので、藤沢浮世絵館にも一度行ってみたいと思っています。
(2017年11月22日)